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14 勇者の前世①

 俺―――ネオ=アローズの一番古い記憶は母が死んだ日だった。

 うちは極貧の農民で、その日の食事に事欠くことも多いほどの貧乏。辺境の地で、村全体がみんな貧しかった。

 ある年、追い打ちをかけるように村を流行り病が襲う。

 国からの援助などあるわけがなく、医者もいない。薬もない。

 あっという間に次々村人が倒れ、帰らぬ人となった。母もその一人だった。

「うあああああ……!」

 父が息絶えた母にすがりついて号泣している。

「なぜ、なぜ妻が死なねばならなかった?! 薬さえ、食べ物さえあれば……!」

 薬と食糧があれば母も村人たちも死なずに済んだ。そのことは俺の記憶に焼き付き、成長してからの原動力となるがそれは後の話だ。

「かーさん……」

 俺はよちよちとベッドの上の母に近付いた。

 母はもう動くことも目を開けることもない。触れた手は骨と皮だけでひどくやせ細っていた。

 年の割に賢かった俺は意識的に感情をブロックし、涙を封じた。

 ……そのせいなのか単純に小さかったからか、母の顔は忘れてしまった。

 母は他の死者と同じように村の墓地に埋葬された。といっても地面に穴を掘っただけのもので、棺もなくそのまま埋めるだけだ。墓標もそのあたりで拾った石。

 飢饉で供える花すらなく、緑は枯れ、大地はひび割れていく。

 悲しくても働かなければ生きていけない。母の死のその日から、父は畑仕事に戻った。

 ……来る日も来る日も必死で食料を手に入れ、父子二人で疫病に怯えながら暮らした。

 ―――何年も経ち、俺が十歳の年。村は再び災厄に襲われた。

 魔物の襲来だ。

 近くの荒野に突如現れた巨大な芽。普通の植物にしてはありえないスピードで成長し、五メートルはあろうかというつぼみをつけた。植物型の魔物だ。

 村長がすぐさま領主に知らせ、領主も泡食って都に報告した。

 当時、魔法使いはまだ少なかった。数少ない彼らは国が囲い込み、都に住んでいた。地方で魔物が出現すると彼らが派遣されるわけだが、いかんせん連絡→派遣命令→到着まで時間がかかる。

 つまり救援が駆けつけるまでは自分たちでどうにかしなければならない。

 領主がとった策は、当然というか周辺住民を駆り出して戦わせる時間稼ぎだった。

 普通の村人たちに戦う術はない。要するに死んで来い、犠牲になってこいって意味だ。

 俺も駆り出された。十才っていったら十分労働力だからな。

 鍬や鎌といった農具を手に、決死隊を組まされた俺たちは魔物に近付いた。

 ―――が。

「わあ――っ!」

 突如根が盛り上がり、全員はねとばされた。

「ぎゃあっ」

「うう……」

 みんな地面に倒れ、うめく。

「み、みんな、生きてるか……?!」

「な、なんとか……あいつ、植物なのに動けるのかよ?!」

「魔物だから動けんじゃねぇの?!」

 一般人に魔物の知識はほとんどない。そもそも読み書きができず識字率が低い。俺も文字が読めなかった。

 魔物とはいえ植物なら動けないだろう、さっさと根本斬り倒せばいいという領主の浅はかな結論がこれだ。

 恐怖が場を支配した時、それを打ち破るような力強い声が響いた。

「魔物は私が引き受けよう。全員さがりなさい」

 振り返れば、黒いローブに身を包んだ男性がいた。

 モノクルをかけた、いかめしい顔つき。年の頃は三十代だろうか、ただ者ではない雰囲気を漂わせていた。手には杖を持っている。

 黒いローブは魔法使いの証。

 こいつは……あれ……?

