表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

33 勇者は本日も嫁を鑑賞する

 いわくつき魔具のリサイクル作業してる嫁を眺めながら俺は思い出したように言った。

「そういや、各地の魔物が『魔王』見つけて倒そうとする動きが出てるぞ」

 というのを始から連絡受けたんだ。この間、多くの魔物が師匠に加担して攻めてきたから、第二弾があったらたまらないと動向を監視してたらしい。ところがあにはからんや、反対に倒そうとしてると。

 驚いたリューファたちが思わずあんぐり口開けて動きを止めた。

 仕事しろよ。俺は隣に座った嫁の腰に片手回しながらも、反対の手では仕事してるぞ。

 え、膝の上じゃないのかって? 最初はそうしようとしたが、リューファは道具やら何やら広げて作業しなきゃならないからやむなく隣に。

「どういうことですか?」

「この前の大群での襲撃事件が魔物の間にも伝わったらしい。利用されるのはごめんだと、あちこちの魔族も『招かれざる魔女』を探し始めたわけだ」

 元々魔物に仲間意識はない。あれだって師匠が上手く口車に乗せたのと、取引で利が得られると思ったから加担しただけだ。ところが実は甘い話で釣って食糧を集めてただけと分かったら……利用されるのが分かってて黙ってるわけがない。

 『招かれざる魔女』ほどの魔力の持ち主なら逆に食って自分の力にしたいと考えるだろう。普段なら圧倒的過ぎて無理だが、弱体化してるならいけるかもというわけだ。

「逆によくあれだけの数の魔物を騙して連れて来れましたよね」

「奴は昔から口が上手い。長年人をだまし続けてきたんだ、魔物騙すのなんて簡単だっただろ」

「へえ、そうなんですか」

「クラウス様はその本性に気付いてたから、『招かれざる魔女』が嫌いだったってわけですか」

「……そうだな」

 考えてみれば、『招かれざる魔女』とは二度しか会ったことがない。眠り姫の誕生祝の時とカレンが殺された時。どちらも師匠の怨念に乗っ取られてた。

 本来は一体どういう人間だったのだろう。師匠に支配されてなければ普通の少女だったんだろうか?

 ある意味『招かれざる魔女』も犠牲者だ。気の毒とは思う。

 けどカレンを殺したことは決して許せない。

 リューファが心配そうにのぞきこんできた。

「昔何かあったんですか?」

「……色々とな。あんまり思い出したくない」

 彼女を膝に乗せて抱きしめた。

 引き離されたけど、今君はここにいる。大丈夫。

「く、クラウス様?」

「嫌なこと思い出した。……リューファで頭の中いっぱいにする。そうすれば平気だ」

「私は平気じゃないんですけど!」

 文句言いつつも、心配してくれてるのか背中をさすってくれるところが優しい。

 あー、うちの嫁は優しいしかわいいなぁ。ちょっと二人きりに……。

 察したジークに頭どつかれた。

「痛い」

「後にしろ。大事な話中だ」

「後ならいいってところがいいやつだよなぁ、お前」

 元お兄ちゃんはうれしいよ。

 ランスはスルーして、

「それでね、リューファ。『招かれざる魔女』の知識は千年前のなわけだよ。この前声かけてたのは当時もいた連中だけ。その後に生まれた魔族の活動が特に活発化してるんだ」

「『招かれざる魔女』のことを知らないからこそ、探し出し、その力を奪おうってわけね?」

「『招かれざる魔女』はこの前の一件で、魔物なんて回復のためのエサだと公言したようなもんだからね。やられる前にやっちまえって考える連中が出てきても不思議じゃないよ」

「そういや、人間だった時もそうだったな。他人なんて利用するものだと思ってた。そのせいで誰からも背を向けられた。人間だけじゃなく魔族も、何もかも敵に回したか。……ふん。何度繰り返しても懲りないんだな」

 ―――なぜ、お前までそいつを選ぶ。師匠は復活後そうつぶやいてたっけ。あれに孤独が見えたのは俺だけじゃなかったに違いない。

 自分だけが優れていると考え、他者を見下し、利用するだけ利用しようとしたため皆から嫌われた。独りぼっちの寂しさを紛らわそうと、さらに「自分は最高。孤高の存在」だと妄信し、力を求めた。そうすればもっとみんな離れていく。

