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恋愛記録ファイル(学生時代編)

裏切者への制裁

作者: 涼

残暑が続く9月の上旬。私は後輩が出演しているライブを見に行っていた。その後輩とは田ノ原慎吾でバンドでギターを担当している。ギターの腕はいまいちだが、バンド全体としては聞けなくないサウンドだった。そこには田ノ原慎吾と同級生である佐野亮平も見に来ていた。ライブがはじまる前、亮平は「先輩、お久しぶりっす!」と私に声をかけてきた。私は「亮平か!久しぶりだな」と言って、昔話などしていた。ライブが終わり、田ノ原慎吾のバンドメンバーと他数名でうちあげに行くことになった。慎吾は「先輩、今日の俺のギターどうでした?」と聞いてきたので「バンド全体の演奏はよかったけど、ギターソロはもうちょっと練習したほうがいいかも」と私はアドバイスをした。うちあげには3人の女の子も来ていて、みんないろんな話をしていた。周りを見ていると佐野亮平がうちあげに参加していた女の子の一人である上原加奈子と仲良く話している。二人とも初めて出会ったのに意気投合しているようにみえた。上原加奈子はバンドのリーダーである長瀬基浩の知り合いで、少しクセっけのあるロングヘアーに少し垂れ気味の目をしていて、スタイルは抜群、年齢も亮平と同じだという。私は女の子というより慎吾のバンドメンバーと音楽の話に没頭していた。


うちあげが終わった後、私は亮平に話しかけた。


「さっき仲良く話していた女の子に一目惚れでもしたの?」

「一目惚れっつーか、上原さんと話していていいなって思ったんすよ。連絡先も交換しちゃいました」

「亮平、惚れたんでしょ?」

「いやーなんつーか、はい、惚れちゃいました」

「そっか、応援してやるからがんばりなよ」

「本当っすか?あざっす!」


亮平が上原加奈子に惚れていると知った私は加奈子の知り合いである長瀬基浩と慎吾にも応援してもらえないかと言った。すると基浩も慎吾も「そういうことなら応援する」と言ってくれたのだ。慎吾は亮平に「まあ、彼女持ちの俺がアドバイスしてやるからがんばりなよ」と言った。基浩は亮平に「うちあげの時、二人ともいい雰囲気だったからいけると思うよ」と言って励ましていた。亮平は「先輩もだけど、二人ともありがとう。俺がんばってみるわ!」と意気込みが伝わってくるようだった。


その後、亮平は加奈子と何度か電話で話をするようになっていた。そしてわからないことや困ったことは慎吾に相談していたようだ。慎吾はそんな亮平の相談事を親身になって聞いてアドバイスしていたらしい。私は亮平のことが気になっていたので慎吾に電話をして事情を聞いていた。


「亮平と加奈子ちゃんだっけ?その後の二人ってどんな感じ?」

「二人いい感じですよ。いけるんじゃないですかね」

「そっか、それはよかった。慎吾、亮平のこと頼むわ。何かあったら俺にも相談してきて」

「わかりました。まあ俺にまかせてください」


私は慎吾の話を聞いて安心した。亮平にも電話をしようと思ったが慎吾の話で大凡の事情はわかったので、別の日に電話して聞いてみようと思った。その後も慎吾は亮平の相談役になりアドバイスを続けていた。バンドのリーダーである基浩からも”加奈子には彼氏がいない”という情報も聞くことができた。亮平には慎吾も基浩の二人の協力者がいるので、私はそっと見守ることにした。


それから二週間ほど経ったある日、突然、亮平から電話がかかってきた。


「先輩、今ちょっといいっすか?」

「どうしたの突然?」

「加奈子ちゃん、最近暗いんですよ」

「ほう、何かあったの?」

「それが聞いても何も答えてくれないんっすよ。俺どうしたらいいかわからないです」

「慎吾はなんて言ってるの?」

「今はそっとしておいたほうがいいって言ってます」

「まあ加奈子ちゃんにも何か人に言えない事情があるのかもね」

「俺もう連絡しないほうがいいっすかね?」

「いや、そんな時だからこそ話を聞いてあげたほうがいいと思うよ」

「そうっすよね。わかりました。ありがとうございます」


電話を切った後、私は加奈子に何があるのか考えてみたが、加奈子とはうちあげの時に一言二言喋った程度だったのでまるでわからなかった。亮平が何かまずいことを言ったのかもしれないが、それすらわからない。私は亮平のことが少し心配になってきた。


