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27 勇者は親友の恋を応援する

 今日も俺の嫁はかわいい。

 最愛の妻を横向きで膝にのっけて抱え込み、肺いっぱいに彼女の香りを吸い込みながら結婚指輪のはまった指をなでる。

 はー、幸せ。

 幸せに浸ってたら、嫁がにらんできた。

「下りたいんですけど! いいかげん離してくれます?」

 頬染めながら言っても逆効果なんだが。

 というかこのくだり毎日繰り返してるよな。もうあきらめればいいのに。

「嫌だ。もうちょっと」

 反対にしっかり抱きしめると、リューファは「ひゃう」と謎の奇声をあげた。

 うわ、超かわいい。なにこの生き物。

「さっきもそう言いましたよね! それからじゅうぶん時間たったと思いますが!」

「まだ」

「子供ですか」

「疲れたから休憩くらいいだろ」

「ぜんっぜん疲れてるように見せませんけど?」

 いやいや、疲れてる。精神的に。あまりに長い時間悲劇を繰り返し、その全てのループを覚えてる俺の精神はとっくにボロボロだ。

 ……治るのかなぁ、コレ。無理な気がする。

 クラウスとしての人生をある程度まで送れてたおかげでネオ時代は客観的に見られるし、だいぶマシだが。強烈すぎて、ともすれば引きずられそうになる。

 リューファは無駄と知りつつ、同じ室内で仕事してる兄たちに助けを求めた。

「兄様たちもなんとか言ってやって!」

「……えー、めんどくせ……」

「めんどくさいって言ったね!?」

「関わりたくねーんだよ、オレだって命が惜しいし。まぁ休憩時間の栄養補給くらい大目にみてやれや」

「休憩時間どころかずーっとじゃん! この態勢で仕事してるじゃん!」

 だって俺、引き離されたら発狂するぞ?

「まあまあ。リューファの一番大事な役目はそこの爆弾が大爆発しないよう見張ることだからね」

「そこの盛大な事故物件の注意を自分に向けときなさい。それが平和よ」

 ランスとフォーラはしれっと俺をディスるのやめてくれないか?

「あのね、そもそも私は栄養素でも回復薬でもないってば!」

「妻はそうだって親父が言ってた」

「父様の言うこと基準にしないで。あれ特殊だから」

「そうかぁ? オレはシューリ見てるだけで癒されるけどなぁ」

 ジークは妻でも恋人でもないシューリをうっとり眺めた。

 あ、シューリがちょっと物理的に引いたぞ。

 まぁ前世の妻で今世も婚約者同然だが。

「特殊で例外なアホがここにもいた……。ダメだこの親子……」

「あはは」

「ランス兄様は全然タイプ違うのにね。うちの家系の男はたいていコレでしょ」

「みんながみんなそうではないよ。だとしても僕はかなり特殊なケースだろうけど。父さん兄さん陛下クラウス様と多すぎる愛が重いの見て、反面教師にしたというかね」

 同類ってなんでか集まるもんだよなぁ。

「俺はただ、やっと手に入れられたと感慨にふけってるだけだ」

 本当に長かった。

 指輪を見つめる。

 もし……早い段階でこれにかけた魔法を開発し、カレンに無理やりにでもはめさせてたら違っただろうか。そうすればカレンがあっちの世界に飛ばされても、俺も引っ張られてついていくことができた。