 空しいループだ……。

 でもそれを望んだのは師匠自身だった。双子の宇宙で死んだ時に後悔し、やり直そうとしたはずなのにまたそうなってしまった。

 俺はリューファのピンク色の髪を指先にからめた。

「……どうかしたんですか?」

「いや、別に。きれいな髪だなと」

 カレンはその前の人生同様黒髪だった。今回完全に違う色になったのは、やはり師匠のくびきから外れたということか。

「ああ、まぁ、この髪と目の色は私も気に入ってますよ。地球ではありえない色で、いかにも異世界っぽい」

「前のも似合ってたけどな」

「前? ……って念写したやつか! あれ返してくださいよ!」

「やだ」

 あれは俺の宝物。

 ジークが頭の後ろで手を組んで言った。

「封印のアイテムの、まだ見つかってないの早く見つけないとな」

「残りは人の手に渡ってないんだろうな。例えば海の底とか地面の下とか、誰も知らない場所にあるんだろ」

「感知する方法ねーの?」

「できるとしたら、俺よりリューファだろうな」

 みんなの視線がリューファに集まった。本人はきょとんとしてる。

「あの、近くにいればうっすら分かる、本物か偽物か見分けられる程度なんで、どこにあるか分かんないのは探せませんよ?」

「シンクロできるだろ。だいぶ慣れたからできるんじゃないか?」

 なにしろ本人の記憶を封じたものだ。

 製作者も父親と異母妹だし。

「いつもは『最後の魔女』の思念を受信してるだけですが、こっちからアクセスしてみるってことですね? できるかどうか分かりませんが、やってみます」

 俺はしっかり手を握った。

「引っ張られるといけないからな」

「はあ、大丈夫だと思いますけど」

 リューファは俺にもたれかかって目を閉じ、集中した。

「よし、今の隙に」

 いそいそ用意してたものを取りだす。

 ジークが俺の肩をガシッとつかんだ。

「ちょっと待て。今の隙ってどういうことだ」

「別に変なことはしない。ただせっかく作ったアンクレットをつけようかと。どうせつけてくれって言っても断られるのが目に見えてる。なぜだろう」

「裏にある考えが透けて見えるからだよ! こえーんだよお前の執着は!」

 そりゃ長年どころかループ分も積もり積もってるもんで。

「これだけ重い男に執着されてて何とも思わないうちの妹は大物だよねぇ……」

「よく平気よね」

「よくまぁお似合いの相手が見つかったもんだわ」

 始も苦労したと言ってたぞ、フォーラ。でも始が俺に嫁斡旋してた頃は悲劇前なわけで、俺もそこまでおかしくはなかったと思うんだが。普通にこうピンとくる相手がいなかっただけで。

 さて、アンクレットはめてと。あー、足ほっそ。ちいさ。足までかわいいとか何なんだこの生き物。

「落ち着きなさいこのアホ」

 今度はフォーラに後ろから頭ひっぱたかれた。

「みんなして扱いがひどくないか?」

「誰かが止めなきゃどうしようもないでしょうが」

「これくらい厳しくしないとお前のことだからどんどんエスカレートするに決まってるだろ」

「まぁ否定はできないな」

 そこでリューファが目を開けた。早い。

「リューファ。戻ってきたか」

「……あ、はい。……今の隙に何かやりました?」

 ぎく。なぜバレる。

「特に何も? 嫁の感触確かめてただけ」

 嫁は信じず、フォーラとランスに確認した。信頼度が。

「いつものことだよ。うれしそうに抱きしめて、無防備でかわいいって言ってたくらい」

「左足に足枷、じゃなかったアンクレットつけてたわよ」

 早々にバラすなよ。そりゃどうせそのうちバレるが。

「は?! ……っ、拘束具増やしやがった!」

 いや別に拘束具じゃ。

「言うに事欠いて足枷はないだろ……あぶねーヤツ」

「そうでしょ?! これも絶対魔法仕込んでますよね!」

 まぁそうかも。

「しかも利き足! ていうか何で私の利き足どっちか知ってるんですかっ」

「嫁のことなら何でも知ってるに決まってるだろ。それにたいしたものは組み込んでない。主に護身用だ」

「主にってことは、他にもあるってことですよね!」

「さあ?」

 にこやかに微笑んではぐらかした。

「つけてほしいなら、普通に渡してくださいよ。ちゃんと理由説明してくれればつけますって。なにも半強制的に……」

「本当か!?」

 言質はとったぞ。

「撤回なしだからな!」

「は? はい。だって護身用とか理由があるわけだし。ドレスだって着てるじゃないですか」

 最初こそ文句言ってきたものの、最近は黙って俺が選んだの着てくれてる。あきらめたのかもしれないが。

 ちなみに今着てるのは紫色の大人っぽいデザインだ。俺の瞳の色と同じで作らせた。

「戦闘の邪魔になるほどつけろと言われると困りますが。常識の範囲内なら」

「ああ、それはな」

「コイツの常識はお前の考えてるのとは全然違うぞ」

 ジークのつぶやきは無視しよう。

「結婚指輪あげた時はあんなに嫌がってたのに、ついにここまで来たか。最近俺幸せすぎて不安になってくる」

「不憫なやつ……。その程度でって基準低すぎ」

 ジーク兄様が涙をぬぐうような動作をした。

 俺はさりげなく黒い宝石のついたイヤリングを出して、

「実はイヤリングも作った」

「いつ作業してるんですか。つけますけど」

 マジで?

