20 勇者と神にならなかった神々
俺は廃墟と化した城に足を踏み入れた。
雑草が生い茂り、建物はあちこち崩れている。往時の繁栄は長い年月の間に失われていた。
あの頃の面影はどこにもない。
それだけ長い年月が経ったのだと痛感する。
「………………」
空を見上げれば、青空と太陽は何も変わっていない。
でもあれからあまりに多くの歳月が経ってしまっていた。
……あの時は魔法使いの長いローブをまとい、魔法使いの杖を持って走っていた。
彼女を助けるために。
今は軍服を身にまとい、剣をさげてゆっくり歩いている。
「………………」
城の中庭へ出た。そこも荒れ果てている。
―――あいつを失った場所だ。
真ん中に石碑があった。
昔はなかったはずだ。
近寄って見てみると、それは簡素な墓石だった。
風化してほとんど消えかかっているが、俺とカレンの名前が記されていた。
「……俺とあいつの名か……」
カレンの肉体は魂の封印と同時に消滅した。
俺も後を追うようにあの魔法を使い、やはり肉体は残らなかっただろう。それが俺のしたことの代償だ。
ここに俺たちは眠っていない。亡骸すら残っていない。
「それでも墓を作ったのは……テオだろうな……」
懐かしい名をつぶやく。
弟は幸せになっただろう。俺と違って。
ちゃんと愛する人と結ばれ、幸せな家庭を築き、天寿を全うしたに違いない。
……俺にはできなかったことだ。
辺りには誰もいない。鳥や虫すらここには近づかなかった。
朽ち果てた城の周囲には今もいばらが残る。
静かに自分の手を広げて見た。
あの時手のひらに残ったのは、あいつの涙だけだった。
最期に俺の名前を呼んで消えた。
―――ぽたり、と涙がこぼれた。
「……ごめん。守れなくてごめんな」
涙が止まらない。
俺は声を上げずに泣いた。
好きだった。守りたかった。幸せにしたかった。
でも俺はできなかった。
何度も、何度も。
……ふいに懐かしい気配を感じた。
目を上げると、墓石の隣に半透明のテオの姿があった。
残留思念。
いや、俺がこれに触れると作動するよう仕掛けてあった映像……?
テオは無言で墓石を指した。
ゆっくり手前部分が開き、中にあったのは王冠―――『封印のアイテム』の一つだった。
『招かれざる魔女』が得意げにかぶっていた冠。神の証だと。
「……!」
俺はすぐ手に取って確認した。術式を破壊する。
これでまた一つ壊せた。
「……テオ」
俺はかつての弟を見た。
俺の死後、後を引き継いで探してたのか。
記憶は消えたはずだった。師匠に関する記憶も記録も世界から消すのと引き換えに、俺にまつわる記憶も全て消されたはず。
しょせん人のすることだから完璧じゃなかったのか、それとも弟は自分の意志で覚え続けていたのか。
彼は無言だった。音声は保存しなかったらしい。
何も言わなくても分かるはずだと言いたげに、穏やかな顔をしている。
「……ああ、そうだな」
このテオはただの記録映像だ。本物はここにいない。分かっていて、俺は微笑み返した。
「今度は幸せになるよ。……きっと」
弟の姿はゆっくりと消えていった。
☆
地べたに座り込み、ぼんやり空を眺めてどれくらい経ったか。
ふと始の気配がした。
「―――来たか」
よいしょと立ち上がる。前方に意識体だけの始と知らない男性、そして実体を伴った男女二人がいた。
彼らも『初代の残り』か。
始はうなずいて、
「初めて会うわよね。あたしの夫と子供たちよ」
「へえ」
眉をあげた。
そりゃそうか、子孫が今の人類なんだから夫も子供もいるな。
夫と紹介された男性は意識体のほうで、外見年齢二十代前半。黒い髪に緑の瞳の、見るからに頭がよさそうな感じ。
