エピローグ
本日五話目m(_ _)m
「えー! シリルぅ?」
「いいじゃないシリル!」
「わたしはバルバロが一押しよ!」
ヴォルティオ公爵家のソフィアの部屋にきゃあきゃあと黄色い歓声が響き渡る。
アリーナがオリオンに会いたいと言ってので公爵家に招待したのだが、先ほどからオリオンと二人、『グラストーナの雪』に登場する攻略対象の話題で盛り上がっていた。
最初はソフィアも参戦していたのだが、ソフィアの一押しは当然ランドールで、それを言った途端二人に「ありえない」と言われて、先ほどから疎外感を味わっている。
二人とも、五人いる攻略キャラのうち、ランドールだけは「ない」らしい。
曰く、「ツンデレのツンが強すぎる」だそうだ。よくわからん。
アリーナとオリオンは二人そろって「『グラストーナの雪』傍観者隊」なるものを結成して、いかにこの世界を楽しむかで盛り上がっているが、悪役令嬢であるソフィアにはそんな余裕はない。
アリーナという強い味方は増えたが、ランドールとの距離は相変わらず縮まらないし、まったく安心できる要素がないのだ。
「わたくしとしては、悪役令嬢ソフィアに五人全員攻略してもらいたいわ!」
「……いや、現実問題、無理でしょ」
アリーナにソフィアが突っ込めば、オリオンが「どこかでセーブとかできないのかな」とあり得ないことを言い出す。
「ここはゲームの世界でもゲームじゃなくて現実なの、わかってるの?」
「わかってるって。言ってみただけじゃん」
「そうそう。誰一人キーラに攻略されてほしくないから、それができたら最高だけど、さすがに無理なのはわかっているわ」
アリーナはとにかくヒロインキーラが嫌いらしい。
ここで自らが名乗りを上げて自分で攻略すると言わないのかと訊けば、二人そろって「見ている方が楽しい」と返してきた。
「でも、赤ワインイベントが今の段階で起きるなんてね。いよいよこの先何が起こるかわからなくなってきたわ」
オリオンがクッキーを食べながら言えば、アリーナはさっとメモ帳を取り出した。
「そうね。だからわたくし、今まであったこととこれから起こることをつぶさにメモしておこうと思うの」
「……読み返して楽しもうとか思ってない?」
「あら、ばれた?」
アリーナがぺろりと舌を出して、ソフィアは肩を落とした。
この二人は強力な味方のはずなのだが、どうしてだろう、そこに小さな不安も覚えてしまう。
「ゲームみたいに親密度のパロメーターがあればいいのにね」
「親密度が上がるたびにキラキラ光ってくれたらわかりやすいわね」
「いや、現実にあったら怖いから」
この二人はやはりこの世界とゲームを混同しているのではなかろうか?
破滅エンドにおびえる悪役令嬢としては、お気楽な二人が少し恨めしい。
「ランドールのソフィアに対する親密度って今どのくらいなのかしら?」
「豆粒ほどじゃない?」
「……オリオン。さすがに泣くよ」
この世界に親密度を測る術があるのならば、オリオンの言う通り、ランドールのソフィアに対する親密度はそれはそれは低いだろう。パロメーターはほぼゼロと言っていいに違いない。でも、わかっていても傷つくものだ。
「で、ランドールはまだ城で寝泊まりしているの?」
アリーナに訊ねられて、ソフィアはしょんぼりした。そうなのである。いまだに彼は公爵家ではなく城で寝泊まりしている。寝室が別々に用意されているのだからいいじゃないかと思うのに、帰ってこない。
「次の目標は、ランドールを公爵家に帰ってくるようにすることかな」
オリオンが腕を組んだ。
ランドールが公爵家に帰ってきてここで寝泊まりする?
(ハードル高いなぁ……)
親密度豆粒ほどのソフィアとしては、切り立った壁を上るような険しさだ。
「とにかく、打倒キーラよ!」
いつ、目標が「打倒キーラ」になったのだろう。
ソフィアとしては悪役令嬢の破滅エンドさえ回避できればそれでいいのだが……。
(ああ、先が思いやられる……)
すっかり意気投合したオリオンとアリーナが、「打倒キーラ!」と言ってこぶしを振り上げるのを見ながら、ソフィアはちょっぴり憂鬱になった。
これにて第一話完結となります。お読みいただきありがとうございました!
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