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悪役令嬢、メイドになる! 1

 ソフィアに実の父親を名乗る男が現れたという噂は、あっという間に城全体に広まったらしい。

 ランドールも王も噂が広がらないように尽力したが、もともとソフィアのいい感情を持っていなかったものも多く、噂は悪意を持った尾ひれを伴って広がった。

 中にはソフィアの母親を娼婦のように語るものもおり、最初は「馬鹿馬鹿しい噂だ」と笑っていた国王も心を痛めている。


(まったく、どいつもこいつもくだらない噂ばかり。よほど暇と見える)


 ランドールは羽ペンをおいて立ち上がると、窓の外に視線を向けた。城のランドールの部屋の窓からは中庭が見える。秋の装いを見せる中庭には、ラピスラズリのような濃い青のドレスを身にまとったキーラが、侍女を従えて歩いていた。

 キーラも今回の噂で心を痛めているらしい。心優しい彼女のためにも、何とか早めに片をつけたいところであるが――

 ランドールが息を吐きだしたとき、部屋の扉が叩かれて、返事をするとカイル・レヴォードが入ってきた。母親譲りのプラチナブロンドをすっきりと撫でつけて、騎乗服のようにすっきりとした服に身を包んでいる。

 カイルはランドールに向けて気安くひらひらと手を振って、すすめてもいないのにソファにどかりと腰を下ろした。


「父上の遣いで城に来てね。お前が相変わらずソフィア様を放置して城に入り浸っていると言うから様子を見に来たよ」


 笑顔で厭味を言うのはやめてほしい。

 ランドールは仕方なくメイドを呼びつけてティーセットを用意させると、カイルの真向かいに腰を下ろした。


「ただ様子を見に来ただけではないんだろう」

「いや、様子を見に来ただけだよ? このくだらない噂にどう収拾をつけるのかとおもってね」

「ソフィアの噂か? これは俺のせいでは……」

「いーや。お前にも責任があるね。お前がソフィア様のことを放置しているから、噂が面白おかしく広がるんだ。お前がきっちり守ってさえいれば、お前の影を恐れてここまでソフィア様をないがしろにするような噂が広まるはずないだろう? ましては、ソフィア様が陛下の子でないならお前とは離婚だろうとか、国から追放だとか、そんなことまで広まるはずないね。噂が出た段階でお前がすぐに動いでソフィア様との離婚を否定してさえいれば、違ったんじゃないのか?」


 笑顔を消したカイルは痛いところをついてくる。

 ランドールが言い返せずに黙っていると、カイルは足を組んで膝の上を指先で叩いた。


「まさかとは思うけど、本当に離婚を考えているんじゃないだろうね」

「……今の段階では考えていない」

「今? ってことは、まさか本当にソフィア様が陛下の子供でなかったら、離婚するつもりでいるのか?」


 カイルがあきれたように言った。


「それは……、我が公爵家に平民の妻を迎え入れるわけにはいかない」


 言いながら、ランドールはわずかばかりの心苦しさを覚えた。ソフィアと結婚した時、彼女が偽物だとわかったら離縁するつもりでいた。それは今も変わらない。けれども、ちくりと心の奥が痛いような気がする。ランドールは間違ったことは言っていない。ヴォルティオ公爵家は由緒正しい家柄だ。当主の妻となればそれ相応の身分の女性が求められる。ソフィアが王女でなかったなら――、彼女を妻にしておく理由はない。むしろ早々に離縁すべきだ。なのにどうして「もしも」の可能性を考えると、心の奥がチクリと痛むのだろう。


「お前、最低だな。あーなんで俺はソフィア様に早く求婚しなかったんだろう」


 カイルが大げさに顔を覆って天井を仰ぐ。だが、ふと思い直したようにランドールに向きなおると、にやりと笑った。


「ああ、そうか。お前が離婚したあとに、ソフィア様を俺がもらえばいいのか」

「……ずいぶん簡単に言うな」

「そりゃ、うちの両親は俺とソフィア様が結婚することに大賛成だからね。反対されるはずがない」

「平民であっても?」

「うち、お前の家ほど結婚に厳格じゃないから。うちの両親も恋愛結婚だしなー」

「レヴォード公爵家だぞ?」

「うちは血筋ではなくて実績を重んじる家訓なんでね」


 ソフィア様が王女でなくてもいいんだよと軽るく言って笑うカイルを、信じられないようなものを見るように見つめたランドールだったが、彼のペースに巻き込まれていることを知ってハッとした。


「言っておくが、現段階で俺はソフィアと離婚しない」

「あ、そ。まあ、今、お前がソフィア様と離婚なんてしたらそれこそ噂を肯定してるようなもんだから、当然だな。で、噂の真実は突き止められそうなのか?」

「今、ソフィアの父親を名乗る男の近辺を探っている」

「はあ? まだその段階? まだわかんねーの?」

「何の情報もないんだ、仕方がないだろう」

「はー、これだからデスクワーク派は。そんなもの、歩き回って証拠を探せばいいだろう。何のために二本の足がついているんだ」


 カイルはため息をついて立ち上がった。


「お前なら何か知ってるかと思ったけど、俺が持っている情報と大差ないじゃないか。もういいや、俺は俺で探ることにするよ。ふふん、うまくいけばソフィア様にすっごく感謝されるかもね。惚れられたらどうしよう。楽しくなってきた」

「……遊びじゃないんだぞ」

「もちろんわかっているさ。あ、そうそう。一応言っておくけど、俺、まだソフィア様を諦めたわけじゃないから。隙あらば奪い取るつもりでいるんで、よろしく」


 ランドールは瞠目したが、言い返す前にカイルはさっさと部屋を出て行ってしまい、ぱたんと閉まった扉の音に、彼は大きく肩を落とした。


「なんなんだ、どいつもこいつも!」


 苛立ち紛れにテーブルの足を蹴ったランドールは、その勢いでテーブルの上に紅茶をひっくり返してしまい、顔を覆ってうなだれた。


ランドールにライバル(?)登場です(#^^#)

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