一週間ほど経ったある日、また亮平から電話がかかってきた。


「先輩、ちょっと聞いてくださいよ!」

「何かあったの?」

「加奈子ちゃん、ずっと暗いままなんすよ。それで慎吾に相談したんです。そしたら慎吾のやつが『あの女はやめとけ』って言うんすよ」

「はあ?なんでいきなり慎吾がやめとけなんて言ったの?」

「俺も慎吾に聞いたんですが『あの女は最低な奴だから』としか言わないんです」

「それは意味がわからないね。とにかく俺からも慎吾に事情を聞いてみるよ」

「お願いします。俺は加奈子ちゃんがそんな最低な奴なんて思わないんすけどね」

「まあ、亮平は加奈子ちゃんを信じてあげるといいよ」

「わかりました。すみません、急に電話しちゃって」

「とりあえず慎吾に聞いてみるから待ってて」

「わかりました。お願いします」


亮平と電話で話した後、私はすぐに慎吾に電話をした。


「慎吾、亮平から聞いたんだけど、なんでいきなり『あの女はやめとけ』なんて言ったの?」

「俺、この前、あの女と少し話したんですが、性格が最悪なんですよ」

「どう最悪なの?」

「あの女、他の男と遊びまくってるみたいですよ」

「慎吾は加奈子ちゃんからそういう話を聞いたわけ?」

「いや、そういうわけじゃないんですけど、あの女と話をしてると他の男と遊びに行ったみたいなこと言うんですよ」

「だからといって他の男と遊びまくってるとは言えないでしょ?」

「でも、あの女の話を聞いてて、俺なんとなくわかったんです」

「でも確証はないでしょ?」

「いや、絶対にあの女は他の男と遊びまくってますよ」

「うーん、でも亮平にやめとけっていうのもどうかな?」

「亮平のためですよ。絶対あんな女はやめといたほうがいいと思います」

「とりあえずわかったけど、それを決めるのは亮平だし、今まで通り相談は聞いてやって」

「わかってます。亮平の相談ならいくらでも聞きます」


慎吾と電話で話した後、私はこのことを亮平に伝えるかどうか悩んだ。しかし、加奈子が暗い理由と他の男と遊びまくってるという内容に違和感を感じた。二つのことについて何か線が繋がらない感じなのだ。


私は亮平に電話をして慎吾と話したことを伝えた。


「先輩、あの加奈子ちゃんが他の男と遊びまくってるなんて信じられますか?」

「いや、俺も信じられないけど、慎吾はそう思い込んでるんだよね」

「俺はそんなこと信じないっす!」

「どうも慎吾の言ってることと、加奈子ちゃんが暗いことが繋がらないんだよね」

「そうっすよ!俺もそう思います」

「じゃあ亮平は加奈子ちゃんを信じて、これからも話していくんだね?」

「もちろんっす!俺は加奈子ちゃんを信じてますから」

「亮平は加奈子ちゃんを諦めないってことでいいよね?」

「諦めないっすよ、俺」

「わかった。じゃあそのことをハッキリ慎吾に言っておいたほうがいいよ」

「わかりました。先輩、本当にありがとうございます」


亮平と電話で話した後、私は少し頭の中を整理してみた。ずっと話してきた亮平のほうが加奈子のことに詳しいはず。慎吾は少し話した程度なはずなのに、どうしてそんなことがわかるんだろうか?この状況変化は何かがおかしい・・・そう思いながら時は過ぎていった。


慎吾は「それでも亮平が諦めないっていうなら、俺は応援しますよ」と言っていた。しかし、亮平が電話しても加奈子はずっと暗いままだという。そしてある日、亮平から電話がかかってきた。