 一瞬何か違和感を感じたのは気のせいだっただろうか。

「魔法使いだ!」

「魔法使い様が来てくださった!」

 歓声があがる。

 魔法使いは重々しくうなずくと、杖をかざした。

 俺たちの体が浮き上がり、魔法使いの背後に運ばれる。しかも傷まで治っていた。瞬時に詠唱ぬきで数十人をここまで運搬・治癒してのけたのだ。

「すごい……!」

 生まれて初めて見る魔法使いの技に、俺は素直に感動した。

 みんなも尊敬の眼差しで魔法使いを見上げる。

 魔法使いは鷹揚にうなずいた。モノクルを直し、

「ふむ……。長期休眠型の植物タイプだな。平均して五年ほど種の状態で地中で眠り、発芽して実をつける際、大量の栄養を必要とする。栄養分は種に蓄えられるわけだな。長い間眠った後に発芽するのに必要だからだ」

 説明している間に魔法使いが連れて来た兵たちがズラッとその後ろに整列する。剣を魔物に向けて構えた。

 すると、それに対抗するかのようにつぼみが開いた。

 毒々しいまでに赤い花。まるで人の血のように。花弁は六つあり、中心部には細かい歯がビッシリ。食人植物ってこういうのをいうんだろうな。

「ひっ……」

 村人たちが後ずさった。

「―――有名な『至高の魔法使い』か」

 しゃべった?!

 驚く俺たち。ついで、魔物なんだから動けるし、しゃべれるかと納得した。

 魔法使いは冷静に答える。

「ほう。私を知っているか」

「我の眷属は五年前きさまにやられたのだ。忘れはせん」

「なるほど」

 魔法使いは合点がいったらしい。周囲に説明する。

「ここより山三つ超えた地方で五年ほど前か、同種の魔物を討伐したことがある。こやつは逃げ延びるも、休眠するために大量の栄養が欲しかった。そこで人の生気を吸い取り、実をつけて種の形で地中に隠れた」

 ―――五年前?

 嫌な予感がする。

 直感的に分かった。恐ろしい推測を。

 みんな気づいたようだ。

「……五年前?」

「疫病が流行った年だ」

「原因不明で衰弱死してく人がたくさんいた」

「ふむ。それであろう」

 魔法使いはうなずいた。

「ひっそりとツルを伸ばして人の生気を吸い取るのだ。接触したことすら気づかないうちにごっそり奪われる。過労死や栄養失調と間違われることが多い」

 やっぱり……!

 俺はギリッと唇をかみしめた。

 母さんや村の人たちはこいつに殺されたんだ……!

