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悪役令嬢、豪華客船に乗る! 3

 カイルの父であるレヴォード公爵と国王は仲がいい。

 当然、今回ソフィアとランドールが新婚旅行でクイーン・アミリアーナ号に乗ってヴェルフントへ旅行に行くことも知っている。

 カイルは父からその話を聞いてすぐに、最近暇だったこともあり、ランドールの邪魔をすることに決めた。

 カイルは、ランドールが先にソフィアと結婚しなければ彼女に求婚するつもりでいたのである。一度はあきらめたカイルだったが、ランドールがソフィアを大切にしていない様子なのを見て、あわよくば横からかっさらう気満々なのだ。

 それに、邪魔をする気であるのには間違いないが、少し心配でもあったのだ。なぜならランドールはソフィアを大切にしていない。この旅行中、ソフィアが無神経なランドールに泣かされることはないだろうか。そう思うといてもたってもいられず、父と母にソフィアたちの乗る同じ船に乗船したいと言えば、自由恋愛主義の二人は「行っておいで」と快く送り出してくれた。カイルは一等客室に部屋を取るつもりだったが、運のいいことにロイヤルスイートが一室あいており、これ幸いとそのチケットを取ったのである。


「奇遇だねー、俺もヴェルフントに行くんだ」

「……しらじらしい」


 ランドールはむすっとして、当たり前のようにシャンパングラスを取ろうとしたカイルの手をはたいた。

 カイルはランドールに叩かれた手をさすりながらベランダにいるソフィアに近寄ると、胸にさしていた白い薔薇を抜き取って差し出す。


「ソフィア様、そういうことだから、俺と一緒に船の旅を楽しんではくれませんか?」


 ソフィアは笑って薔薇を受け取った。カイルはソフィアと仲良くしてくれているローゼ夫人の息子で、彼自身も気さくで優しい人物だ。

 オリオンはソフィアとカイル、そしてむっつりとシャンパングラスをあおるランドールを見やって、にやりと笑った。


「あら、面白くなってきたじゃないの」


 カイルは『グラストーナの雪』の攻略対象キャラではないが、これはリアル乙女ゲームが楽しめるかもと、オリオンはブドウを口に入れながら、わくわくしていた。






 クイーン・アミリアーナ号が出航して少しして、ソフィアはカイルに誘われてプールに向かった。

 ランドールも誘ってみたが、予想通りというか、「行かない」の一言。

 せっかく豪華客船での船旅だというのに、難しい顔をして部屋にこもっている。

 この世界には前世の世界のように露出の多い水着はないが、水に濡れてもいいように作られた、ひざ丈のショートドレスがある。しかし残念ながら季節は冬で、プールに向かったところで泳げない。ソフィアとカイルはプールが一望できる、ガラスで仕切られた室内で、デッキチェアに座って、フルーツのたくさん乗った、まるでトロピカルドリンクのようなジュースを飲んだ。


「軽食もご用意できますが、いかがなさいますか?」


 浅黒い肌に癖のある黒髪をした三十歳前後の男が声をかけてくる。彼はセドリックという名前で、ロイヤルスイートルーム専用のサービススタッフの一人だ。夕食まではまだ時間があるが、確かにそろそろ小腹がすいてきたころだ。カイルはサンドイッチを、ソフィアはベリーソースのかかったチーズケーキを頼んだ。


「ソフィア様は船旅ははじめて?」

「はい。あの……、前から言おうとは思っていたんですが、ソフィアでいいです。カイル様はランドールのお友達だし」

「そう? じゃあ俺のこともカイルと呼び捨てにしてほしいな。あ、敬語もなしでいい?」

「もちろんです」

「ソフィアも敬語はなしだよ?」

「あ、うん。じゃあわたしも普通に」

「ふふ。いいね、こういうの。ランドールがやきもちを焼くかな?」

「ランドールはやきもちなんて焼かないと思うわよ?」


 ソフィアはランドールがやきもちを焼くさまを想像しようとしたが無理だった。不機嫌そうな顔はいくらでも思い描けるが、ランドールが嫉妬なんてするはずはない。


「なるほど、ソフィアは案外手ごわいタイプの女性のようだね」


 カイルがそんなことを言って笑う理由が、ソフィアにはよくわからなかった。

 セドリックがサンドイッチとチーズケーキを運んできて、カイルと二人で食べていると、イゾルテがやってきた。


「ソフィア様ー! 今日のダンスパーティーのドレス、どれにしますか? ドレスコードあるんで、赤と白と黒と紺色のどれかです。紺色と白は持ってきてないんで、赤と黒で選んでください」

「パーティー?」


 ソフィアが首をひねると、カイルが「ああ」と頷いた。


「ソフィアは聞いてない? クイーン・アミリアーナ号の夜には毎日イベントがあってね。初日の夜がダンスパーティー、明日がオペラ鑑賞、三日目がマジックショー、最後の夜がまたダンスパーティーだよ」

「そんなイベントがあるの?」


 ソフィアはわくわくした。ダンスパーティーは経験したことがあるが、オペラやマジックショーははじめてだ。


「そ。ドレスコードがあるのはダンスパーティーだけだよ。あとは好きなものを着ていけばいい」

「そうです。だから奥様。今日のドレスを決めないと。ちなみにわたしのおすすめは情熱的な赤です。オフショルダーで、ドレスの裾はまるで薔薇の花びらみたいに布が重なっていて、大人っぽさと可愛らしさを兼ね備えたドレスですよ!」


 ソフィアは頭の中のイゾルテの言うドレスを思い浮かべた。確かこれは、イゾルテがランドールからドレスを作る許可をもぎ取って来た際に嬉々として注文していた一枚である。派手すぎて、ソフィアが袖を通したのは仮縫いと最終チェックのときの二回だけだ。

 ソフィアは迷ったが、旅行というものはいつもより開放的な気分になるものだ。少し恥ずかしいが、まあ旅行中のことだし、着てみてもいいかなと頷いた。

 イゾルテはガッツポーズをして、


「準備するので、ほどほどのところで部屋に戻ってきてくださいね!」


 と言いながら慌ただしく去っていった。

 カイルが笑って、パーティーでは一曲踊ってくれるかと訊ねてきたので、ソフィアは何も考えずに快諾した。

 まさかそれが、のちのち小さな火種になるとは、思わずに。


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