「これでいいですか」

「ああ。俺の嫁は素直で純粋でかわいいなぁ」

 うれしくて頬なでてたらフォーラが「いい加減にしろやこのアホが」と圧をかけながら手を叩き、

「はーい、ひとしきりいちゃいちゃして気が済みましたよね。話戻しますよ。リューファ、ありそうな場所見当ついた?」

「あ、うん。地図貸して」

 二か所に印をつけた。一か所は茨の城だ。

「茨の城は決戦の地だったから残留思念が強かっただけだと思うけど、一応」

「あら、あそこがそうだったの? 道理で立ち入り禁止区域になってるはずだわ」

「うん。『招かれざる魔女』は狡猾で、執念深い。姫が目覚めた後も狙ってて。本当に嫌なやつ。人を思うように操って利用して、最後には捨てる。ずっと昔からそう。変わらないの。転生でリセットされても変われない。もう、期待しても無駄。何度だって殺―――」

「リューファ!」

 俺はとっさに彼女の肩をつかんで揺さぶった。

「おい、今何て言った?!」

 ダメだ。何度も殺され続けてることだけは思い出しちゃいけない!

「……え?」

 彼女は遠くを見るような目をしていたが、ゆっくりまばたきして、

「私、今何か言いました?」

 ……思い出したわけじゃない、か?

 俺たちは顔を見合わせた。ランスは心配そうに、

「リューファ、大丈夫? シンクロしすぎた?」

「……そうかも」

 俺は妻を寄りかからせ、手を握った。精神的疲労を俺の方へ移す。

「悪かったな。少し休め」

「……そうします」

 安心してもたれかかってくる。

「あああ、嫁がかわいい。小動物みたいにすり寄ってくるとか。悶え死ぬ」

「せっかくリラックスしてるのに、心の声ダダもれでぶち壊さないでくれますか」

「言わないと誤解するじゃないか。それにリューファもまんざらでもなさそうだし。照れてるのが見たくて言ってるってのもある」

 フォーラがものすごい形相で「チッ」と舌打ちした。

 元・司法長官がこわーい。

「封印のアイテムがありそうな場所で茨の城じゃないほうってどこ?」

 ジークが地図を見て答える。

「国境近くの山岳地帯だな。何もない。厳しい気候で植物も育たないぜ。あれ、この辺り、そこそこ強い魔物がいる場所じゃねーか。さっきの話の、『招かれざる魔女』探しで動きが活発化してるのの一つ」

「邪気に惹かれたのかもしれないな。さくっと行って、退治がてら見つけて回収してこよう」

 報告からどんな魔物がいるか推測し、後かたづけのための部隊を手配とさくさく済ませて。

「リューファ、出かけるぞ」

 ひょいと抱き上げてももう真っ赤にならないのな。これが普通になってきたか、いいことだ。

「いいことだ、じゃありませんよ?」

「思考読むなよフォーラ」

「アホすぎて丸わかりなんですよ。というか前みたいにリューファには留守番って言わないんですか」

「元々俺は離れたくないんだ。リューファも俺といたいって言ってたもんな。あ、ただし大人しくしてろよ」

「……はーい」

 シューリとフォーラが俺の執着にドン引きしてたが、重要なのは妻にどう思われるかだけ。他人にどう思われようがどうでもいいのである。


   ☆


 瞬間移動を思い出して本当によかったと思う。これまでは数日かかってた道のりが一瞬で着く。日帰りが可能。

 何もない荒れた山には魔物が集まっていた。俺たちは少し離れた風上の岩陰からうかがう。

 どうやらある程度の高位魔族、大きなトロルがリーダーのようだ。しかし、なんだか見覚えが……。

「ああ、そうか。あれ、昔見たことある。師匠が一度倒したやつだ」

「師匠、って『至高の魔法使い』が?」

「ああ。谷にかかった橋を住処にしててな。通ろうとするものを食べてた」

「『三匹のヤギ』かな? 倒したのに生きてますよ」

「師匠はなるべく生かしたまま捕らえて、改心すれば許してやってた。ただ解放はできないから、使役してたんだよ。公共工事に投入するとか、そういう平和利用を最初にやったのは師匠だった」