 小さな村で、みんなが家族みたいなものだった。助け合って生きてきた。

 魔法使いは落ち着いて言った。

「安心せよ。こやつは私がここで倒す。この国の平和と人々のために」

 杖から光が放たれた。

 強力な炎の球が魔物に直撃する。植物系に火系の攻撃はダメージ大。

「ギャアアアアアッ!」

 反撃すら許さず、続けざまにたたきこんでいく。

 狙いは根元部分だ。植物系は大体、根が弱点だと後で知った。地面を壊して根っこをむき出しにし、直接焼く。

 次にツルを風邪の魔法で切断し、回復を防ぐ。念を入れてそれも焼却した。

 魔物はもがき、絶叫する。

「…………」

 俺はよろけながら立ち上がった。

 こいつのせいで、母さんや村のみんなが……。

 思いと共に、体の中に何か強大な力が膨れ上がる。

 巨大で強大な、何もかもを消し去れるほどの力。まるでブラックホールのように全てをのみ込めるもの。

「む?!」

 魔法使いが驚いて俺を振り返った。

「おのれええええ!」

 一瞬の隙を見逃さなかった魔物が最後の力で魔法使いに飛びかかろうとする。

「死ねぇ! 『至高の魔法使い』!」

「―――」

 同時に俺の中でそれは弾けた。

 すさまじい爆発が辺り一帯を襲った。

 鼓膜が破れそうなほどの轟音と光に全てがのみ込まれる。大地は割れ、物質はチリと化して吹き飛んで行く。

 光は天をも裂き、はるか遠くの都からも何かがあったと分かるレベルだったという。 

 ……しばらくして音と光が引くと、魔物がいたはずの空間には何も残っていなかった。ただ大きな空洞だけがぽっかりあいていた。

 とっさに魔法使いがみんなをバリアに包んで守ってくれなかったら、こっちも全滅していただろう。

 魔法使いはゼイゼイと荒い息を吐きつつ、唖然として俺を見つめていた。

 俺は……俺は無意識で自分を守ったんだろう。無傷で宙に浮いていた。

 虚ろな目で、ぼんやりえぐれた大地を眺めながら。


  ☆


 俺と父はその日のうちに、魔法使いに密かに呼ばれた。

「君はネオ=アローズというそうだな」

「は、はあ。魔法使い様、息子に何か……?」

 この当時、一般人にとって魔法使いは遥か雲の上の人である。貧乏な農民である父はひたすら恐縮していた。

 魔法使いはモノクルをカチャッと上げ、告げた。

「単刀直入に言おう。息子さんを私の弟子にしたい」

「はいっ?!」

 父の声が裏返った。

 俺も驚いて眉を上げる。

「今日魔物にとどめを刺したあの攻撃。あれは実は私の魔法ではない」

「えっ……そうだったのですか?」

 魔法使いは俺に目を向ける。

「……まさか……」

「うむ。あれはそのネオ君の力だ」

 父は仰天してぽかんと口を開けたままだった。

 さもありなん。うちは代々極貧の農民だ。

「魔法使いは突然変異的に現れるのだ。両親とも魔法使いでなくても生まれることがある。私のように。反対に、親が魔法使いでも子供がそうとは限らない」

 へえ。この人も親は普通の人だったのか。

「魔力を持っているかは生まれつきだ。一見して分かったが、この子はかなりの魔力を保有している。あれくらい造作もなかったろう」

「で、ですが、今までそんな兆候は……」

「魔力を持っていても、使い方を知らなければ発現しないことが多い。魔法使いによって見いだされ訓練を受けて使えるようになるか、何らかのきっかけで爆発することで分かるものだ」

「爆発……」

 まさしくあれは爆発だな。

「今回は間違いなく、母君の死の真相を知ったショックによるものだろう」

 …………。

 俺は黙っていた。

 魔法使いは右手の人差し指を上げ、

「これだけ強大な力を持っているなら、きちんとコントロールする術を覚えねばならん。でなければ自分自身を傷つけたり、下手をすれば人を巻き込んでしまうやもしれん」

「そ、それは……」

 あるな。現に、この魔法使いが防いでくれなかったら、辺りにいた人間全部消し飛んでただろう。俺以外は。

「ただでさえ魔法使いの素質を持つ者は貴重だ。よく学び、人々のために尽くすのがこの力を授かった者の義務である」

「それは分かっております。ですが、ネオはまだ子供で……」

「この子の身の安全のためでもあるのだ」

 魔法使いは真剣な口調で諭した。

「なぜ私があれを私の魔法だとごまかしたと思う。もしネオ君の力だと分かれば、迫害される危険があったからだ」

「……!」

 父は絶句した。

 確かに。村人たちは助け合って生きてきたけど、裏を返せば排他的で閉鎖的ってことだ。圧倒的で自分たちも死にそうな目に遭った原因が俺だと知れば、化け物だと攻撃してくるかもしれない。俺も魔物だと。

 鍬や斧持って集団で向かってくる光景が容易に想像できるな。

「貴重な魔力持ちを失うわけにはいかん。さらに魔力を持ちながら身を守る術を持たぬ者は、魔物の格好のエサだ」

「エサ!」

「魔物同士は食い合うと聞いたことはないか? あれは強い力の魔物を食らえば、その力を自分の者にできるからだ。むろん人間も食えば同じこと」

 想像しただけで父は青くなった。

「以上のことから、この子は私が引き取りたい。立派な魔法使いに育てると約束しよう」

「よ、喜んで! お願いします!」

 息子まで失いたくないと、父は土下座して頼んだ。

「我が家に来れば安全だし、広いから二人くらい増えてもどうということはない。父君も一緒に来られるといい。ネオ君もまだ子供だ、一人では心細かろう」

「いえ、そういうわけにはまいりません」

 意外にも父はきっぱり断った。

「ここはおれの生まれ育った村ですし、亡き妻の墓があります」

 父さん……。

 父は俺の頭に荒れた手を置いた。

「母さんを独りぼっちにはできないよ。行っておいで。お前なら大丈夫だ」

「…………」

 息子にかこつけて家族まで転がり込むのはあつかましいと考えたようだ。

 俺も魔法使いにはなりたい。ただ……この魔法使いについていっても大丈夫だろうか。

 無言で盗み見る。

 俺は生まれつき悪意や敵意に敏感だった。この魔法使いが巧妙に隠してても根っからの善人じゃないことは気づいてたんだ。初見で気づいた違和感はそれだ。

 なんていうか……確かに悪意ってほどじゃない。でも、言動が計算済みだって感じる。

 例えば現れた時。一番効果的なタイミングで現れたんだと思う。みんなが賞賛し尊敬のまなざしを向けると、表面上は謙虚を装ってたけど裏じゃ「これを待ってた」と満足してたのが分かった。気づいたのは俺だけだったようだが。

