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悪役令嬢はお茶会にお呼ばれする 1

「本日はお日柄もよく――」

「あんた、お見合いでもすんの?」


 オリオンが突っ込めばアリーナ・レガートがぷっと吹き出して、ソフィア・グラストーナ=ヴォルティオはぷうっと頬を膨らませた。

 ソフィアがランドールと結婚してヴォルティオ公爵夫人となって早一月半。

 その間、夫であるランドールは、相変わらず城で寝泊まりを繰り返している。

 城からほど近いところにあるヴォルティオ公爵邸の庭は、すっかり秋の装いで、ソフィアたちが座っている四阿(あずまや)の近くにある楓の葉はきれいに色づいて、風が吹くたびにぱらりぱらりと揺れ落ちる。

 四阿にティーセットを広げたソフィアは、「お茶会」の練習中だ。

 貴族のご婦人方はお茶会が大好きである。城で生活していた時は、ひっそりと息を殺すように生活していたために無縁だったが、ランドールの妻となったからには避けては通れない道だ。

 王女としての教育を受けさせてもらえなかったソフィアは、さすがにこのままではまずいと執事のヨハネスに相談した。

 ヴォルティオ公爵家に泥を塗るな――、が口癖のようなランドールである。お呼ばれしたお茶会でなにかやらかした暁には、どれほど冷たい視線を向けられるかわかったものではない。

 それに、もしソフィアがお茶会で完璧な公爵夫人を演じ切ることができたら、ランドールも少しはソフィアのことを見直すはずだ。


(目指せ、ラブラブ夫婦!)


 道のりは遠く険しいが、ソフィアの目的はそれである。

 なぜならソフィアはおよそ二年後までにランドールとラブラブ夫婦になって、破滅エンドを回避しなければならないからだ。


 ソフィアには、前世の記憶がある。

 前世でソフィアはこことは違う世界で暮らしており、ここにいるオリオンとともに道路の陥没事故に巻き込まれて命を落とした。

 そしてこの世界に転生したのだが、なんとここは、ソフィアが前世で大好きだった乙女ゲーム「グラストーナの雪」の世界だったのである。

 そして最悪なことに、ソフィアは「グラストーナの雪」の中の悪役令嬢。ヒロインである同じ年の異母姉のキーラ・グラストーナを陥れる立場で、ゲームの終盤、断罪されて国外追放という憂き目にあう。

 ソフィアはなんとしてもその破滅エンドを避けたかった。

 ゲームは今から二年後、ソフィアとキーラが十八の秋からはじまる。ソフィアはそれまでに、攻略対象の一人であるランドール・ヴォルティオとラブラブ夫婦になって、断罪からの破滅エンドを回避しようとしている最中であった。


 けれども、さすが攻略対象の一人。ランドールはなかなかソフィアに心を開いてくれない。開かないどころか、せっかく父である国王を泣き落として結婚までこぎつけたのに、彼はちっとも邸に帰ってこない。

 これは由々しき事態である。

 このまま二年後まですれ違い生活を続けていては、二人の距離は一向に縮まらず、破滅エンドまっしぐら――

 そこでソフィアは、ランドールが少しでも見直してくれるよう、貴婦人教育を受けることにした。

 幸いなことに、公爵家の使用人たちはソフィアに好意的である、

 ランドールのために立派な貴婦人になりたいと言えば、ハンカチを濡らして「素晴らしいです奥様!」と協力体制となった。

 ソフィアは執事のヨハネスと相談し、社交シーズン真っただ中の今、優先的にダンスとお茶会の練習をすることにし、こうして前世からの親友で現在ソフィアの護衛であるオリオンと、前世からの知り合いではないが同じく転生者であるアリーナを相手にお茶会の練習中なのである――が。


(……お茶会、よくわかんない)


 アリーナは、貴婦人方の自慢話と噂話に大げさなくらいに感心していればいいというけれど、そんなことをして何が楽しいのだろう。


「ソフィアの場合、年の近い令嬢たちから誘われることはあまりないでしょうから、年上の既婚者のご婦人方のあしらい方を覚えたほうがよさそうね」


 アリーナの言う通り、ソフィアと年の近い令嬢たちはキーラの取り巻きが多い。そのため昔からソフィアへの当たりが強く、彼女たちが進んでソフィアとお茶会に誘うとは思えなかった。


「とりあえず、お日柄がよく――、は封印しなよね。お見合いを仕切ってるおばちゃんじゃあるまいし」


 オリオンが話を蒸し返すから、ソフィアはむっとしてクッキーを頬張った。


「じゃあなんて言いうのよ」

「普通に、今日はいいお天気ですわねでいいじゃん」

「そうね。それから、お庭でお茶会であれば『素敵なお庭ですわね』。サロンであれば『品がよくて、とても落ち着くサロンですわ』とでも言っておけば間違いはないわね」

「出されたお茶とお菓子を褒めるのも忘れずにね」

「ドレスやアクセサリーを褒めると機嫌がよくなるわ」


 なるほど、とにかくおべっかばかりを並べておけばいいのか。


「ねえ、お茶会の何が楽しいの?」


 どう考えてもただ疲れるだけの集まりのような気がしてソフィアが訊ねれば、アリーナはすました顔で答えた。


「慣れてくればそのうち、無知と厚化粧を笑える日が来るわ」


 アリーナと違い、そんな日は永遠に来ないだろうなとソフィアは思った。


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