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プロローグ

第三話開始いたします(#^^#)

ここからは新婚旅行編となります。この二人なので、それが正しく「新婚旅行」となるのかは……、ですが笑

 しんと静まり返ったダイニングの中では、食器とカラトリーのこすれる音と、給仕が食器を入れ替える音がやけに大きく響く。

 黙々と食事を続けるランドールは、まるで生命活動の維持だけのために食べ物を口に運んでいるようで、「食事」を「楽しむ」という概念がないのではないかと疑いたくなる。


(うう……、居心地悪いなぁ)


 貴族が使用人たちと一緒に食事をとることはない。必然的にダイニングにはランドールとソフィアの二人きりだ。もちろん給仕のスタッフはいるが、彼らが自ら主人に話しかけるわけもない。

 ソフィアは助けを求めるように、赤ワインの入ったデカンタを持って立っている執事のヨハネスを見やった。目が合うと、ヨハネスは苦笑を浮かべたが、この居心地の悪い沈黙を何とかしてくれる気はなさそうだった。

 ソフィアはこっそりため息をついて、白身魚の香草焼きを一口大にカットして口に運ぶ。

 ずっと城で寝泊まりしていたランドールが、どういう風の吹き回しか、一か月と少し前――ちょうど、ソフィアの父親を語ったガッスールの一件が片付いたあたりから、ヴォルティオ公爵家に帰ってくるようになった。

 夜、晩餐の時間に間に合うように帰ってきて、朝食を食べて城に出仕するのである。

 破滅エンドを回避すべく、ランドールと「ラブラブ夫婦」を目指すソフィアは、ランドールが公爵家へ帰ってくるようになって喜んだが――、うきうきしたのは最初だけだった。

 なぜならランドールはソフィアとの会話を楽しむ気がまったくないのだ。彼が話すことと言えば――


「今日は何をしていた?」

(ほらきた!)


 ソフィアは心の中で「またか」と思いながら、ナプキンで口元をぬぐって口を開いた。


「今日はレヴォード公爵家に行ってきたわ。ローゼ夫人に温室を見に来ないかとお誘いいただいたから」


 レヴォード公爵夫人のローゼは、ソフィアの亡き祖母アンネの親友だったそうで、母の後見も務めた人物だ。ソフィアのこともかわいがってくれて、よくお茶に誘ってくれる。

 ソフィアが答えると、ランドールは途端にむっつりと黙り込んだ。

 いつもこれだ。ソフィアが出かけることと言えば、たいていレヴォード公爵家だが、答えると急に黙りこむ。ソフィアが外出するのが気に入らないのだろうか? けれどもソフィアにだって人付き合いというものがあるのだ。悪いことをしているわけではないのだから、不機嫌にならないでほしい。

 ソフィアは、どうやらランドールは当初言っていた「監視」を実践しはじめたのではないかと推測している。彼はソフィアのことを「偽物の王女」だと疑っており、監視のためにソフィアと結婚した。こうして一日のことを訊ねてくるのは、きっと監視のために違いない。

 ランドールがむっつり黙り込んだまま食事を再開したので、ソフィアも黙ってナイフとフォークを握る。


(はあ……、全然仲良くなれない……)


 ランドールと仲良くなるためにはどうすればいいのだろう。

 ランドールは公爵家に帰ってくるようになったが、顔を合わせるのは朝食と夕食の時だけだ。朝食の時はほぼ会話はなく、夕食時はその日一日に何をしたかを訊かれるだけ。ラブラブまでの道のりはまだ果てしなく遠い。

 ソフィアが食事を終えて、食後のお茶を飲んでいた時だった。

 いつもなら食事を終えるとさっさとダイニングから出ていくランドールが、今日は席についたまま思案顔になって、ソフィアは首をひねった。

 何か悩みごとだろうか?

 気になったソフィアが訊ねようとしたとき、ランドールが唐突に言った。


「旅行に行く」

「へえ、そうなの? 行ってらっしゃい。気をつけてね」

「………」


 旅行に行くというから「気をつけてね」と言ったのに、ランドールはまたむっつりと黙り込んでしまった。「気をつけてね」と言ってあげたんだから「ありがとう」――は多分無理だろうから、せめて頷くくらいすればいいのにと嘆息していると、背後でそのやり取りを聞いていたヨハネスが唐突に吹き出した。


「旦那様、それでは伝わりませんよ……」


 ランドールはむっとしてヨハネスを睨んだ。


「では何と言えと?」

「そのままおっしゃったらよろしいではございませんか」

「そのまま言っただろう」

「重要な言葉が抜けておりますよ」


 ランドールは大きく息を吐き出して、それからふいっとソフィアから視線を外すと、口の中でもごもごと歯切れ悪く、


「旅行に行く。お前も一緒だ」

「え? わたしも?」

「不満なのか?」

「べつに、そうじゃないけど……」


 ソフィアは驚いただけだ。ランドールが急に旅行なんて言うからである。ソフィアのことを避けまくっているくせにいったいどういう心境の変化だろうか? ソフィアが頭の中を「?」でいっぱいにしていると、ヨハネスがやれやれと肩を落とした。


「ですから重要なことが抜けております。奥様、旦那様は新婚旅行に行こうと、そうおっしゃっているのでございますよ」

「新婚旅行!?」


 ソフィアは驚きのあまり声を裏返してしまった。


(新婚旅行? 嘘でしょ? ランドールよ?)


 結婚は監視のためだと豪語するランドールが、新婚旅行なるイベントを考えているとは思えない。何かの間違いではないだろうか。

 ソフィアがあんぐりと口を開けていると、ランドールはむすっとしたまま言った。


「勘違いするな! 陛下が行けと言ったんだ」


 なるほど、それでか。

 ソフィアが「ああ」と納得するそばで、ヨハネスが額を押さえて盛大なため息をついた。


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