 たぶん長年『いい人』の仮面をかぶってるんだろう。年季が違う。そう簡単にはバレない。謙虚で善人の鏡のふりしながら、心の中じゃ「もっと崇めろ」とほくそえんでる。そんな感じだ。

 尊敬とか賞賛が好きなんだなぁ。

 なんでそんなもん欲しいんだろ。俺にはまったく理解できない。

 まぁ希少な魔法使いともてはやされてれば、天狗になるか。

 とはいえ……。

 やたらと冷静に分析してた俺はメリットも計算した。

 この魔法使いは相当な高位にあるようだ。彼に師事すれば勉強できる。一人前の魔法使いになり、薬の開発もできるようになるかもしれない。

 魔法使いになれば金が稼げて父に楽させてあげられるし、村にも援助できる。なにより今日の食事も事欠くことにはなるまい。

 俺はうなずいた。

「分かった。父さん」

「そうか? こちらとしては、父君が一緒でも一向にかまわんのだが、墓守という大事なことがあるのであれば無理じいはすまい。我が家には娘がおって、一人っ子で遊び相手を欲しがっていたし、ちょうどよいだろう」

「娘さんがいらっしゃるんですか」

「うむ。同じく魔法使いの修行中だ。共に勉強するとよい」

「はい!」

 俺と父は頭を下げた。

 かくして俺は魔法使い―――師匠に連れられて都へ向かうこととなった。


   ☆


 俺の弟子入りと出発を村人たちは祝い、見送ってくれた。

 師匠が魔法で兵ごと運ぶ。

 空を飛ぶなんて初めての経験だ。

「うわぁ……!」

 俺は歓声をあげた。

 速い。高い。

 けっこうなスピードで、ぐんぐん雲を追い越していく。

「すごい」を繰り返す俺に師匠は苦笑した。

「こんな魔法、初歩の初歩だ。お前もすぐ使えるようになる」

「ほんとですか?!」

 兵士の一人が手を横に振り、

「いやいや、坊主。これだけの人数を一気に運べるなんて、この方しかいないぞ」

 へぇ、そんなにすごい魔法使いなんだ。

 別の兵士が肩をすくめ、

「この方がどれだけ偉大か知らねぇのか? ま、田舎育ちじゃ無理ねぇか。あのな、この方は『至高の魔法使い』とうたわれる、この国……世界で一番すごい魔法使いなんだ」

「そうなの?!」

 マジか。

 けっこう強いんだろうとは思ってたけど、トップレベルだったとは。

 師匠は鷹揚に諭した。

「これこれ。言いすぎだ。世界には他にもすばらしい魔法使いはいる」

 て言ってるけど、まんざらでもなさそうだな。今回も隠してるし、他の誰も気づいてないが、謙遜と見せかけて相手の次の言葉を誘導してる。

 推測通り、兵士は師匠を賞賛する言葉を述べた。

「とんでもない! 多くの新しい魔法や発明品を作られ、数多の魔物を倒し、この国の危機を何度も救われた英雄ではないですか!」

「そうですとも! うちの村も貴方様に救って頂いたんです」

「他国とあわや戦争になりかけた時も、貴方様が来てくださったおかげであっちは撤退しました。でなきゃ、うちの村は虐殺されてた」

 みんな師匠に恩があるようで、心からの尊敬と感謝を捧げてる。

 褒められたいって理由はともかく、師匠が多くの人々を救ってるのは事実だ。

 ……悪いではないんだよなぁ。

 ただ、ちょっと気をつけとこ。このテの人間は村にもいたんで分かるんだよ。褒められてるのが自分なうちは満足してるんだけど、他の誰かが賞賛されると途端に不機嫌になる。へそ曲げるくらいならマシで、悪くすると攻撃的になったり、その人を排除しようとしたりすることもある。「自分の地位を脅かす敵」認識するわけだ。

