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悪役令嬢、逃亡する 4

 ヨハネスを誘ったら、彼も一緒に観劇すると言ったので、セドリックにオペラの鑑賞席を五席用意してもらった。

 今回はオペラの様子を絵にすることが禁止されたため、画家のラッカの来場は許可されなかった。

 船の中にオペラが鑑賞できる部屋があるのには驚いた。ロイヤルスイートに止まっている宿泊客は特別に二階席のボックス席が用意されており、オペラグラスを渡された。

 横並びに五客の椅子が用意されたボックス席に入ると、ドリンクと軽食が用意されていた。本当に至れり尽くせりな豪華客船である。

 ソフィアはランドールの隣にすわってさっそくオペラグラスを目に当ててみた。オペラグラスなるものははじめてだが、これはよく見える。


「まだはじまってないぞ」


 ランドールが話しかけたのでオペラグラスを目に当てたままそちらを見たら、彼のあきれ顔がドアップで現れて鼓動が跳ね上がった。あぶない、これは心臓に悪すぎる。オペラグラスを外して心臓の上を押さえると、すごい勢いで脈を打っていた。イケメンドアップは破壊力が半端ではない。


(……でもこれがあれば、遠くからでもランドールが観察し放題……)


 公爵家に帰ったら、お願いしてオペラグラスを一つ買ってもらおうか。

 ソフィアが真剣に悩んでいると、アナウンスが入ってオペラの開始が告げられた。

 舞台は今から百年ほど前のヴェルフント国。娼婦の女性と裕福な男性の悲恋であるそうだ。


(なんか、椿姫みたいなストーリーね)


 迫力のある歌声や、胸にこみあげてくるような迫真の演技に、ソフィアはあっという間に引き込まれた。

 主演の男性がかなりのイケメンで、ついついミーハー心も起きてしまって、じーっと彼ばかりを目で追ってしまう。ロイヤルスイートの乗客特典で、あとで握手とかさせてくれないだろうか。


(なんかどっかで見たことのある顔のような気もするけど、ゲームにあんなモブいたかしら? 気のせいかしらね? ま、かっこよければなんでもいいわ)


 男優は、褐色の肌に赤茶色の髪をしていた。背が高くて肩幅も広い。太い首の上に乗った顔は精悍だ。オペラグラス越しではなく、もっと近くで見てみたい。

 劇がクライマックスを迎えて、ヒロインが命を落としたあとで嘆き悲しむ男が服毒自殺をして幕が下りると、ソフィアは感動のあまりにこぼしてしまった涙をハンカチでぬぐった。椿姫のようなストーリー展開で進んだが、最後はロミオとジュリエットのような終わり方だった。

 ソフィアは大満足だったが、ランドールとは反対側の隣の席に座っていたオリオンは不満そうだ。「喜劇がよかったわ」とぶつぶつつぶやいているのを聞いて苦笑してしまう。

 ロイヤルスイートルームのあるエリアに戻ったとき、同じくオペラを鑑賞していたカイルの姿を見つけた。カイルはさわやかに微笑んでソフィアの隣にやってきた。


「ソフィア、どうだった? 楽しめた?」

「とっても! ラフェル役の男優さんが素敵で見入っちゃったわ」

「ああ、彼ね! じゃあとっておきを教えてあげよう。俺もついさっき教えてもらったばかりなんだけどね。ラフェル役の彼、実はもう一部屋のロイヤルスイートの部屋の乗客だよ」

「え! そうなの!」

「うん。仕事ついでに船旅だってさ」


 ソフィアは驚いた。俳優でロイヤルスイートに泊まれるということは、相当人気の俳優のはずだ。


「練習とかで昨日今日はほとんど部屋にいなかったみたいだけど、明日からは部屋にいると思うから、プールやサロンで会えるかもね」


 それはぜひともお会いしたい!

 ソフィアがミーハー心を起こしていると、ランドールが低い声でぼそりと言った。


「いいか? 面倒ごとは起こすなよ」


 つくづく思う。ランドールには、少しくらい愛想よくふるまって旅行を楽しもうという気はあるのだろうか?

 ソフィアはため息のような声で「はーい」と返事をした。


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