子供のうち女性のほうは黄色いウェーブがかった髪にオレンジの瞳でおっとりしてそう。男性のほうは青い髪に水色の瞳、プライド高そう。
「初めまして。俺はクラウス。昔の名前はネオ=アローズだ」
「私の子は他にもいるんだけど、今回は代表者だけにしたわ。話はもうしてある」
「それは好都合。ならさっさと終わらせてくれ。早く妻の元に帰りたい」
マジ顔で言えば、あきれられた。
「重症ね。記憶の回復による副作用というか」
ていうかトラウマだろうな。
「一定時間離れてると気が狂いそうになるんだよ」
『初代』たちにダメだこいつって顔された。
「こいつ大丈夫か?」
「ダメな子っぽいわね」
「ううーん……最初の頃はここまでおかしくなかったと記憶してるんだけどなぁ。ループを繰り返すたびに悪化してない?」
してるしてる。
普通に考えて、最愛の人を目の前で殺される経験を繰り返せばおかしくなるだろ。
そっけなくきいた。
「で、用件は?」
「はいはい。ほんっとアンタはカレン・リューファ以外どうでもいいのね。『封印のアイテム』は予想通り経年劣化し、見つけやすくなったわよ。全部見つかるでしょ。それと、あたしたちは裏で動くから。表には出ないわよ。あんた以外の人間とコンタクト取る気もない」
「なんで?」
「実は『最初の人類』が残ってたなんて知られてみなさいよ。しかもあたしらはこの世界を創った。神様扱いされるじゃないの」
まぁ実際、神同然だろ。
「神になりたくなくて忘れられるままにしておいたのに、冗談じゃないわ。ほんとはあんたにだって接触するつもりもなかったのよ。やむをえなかったの」
「知ってるよ。別に俺は何も言わないさ。どうぞご自由に」
『初代』の秘密が明らかになろうがなんだろうが、どうでもいい。
「恋人以外興味皆無なあんたがありがたいわ。今んとこしてる裏工作は、魔物や悪人の間にちょっとした噂をふりまき、連中が『招かれざる魔女』に協力しないようにしてる」
「ちょっとした噂?」
「『招かれざる魔女』は回復と封印を破るために力のある魔物や人間を食らってる、うまい汁吸おうと近づいたが最後、食い殺されて吸収されるだけだってね」
「ふーん。現実には師匠は絶対やらないな。プライド高すぎて自分以外は劣ってる思ってるんだ、そんな『下』な異物を取り込むなんて考えるだけで寒気が走るだろうさ」
だから回復に使おうとしてるのがアイテムのみってわけ。物ならいいらしい。
「まぁね。信じこませるため、幻影使ってたりもするわ」
「どうりで師匠に味方する奴が現れないはずだ」
始たちが阻止してたとは。
師匠自身は他者を見下してるんで手下を持つこともないが、アホな連中が勝手に集まるくらいするかと思った。
始は肩をすくめた。
「それくらいはしないとね。そんなわけで、そういう心配はいらない。彼が利用しそうな強力な回復アイテムもいくつかすでに回収済みよ」
「助かる」
「ねえ。ところでどうしてわざと彼が抜け出して動けるようにしたままなの? 彼が封印されてる場所っていうかものは分かってるんだから、あんたなら身動きとれないよう上から魔法重ね掛けできるでしょ」
俺はニヤリと口角をあげた。
そう、師匠が封印されている魔具は分かっている。カレンの杖だ。
あれはそもそも当時最高の魔具で、カレンはどうせ使わなくなるからと己の杖に封じた。もっと具体的に言うとてっぺんの球体部分に。その証拠に前はなかった輪っかが拘束具のように取り巻いてる。
確かに俺ならほころびから師匠が抜け出せないようガッチリ上から押さえつけることが可能だ。でもそうせず、あえてかなりがんばれば多少抜け出せるようにした魔法をかけるにとどめてる。