「先輩!俺、もうダメっす」

「どうしたの?」

「加奈子ちゃんが泣きながら『もう連絡してこないで』って言ってきたんです」

「ええーーどうして?」

「それが、わけを聞いても『ごめんなさい』としか言わないんです」

「俺も加奈子ちゃんのことあまり知らないからなんとも言えないけど、何かあったのは間違いなさそうだね」

「そうなんですが、俺、もう、わけがわからなくて・・・」

「うーん、でも連絡してこないでって言われたなら仕方ないかも」

「加奈子ちゃん、ずっと様子が変だったんすけど、絶対わけを話してくれなかったんですよ」

「とりあえず、しばらく連絡しないで様子を見たほうがいいかもね」

「そうっすね。もう俺、諦めたほうがいいですかね?」

「どうだろう?しばらくそっとしておいてからのほうがいいんじゃないかな?」

「わかりました」


亮平と電話で話した後、どうにも加奈子はおかしいと思っていた。


ある日、私は音楽の話をするため長瀬基浩の家に行くことになった。基浩の家に行く途中、手を繋いで歩いている男女を見かけた。後ろ姿だったが、あの女の子どこかで見た気がする。そう思った私は、車で少し二人の後をつけた。公園に入って行く二人、電灯に照らされてハッキリ見えたのは上原加奈子であった。彼氏がいたのか?それともできたのか?そう思いながら一緒にいる男の顔を見てみると、なんと慎吾であった。二人は公園のベンチに座り、寄り添いながら話をしている。何の話をしているのかはわからなかったが、二人を見ていると仲の良い恋人同士という雰囲気であった。しかも、今日だけじゃなくずいぶん前からのように思える。そういえば加奈子の家は基浩の住んでいるところの近くだったことを思い出した。なるほど、そういうことだったのか・・・これで線が繋がった。真実が明らかになったが、その場は引き下がることにした。さて、この真実を亮平に伝えるかどうか・・・私は悩んだ。