 たとえそれが俺の死を意味していても構わない。どんな世界でも君がいさえすればそれでよかった。ただ、一緒にいたかった。

 違う世界で、ただの人間になって君と一緒に……それもいいな。別世界なら俺のシンクロ能力も使えない。ただの人として平凡な人生を送れたのかもしれない。

ありえた未来を思い、ぼんやりつぶやいた。

「……もっと早くはめさせてればよかったかな」

 つぶやきを拾ったジークがぎょっとした。

「おいっ! いくらなんでも赤ん坊の頃にやったら犯罪だぞ! ロリコンも確定!」

「は? なんでそんな話になってるんだよ。その頃とは言ってない」

 さらにもっと前の話だ。

「ていうか俺が生まれてすぐの赤子に、手に入れようとして束縛の呪文かけようとするほどヤバイと思ってるのかお前は」

 そもそも縛るのは俺のほうだぞ? 俺が暴走しないよう自分に鎖巻くんだ、問題ないだろ。

 いくらなんでも相手を縛ろうとは思わないさ。彼女には自由でいてほしい。

「生まれてすぐに『婚約』じゃなく『結婚する』って言ったお前ならやりかねねーと思う」

「言ったか?」

 そうだっけ。婚約に全力で同意したのは覚えてるが。

 嫁がちょっと青い顔で、

「えー……せ、せめて人前はやめてほしいんですけどね。こっちも百歩譲りますから」

「恥ずかしがりつつもうれしくて逃げたいけど逃げない照れ屋なとこ見たいから嫌だ」

「この確信犯!」

 腹黒、根性悪、ってコメントも聞こえた。

 そうだが何か?

 俺は柔らかいうすピンクの髪に顔をうずめた。

「あー、落ち着く。柔らかくてあったかい」

 ちゃんと生きてるって証だよな。

「ちょ、だからやめ……っ」

 そこへドアが開いて侯爵夫人が入ってきた。

 おや、珍しい。

「かっ、母様?!」

 リューファは慌ててどこうとしたが、俺は平然とそのままでいた。

「…………」

 夫人は黙って娘を眺め、ため息ついた。

 ものすごく分かるって実感こもってるな。夫である公爵と二人きりだと、同じように甘えてじゃれつかれてるの俺は知ってる。

「母様、助け」

「あきらめなさい。私もとうにあきらめたわ」

「経験者の言が重すぎる! ねえ、それしか解決法ないの!?」

「私も昔、お義母様に同じようなこと言ったっけね……。まさか何十年経って同じことを娘に言うことになるとは」

「お、おばあ様まで? そんな遺伝いらない」

 うーん。なんでだろうなー。

 アローズ家は俺の弟の子孫だ。直系ではない。テオは俺と違ってマトモだったんだが。

 はて。

「つか、母さんどしたんだ?」

「ああ、そうそう。クラウス様に用があったんだったわ。ちょっと来てちょうだい」

「俺?」

 えー、嫁とほんのわずかな時間でも離れるの嫌だな。

「話があるならここで聞く」

 リューファを抱え込む。

「…………」

 夫人は目をすがめ、親指をくいっとやって「来い」と示した。

「ひっ……ハイ」

 分かりました!

 おとなしくリューファを下ろし、夫人の後についていく。

 情けないとか言うな! 尻たたかれたこともあるオカンに敵うか!