 いいことのように思えるが、これも目的は「いい人」演出である。敵も許す善良な人間を装って民衆の支持を集めるのが師匠はことほど上手かった。

「あれも改心したはずだったと」

「師匠がいなくなって、また悪さ始めた連中もいた。当時より強くなってるな。千年の間に力をつけたか」

「お前、弟子だったんだろ? 後始末やんなかったのか?」

「ある程度はやった。ヤバそうなのはな」

 師匠って抑止力がなくなったことで悪さ始めたというか戻った魔物はそこそこいた。片付けできるのは俺くらいしかいなくて大変だったよ。

「他にもやること山積みで、さらにそれどころじゃなくなったしな」

 師匠の後始末作業は膨大なものだった。国王や重臣たちは責任逃れして俺に丸投げ。俺とカレンが必死で各地飛び回ってどうにかしたんだぞ。やはり今からでも元国王の転生後現在の姿をシメに行くべきか。

 何発か顔面殴ってもいいんじゃないかという考えは、妻が抱きついてきて吹っ飛んだ。

「ん? どうした、リューファ。労ってくれるのか? かわいいなぁ。大好きだよ、俺の奥さん」

「うっざ……」

「フォーラ、さすがに」

「別に気にしてないからいいぞ。よし、最愛の妻を愛でるために早く帰りたいから、さっさと片付けよう」

「ちょ、私はそれ嫌……って、あ」

 ちょっと本気出し、指一本で魔物百匹せん滅した。

「うわあー……」×4

 え、これくらい何度もやったことあるだろ過去に。

「あ、でもあれ気絶させる程度の魔法だ。スプラッタにはなってない」

「リューファのためじゃね? いくら慣れてるって言っても、好んで嫁にグロシーン見せたくはないんだろ」

「あと、魔物のパーツを傷つけずにとっとくためじゃないかな。リューファが使えるよう」

「お嫁さんへの配慮にしては、どこかズレてると思う」

 どこが。的確な配慮だろ。

「いいだろ、別に。嫁を喜ばせたい」

「……とりあえずお礼言っときます。でもおかしいですからね」

 一発でザコは片付き、あわれ独りぼっちになったボスはボーゼンと立ち尽くしていたが、やっとこっちに気付いたようだ。

「何者だ貴様ら! 何をする!」

「うるさいな。師匠の後始末を千年も経ってやらされるこっちの身にもなれ」

 まったくろくでもないことばっかり残していきやがって師匠め。嫌がらせ追加してやろうか。あ、そうだ。わざと開けてある封印の穴から魔法流し込むことは可能はなず。師匠のクズシーン映像をエンドレスで流し続けてやろう。

 ナイスアイデア。ちょっとスカッとする。

 トロルは不審そうに、

「知り合いに貴様なんていたか? 千年前からいるってことは魔族だよな」

「誰が魔族だ。そっちの領域に行ったのは俺じゃない。せっかく師匠が命は助けてやったのに、いなくなったらまた悪さしやがって」

 そこまで聞けば分かったらしい。

「貴様……っ、『至高の魔法使い』の弟子か!」

 目に見えてうろたえ始めた。俺の力量は覚えてたらしい。

「な、なん、だって弟子もとうに死んだはずだ!」

「死んでるよ」

 とっくに自殺したっての。

「さて、師匠は生け捕りにしたけど、俺はそうするつもりはない。同じことの繰り返しになるだけだからな」

 蒼白になって震えるトロル。

「た、助けてくれっ」

「そう言って師匠に一度見逃してもらっておいて、虫が良すぎる。他にも懲りてないやつを知ってるなら吐け」

「しゃ、しゃべる! だから見逃してくれ!」

 トロルはあっさり仲間を売った。まぁ元々仲間と思ってないだろうが。

 ランスが地図を出して照合する。

「目撃情報と一致しますね。これらも退治しときます?」

「そうだな。掃除しとこう」

「すぐ行きますか?」

「なるべく早いほうがいいだろ。被害が出る前に。さっさと回るぞ。夕食までには必ず帰る。嫁の手作りデザートがあるんだからな」

「もう、そうかよ、としか言えねー」

 のんきに会話する俺らを見て隙ありと判断したか、トロルが飛びかかってきた。

「馬鹿め、油断したな! ()()()()()()()()()もろとも死―――」

「うるさい」

 皆まで言う前にたたき斬った。

 何を言おうとしてるんだ。ここでリューファが師匠の娘だったことをバラすつもりか。

 それにしてもやはり魔族には魔力の質で同一人物だと分かってしまうか。こいつはカレンと面識はないが、知ってはいたからな。

 いずれにせよ。

「二度目はない以前に、俺の嫁に危害を加えようとする者は消す」

「『勇者』のセリフじゃねえ。ドス黒いもん背負って言うなよ」

「同感。ていうか、私を『最後の魔女』と間違えてましたね。顔似てるんですか?」

 顔はまったく。

「全然。師匠は使役する魔物にあいつを会わせたことはない。改心したとはいえ、危険だからって言ってな。それでも俺が師匠の娘の婿候補なことは知ってただろうから、間違えたんだろ」

 とごまかしておこう。

「なんだ。似てるのかと」

 ん? 変な誤解してる?

