悪役令嬢と毒 4
ソフィアのドリンクに毒が盛られていた。
騒然となったパーティーは中断を余儀なくされて、ソフィアは城の休憩室へと運び込まれた。
幸いなことに、カーネリアが解毒薬を持ち歩いており――カーネリア曰く「万能薬」というらしいが、この際何でもいい――、すぐに彼女が対処したために、ソフィアの毒は中和されて事なきを得たが、国王がひどく心配したために、今夜は城で休むことになった。
ランドールとしてはできるだけ早く王妃たちのそばから離れたかったが、国王に説明できるはずもなく、一晩だけ城ですごすことにした。
幸か不幸か、カーネリアがソフィアのそばから離れたがらなかったので、むしろ彼女がいたほうがこの場合は安全ではないかと見て見ぬふりをすることにする。
「わたくしの可愛いマルゲリータちゃんに誰がこんなひどいことを!」
憤慨するカーネリアが、客人にもかかわらず、犯人をすぐに捕まえろと騒ぎ立てたせいで、城の中は大慌てだそうだが、知ったことではない。
毒を持ったのは、十中八九、王妃かオルト公爵の手のかかったものであろうが、この程度で二人が尻尾を掴ませるはずもないだろう。
ソフィアがまだ目を覚まさないので、ベッドサイドの椅子に腰を下ろして彼女の顔を見ていたランドールは、アリーナに控えめに話しかけられて顔を上げた。
「……公爵。失礼を承知でお伺いいたしますが、公爵はソフィアが狙われたことについてどう思われていますか」
「どういう意味だ?」
「普通なら妻が毒を盛られたら、真っ先に犯人捜しをしそうですが、それもないので。まるで犯人に目星がついているかのように」
アリーナはひどく真剣な顔をしていた。
ランドールは彼女の顔をじっと見返したあとで嘆息する。
「目星はついている。だが、言えない」
「なんですって!」
それを聞いたカーネリアが眉を吊り上げるが、アリーナはどこか納得したようだった。
「なるほど。相手が相手だから仕方がないですね」
今度は、ぎょっとしたのはランドールの方だった。
「……君は、どこまで知っている?」
「どこまでと言われましても……」
アリーナはちらりとカーネリアに視線を向けた。
カーネリアはわずかばかり愁眉をひそめて、それから口端を持ち上げる。
「わたくしの可愛いマルゲリータちゃんのことです。わたくしを仲間外れにするのは許しませんわ。大丈夫、たとえグラストーナの国王陛下が犯人だと言われても驚きません」
「……陛下はそんなことはしない。ソフィアを溺愛しているんだ」
ランドールが息を吐いて、アリーナに視線で続きを求めた。
アリーナも、カーネリアのソフィアに対する執心具合に、どうやら彼女は「こちら側」だと判断したらしい。
「あくまでわたくしの推測ですが、今回の件に、オルト公爵と王妃殿下がかかわられているのではないかと判断しています。ですのでカーネリア様、あまり大声で言うと差し障りますので、お静かに願います」
ランドールは唖然とした。
カーネリアも目を見開いている。
「おかしいと思ったのは、ソフィアの乗った馬車が襲われたときです。馬に毒を持った犯人が不審な死を遂げたので調べさせていただきましたところ、いきついた先にオルト公爵とかかわりのある人物が浮上しました。今度は犯人が死ぬ直前に接触した人物、そして犯人が持っていた毒の入手経路を含めて探ったところ、犯人が死ぬ直前に接触した人物の先の男はオルト公爵とのつながりが、毒の入手経路をたどれば王妃殿下とつながりが出てまいりました」
「それを、君が調べたのか……」
「ええ。こういうことは得意ですの。だから本当なら今日、ソフィアに忠告しようと思っていたのですが、それより先にこのような結果に」
アリーナは眠るソフィアの顔に視線を落として、息をつく。
「でもその様子だと、公爵はご存じのようですわね。では、この件は公爵にゆだねます。わたくし、もう一つすることができましたので」
そういうと、アリーナは椅子から立ち上がって一礼した。
「待ちなさい。することとは――」
アリーナは口端を持ち上げた。
「決まっています。口封じされる前に、今度こそ生きてとらえるのですわ」
誰を、とは聞かなくても明白だった。