 ジークもランスも震えてたぞ。

 別室で向かい合わせに腰を下ろす。

「なんだか用件が分かっているという顔ね」

「いやその……怒られる心当たりが多すぎてどれやら」

「怒られるようなことやってる自覚はあるのね」

 そりゃあもう。

「義母上、俺ももう大人なんで、せめて尻ペンペンは勘弁してくれ」

「貴方が義母上って言うときは後ろ暗いところがあって覚悟してる時よね。……別に怒りはしないわよ。ある意味、気持ち分かるもの」

「?」

 夫人はこめかみをもんで、

「これは我ながら大失敗だったから、黙ってたんだけど……話しておいたほうがよかったわね」

 そう言って、自分が公爵と結婚するまでのことを話し出した。

「……へえ」

 初耳だった。

 公爵が何年も猛アタックして頼み込んで懇願して結婚してもらったとしか聞いてなかった。夫人が恥ずかしがるんで、みんな黙ってたんだな。

「てっきり公爵のアタックに根負けしたんだと」

「それもあるわね」

 だよな。

「にしても、親子二代で同じこと選択するなんて。リューファはあの人に似てないと思ってたけど、似てたのねぇ」

「行動が予想外って共通点があるよな」

「貴方もねぇ、そんなところ私に似なくていいのにねぇ……」

 憐憫のまなこ。

「子供って親の似なくていいところばっかり似るもんだろ」

「はあ。……それにしても大丈夫だった? けっこうショックだったでしょう」

「さすが経験者、分かってくれるか。この世の終わりかと思ったよ」

 実際、下手すりゃ世界がマジで終わってた。

「そうなのよねぇ。恥ずかしいとか言ってないで、きちんと言葉にすべき時はしなきゃと分かったわ」

「ああ。だから毎日しっかり表すことにした」

「貴方の場合はちょっとやりすぎな気がするけどね。まぁリューファが喜んでるんで、よしとしましょう。ところで本題に入るわ」

 あれ、今のが本題じゃなかったのか。

「二度目どころか三度目の轍は踏ませたくないの。ジークとシューリちゃんの件よ」

 ああ、そっち。

 母親だもんな。心配だろう。

「実際のところどうなの? ジークはあの人に似てるでしょう。同じようにあきらめて去ろうとしてるんじゃないかと思って」

「うーん……」

 俺は首をひねった。

「ジークはやらないと思う」

 理由はテオ=ジークのあきらめの悪さ。意地と根性で自分のほうが年上かつ近くに生まれるようにしたことで分かる。

 そもそもお互い想い合ってなければ、同時代・同じ場所に生まれない。シューリのほうも好きだってことだ。

「シューリは天邪鬼なだけで、ほんとは自分を好きだと確信してるからな。そこが俺とは違う」

 前世夫婦であり、今近くに生まれてるのがどういう意味か、潜在意識で分かってる。根底に安心感があるから、ツンツンした態度取られても平気なんだろう。

 テオは妻と幸せな一生を送って満たされており、相手の気持ちが確実に自分にあると理解してる。それに対し、俺は不安で仕方がなかった。

 何度やり直しても悲劇に終わったループの記憶がさいなんでいく。

 恐怖と不安が狂気に拍車をかけ、結果こんなにもおかしくなった。

「そうかしら」

「まず第一に、それならとっくにサヨナラしてる。義母上の時や俺の時みたく、どっちかの誕生日や成人したタイミングでさ。けど何もなかったろ」

「むしろ通常運転でふっとばされてもケロッとしてたわね。あれはあれで心配だわ」

 テオにそっちのケはなかったんだが。うーん。

「大丈夫だろ。ジークは全部分かってておもしろがってるフシがある」

「じゃれあいを楽しんでる感はあるわね。かまってもらえてうれしいとすら思ってるんでしょ。ほんっと親子……」

 頭痛がすると頭を抱える夫人。

「結局あれ、バカップルがいちゃついてるだけなんでスルーでいいと思うぞ。シューリだってジークは自分を嫌いにならないって根底じゃ分かってるからやってるんだ。心配することないさ」