 自分が常に一番じゃないと気がすまない人間って、どこにでもいるんだなぁ。魔法使いですらそうなのか。

 高潔な存在だと思ってた魔法使いも、ただの人間だって分かってちょっとガッカリした。

 ま、そりゃそうか。

 俺は魔力がすごいらしいから、下手に敵視されないよう気をつけなきゃな。ある程度隠しておいたほうがいいかもしれない。

 ―――くしくも、この直感は当たっていた。

「坊主、それにしてもラッキーだな。この方はこれまで弟子なんてとったことがないんだぞ」

「え? そうなんですか師匠」

「うむ。魔法使いは数が少ないがやることは山ほどあり、忙しいのだ。弟子を取る暇がなくてな」

「じゃ、その、俺は迷惑じゃ……」

「いいや。魔法使いの数を増やすことは急務だ。人手が多ければそれだけ多くの人々を救えるのだから。私もさすがに仕事が多すぎて助手がほしかった。それに、言ったように娘が寂しがっていてな。遊び相手ができたと喜ぶだろう」

 バン、と兵士が俺の背を力強くたたいた。

 いてぇよ。

「よかったなぁ! 『至高の魔法使い』のお嬢様といえば美少女だぞ?」

「えっ?」

 つい反応してしまった。

 ……しょーがないだろ。俺だって男だもんよ。

「かわいくて優しくて美人、しかもお姫様ときた」

「お姫様?」

「奥方様は国王陛下の妹君なんだよ! 正真正銘の王女様のご令嬢だ」

「……えええええ?!」

 驚愕のあまり叫んだ。

 国王の妹姫の娘?! 雲の上の人どころじゃない、とんでもなく高貴な身分の方じゃないか!

 そんなお姫様の遊び相手に、俺みたいな汚くて学もないド田舎の貧乏人の子供をいいのかよ?!

 師匠は首を振り、

「私は王族ではなく、妻もすでに王族の籍を離れている。ただの一貴族だよ」

 兵士たちは唇を尖らせ、

「王女様は王女様ですってぇ。お嬢様もやっぱ姫様ですよ。今んとこ王位継承権第一位なんですし」

「王位け……?」

 どういう意味?

「王様になれる権利を持ってるってことだよ。そのランキングがお嬢様は一位なんだ。王女様は結婚して臣下になった時に権利捨ててるけど、その子供までは捨ててないからな。陛下にお子がいないもんで、万一の時は一番近い親族っつーわけでお嬢様が王様になるんだよ」

「はぁ!?」

 ちょっと待てよ。俺、女王様になるかもしんない人のお付きになんの?!

 畏れ多すぎてサーっと血の気が引いた。

「師匠! 田舎育ちの貧乏人のガキがお姫様に仕えるなんて無理ですよ!」

「姫ではないと言っておるだろう。心配せずともよい、ここだけの話だが娘が女王になることはまずありえん。君は私の弟子なのだから内情も包み隠さず話しておくが、本当は娘の権利も放棄すると生まれた時に陛下に申し上げているのだ。それを陛下たっての頼みで保留にしているまで」

「え? ……ああ、陛下に子供ができるまでってことですか」

「まぁそうだ。もし娘が権利を捨てたら、次の権利保持者が繰り上がる。……ところがこやつが問題でな」

 師匠は困ったように顎をしごいた。

 兵士たちは事情を知ってるらしく、教えてくれた。

「現国王陛下にとっては従兄弟にあたる男なんだけどさぁ、コイツろくでもねーんだよ」

「贅沢好きの女好き、金もバンバン使っちまう。足りなきゃ増税して絞りとりゃいいと思ってんだ」

「大酒のみな上、酒癖もわりぃんだぜ? 絡むわ暴れるわ。おれ昔仕えてたんだけど、殴られてやってらんねぇと思って辞めたんだ」

「うむ、そういうわけで……あやつが王にでもなれば、この国はおしまいだ」

 同意する兵たち。

「陛下も阻止したいのは同じ。そこで、陛下にお子ができるまでの時間稼ぎとして娘の権利をそのままにしてあるのだ」

「なるほど」

 王の従兄弟もこれにいちゃもんはつけられない。国王実妹の娘はより血縁的に近いし、国内最強の魔法使いである師匠が父親だ。

 この師匠を敵に回したらどうなるか、アホでも分かるだろう。さすがに手が出せない。

「だがその弊害というか、娘には友達がおらん。貴族の中から遊び相手を選ぼうとしたのだが、派閥争いになりかけてな。誰をとっても権力争いに発展してしまう。困ったものだ」