もちろんリューファに危害が及ばぬよう守る魔法も施してある。抜け出せることはできても、めちゃくちゃ遠くにランダムで空間つないだ場所にしか出られないとかさ。
いやぁ、めっちゃ腹立つだろうな~。
「空間魔法まで応用して。かーなりがんばって相当力を消費してようやく短時間動ける上に、どこに出られるかも分からないって。性格悪いわ」
「そうやって消耗させてんだよ。何か問題でも? まぁ嫌がらせもあるけどな」
ケラケラ笑う。
始の夫が何とも言えない表情で、
「いい性格してるな」
「は? 俺が一体何回カレンを殺されたと思ってるんだよ。こんなん生ぬるいほうだろ。まだ全然気が済まねぇな」
目の中に獰猛な光を見てとった始の夫は嘆息した。
「……そうだな」
「と、ともかく。あたしらが後方支援しっかりやっとくから、あんたは彼を倒すことだけに集中しなさい」
「分かってるよ。ありがとな」
素直に礼を言えば、始は唇をかんで手を握りしめた。
「……ごめんね」
「ん?」
「……あたしは結局、世界の破滅を防ぐためだと言ってあんたとカレンを犠牲にしたのよ。みんな助けたいと言いながら、あんたたち二人に悲劇を背負わせてしまった。救えなかった。あたしはあなたたちを見殺しにしたのよ」
「…………」
始の夫が横からそっと始を抱きしめた。
「あんただって、あたしがリセットしなければ発狂することもなかった。何度も何度も悲惨な別離を繰り返させて。……あたしがあんな選択をしなければ……!」
「―――でもそのおかげでカレンはもう一度生きられただろ?」
俺は静かに言った。
毎回『失敗』して、最後は殺されてしまっても。
「世界も滅びず、たくさんの人を俺も殺さずに済んだ。……たぶん、何の代償もなく運命は変えられないってことなんだろうな」
「だけど」
「俺だって、カレンを殺されるのは嫌だ! 今でもあの過去を変えられたらと思ってる。そして考えるんだ。俺のせいじゃないかって」
始は怪訝そうに眉を寄せた。
「俺がこんな力を持ってたのがそもそもの原因じゃないか? いや、持ってたとしてもきちんとコントロールできていれば。暴走することもなく、世界の破滅自体起きなかったはずだ。上手く使いこなせてれば、この力を使って師匠もどうにかできてたかも」
「それは違う」
始は即座に否定した。
「あの男の願望は絶対に叶うことはない。夢の中でならいくらでも思い通りになると、夢魔を応用して眠らせたって、あの男はカレンを引きずり込んだ。妻もだけど」
……ああ、そうだったな。そんな回があった。死ぬまで永遠に眠り続ける奇病にかかった師匠はカレンも引きずり込み、カレンはそのまま衰弱死した。俺の腕の中で。
「転生しても何度繰り返しても性格は変わらず、変わることもできなかった愚かな男……。だからあの男の望みが叶うことはありえない」
「それでも」
「あきらめなさい。絶対に変わらない人間はいるの。信じたい気持ちは分かるけど」
始はぴしゃりと言った。
「……なあ、じゃあどうして俺はシンクロ能力を使いこなせないんだ? いくらやってみようとしても無理なんだよ」
「世界を創ることができるほどの存在はそうそう現れないということだろう」
始の夫が静かに答えた。
「おそらくいてはいけないんだ。自然の摂理なんじゃないか。そんなのがゴロゴロいたら、それこそ世界が終わるだろ」
「じゃあどうして俺にこの力が出たんだ? そんなにいちゃいけないんなら、発現するのはおかしい」
「本来必要になるはずだったからだ」
なんだって?