「そっちのケが悪化したらどうしようと思ってるのよ。さすがに本物レベル要求されたらシューリちゃん逃げるわよ」

「いや。ジークはアホにみえてしたたかだから。ちゃんと許容範囲分かっててやってる」

「やっぱり? でもねえ、いつまで経っても平行線なのが気になるのよ。いいかげんそろそろどうにかしなきゃと……」

「シューリは俺とリューファが結婚するまではとか口実にしてたけど、それも使えなくなったんで考えるようになったみたいだぞ」

 俺は肩をすくめた。

「ま、俺からもちょっと探り入れてみる。にしてもランスのほうはいいのか? あっちは心配なし?」

「あの子は冷めてるでしょう。気心知れてて同類のフォーラちゃんと契約結婚てことで内密に話がついてるのよ。契約書まで作ってたわ」

「おいおい。それでいいのか」

 ドライすぎだろ。

 そういえば司法長官は生涯独身だったな。

「友情というか、共に歩む同志といった結婚の形もあるということよ」

「まぁそうだけど……」

 始はずいぶん色々考えて俺の周りの人間を配置したようだ。

 俺の親は過去失敗しながらも、やり直して上手くいったパターン。

 そう、ハッピーエンドを成し遂げたのは『勇者』の俺じゃなく、『勇者の父母』だったんだよ。

 成功例を両親にすることで、理解者を身近に配置。成功ルートに行けた現物を見て育てば、俺も自然と見習うよう育つだろうと。

 さらにもう一組の親同然で義両親にあたるアローズ公爵夫妻は、上手くいきそうで途中ミス、でもどうにか丸く収まったパターンだ。

 加えて完全な成功例といえるノーミスのテオ=ジーク、逆にまったく違うタイプのランスと色々異なるケースを周りに置き、どうにか最悪の結果を回避しようと必死だな。

 おかげで今のところどうにか世界は滅んでない。

「とにかくジークとシューリそれぞれ個別に話聞いてみる」

「お願いね。まぁジークは貴方みたいに何かが切れて突っ走って強引に結婚させたり軟禁したりはしないでしょうけど」

「分かっててよく怒らないな」

 正直、尻けっ飛ばされる覚悟はしてた。

 それでもお手やわらかにお願いします。

「リューファは異常なほど鈍いもの。それくらいしなきゃダメだったんじゃない? 無理やりでもなんでも捕まえてなきゃ、さっさとどっかへ行っちゃったでしょう」

「無理。リューファがいなくなったら俺死ぬ」

「って貴方が追いかけてヤンデレ発症してガチの監禁やらかす可能性高かったんだから、そこまでひどくならずに済んでよかったとむしろ思ってるわ」

 ええ? いくらなんでもそこまではしないよ。たぶん。

「甘えてイチャイチャしてアホ丸出しなんて平和だわ。よかったわよ」

「うん、平和が一番だな」

 俺は立ち上がって、

「じゃあまずジークに聞いてみる」

 一旦戻ってジークだけ呼んだ。

 廊下の隅で立ち話。

「どした? クラウス、またリューファの情報収集か? 今興味あるもんとか欲しがってる素材とか。四六時中ぴったりくっついてるお前のほうがもう詳しいんじゃねーの? ま、これメモな」

「俺をなんだと思ってるんだよ、と思うがありがたくもらう。俺が話あるっていえば必ずリューファのことなのかよ」

「これまでの行い振り返ってみろや」

 …………。

「あれ? おかしいな。なんでだ」

「シリアス顔でなんでだじゃねぇよ。アホか。うちの妹好きすぎだろ」

「だってかわいくて美人で優秀で頭良くて器用で気立てがよくて優しくて花の妖精みたいに可憐な容姿でいい匂いがしてそれから」

「分かった分かった。そこらへんでやめろ。あぶねぇ」

 ん? ああいかん、用事忘れるところだった。

「夫人がお前のこと心配してたんだよ」

「うん? あー。オレがモノホンか、それとも親父みたく嫌われてると誤解してシューリから離れちまうかもってののどっち?」

「なんだ、そこらへんの事情知ってたのか」

「ずいぶん前に親父が教えてくれたよ。オレが二の舞にならないようにってことだけど、半分以上ノロケだなありゃ」

 9割以上ノロケだろうな。

 ジークはニカッと笑った。

「心配しなくてもオレはンなことしねーよ。だってシューリがオレを好きなことは知ってる。ドジなのを恥じて、しっかりしなきゃってから回ってるだけだってこともな。まぁ本人の納得がいくまで待つさ。別にしっかりしなくていいし、言ったんだけど」