 慌てて必死で弁明した。

「全然似てない。なんでまた誤解してるんだ。俺には過去も未来もリューファだけだ。似てる子を身代わりにとかありえない」

 というか同一人物だし。身代わりじゃなくてご本人様!

「分かった、分かりました。そんな真剣な顔しなくても」

 後ずさろうとするからすかさず腰ホールド。

「また逃げるか。これだけ態度に出してても分かってもらえないってことは、まだ努力が足りなかったか。それじゃ……」

「いやあああああしなくていいいいいい!」

 全力で夫を押し返された。

「何考えてんですか!」

「我慢するのやめようかと」

「どこが我慢!? 今日だけでも振り返ってみてください、どこに忍耐の形跡があるんですか!」

「けっこう耐えてるんだけどな。リューファがかわいすぎるのが悪いと思う」

 何アホなことのたまってんだ、って顔に書いてあるぞ。

「だから人前で何してくれようとしてんですか」

「誰も見てないぞ」

 ジークたちは片付けという口実で物理的に距離取ってる。優秀、優秀。

「見て見ぬふりしてくれてるだけでしょ?! クラウス様には羞恥心なくても、私にはあるんですよ!」

「えー、でも俺は嫁をかわいがりたい」

 抱きしめておでこにキス落としたら真っ赤になった。

 あー、かわいい。いいこともう一つ思いついた。師匠に見せつけてやる映像、俺とリューファのラブラブっぷりも入れよう。きっとブチ切れるぞ。たーのしーい。

 ふん、初めから俺を婿候補として連れてきたのは師匠だろ?

「な、な、なんっ」

「恥ずかしいっていうから仕方なく。唇がいいんだが」

「どっちもよくない! 何しに来たか忘れてません?! 仕事しましょうよ!」

「大事な嫁で癒されないとやってられない。師匠も余計な遺産を残してくれる」

 俺だって精神的に疲れるさ。

「『至高の魔法使い』を無条件に尊敬してるんじゃないんですね」

「なわけないだろ」

 師匠がカレンを殺しかけてからは大嫌いだ。

 が、あんなんでも一応父親。フォローしとくか。

「もちろん尊敬できる部分もあるが、そうじゃないところもある。完璧な人間なんていない」

「妄信してるわけじゃないんですね。安心しました」

「ん? ……ああ、そうか」

 リューファには俺が師匠と仲たがいした記憶がないから、師と戦うことに抵抗があるんじゃないかって思ってるんだな。

 微塵も。むしろどれだけネチネチ苦しめてやろうかと計画してる。

 何かを察したらしいフォーラが背筋震わせてた。

「……おーい。そろそろしゃべってもいいか? にしても、あのトロルも馬鹿だなー。大人しく従うフリして不意をつこうなんてバレバレ」

「考え浅いのに、よく『至高の魔法使い』も使役しようと思ったね。単細胞だから逆に、かな?」

「単純作業や力仕事に使ってた魔物はわざと利口じゃないやつばっかにしてたな。対抗手段を持たない一般人にとって、魔物はザコでも脅威だ。あえてそういうのを使ってたんだよ」

 反抗する考えすら起きないようなのを。

「ああ、やっぱり」

「さて、リューファ。封印のアイテムの気配感じるか?」

「あ、はい。そうですね……」

 周囲を探ったリューファは向こうに見える谷を指した。

「あの谷のほうかと」

「深そうだな。降りてみるか?」

「いえ、危険かもしれないですし、ちょっと待ってください。……えいっ」

 ドカー――ンと大きな轟音と共に土煙があがった。

 そのまま封印のアイテムを引き寄せる。今度はピン留めか。

 空中で浄化し、ハンカチで包んでから俺に渡した。

「はい、どうぞ」

「手際いいな」

「もう何度もやってて慣れてますから。他に気配はしません。これ一個だと思います。……このまま他の魔物退治行きます?」

「ああ。後始末は任せて次行こう」

 最寄りの軍詰め所に連絡はしてある。一応辺りに結界しいて、間違って人が立ち入れないようにしといてから移動した。


   ☆


 俺はキレていた。

 せっかくトロルが吐いた仲間どもを瞬殺片付けして嫁にいいとこ見せるツアー絶賛開催中だったのに、怪盗があちこちに出現し、他の魔物どもを一掃していったとの報告が入ったからだ。