 そりゃーご学友って名目で近づき、婿に収まってあわよくば王配にって狙うよな。

 身分の高い人は大変だ。

 師匠は俺の方を向いて言った。

「よって、君は最適なのだよ。権力とは一切無縁、田舎育ちの一般庶民ゆえ権力者とのつながりもなく、厄介な係累もいない。あの通り父君は無欲な方だからな」

 ―――あー、はいはい。

 腑に落ちた。

 どっからご学友選んでも角が立つんで、完全に無関係なとこから中立な第三者を持ってきたってわけ。

 貧乏で何も持ってない俺は、側近にしてもトラブルを起こしようがない。手段も方法もツテもなもんな。、悪だくみしたとしても潰すのが簡単。貧乏人のガキ一人、サクッと消せるじゃん。

 母親はすでに亡く、父親も転がり込むのは駄目だと辞退したほど無欲。つまりあれは師匠のテストだったのか。俺に面倒な家族・親戚がいるかどうかの判定。

 貴族たちにとっても、俺じゃライバルにもならない。貴族は農民なんて露骨に差別して見下してる。遊び相手なんて名ばかりの、実質召使いだって勝手に納得するさ。

 落としどころとして俺はちょうどよかったんだな。

「理解しました」

「うむ。娘の友達になってやってくれ。頼むぞ」

「はい。がんばります」

 さーて、どんな娘さんだか。

 こっそりため息ついた。

 偉ぶって意地の悪いやつじゃないといいな。貴族に冷遇されるのは慣れてるからいいんだけど、勉強の邪魔されるのは困る。

 俺はあんまり期待してなかった。


   ☆


 師匠の屋敷はそれはそれは大きかった。

「お、大きいですね……」

 生まれてこの方、村を出たことのない俺は貴族の邸宅なんて見たことがない。唖然とした。

 新しくてきれいで、雨漏りしなさそう。むしろ小型の城じゃね?

 うわ、花園まであるよ。野菜育ててる畑とかじゃなくて? 花なんか食えねーじゃん。

「君たちはこれに乗っていきなさい」

 師匠は魔法の絨毯を出し、兵に渡した。たたむとポケットに入るほど小さくて、でも広げると百人が乗れるという。

「いつも通り、帰還ポイントを設定してある。それからこれは報告書だ。陛下にお渡しするように」

「はい、承知しました! ありがとうございます!」

 絨毯はあっという間に見えなくなった。

「あれも魔法ですか?」

「魔具だ。魔法を施したアイテムで、魔力のない者も使える。ただし組み込んである魔力分しか動かんが。あれはただ目的地まで飛ばせるだけの初歩的なもので、君もあれくらいすぐ作れるようになるだろう」

「へえ……」

 魔法使いじゃなくても使えるのか、便利だな。

「おや、娘のお出迎えだ」

 言われて視線を屋敷へ向けると、人影が見えた。

 俺より小さな女の子―――。

「―――っ」

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 その瞬間、世界が停止したようだった。彼女以外目に入らない。

 魔法使いにとって最高と言われる黒く長い髪、黒く輝く瞳をしたかわいい女の子。

 一瞬で心を奪われた。

「……っ」

 俺はバカみたいに呆けていた。

 こ、こんなきれいな女の子初めて見た。かわいくて、砂糖菓子みたいで、ふわふわしてて。周りもキラキラしてる。花が舞ってるのは幻覚か現実か?

 頬が熱くなる。

 だ、ダメだ、俺の表現力じゃとても足りない。かわいいしか出てこない。彼女を描くには、この世のありとあらゆる言葉を尽くしてもまだまだ不足だ。

 こ、これが恋ってやつか。

 分かりやすくポーっとしてる俺に、師匠が口角をあげた。

「お帰りなさいっ、お父様!」

 妖精みたいな女の子がとてとて駆け寄ってくる。

 ぐはぁッ!

 正面からものすごい攻撃くらった。もはや瀕死。

 かわいすぎて死ぬかと思った。

 『とてとて』って! 何その足音! 超かわいいんですけど、何この生き物! 女神か天使か妖精か?!