「十年以上もよく待ってるよなぁ」

「オレは気が長いの。あと少しだろうし」

「まぁな。俺とリューファ見てて、うらやましいけどあそこまではカンベンって顔に書いてある」

「ははっ。オレもお前ほどはできねーよー。それに好きな子のそーゆー顔は独り占めしたいタイプなもんで。他の男には見せねえ」

「最近陰でこっそりシューリに迫ってんのはそういうわけか。誰も見てないとこならふっ飛ばさないから?」

 悪友は飄々とした笑みを崩さなかった。

「俺とリューファを口実に、ちょいちょいシューリ連れ出して二人きりになって、何するのかと思ったら」

「お前まさかのぞいてんの?」

「のぞくか。状況から察してるだけだ。なんで親友と婚約者のイチャイチャ見なきゃならないんだよ」

「オレは毎日お前に見せられてんだけど」

 ツッコミは無視した。

「別に健全なもんで、のぞいても平気だけどな。触られてもパンチ我慢できるよう訓練しよ、って提案して地道に慣らしてるとこ。小さい頃は手つないでるのとか当たり前だったのになぁ」

「先にストップかけとくと、幼少時思い出してノロケるのはなしな。長いんだよお前は」

「人のこと言えんの? ま、とにかくオレだってちゃーんと下準備はぬかりないさ。母さんには怒られそうだから黙ってたけど、このぶんなら言っといたほうがいいかな」

「そうしとけ。母親としちゃ心配だろうさ」

 にしても……ちらっとテオのしたたかさがのぞいたな。

 あいつが年齢差に悩む前世のシューリを口説き落とした方法を思い出し、口の端がひきつりそうになった。

 俺は教えてないんだけどなあ。

「ん? なんだよクラウスその目は」

「別に」

 元は『魔王』と『勇者』と呼ばれたことのある男たちが実は似た者同士で、親子みたいなものだったり兄弟同然だったり、か。

 なんて言ったらいいやら。

「シューリのほうも聞いておくか」

「んー? お前に言うかなあ? フォーラならともかく」

「フォーラからのまた聞きだけじゃなく、本人に直接一度は聞いておきたいんだよ」

「んじゃ、入れ替わりに来るよう言っとくわ」

 ジークが戻ってしばらくするとシューリがやって来た。

「御用とはなんでしょうか、クラウス様? リューファの情報ならもう常に傍にいるクラウス様のほうが詳しいと思いますが、一応どうぞ」

「なんでみんなそろいもそろって俺が話っていうと嫁のことだと……ありがたくもらっておく」

 メモは当然のごとくしまった。

「今回は違う。ジークとシューリのことだ。夫人が心配してたぞ」

「えっ……」

 シューリはビクッとして青くなった。

「それはその……申し訳……」

「俺に謝ることじゃない。きいておくがシューリはジークと結婚したくないわけじゃないんだろう?」

「もちろんです!」

 即答か。

「もののみごとに大失敗した俺だからこそ言うが、思ってることと違う言動取ってるといずれ誤解されるぞ。俺みたいになる前に、ちゃんと言うべきことは言っておけ」

「分かってます。……だから、その、今がんばってる最中というか……」

 今度は真っ赤になってる。

 ……。一体何をやってるんだろうなあ、あいつは。

「うん、きかないでおく。まぁそのなんだ、がんばれ。上手くいくよう応援してる」

「……ありがとうございます」

 シューリが悩みながら戻るのを見送ってると、ひょっこりジークが現れて連れて行った。

 アフターケアまで万全か。

 俺はそろーっと物陰に隠れて気配を消してやった。

「ひゃっ! ジーク、驚かさないでよ!」

「おっと、悪い。ちょっと用事。一緒に来てくんね?」

 しかもさりげなく手つないでるし。

「……っ、て、手!」

「まぁまぁ。万一つまずいたらつかまる頑丈なモンがあってよかったー、くらいに思っとけよ」

 そこでハッとしたシューリが振り返るも、俺の姿がないんで見られてなかったと安心して手はつないだままでいた。

「お。今日もパンチ我慢できてえらいじゃん」

「うるさいっ。だ、だれか見てたら怒るの当然でしょ! は、恥ずかしいもん」

「そっかー。嫌なんじゃなくてうれしいんだな。オレもうれしい」

「……っ」

 ほら、ジークはしたたかだって言ったろ?

