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【書籍化】悪役令嬢の愛され計画~破滅エンド回避のための奮闘記~  作者: 狭山ひびき
乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったようです
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悪役令嬢、ダンスパーティーで注目を集める 4

本日三話目の更新です。

 キーラのドレスにソフィアが赤ワインをかけた。

 ランドールはそういうが、ソフィアは何もしていない。


(赤ワイン……、まさか赤ワイン事件⁉)


 ゲーム「グラストーナの雪」で起こるイベント「赤ワイン事件」。これはソフィアがキーラのドレスに赤ワインをかけて恥をかかせるというイベントだが、ゲームの中でイベントが起こるのは二年後であるし、ソフィアはずっとこの場所にいてキーラには近づいていない。

 どうしてソフィアが疑われているのだろうと驚いたが、目の前のランドールは怒っていて、彼女の話を聞いてくれそうになかった。


「いったいキーラがお前に何をした⁉ どうしてこんな幼稚な嫌がらせをするんだ!」


 ランドールの剣幕に、ソフィアたちの周りを人々が取り囲みはじめる。


「わ、わたし、そんなことしてない……」

「嘘をつくな!」

「嘘じゃない」


 ソフィアが言い返しても、やはりランドールは聞いてくれない。

 でも、ソフィアはずっとここにいたのだ。赤ワインのグラスだって手に取っていない。手にしたのは、ランドールがくれたカクテルの入ったグラスだけ。第一、ここで大人しくしていろと言ったのはランドールだ。ソフィアはその指示に従ってずっとここにいた。どうしてそれを疑うのだろう。

 ソフィアが茫然としていると、ランドールに追随するように、少し離れたところにいた令嬢たちが口を開いた。


「わたくし、見ましたわ! ソフィア様がキーラ様のドレスに赤ワインをかけるところを!」

「ええ、すごい剣幕でした!」

「キーラ様はなにもしていないのに」

「これだから庶民育ちの方は」


 次々に浴びせられる令嬢たちからの非難に、ソフィアは愕然とする。

 ソフィアは何もしていないのに「赤ワインをかけた」と言われる理由がわからない。すごい剣幕? 今日、キーラに挨拶すらしていないのに?

 令嬢たちの言葉に、ランドールはますます怒り狂ったようだった。

 こっちへ来いと手首をつかまれたソフィアは、そのままランドールに引きずられそうになったが、それを止めたのは思いもよらない人物だった。


「ソフィア様はなにもされていませんわ」


 振り返ると、優雅にシャンパングラスを傾けているアリーナがいた。


「ソフィア様はずっとここでわたくしとお話ししていましたもの。それなのにどうやってキーラ様のドレスに赤ワインをかけるのです?」


 アリーナがソフィアをかばったことが意外だったのだろう。ソフィアを非難していた令嬢たちはたじろいだが、すぐに言い返してきた。


「あなたとしゃべる前のことよ!」

「あら、わたくしとお喋りする前はこちらにいるヴォルティオ公爵と一緒にいらしたではありませんか。ダンスをされていたのを見ていらした方も多いのでは?」

「そ、その前よ!」


 令嬢がさらに言いつのれば、さすがにランドールもおかしいと思ったのか、ソフィアのから手を離した。


「……妻は、この会場に入ってからずっと俺と一緒にいた」


 その通りである。この会場に入ってランドールと離れたのは、つい先ほどがはじめてだ。そのあとすぐにアリーナに話しかけられたから、ソフィアが一人きりになった時間はない。

 アリーナはシャンパンを飲み干して、にっこりと微笑んだ。


「ソフィア様はなにもされてはいませんわ。キーラ様のドレスに赤ワインがかけられたのであれば、それはソフィア様以外の方の仕業でしょう。ソフィア様がキーラ様のドレスに赤ワインをかけるのを確かに目撃されましたの? もしそうであるならば、その方はソフィア様のふりをした偽物ですわ。即刻探してそれ相応の処罰をする必要がございますわね」