 黒髪がふわっと揺れていい香りがする。うわああ、クラクラする。

 悶絶するほどかわいい外見な上、声までかわいいし! 鈴の音を転がすようなってのはまさにこういうことだな。

 ヤバいヤバいヤバい。何がヤバいのか分かんねーけどもう俺が何考えてんだか意味不明だけどとにかくヤバイ。鼻血出る。それか、喉から血が出るほど叫びたい。

 俺が悶えて震えてるのを、彼女は緊張してると思ったようだ。

 いやまぁ、緊張はしてたよ。女の子に一目ぼれして、しかも初恋だ。どうしたらいいか分からず挙動不審。

「初めまして。お父様から連絡受けてたの、あなたがネオくんね? あたしはカレン」

 初恋の相手が手差し出してきた。

 カレン。カレンっていうのか。名前までかわいい。

 もはや『かわいい』で脳が埋まってる俺はアホである。

 落ち着け俺、この子は師匠のお嬢様でお姫様。俺なんかが好きになるのもおこがましいんだぞ。

 必死で言い聞かせ、何とか言葉を絞り出した。

「……初めまして」

 ああああああ気の利いたセリフの一つも出てこねーのかよ俺は。

 このヘタレ! アホ!

 心の中でおもいっきり自分をののしってボコボコにする。

 彼女の後ろにいた女性がにっこりする。

「初めまして。私はこの子の母です」

「奥様ですか。よろしくお願いします」

 ハッとして頭を下げた。

 元姫と確かに分かる、高貴さが漂っている。さすが王族、言動が優雅だ。

 とっさに王族に対する礼をとろうと跪こうとして、カレンが手をつかんだ。

「よろしくね」

 ひょわああああああ!←心の叫び

 やっ……やわらか! ちっさ! ほっそ!

 肌すっべすべ! とにかくやわらかっ。

 うちの村の子どもなんか労働力だから手なんてガサガサだよ。汚れててガリガリだし。

 こっ……こんな……こ……うわあああああ。

 もうダメだ自分。

「ぼ、僕汚いよ!」

 初めて『僕』なんつったよ。誰だよお前。

 慌てて手をひっこめようとすると、カレンは言った。

「そんなことないわ。がんばってきた働き者のえらい手じゃない」

「―――」

 ……涙が出そうになった。

 敵意や悪意に敏感な俺は、彼女が本当にそう思ってると分かる。

 師匠の娘だから似てるのかも、最悪な性格かもなんて予想してたけど全然違う。

 優しい、優しいお姫様。かわいくてきれいで可憐な少女。薄汚い貧乏人のガキにも親切で。

 好きにならないはずがないじゃないか。

「……ありがとう」

 小さくつぶやいた。

 この子の傍にいられる。なんて幸運なんだろう。

 言われるまでもなく、この恋は叶わない。お姫様はいずれ貴族か王族と結婚するもんだ。俺みたいなド田舎の百姓のせがれじゃなくて。

 それでもいい。彼女の傍にいられるだけで十分だ。

 いつか彼女が大人になって、好きな男の元に嫁ぐまで仕えるのが俺のやるべきことだ。

 ふと気づけば、カレンは考え込んでいた。

 どうしたんだ?

 カレンはナイスアイデアと指を鳴らした。

「そんなに気になるなら、お風呂に入ればいいわ。来て」

「?!」

 そのまま屋敷の中へ連れてかれる。

 うわっ、ちょ、え?! 師匠、師匠は?!

 助けを求めるように振り返れば、スルーしてさっさと自分の部屋へ行ってしまった。

 置いてくのかよ!

 広くてきれいな風呂に通された。

「うわ、すごい……」

 庶民の家に風呂はない。川で水浴びが普通だ。

 しかも魔法使ったらしく、一瞬でお湯がはられた。

「別にたいしたことじゃないわ。あなたもこれくらいすぐできるようになるわよ。さー、脱いで脱いでー」

 いきなり服を脱がされそうになり、俺は真っ赤になって叫んだ。

「やめろおおおっ!」

 敬語とかすっ飛ばして悲鳴。

 ぎゃあああああ、好きな子の前で脱げるか――!