 俺にできるのは二人きりになれる状況作りやすくしてやることだな。俺がリューファといちゃついてれば、席外すはず。フォーラとランスも空気読んで二人きりにさせてやれる、という流れが自然でベストだ。

 よし。いい口実が見つかった……じゃなかった、理由ができた。

 え、同じだって?

 ともあれウキウキして戻ると、さっそくお嫁さんを抱きしめた。

「ただいま、リューファ」

「ぎゃあああああ! ちょ、十分くらい離れてただけですよね?! なんなのもう!」

 照れてもがく妻。

 じゃれてるみたいでかわいい。

「ほんの少しでも離れてると寂しいんだよ。リューファは寂しくなかったのか?」

「短時間だし、同じ家の中にいましたよね」

 カレン、同じ家で暮らしてても君は俺に笑いかけてくれなかったし、触れることもできなかった。

 辛かったぶん、今世ではやりたいんだよ。

「好きだよ。君は?」

 やっと触れられるようになった彼女に微笑む。

「……っ」

 彼女は真っ赤になって口をパクパクさせ、うつむいて小さくうなずいた。

 かわいいなあ。

 父さん、母さん。俺の道はもう二度とあなたたちと交わることはないだろう。俺が関わればまたあなたたちの人生まで歪めてしまう。さよならを告げたのはその決意だ。

 だけど。今の俺には理解者で協力者の父と優しくて穏やかな母、手本となる義父に強くて厳しい義母と、二組も心強い両親がいるから大丈夫だよ。

 何かあっても助けてくれる親友だって四人もいる。

 そして何より、最愛の人がやっと俺を好きだと言ってくれるようになった。

 さんざん迷惑かけてごめん。俺のことは心配しなくていいよ。どうか、あの子と幸せになってくれ。

「……あー。仕事したくない。ずっと妻とイチャイチャしてたい」

 あ、うっかり本音が。

「ちょっ、仕事しなきゃダメですよ!」

「前に同じこと陛下も言って、早く息子に王位譲りたいってこぼしてませんでしたっけ」

 フォーラがあきれかえって言う。

「ああ、言ってた言ってた。そういや俺の祖父も先代アローズ公爵も同じで、とっとと引退して楽しんでるよな」

 あ、言い忘れたが祖父母生きてるぞ。

 今さらしれっと重要な情報ぶっこむなって?

 人類が長命化した結果、子供が成人すると親世代は引退して長い隠居生活楽しむのが常識になってるんだよ。

 祖父は祖母連れて世界旅行中。ラブラブ生活満喫中である。うらやましい。俺もいずれそうなりたいもんだ。

 たぶんこれも始の仕込みなんだろう。俺が能力ゆえに表舞台に出てきてしまうのは仕方ないが、なるべく早く引っ込めるようにと。重要な地位や前線から退けばトラブルに巻き込まれる可能性も減り、暴走する危険も減る。

 むしろありがたい。

 俺の望みは彼女と静かにひっそり暮らすことだ。元々田舎でカレンと二人、そうやって生きることを夢見てた。

 別に王になんかなりたいわけじゃなく、彼女を守るのに都合がいいからそのままでいいかと思ってるだけ。さっさと任せられる人がいるなら渡してしまいたい。

 俺は最愛の人さえいれば、他にはもう何もいらない。

「もうしばらく父上やってくれないかな。王様業なんかより、妻堪能するほうがはるかに楽しいんだが」

「色ボケして働かない男じゃあ、リューファに三行半つきつけられますよ。嫌われてもいいんですか?」

 ランスが妹をつついて催促する。

「え? なに、ランス兄様……ああ、理解した。クラウス様、ちゃんと働かないのは駄目です」

「分かった。がんばる」

 約束する俺に、胸をなでおろす五人。

「そのためにはちょっと栄養補給が必要だと思う。てわけでリューファ」

「ちょっと二人きりにとかなりませんよ!? 真面目に仕事しましょうね!」

 暴走しないよう自堕落に暮らしたい夫をしっかり者の嫁はしかりつけた。

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