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悪役令嬢の領地訪問 1

 ヴォルティオ公爵領は王都から馬車で七日ほどかかる。

 ヴォルティオ公爵領がオルト公爵領の隣にあることから、ディートリッヒ将軍も一緒に移動することになった。

 冬用の壁に防寒用の分厚い布を貼った馬車での移動であるが、どうしても車内は冷える。そのため、朝や夜はできるだけ移動せず、休憩を多くとりながら領地へ向かうことになった。


 ランドールが新しく購入してくれたふわふわのコートを着込んだソフィアは、白く曇った馬車の窓をこすって外の様子に目を凝らす。

 遠くに見える山々は雪で白く彩られていて、王都を離れるにつれて多くなっていく田畑には、雪の合間に冬野菜の濃い緑がのぞいていた。

 ディートリッヒはソフィアとランドールの乗っている馬車とは別の馬車に乗っている。イゾルテとオリオンも別の馬車だ。ヨハネスは邸の管理をするため王都に残っていた。


「寒いか?」

「ううん。大丈夫」


 ランドールの気遣いがくすぐったい。

 馬車の足元には温石が入れられるようになっていて、朝宿を出るときに用意したものがまだ熱を持っていたので、それほど寒さを感じないのも本当だ。

 ランドールと二人きりなのに、以前のような居心地の悪さはない。会話はそれほど多くはないが、ランドールがソフィアに向ける視線は優しくて、目が合うと恥ずかしくなってしまうのだけが困りものだった。


「領地は王都より少し寒いから、風邪を引かないように気をつけろよ」

「うん」


 ヴォルティオ公爵領は王都よりも北にある。ヴォルティオ公爵邸があるあたりは少し標高も高いようで、そのせいか冬場は冷え込むそうだ。

 カイルが幽閉されているオルト公爵領の離宮は、もっと寒いらしい。もともと夏場の避暑に使われていたらしく、冬場は凍えそうな寒さだそうだ。

 ディートリッヒによれば、カイルの幽閉されている離宮の部屋では常に暖炉が赤く燃えているため、カイルが寒さに凍えるようなことはないらしい。それを聞いてほっとしたが、徐々に雪が多くなりはじめた外の様子を見ていると、どうしても心配になってしまう。


「カイルは大丈夫だ」


 ソフィアがカイルのことを心配しているとわかったのか、ランドールが静かに言う。

 ソフィアはまた「うん」と頷いて、馬車の窓から視線を戻すと、座席においていた本を開いた。

 からからと馬車の車輪の音が響く。

 ランドールがソフィアと同じように本を開くと、ソフィアは本を読むふりをしてちらりと彼の顔を見上げた。


 ランドールはソフィアの身の安全のためにヴォルティオ公爵領へ向かうと決めたようだが、ソフィアは彼がソフィアを自分の両親に会わせる気になったということに少なからず驚いた。

 大聖堂でランドールと結婚式をあげたときも、ランドールの両親は出席せず、ソフィアは嫁として歓迎されていないのだろうなと思って淋しかったから。

 もっとも、あとあとランドールに訊いてみたところ、彼の両親はランドールに爵位を譲ってから、新年の祝賀のときですら王都へやってこないという徹底ぶりだそうで、彼自身は両親が結婚式に出席しないことに関しては何の疑問も持っていなかったそうだ。

 そう聞かされたソフィアは少しほっとしたが、結婚後もランドールがソフィアを連れて彼の両親の暮らす領地へあいさつに向かわなかったので、ランドール自身はこのままソフィアを両親に会わせるつもりはないのだろうなと何となく感じていた。

 そのランドールが、ソフィアを両親に会わせる気になったのである。


(……認めてくれたみたいで嬉しいな)


 ランドールがソフィアとの関係をやり直そうとしてくれているのはわかる。実際彼は優しくなったし、ソフィアをいろいろ気遣ってくれている。もちろんそれだけでも充分嬉しいが、両親に紹介してくれるというのは、家族としてヴォルティオ公爵家へ迎え入れられたようでうれしかった。

 それに――、ランドールの父親は、ソフィアの叔父でもある。


(お会いしたとき、叔父様って呼べばいいのかしら? それとも、お義父様と呼べばいいのかしら……?)


 ソフィアは視線を本に戻しながら、一度も会ったことのない叔父夫婦に思いをはせた。



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