 始のやつめ。影で協力は分かるが、怪盗姿で活躍するなっつっただろうが。

「うわー。なんか空がめちゃくちゃ暗くない?」

「雷鳴ったよ今」

「クラウスの不機嫌さみてーだな。いくらこいつでも天候は操れないと思うけど」

 フォーラがちらっと俺を見てきた。うんまぁ俺のせいだな。

「今度こそしっぽつかんで消す」

 理解してない嫁が首をかしげた。

「何で怒ってるんですか。代わりに退治してくれたんでしょ」

「は?」

 それはそうだが嫁がかっこいいって言ったやつが活躍したのが気に食わない。

「みんな誤解してるんだし、いっそほんとに特別捜査官ってことにしちゃえばいいんじゃないですか」

 雷が連続して落ち、豪雨になった。

 自分たちの周りはしっかりバリア張っているため問題ない。

「うわ、ちょ、これヤバイ雷雨」

「誰か雷くらってないよな?」

「ちょっと、リューファ」

 フォーラが慌ててリューファの肩を引っ張った。

「あなたね。夫の前で他の男褒めるのやめなさいよ。クラウス様嫉妬深くて独占欲強いんだから」

「へ? そんなつもりは全然ないんだけど。役立つならスカウトすればって言ってるの。敵視より協力」

 リューファが本当にそんなつもりはないのは分かっている。分かっているが嫉妬を抑えきれない俺が狭量なだけ。知ってるよ。

「いや、消す。手がかり探しに現場行くぞ。ついてこいジーク、ランス」

「……分かりました」

「おう……正直逃げてぇ……でも行くよ……」

 青ざめながらもついてこようとする二人。いいやつ。

「く、クラウス様、穏便に」

「穏便に済ませるぞ。静かに消去する」

「なんでそんな敵視してるんですか。もー。協力すればいいって言ってるのにー」

「かっこいいなんてうかつなこと言ったあなたが悪いわよ」

 フォーラの言う通り、とうなずくジークたち。

「ええ? だから一般的に言って、かっこいいなら兄様たちやシューリだってそうじゃん」

「それはそうだけどね。とりあえず、恐いからクラウス様のご機嫌どうにかしてくれる?」

 どうしろと?と言いたそうだが大人しく考え込む嫁。

 うっ。小首傾げつつ考え込む天然な小動物がっ。

「……かわいい」

「はい?」

「困ったように小首かしげてるのかわいい」

 アッサリ機嫌直るチョロい俺。←自覚あり

「チョロ」×4

 ジークたちが死んだ魚の目でつぶやいてるが無視しよう。

 コレどうすればいい?と妻はあきれ顔でフォーラに問うた。

「うん、そこのアホはリューファならとにかく何でもいいんだから、とにかく傍にいなさい。あなた、素で有効な攻撃できるしね」

「は? 意味わかんないんだけど」

 そして仮にも皇太子をアホ呼ばわりしたのに誰もツッコまないのは事実だからである。

「とにかく念のため怪盗が出没したところは行きましょうか。それでバリバリ仕事して、リューファにかっこいいって言ってもらえばいいじゃないですか。言ってほしいんでしょ」

「さっきからけなしまくってないか? まぁ確かに、そうやって惚れなおしてもらうのもいいな」

「惚れ……っ?! な、直しません!」

「え? なに、もうそうせずともじゅうぶん惚れてる?」

「違っ……え、ん!? え!? これどっちって答えるべき?!」

 フォーラにもこれは分からなかった。

 さて怪盗が出没した順に現場を回っていくと、なぜかどこでもポカーンとされた。

「あれ? 殿下が来た……けど、お妃様、お姫様抱っこしてるぞ?」

「ん? これ、仕事しに来た……のか? 単に見せびらかしに来たのか?」

 両方かな。 

「か、帰りたい……」

 恥ずかしさのあまりしがみついて顔かくしてる嫁がしぼりだすように言った。

「居て、クラウス様がノロケたれ流すの止めたほうがいいと思うわよ」

「ノロケ?!」

「何言い出すか分からないわよ? それなら妄言吐いた瞬間に、頭ぶん殴るでも顔面ひっぱたくでも後ろ頭どつくでも背中蹴っ飛ばすでもみぞおちに回し蹴りくらわすでもして止めたほうがいいんじゃない?」

 フォーラさん? それ自分が俺にやりたいことってことですか?

