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エピローグ

 王妃やオルト公爵たちの捕縛に、議会はしばらく混乱することとなったが、やがて落ち着きを取り戻すとともに、それぞれの処分が決定した。

 基本的によほどのことがない限り「処刑」という決定が下らないのがグラストーナだ。特に現王は、安易に人の命を奪う裁きを良しとしない。だが、王と王女の殺害未遂まで起こした王妃やオルト公爵、ソフィアの命を狙い続けたキーラには処刑と言う判決が下ると誰もが思っていた。

 けれど、結果として、王妃とキーラは生涯幽閉。王の殺害やソフィアの殺害には関与していなかったヒューゴは、特に罪には問われることはなかったが、王子の身分が剥奪される、臣下に下ることとなった。しばらくはその性根を叩きなおすために、軍役につくそうだ。ディートリッヒ将軍が嬉々としてヒューゴを心身ともに鍛え上げると息巻いていた。


(……オルト公爵が、王妃を愛していたと言うのは本当だったのね)


 この結果の裏には、すべてオルト公爵の証言があった。オルト公爵は、すべての罪を自分で背負ったのだ。国王とソフィアの殺害もすべてオルト公爵が計画したことで、王妃と王女を脅して協力させていたと彼は語った。もちろん、それは嘘だろう。けれども彼はその嘘をつきとおすことで、愛する女性と娘を、処刑と言う重刑から救うことに成功したのだ。自身の命と引き換えに。

 議会は最後まで割れたが、最終的にオルト公爵のみ処刑と言う判決で幕を閉じた。

 王妃はこの判決に異議を唱えて泣き叫んだというが、もう判決が覆ることはないだろう。

 その判決に引き続き、カイルの有罪判決が取り下げられた。久しぶりに会ったカイルは、ソフィアを見て微笑んで、「意外と快適な幽閉生活だったよ」と言っていたが、その顔には多くの疲労が見て取れた。


 そして――

 ソフィアは大聖堂の最前列で、自分の夫の立太子の儀式を見守っていた。

 王の息子以外を王太子とするとき、本来は事前にその人物を王の養子とするのが慣例であったが、今回はソフィアがランドールに嫁いでいることで、その慣例は無視された。

 ソフィアの隣では、三年ぶりに王都へ戻ってきたランドールの両親が、息子の晴れ舞台を笑顔で見守っている。

 ランドールが跪いて、国王から王太子の証である国宝の剣を受け取るのを見て、ソフィアは感動して思わず自分の手を握りしめた。


 王妃たちが一斉に裁かれたのだ。これからグラストーナはしばらく大変だろうと国王は言っていた。王太子となるランドールにも、その妻であるソフィアの肩にもその重圧がのしかかってくる。けれども今は、そんなことは考えたくない。ただ、すべてが終わってはじまろうとしている、この儀式に酔いしれたかった。

 儀式が終わると、熱狂に包まれていた大聖堂から、一人、また一人と貴族たちが去って行く。

 ソフィアはランドールの妻として、最後まで去って行く貴族を見届けるつもりだったが、突然義母のエカテリーナと彼女の侍女ナズリー、そしてイゾルテに手を引かれて控室に連行される。

 いったいどうしたのだと目を白黒させている間に、イゾルテに「着替えてください!」と半ば押し切られるようにドレスを着替えさせられた。


 着替えたのは、純白の裾の長いドレスだった。まさか――、と思っているうちにベールをつけられて、再び大聖堂まで連れて行かれる。

 大聖堂では、祭壇前にランドールが立っていた。


「ランドー……」

「前回の結婚式では、父上と母上が参列できなかったから……、その、つきあってほしい」


 ランドールがうっすらと顔を染めて言えば、義父であるエドリックがあきれ顔を浮かべた。


「そうじゃないだろう。きちんと言わないと伝わらないよ」


 ランドールは赤い顔で父をひと睨みすると、こほんと咳ばらいをして、そしてソフィアの前に跪いた。


「ソフィア、だから……、つまり、俺と、もう一度結婚式をあげてほしい。身内だけしか参列しないささやかなものだが、それでも……、もう一度、はじめからやり直すという意味で」


 ソフィアはぱちぱちと目を瞬いた。

 最初の結婚式は、儀礼的なものだった。ランドールも乗り気ではなく、さっさと終わらせてほしいという思いがありありと伝わってくるような、感動も何もない、ただの儀式。

 それを、ランドールはやり直そうと言っているのだ。もちろん、ソフィアに異論はない。

 ソフィアは微笑んで、ランドールが差し出した手に手のひらを重ねた。

 ランドールはホッとしたように息を吐いて、立ち上がると、ソフィアの手を引いて祭壇まで連れて行く。

 祭壇では、大司祭が笑顔で迎えてくれた。

 最初の結婚式のときと同じように、大司祭のあとについて誓いの言葉をくり返す。


「それでは、誓いの口づけを」


 けれども最後になって、はじめの結婚式では省かれた誓いの口づけを求められて、ソフィアは慌てた。

 驚いている間に、ランドールがベールを持ち上げてしまって、ソフィアは真っ赤になる。


「ソフィア」


 呼ばれて顔をあげれば、ソフィアと同じように赤い顔をしたランドールがいて、彼も同じように恥ずかしいのだと思うと少しおかしくなった。

 ランドールの言う「正しい夫婦」。正直、正しい夫婦が何なのか、まだわからない部分もある。だが、それはこれから考えて行けばいいだろう。

 ソフィアがそっと目を閉じれば、ランドールがまるで羽が触れるかのような遠慮がちなキスをくれる。触れたランドールの唇が微かに震えていた気がして、ソフィアはまたおかしくなった。


「今日、神の名のもとに、二人を夫婦と認めます」


 大司祭の厳かな声が響き渡る。

 瞼をあげたソフィアは、ランドールの榛色の瞳を見返して――、どちらともなく、二人は互いに微笑んだ。



これにて完結となります。気が向けば後日談などを書くかもしれませんが、まだ未定です。

お読みいただきありがとうございました!


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