意味が分からない。
「……実は俺には予知能力があってな」
始の夫は意外なことを話し始めた。
「本当なら、あれから少し後の時代に世界規模の異変が起きるはずだったんだ。異常気象による自然環境の激変―――特に植物が育たなくなり草食動物が激減、それを食べる肉食動物も急減して生態系のバランスが滅茶苦茶になる。大量絶滅だ。ちょうどほぼ同時期に双子の宇宙にある、地球というここと対になる星でも同様のことが起きてるな。あっちの原因は隕石だが」
「地球……カレンのいた星か」
「向こうとこっちの宇宙は双子。そのせいか、同時期に似たようなことが起こることがある。ともかく君はその中で生命が生き残るために生まれた」
大量絶滅が起きるほどの非常事態。人知を超えた力の持ち主がいれば、生命は生き残れる。
「ところが強大な力を恐れた人間が勝手に誤解し、異物と認識、敵だと思い込み、本来ならな自分たちを救ってくれるはずの君を惨殺してしまったわけさ。結果、力が暴走して愚かな人間どもの予想通り世界が滅んだということだ」
「―――」
開いた口が塞がらない。
「人間は自滅したわけだよ」
「なんだよそれ……」
「まったくバカだよな。……ああ、元々も君の役割は事態の軽減であって、自然環境を操作し元に戻すことじゃなかった。自然を人為的にいじくると、思わぬところでとんでもない事態が起きるだろ。例えば局地的に天候を無理やり変えると、どこかにしっぺ返しが来る。下手したらもとより甚大な被害が、な。だから完全に異常気象を消すんじゃなく、軽めに抑えてどうにか生命が生き残れるようになるはずだったんだ。君が始ほどの力を持たないのはそのせいだと思う。コントロールできてしまえば、異常気象を消去できてしまう。それはまずいのさ」
なるほど。そういうわけだったのか。
「そもそも君は始とは力の発現方法が違う。君の場合、力が漏れて花が満開になったりしたことがあるだろ?」
「ああ、あったな」
「特にああいう分野に優れてるんだ。つまり植物の成長促進だな。植物の急減で動物が減ったんだから、緑の減少を食い止めるのが重要だったわけ。あとは既存の自然環境の調整だな。地殻変動でグチャグチャになった大地を整えるとか」
「それで大規模な地面の隆起とか山の雪が一瞬で消えるとか起こしたのか」
言われてみれば全部自然に関係してる。
「発生前に別の事態が起きてしまったため、結局異常気象は起きなかった。しかし、大きな運命を変えれば代わりに何かが起きるものだ。別の災厄が、な」
「……それが師匠か」
「たぶんな。世界規模の激変の回避と引き換えだから、あの男の引き起こすことはとんでもないレベルなのさ。じゃああの男がやって来たのはなんでだっけといえば、愚かな人間たちの行動が原因だろ? 悪いのは彼らだ。君や始のせいじゃない」
「…………」
始の夫は妻の背を優しく撫でた。始の顔が泣きそうにくしゃりと歪む。
「……ありがとう、あなた」
…………。
何度か転生して別の人間として生きてる始だけど、きっといつも夫は彼なんだろう。なんとなく思った。
きっとこの二人は永遠に一緒なんだ。
……俺もそうなれたらいい。幾度生まれ変わっても彼女に会いたい。
何度ループしても、俺には君だけだから。
始は涙をぬぐった。しゃんと立つ。
「泣いてる場合じゃないわね。次の封印のアイテムと自然に接触できるよう、部隊を整えておくわ」
「ていうか、わざわざそんなことしなくても見つけたら持って来てくれるか場所教えてくれりゃいいじゃないか」
「ただの封印だったらね。あれはカレンの記憶をも封じてるのよ。ある程度時間を置いて少しずつ戻していかないと危険でしょ」
「ああそうか」
一度に大量の記憶が戻る危険性は俺が一番よく知ってる。
「今までのところはなかったけど、もしかしたらループしてる間のことも全部思い出しちゃうかもしれない。カレンは元々別世界の人間だし、あの男が記憶持ち越してるからありえるわ」
ザッと血の気が引いた。
「冗談じゃない。そんな記憶、戻させてたまるもんか」
何度も実の親に殺された悲惨な記憶が戻ったら、リューファは壊れてしまう。俺だっておかしくなったのに。
「あたしも気をつけて念じてるけど、効くかどうか分からないからね。それに時間かけたほうがよりあの男を消耗させられるし。あんたもネチネチいたぶれるもんね」
「人を何だと思ってんだよ」
悪人みたいに。