「そんなことされたら恥ずか死ぬ! 絶対止めなきゃ!」

 謎の使命感に燃える嫁。抱きついてくれてるからいいけど。

「フォーラ、よくやった。ま、俺が帰すわけないが。リューファは俺のものだって知らしめたい」

「私は生まれた時から婚約者でしたけど。みんな知ってます。公式行事の時だって下がってていいって言ってたくせに、何で今は見せびらかしたがるんですか」

「恥ずかしがるだろうと思って。でも今はそうやって恥ずかしがるのもかわいくて見たい」

 この野郎ってシューリとフォーラから視線が飛んできた。

「あと、負担を減らしてやりたくて。きちんと前に出ると、挨拶だのなんだの大変だろ」

「そういう意味だったんですか? てっきり婚約が不服だから、傍にいるの嫌なんだと思ってました」

「それはない」×5

 全員即否定ハモリ。

「クラウス様。ですから誤解させると言ったでしょう。このヘタレ」

「疎い私ですら分かりますよ」

「うるさい、反省してるだろ」

 シューリとフォーラ二人がかりで言われて、思わず渋面になる。

「二度と誤解させないため、償いの意味もこめてもう隠すのやめたんだ。てわけで俺の嫁を自慢しよう」

「普通に仕事してください!」

「無理だな」とはジークのつぶやき。

「いやな、気づいたんだ。別に公務中ずっと傍に置いてもよかったって。俺がリューファへの愛情しゃべりまくってれば、リューファがしゃべらなくてもい」

 途中だったのに両手で口塞がれた。

「ぜ・っ・た・いにやめてください!」

「むー……」

「本気で怒りますよ?!」

「ちゃんと言葉にしてくれないの嫌だって言ってなかった?」

「シューリ、そこつっこまない! あれもやだけどこれもやなの!」

「贅沢ねぇ」

「その姿勢で言ってもあんま説得力ないかな」

 その通りだな、ランス。

「だって離してくんないんだも……って何してんですかー!」

 せっかくだから嫁の手を唇に押しつけようとしたら、大慌てで外された。ちえ、残念。

「え? 嫁をかわいがりたいだけ」

「やっぱ逃げよう」

 真顔で決断した嫁が素早く飛び降りたが、速攻捕獲した。職業柄お手の物である。

 兵士含め全員明後日の方向いて見て見ぬフリした。

「ちょ、ひど……」

「自分で言ってた通り、リューファは生まれた時から俺のだろ」

「……もしかして、わざと人前でやってます? 『最後の魔女』が復活しても、クラウス様がこんなアホな行動取ってれば、百年ていうか千年の恋も冷めるって」

  うん? また何かえらい勘違いしてるな。彼女と君は同一人物だが。

「単に俺の嫁をかまいたいだけだが。ていうか、嫌いになるもんか?」

「元婚約者が転生後他の女性を死ぬほど恥ずかしい感じで溺愛してたら、私ならドン引きします。そして彼女にどうぞお願いと笑顔で押しつけます。私やられなくてよかった!って天に感謝しますね」

「何でだ」

 え、カレンの記憶が戻ったら「こんなアホはちょっと……」って嫌われるってこと?