私は亮平に電話をかけて家に来るように言った。真実を伝えるにも電話で話せる内容ではなかった。それに真実を知った亮平がどうなるのかも心配だった。


「先輩、いきなり呼び出してどうしたんすか?」

「亮平、俺が今から話すことはショックかもしれないから心の準備だけしておいて!」

「どうしたんすか?」

「亮平、まず慎吾のことはもう信用するな」

「ええ?どういうことっすか?」


私は慎吾と加奈子の関係について亮平に事情を説明した。


「それマジっすか!?」

「ショックだろうけど、俺は見たんだよ」

「いや、でも信じられないっす」

「今から慎吾に電話をかけて全てを明らかにする。亮平、隣で聞いてて・・・」


そして私は慎吾に電話をした。


「慎吾、お前は亮平を裏切っただろ?」

「なんですかいきなり?」

「俺、この前、基浩の家に行く時にお前と加奈子を見たんだよ!あれはどういうことか説明してくれるか?」

「見られたんですね・・・だったら正直に言いますよ。確かに加奈子に手は出しました」

「慎吾、お前、亮平の気持ちを知ってただろ?なんで手を出したんだ?」

「お、俺は悪くないですよ。最初は加奈子のほうから言い寄ってきたんですよ」

「だから手を出したっていうのか?」

「先輩だって男ならわかるでしょ?女に言い寄られたらチャンスじゃないですか」

「俺にはわからんしチャンスとも思わん」

「あんな状況になったら男だったら絶対手を出しますって!」

「あんな状況って?」

「ちょっとこっちが優しくしたらコロッといい雰囲気になって・・・だから亮平にあんなバカ女はやめとけっていったんですよ」

「慎吾、お前、自分が何やったのかわかってるのか?」

「亮平には悪いと思ってますよ」

「亮平の気持ちはどうなるんだよ?」

「亮平が諦めないっていうなら、あんな面倒なバカ女、もうくれてやりますよ」

「慎吾、もういい・・・電話切るわ」


慎吾の話を聞いていると気分が悪かったので一方的に電話を切った。そして亮平に事情を全て話した。


亮平は全身の力が抜けたかのように「そういうことっすか・・・」と言ったが、私の中では怒りが込みあがってきた。


「先輩?黙り込んでどうしたんすか?」


私は声も出せないほどの怒りが爆発しそうになっていた。


「先輩、もういいっすよ。こうなった以上、俺、諦めますよ!」


亮平は無理に明るく振舞っている。


私の口から思わず「許さん!」と小声に出してしまった。「せ、先輩?」と声をかける亮平。


「亮平、俺は完全にブチギレたぞ!!!」


私はそう怒鳴った。亮平は驚きながら私に話しかけた。


「いや、先輩、ホントもういいっすよ」

「亮平、これはもうお前だけの問題じゃない・・・慎吾は俺まで欺いたんだ」

「先輩、まさか殴ったりしないっすよね?」

「いや、そんなことしない。ただし、俺のやり方で制裁を加えてやる!」


ここから私は慎吾に制裁を加えていくことになる。


私は怒りがおさまらなかったが、同じ部屋にいる亮平が恐れているので落ち着こうと思った。


「亮平、そういえば慎吾の彼女、名前なんだっけ?連絡先知ってたよな?」

「真理子ちゃんですか?連絡先知ってますけど、何するんですか?」

「その真理子ちゃんに電話をして、このことを全部話せ」

「そ、そんなこと、俺には言えないっすよ・・・」

「だったら俺が言ってやる!」


私は怒り狂った状態でもう歯止めがきかなくなっていた。


「で、でも・・・それはやりすぎなんじゃ・・・」

「いいからさっさと電話かけろ!!!」

「は、はい!」


私は慎吾が一年付き合っている彼女、西口真理子に電話をした。以前に一度話したことがあったので私のことは覚えていた。私は今回のことを全て真理子に伝えた。真実を知った真理子はさすがに涙を流していた。真理子は泣きながら「慎吾君とちゃんと話をしてみる」と言って電話を切った。さすがの亮平もやりすぎだと思ったのか「先輩、ホントもういいっすよ」と言ったが「亮平、この程度で終わらせるつもりないよ」と私は言った。私の怒りはまだおさまらなかった。亮平は私の顔色を伺いながら黙っている。私は思わず「あいつの人間関係、全部ぶっ壊してやる!」と言ってしまった。


次の日、慎吾から電話がかかってきた。内容はすでに予想できているが、まともに対応する気はなかった。


「先輩、酷いじゃないですか。真理子に話すなんてやり方が汚いですよ!」

「それで?」

「それでって、真理子は別れるって言うし説得するの大変だったんですよ」

「だから?」

「亮平には悪いことしたって思ってますから、真理子まで巻き込まないでくださいよ!」

「そんなこと俺はしらん」

「男の都合ってあるじゃないですか?男同士の話じゃないですか?」

「お前、自分が何をやったのかまだわかってないようだな」

「わかってますよ!だから謝ってるじゃないですか?」

「いや、わかってない」

「とにかく真理子は巻き込まないでください。お願いします」

「さあ、俺のしったことじゃないから」

「まだ何かやるつもりなんですか?」

「さあね。用件はそれだけ?話したくないから切るよ」


私は一方的に電話を切った。


それから2日後、私は亮平を連れて長瀬基浩の家に行った。話しておきたいことがあるという理由で慎吾以外のバンドメンバー全員を呼んでおいた。そして、慎吾と加奈子の出来事について全て話した。基浩は「それは酷すぎますね・・・あいつ他の女にも手をだしてたんだ」と言った。不思議に思った私は「他の女にもってどういうこと?」と聞いてみた。基浩は「あいつ、俺の知り合いの女の子にも手を出してたんですよ。俺、思わずあいつをぶん殴ってやりましたよ」と言った。他の女の子にも手を出してたのか!?基浩や他のメンバー達は亮平に気遣っていた。


私はそこにいたメンバーにお願いをした。


「そこでみんなにお願いがあるんだ。今回のこと、他の女の子にも手を出してたってこと、慎吾の知り合いに言いふらしてほしい。男女問わず、できるだけ多くの人に言ってほしい」


亮平は「先輩、そこまでやるんすか?」と言ったので「亮平、お前にも言いふらしてほしい」と私は言った。全員「わかりました」ということになり、言いふらしはじめた。


その後、私はもう一度、慎吾の彼女である真理子に電話をして慎吾が加奈子以外の女の子にも手を出したという事実を伝えた。さすがの真理子も涙を流すどころか怒り狂っていた。「他に隠し事してないって言ったくせに、もう許せない!もう別れます」と真理子は言った。それから数日後、慎吾と真理子が別れたという情報が入ってきた。そして、言いふらしの効果も次第に出てきて、慎吾の友達や知り合いは慎吾に不信感を抱くようになった。もう誰もまともに慎吾と話さなくなってきたのだ。