「俺だって楽しんでやってるわけじゃねーよ。ただ師匠を許してやるほど聖人にはなれないんでな」
「まぁあれだけやられればねぇ。ところで最終的にはどうするつもり? 完全に消滅させる? 今なら方法あるでしょ。それとも元の世界に送り返す? 今度は戻ってこないよう対策打つことくらい、今のあんたならできるんじゃないの?」
「……どうなるか俺にも分からない」
俺は、どうしたいのか―――。
「俺一人が決めていいのかなって。権利はリューファにもあると思うんだ」
「……そうね。あと、もう一つ打ち合わせしときたいことがあるの。今度の回は上手くいきそうだから、その後のことも考えておこうと思って」
「? ああ」
これまではその後のことなんて考えもしなかった。
やっとこれ以後の未来に時計の針を進められるってことか。
「人間てのは共通の敵がいる間は強大な力をありがたがるくせに、いざ平和になると恐れ、脅威と思うもの。あんたは元通り『世界を救った者』になるわけだけど、しばらくしたらまた人々が悪いふうに考えるかもしれない」
「ありうるな。だから俺はすでに自分のバカさを強調して危険視されないようにしてるよ。妻バカぶり見せつけて、ただのアホだと。あまりにアホすぎると敵認識されないもんだ。自分に害を及ぼさない、こいつはほっといていいバカだ、ってあきれるくらいにさせときゃいい。いやぁ、目的も叶う上に妻といちゃつけるなんて幸せだよな」
満足げにうなずく俺に、四人はそろって残念なものをみる目向けてきた。
「ハイハイ。で、こっちもそれを避けるために『人類の敵』役を用意したらどうかってことになってね」
「見せかけの敵キャラを用意しとくのか。へえ。でもそんな都合のいい役をどうやって作る?」
「わざわざ作る必要はないでしょ。『魔族』がいる」
始は子供たちを見やった。
「まさか」
「人間が勝手に悪と決めつけ、名づけて恐れてるのが『魔族』。すでに敵キャラ認識なんだから、利用しましょ」
「おいおい。いいのか?」
二人はうなずいた。
「私たちは何もできなかったから。せめてもの罪滅ぼしよ」
「君たちを苦しめたのは我々の子孫だ。偽物の敵キャラくらい演じてやるよ」
「…………。ありがとう」
気にするな、と二人は手を振った。
ようやく『その先』を考えられる……か。
待ってる間に作ったバレッタを取り出した。
昔カレンにプレゼントしたのと同じ形を作った。相変わらず不器用で、失敗しまくったが。
ぽつりとつぶやいた。
「―――リューファに会いたい」
「何かと思えばそれ?」
「しょーがないだろー。そう思うんだから。禁断症状だよ。あ、駄目だマジで。今すぐ抱きしめないと死にそう」
「ほんっと大量の記憶が一気に戻るとロクなことないわね……。リセット・ループもやるもんじゃないな」
「だってリューファはかわいいんだよ。かわいすぎる。俺の嫁は美人で気立てがよくて頭もよくて、俺と違って器用で言動がいちいちかわいくて」
「あ、うん、一人で好きなだけノロケてなさい。じゃ」
あ。
聞きたくないとばかりに逃げられた。
一瞬で四人とも消えて、跡形もない。
「なんだよ、ったく。せっかく妻について語ろうと思ったのに」
そう。なんたって『妻』なんだぞ。ようやく俺の嫁と呼べるんだ。最高じゃないか。
帰ったら「お帰りなさい」って言ってくれるかな~。
ちょっとウキウキ。
離れるのは嫌だけど、帰った時に最愛の妻が出迎えてくれるってイイ。結婚したって実感。
え? 今の俺の家は違うんだから帰宅じゃないだろって?
アローズ邸建てたの俺だし、元々俺の持ち物だぞ。あそこも俺んちだ。
うーん、早く帰りたいのは山々だけど、せっかくリューファも女同士おしゃべりしてるもんな。邪魔するのは悪い。俺だってそれくらい配慮するさ。
「じゃ、この時間を利用して敷地周辺のバリア強化しとくか」
軽々と師匠の屋敷跡地に瞬間移動。
ここはもはや何もなく、邪気除去の特性を持つ花畑が広がっている。屋敷がふっ飛んだあと、念のため植えといたんだよな。
「さて、迎撃システム搭載っと。ついでにちょっといじっとくか」
あれこれやってたら、ふいに指輪が熱を持った。
「?!」
反射的に立ち上がる。
二つの指輪は俺をリューファとつなげるもの。精神面でも何か異変があれば、すぐに感知できるようになってる。万一俺みたいにループ中の記憶を知ってしまった時用に仕込んでおいた機能だ。
「リューファ!」
途中の作業を一瞬で終わらせ、迷うことなく俺は瞬間移動した。