 それは断固阻止せねば。まず逃げないようもっと対策を立てて……。

「監禁とかすんじゃないわよ!」とフォーラが顔ひきつらせて小声で言ったような気がするが気のせいだなうん。

「あれ、殿下ってあんな方だったっけ……」

「しっ、見なかったことにしろ。お妃様が気の毒だ」

「いや、前からだ。国民はみんな知ってる事実。そうか、国外の冒険者だと知らない人もいるのか」

「これだから婚約者様に逃げられないよう、国あげて必死でフォローしてたんだよ。暗黙の了解」

「小さい頃から真顔で堂々とああやってノロケてたり、婚約者様が好きすぎて異常行動してたり」

「うわぁ。普通の女性ならキモイってドン引く」

「だろう? だからとにかく結婚まで隠してごまかそうと。国で一番大事なプロジェクトだったんだ」

「あれ、結婚したらいいの?」

「後はもうバレてもいいんじゃ? 逃げられないわけだし」

 なんか兵士たちが冒険者たちにボソボソ言ってるのも気のせいだな。リューファには聞こえないよう音遮断しとくが。国ぐるみで必死の作戦やってたことバラすなよ。

 というか異常行動って失礼な。

「イメージが……いやまぁ、皇太子夫妻が仲いいのはいいことなんだけど」

「もうどうぞご自由にって言いたくなる」

「重すぎてお妃様に捨てられなきゃいいけどって正直みんな祈ってる……我が国の豊穣の女神様なんだから」

「女神様、お願いします。『勇者』見捨てないでください」

 なぜか最後は俺の嫁を拝むところに落ち着いた。

「まぁ俺の嫁は女神だからな。拝みたくなるのは分かる」

「なぁ、さすがにそろそろ頭殴ってもいいか? ちょっといいかげん思考をマトモに戻せや」

 俺は一回発狂してるから無理だと思う。

「ま、そろそろ真面目に仕事するか。さて。で、どういう状況だったって?」

「気が済んだか、クラウス……。うん、もういい、何も言うまい」

 前世の弟はコメントを差し控えた。

 怪盗が現れた時の状況を聞く。

「……火系魔法じゃなく、あえて水系使って、そこに塩混ぜた? 相当魔物退治に慣れてるやつだな。でなきゃすぐできまい。塩だって準備してたってことは、情報を得てたわけだ」

「あー、実力からいえば英雄レベルだろうな」

「冒険者の名簿のうち、上位をあたってみます」

 ランスがすぐ本部と連絡を取った。

「さらに奇妙な点があるな」

「何だ?」

「魔物の使えるパーツを無駄にしないような倒し方だ。例えば一件目の植物系モンスターは触手を切り取ってから倒してる。怪鳥も火を吹く臓器を傷つけずに取り出してる」

「あ、確かに」

「倒した順番も上手く前の魔物を利用できる順だ。あきらかに計画的。しかも入手したものをすぐ改造し、武器まで作ってる。かなりの魔具作りの腕だ」

 始って魔具作りもできたのか。この世界を作った神といえる存在ならそれくらい余裕だろうが。

「そんなやついるか?」

「さあ、心当たりねーな」

「誰でしょうね。他国の人間でしょうか」

「使えるパーツをわざと傷つけなかった。軍が回収すれば、払い下げ品としてリューファのところに行く可能性は高いと読めたはずだ。つまりあの怪盗め、俺の嫁に貢ぐとはいい度胸だ」

「……え?」

 全員「何言ってんだコイツ」って目を向けてきた。

「……あのー、クラウス様? それはないですよ……」

 ランスがこめかみを押えて、

「ちょっと冷静に考えてくださいよ。怪盗が『勇者の嫁』に貢ぐってどういう発想ですか」

「いいや、間違いない。絶対許さん。リューファに貢いでいいのは夫の俺だけだ。俺の嫁に手出しするやつは消す」

 いや始がリューファにくれるなら問題はない。女性同士だし、始には夫がいるから。だが男に変装している状態なら話は別だ。

「ちょ、勝手な妄想で恐いこと言わないでくれます?!」

「……止めるってことは、まさかリューファ、やつのこと好きなんじゃないだろうな」

「違いますってば!」

「リューファは俺の」

「妻ですよ。クラウス様以外の人に興味はありません」

 し―――ん。

 あっさり自然に答えた妻に、俺はフリーズした。

 え、幻聴? 俺の願望が強すぎるがあまりに幻聴聞こえた?

 とっさにジークに目顔できけば、「現実だ」と答えてきた。

 突然周囲10キロ圏内の植物が活性化し、一斉に花が咲いた。

「リューファ、俺も愛してる!」

 うれしすぎてしっかり抱きしめる。

「ぎゃあああああ! はっ!? え、何で?! 何がそんなにうれしいんですか?!」

「恥ずかしがりで、なかなか言ってくれないリューファが明確に意思表示してくれたんだから当然だろ。あー、かわいい。かわいいしか言葉出てこない。自分の語彙力のなさがうらめしいな。もっと文才あれば、嫁を讃える詩でも書けるのに」

「いぎゃああああああ!」

「え、ちょ、なんか花咲きまくってんだけどなんだこの現象」

「目で見える範囲は全部そうみたいだよ」

「犯人はどう考えてもコイツだわね」

「コイツって……うんそうだろうね……」

 犯人は俺だけどなにか?

「子犬か子猫みたいでかわいいなぁ」

「プルプル震えてるの逆効果だった! いやこれは不可抗力!」

「俺もリューファ以外興味ないよ。大事な奥さん。好きなのはリューファだけ」

「わかっ、分かりました! もう口閉じててください! 威厳とか色々ぶっ壊れてます!」

「嫁のためなら威厳とかいらないし。リューファへの愛情語るにはまだ足りない」

「うわあああああ、やっぱおうち帰るー!」

 なんだか気持ちが分かると言いたげに、シューリが合掌してた。ああ、ジークのテンション高めプロポーズ?

 うーん、似てるか? そりゃテオを育てたのは俺だし、前世兄弟だったし、現世でも義理の兄弟だけど、そこは違うと思うんだが。

 とか考えてたら、フォーラが「こっそり後でちょっとツラ貸せ」というジェスチャーをしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