 穏やかに微笑みながらも有無を言わさない口調で言うアリーナに、令嬢たちの勢いがしぼんでいく。


「そこのあなた。ソフィア様がキーラ様のドレスに赤ワインをかけるところを見たとおっしゃいましたね? 詳しく教えてくださらないかしら? ソフィア様を陥れようとした犯人を捜さなくてはいけませんものね」


 アリーナがソフィアを糾弾した令嬢の一人に視線を向ければ、彼女は慌てたようだった。「わ、わたくしの勘違いかもしれませんわ」と言いながらそそくさと立ち去ろうとして、そのあとをほかの令嬢たちが追いかけていく。

 思わぬところからの助け舟に驚くソフィアの手を、アリーナがそっとつかんだ。


「騒がしくなってしまいましたわね。休憩室に参りませんこと?」

「え、あ……」


 ソフィアはランドールを振り返った。彼は先ほどまでの怒りが嘘のように狼狽えた表情を浮かべている。目があうとバツが悪そうに視線をそらされて、ソフィアは確かに少し離れたほうがよさそうだと思った。

 アリーナと一緒に休憩室へ向かうと、彼女は室内に誰もいないことを確認して、部屋の鍵を閉めた。


「ふう、とんだ目にあいましたね」

「え、ええ……、あの、助けてくださってありがとうございました」

「いえいえ、それに、わたくしも少し気になることがありましたし」


 アリーナはソファに腰を下ろすと、テーブルの上においてあったチョコレートの包みを一つ取った。

 ソフィアが彼女の向かい側のソファに座ると、アリーナはチョコレートを口の中で転がしながら、じーっとこちらを見つめてくる。


「やっぱり妙なのですわ」 


 ソフィアの様子をつぶさに観察したアリーナは、小さくなったチョコレートをかみ砕くと、ずいと顔を近づけてきた。


「ソフィア様、わたくし、今から少し変なことを言いますが、心当たりがなければ聞き流してくださいませ」

「……え?」

「『グラストーナの雪』」

「……!」


 ソフィアは目を見開いた。

 アリーナはソフィアの表情を見て、にやりと笑った。


「やっぱり。そんな気がしましたのよね」

「じゃあ、アリーナさんも……」

「アリーナで結構ですわ。ええ。転生者です」


 ソフィアは息を呑んで思わず立ち上がった。

 アリーナは二つ目のチョコレートを口に入れた。


「前世を思い出した時は驚きましたけど。まさかソフィア様も転生者だったなんて。わたくしは物語には無関係ですけど、ソフィアに転生したのは――災難だったわね」

「わたしのことはソフィアでいいわ。でも、どうしてわかったの?」

「最初におかしいと思ったのはソフィアがランドールと結婚したと聞いたときよ。ランドールとソフィアは婚約はするけれども、結婚はしていなかったし。ストーリーが違うだけかとも思ったけれど。話してみて確信したわ。だってゲームの中のソフィアとキャラが違いすぎるもの。ランドールと結婚したのは、ゲームのストーリーを変えるため?」


 ソフィアが頷くと、アリーナは「なるほどねぇ」と頷いた。


「破滅エンドは嫌だもの」

「そうよね。わたしもソフィアには幸せになってほしいわ。こういっちゃなんだけど、あのゲーム、攻略対象者たちは好きだったけどヒロインのキーラが好きになれなかったのよね。いつも被害者ぶって泣いてばかりで周りに助けてもらうだけだったもの。それで、ランドールと結婚して、うまくいきそうなの?」

「それは……」


 ソフィアはこれまでのことをアリーナに説明した。アリーナは話を聞き終えると、眉を寄せて不快感をあらわにした。


「キーラってろくでもないわね。それに、その様子じゃランドールはソフィアにいい感情は抱いていないみたい」

「うん、ただの監視対象なんだと思う」

「ゲームがはじまるまであと二年。それまでに、ランドールだけでも味方につけておかないとちょっと厳しいわ」


 アリーナは考えるように顎を撫でて、それから顔を上げると、にっこりと微笑んだ。


「ただゲームの登場人物を離れたところから観察して楽しもうと思っていたけれど、これは面白くなってきたわ。ソフィア、わたしにも、協力させてね」


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