悪役令嬢と父を名乗る男 3
次の日、ランドールが国王に会いに行くと、意外にも彼はけろりとしていた。
ソフィアの本当の父親が現れたと城で噂になっているとキーラは言ったが、彼女が言ったほど広まってはいないのだろうか?
ランドールは国王が噂を知らないのではないかと思ったが、王はランドールが部屋に入るなり、笑いながらこう言った。
「どうせお前も、くだらない噂を聞いてここに来たのだろう?」
「……ご存じでしたか」
「朝から王妃や王子、それに大臣たちまでもが来たからな」
「そんなに……」
王妃や王子はわかる。王妃は特に夫と侍女の間に生まれたソフィアを疎ましく思っており、彼女を城に引き取るときも声高に反対していたからだ。
だが、大臣たちまでもとは――。意外にも、大臣たちの多くはソフィアに好意的だったはずだ。どういうことだろうと思えば、王は面白そうに目を細めた。
「大臣たちは何かの間違いだと言っている。リゼルテのことを知るものも多いからな。彼女がそんな無節操な女ではないと言いに来た。私もそう思う」
「では、陛下は噂を信じられてはいないのですね」
「当たり前だ。ソフィアは私の子に間違いない。ほら、眉の形とか似ておるだろう? 口元もそうだ。な?」
そうだろうか? 国王は精悍な顔立ちをしているが、王の言う眉も口元も、それほど似ていない気がする。けれども娘のことが大好きな王は、自分とソフィアの顔立ちが似ていると言って譲らない。
「はあ……」
ランドールは生返事をして、それから肩を落とした。
国王が気にしていないのならばいい。もしも王が憤り、ソフィアを即刻捕らえろと言い出した場合、ランドールはそれに従わなければならなかった。ひとまずは安心だ。
「それで、ソフィアは元気にしているのか?」
「どうでしょう。一昨日、レヴォード公爵家にお伺いしたときは、まあ、元気そうには見えましたが」
「レヴォードか。あれの妻はリゼルテの後見だったからな。そうそう、お前と婚約の話がまとまって少しして、レヴォードから苦情が届いてなぁ、ソフィアとお前を婚約させたのが早すぎる、息子の妻に考えていたのにと怒られた。お前と婚約する前にレヴォードから申し込みがあれば受けていただろうし、一足早く婚約してよかったな、ランドール」
能天気なことを言う国王に、ランドールはむっとした。レヴォード公爵の息子であるカイルがソフィアと婚約したがっていたという話は、昨日カイル本人から聞いたことでもある。
(……あれのどこがいいんだ)
よくわからないが、むかむかする。
ソフィアは確かに美人かもしれないが、キーラをいじめるような性悪だ。理解に苦しむ。それにソフィアはすでにランドールの妻であるのに、今更過去の話を持ち出すなど、どういうつもりなのだろうか。
国王はふと真顔になり、頬杖をついた。
「お前、いまだに城で寝泊まりをしているそうだな。あまりにソフィアをないがしろにするようであれば、今からでもお前とは離縁させて、レヴォードの息子に嫁がせるぞ」
「……それは脅しのつもりですか?」
国王はそれには答えず、思い出したように立ち上がった。
「そうだった。これをソフィアに。王都で有名な店のチョコレートらしい。いいか? くれぐれも、私からもらったと言って渡すのだぞ。それからたまには城に遊びに来いと伝えてくれ」
ランドールは国王から箱に入ったチョコレートを手渡されて、はあとため息をついた。




