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悪役令嬢、メイドになる! 5

 テオは突然現れたソフィアたちにあきれてものも言えなかった。

 ソフィアを含め四人の令嬢は、ふりふりのワンピース姿でやってきて、今日一日メイドとしてここで給仕をするという。

 弧の突飛な行動に、おそらくガッスールのことを調べに来たのだろうと推測したテオだったが、それにしても無茶すぎる。


「……ソフィア、お前今、公爵夫人だろ? こんなことしていいのか?」

 許可を出した父親も父親だ。ソフィアは困ったような顔をして笑ったが、隣にいたアリーナとかいう女が胸を張って答えた。


「社会奉仕の一環ですわ」

「そーかい……」


 もう、そう言うしかない。

 貴族の令嬢の考えることはよくわからないが、とにかく一日働きたいらしく、それを父親も許可してしまったのだから、テオに反対する権利はない。

 ソフィアは変装のためかウィッグと眼鏡をつけているが、彼女をよく知るものが見ればすぐにソフィアだと気づくだろう。テオは仕方なく、ソフィアのことをよく知っていそうな常連たちにこっそり事情を説明して回り、余計な勘繰りはしないようにと告げた。それから、ソフィアを呼ぶときは、ソフィアの母のリゼルテから取って「リゼ」と呼べと伝えておく。


「リゼ! こっちに麦酒二つ!」

「リゼ! こっちには豚の卵炒めを」

「リゼ! なんか適当につまみになりそうなものを頼む!」


 開店当初から、リゼ――ソフィアは大人気だ。

 ソフィアを知るものは彼女が突然いなくなったことを心配していたものも多く、こうして元気な姿が見られたのが嬉しいのだろう。中には変な勘繰りをしてテオとの仲を訊こうとする者もいて、テオは慌てた。

 ソフィアのことを知らないものも、デレデレと鼻の下を伸ばしているから、むかつく。


「おいソフィア、お前はそろそろ中に下がれよ。いつもなら、もうすぐガッスールが来る時間だし」


 テオがこっそり耳打ちすると、それを聞いたアリーナも頷いた。


「そうね。念のためソフィアは下がっていた方がいいわ。あとはわたくしたちで何とかするから休憩してきて」

「そう? じゃあ、何かあったら呼んでね」


 ソフィアはテオに連れられて店の奥の小部屋に下がる。テオがブドウジュールと、賄のつもりだろう、パンとスープ、それから肉と野菜を炒めたものを持って来た。


「こんなんで悪いな」

「ううん! おじさんの料理、懐かしいわ」


 毎日公爵家で美味しいものを食べているはずなのに、ソフィアは嬉しそうに料理を口に運ぶ。こうして見ると、このあたりで暮らしていたころのソフィアと何ら変わりない。

 ソフィアはあっという間に料理を平らげて、満足そうにお茶を飲んだ。


「でも、ごねんね、急に」

「いや、俺も調べるっつったけど、なかなかいい報告ができてなかったし……」

「そんなこと……。むしろ巻き込んでしまった申し訳ないというか」

「んだよ、水くせぇ。幼馴染のよしみだろ」

「ふふ、ありがとう」


 くすくすとソフィアが笑う。テオはドキリとして視線を横に向けた。

 ソフィアはあの頃と変わらないが、変わった部分もある。笑い方もそうだ。急に大人びたというか――、子供のころに大声で笑い合った彼女とは、やはり少し違う。

 ソフィアはお茶を飲み干して、ふうと息を吐きだした。


「ねえ、こんなにいろいろしてもらって、お礼もなしなのはやっぱり気が引けるわ。何かわたしにできることはない? と言ってもわたしお小遣いないから、……あんまり高いものを言われると、無理かもしれないけど」

「小遣いがない? 公爵夫人なのに?」

「あー、うん。まあ、ほら、わたし、あんまり買い物しないし、必要ないというか」

「……ふぅん」


 テオは納得がいくような、いかないような気がしたが、少し考えて、ぽつりと言った。


「じゃあ、クッキー。お前んとこの料理人のじゃなくて、お前の手作りがいい」

「わたしの?」

「昔よく焼いてただろ?」

「ああ、うん。そんなものでいいならいくらでも……。でも、わたしが作るより料理長が作った方が美味しいわよ?」

「いいんだよ。お前のが食いたいの」

「そ? じゃあ、今度焼くから、食べに来てね」


 ソフィアはまた笑って、食べ終わった食器を片付けようと立ち上がる。――そのとき。

 ガシャン――と大きな音が、表から響いてきて、ソフィアとテオは顔をあげた。


前話でカイルが好きと感想くださった方、ありがとうございます!あっという間にランドールが追いやられてしまいまして、ちょっと複雑ですが、今のところランドールは自業自得なので仕方がないのか…(^_^;)

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