「先輩、もうそのくらいでいいんじゃないっすか?」と亮平は言う。私の怒りはまだおさまらなかった。


「いや、最後にもう一つだけやることがある」

「もうやりすぎなんじゃないっすか?さすがに慎吾が哀れになってきましたよ」

「あいつは最大のミスをした。俺を敵にまわした。亮平、あいつに感情を抱くな!」


私はそう強く言った。亮平は少し怯えているようだ。


「先輩を敵にまわしたらホント怖いっすね」

「俺は暴力は嫌いだから殴ったりはしない。でも、あいつのしたことは許せない。人の心を舐めてる。だから俺のやり方で制裁を加える」


さすがに私もやりすぎだろうと心のどこかで思っていたが、慎吾は何人もの人間を傷つけたのでどうしても許せなかった。


私はもう一度話があるといって長瀬基浩の家に行った。慎吾以外のバンドメンバーも呼んでおいた。基浩は「みんなで言いふらしましたけど、まだなんかやるつもりですか?」と聞いてきた。


「いきなりだけど、このまま慎吾みたいなやつをバンドに入れておくの?」


それを聞いたバンドメンバー全員はざわめきだした。そして基浩が話し出した。


「それ、俺たちも考えてたんですけど、冬にライブをする予定もありますし、今慎吾に抜けられると困るんですよ」

「それってギターがいなくなるから困るってこと?」

「そうなんです。今からじゃギター探すのも大変なんですよ」

「じゃあ次のギターが見つかるまで、俺がギター担当するってのはどう?」

「ええ?それは・・・」

「俺のギターの腕だと不服?」

「いや全然、それは問題ないですけど、本当にいいんですか?」

「俺だったら、このバンドでやってる曲、ほとんど弾けるから」

「本当に本当にやってくれるんですね?」

「ああ。その代わり俺は作曲したいから、次のギターを探してね」

「そういうことならわかりました」


この話しで慎吾の代りに私がギターをしばらく担当することになった。そしてバンドのリーダーである基浩が慎吾に電話をかけてギターを抜けてほしいと言った。慎吾はバンドを抜けたくないと言ったが、基浩は他の女に手をだしたりするようなやつはバンドにいてほしくないと強く言って無理矢理バンドのメンバーから外した。


慎吾が彼女の真理子と別れ、周りからは口もまともに聞いてもらえず、バンドのメンバーから外された。私はこれらのことを亮平に伝えた。


「先輩、もうやめてあげてください。さすがにやりすぎっすよ」

「まあ、これ以上なにかしようとは思ってないよ」

「それならいいっすけど、マジで慎吾は何もかも失ったって感じっすね」

「それほどのことをあいつはやったんだよ。変に同情なんてしたらダメだよ」

「正直、俺、慎吾には腹立ちましたけど、もういいって感じっす」

「亮平、加奈子のことはもういいの?もう一度電話で話してみたらどう?」

「もういいっすよ。完全に諦めましたから」

「そっか」


亮平はそう言いながらも心配になったのか、後で加奈子に電話したらしい。


それから数日後、突然、慎吾から電話がかかってきた。私は相手するつもりなかったのだが何度もコールするので電話に出た。


「先輩、もう・・・もう・・・やめてください」


どうやら電話の向こうで泣いているようだ。


「俺が本当に悪かったです。謝ります。ごめんなさい!だから、もう本当にやめてください」

「もう俺の気は済んだ。慎吾、お前は全てを失ったみたいだな。自分のやったこと深く反省し続けろ」

「反省します。だからこれ以上もうやめてください。お願いします・・・」

「もうこれ以上何もしない。でも慎吾、お前とはもう会いたくないし話したくもない。これでお前とはお別れだ」

「わかりました」


最後まで冷たくキツイ言い方になったかもしれないが、私の怒りはここまでしないと気が済まなかった。それからというもの私と慎吾は会うことも話すこともなくなった。


その後、亮平は加奈子と密かに電話で話をしていたらしいが、結局二人が結ばれることはなかった。私はバンドでギターを担当して冬のライブには出演したが、それから間もなくして新しいギターが見つかったので、バンドを抜けることになった。


今考えると私は少々やりすぎたと思うが、人の心を平気で傷つけるようなことは絶対に許せなかった。ふと、慎吾は今どこで何をしているんだろうと思う時がある。数年経った後に同情というものが芽生えたのだろうか。あとは亮平のことも思い出すことがある。あれから彼女はできたんだろうかと。ここまでやっておいてこんなことを言うのもおかしいが、今回のことで私も反省すべき点はあったと思う。そして二度と、私はこういうことを人にしたくないと思っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 爽快な物語でありがとうございました。 こういう物語をもうちょっと見たいです。
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