「はいはーい。ちょっとやめましょうねー」

「お嬢様! おやめください!」

 すかさず侍女が暴れようとした俺を止め、執事らしき男性が彼女を止めた。

 カレンはきょとんとして、

「え、なんで? 服を脱がなきゃお風呂には入れないでしょ」

「わたくしが! わたくしがやりますのでお嬢様は歓迎のお茶菓子選びをお願いいたします!」

「猫や犬は何度も洗ってあげてるから慣れてるのに」

 犬猫扱い。ドスっと鋭い攻撃が心に来たよ。

 ……ふ……そうだよな。男として見てるわけねーよな。別の意味でちょっと泣きてーけど。

「年頃の男の子と一緒にしちゃだめよ。さ、歓迎の準備をしましょうね」

 慌てて追いかけてきた師匠の奥様がカレンの背を押した。

 た、助かった……。

 初老の執事は心得ていて、適度な距離間で手伝ってくれた。

 着替えとして渡された服は新品だった。魔法使いの黒い色。あちこちに刺繍が入っている。

「こ、これ俺が着ていいんですか? 何かの間違いじゃ?」

「ご主人様から連絡を受けて、君のために作っておいたものだよ。これを着ていれば魔法使いだと一発で分かるし、弟子がみすぼらしい格好をしていては師に迷惑がかかると思ってありがたくもらっておきなさい」

 俺の心を軽くするためだろう、執事は軽い調子で言ってくれた。

 着替えるとサンルームへ案内された。

 カレンは花もほころぶ笑顔で喜んでくれた。

「すっごく似合ってる!」

「僕、こんないいものを着るわけには……」

 また『僕』っていいかっこしようとして俺は。

 奥様が微笑した。

「それは魔法使いの服。刺繍一つでも意味があるのよ。まだあなたは魔力のコントロールも上手くできてないから、補助する役割があるわ」

「そうだったんですか」

 あ、なるほど。

「あの人が弟子をとるのは初めてだから、私もどんなのを用意すればいいか迷っちゃった。うちには男の子がいないから、好みがよく分からなくて。嫌いだったらごめんなさいね」

「いえ、とんでもない! 僕は好意で弟子にしてもらったのに、そこまでよくしていただくなんて」

 ふいにカレンが呪文を唱えた。俺の手にあったはずの無数の傷が消えてる。

 え!? 今のって……これが回復魔法?!

「あたしね、すっごくうれしかったの! パパは忙しいから家にいること少ないし。一人っ子で友達もいないから、ずっと独りぼっちだった。でも、今日から違うのよね。お兄ちゃん代わりができたんだもの!」

「お兄ちゃん?」

 思いもかけない言葉に目を白黒させる。

「うん! 新しい家族!」

 カレンは満面の笑みで抱きついてきた。

 うっうわああああああ!

 叫ばなかった俺を褒めてもらいたい。

 し、死ぬ。マジで幸せすぎて死ぬ。

 口をパクパクさせ、真っ赤になって固まる。

 何を考えてるかモロバレな俺と、純粋に友達ができてうれしい彼女を周囲は微笑まし気に眺めていた。


   ☆


「―――ネオ!」

「どうした? カレン」

 図書室で本を読んでた俺は顔を上げた。

 少し大きくなったカレンがちょこちょこと駆け寄ってくる。相変わらず擬音がかわいらしい。内心悶えまくってるのを必死で隠した。

「もう中級魔法もマスターしたんでしょ? すごいわね!」

「別に。……俺は必死なだけだよ。師匠に拾ってもらったんだ、早く役に立たなくちゃ」

 あえてそっけなく言う。照れを見抜いたカレンは「ふーん?」とニヤニヤしてた。

 俺を家族同然に扱ってくれるカレンは敬語をやめてほしいと、来た初日に言った。それ以降俺も普通のしゃべり方にしてる。

 語学やマナーを真っ先に習ったんで、汚い言葉遣いはしてない。

「それに俺んちは貧乏だから。母さんが流行り病にかかって、父さんは必死で働いたけど、薬を買う金もなかった。だから母さんは死んじゃって、今は父さん一人。しかも過労でボロボロだ。俺も早く稼がないと」

 薬学は師匠があまり興味を示していない点でも都合がいい。俺がやっても敵視されにくいと踏んだ。

 師匠が興味があるのは魔法の研究で、特にいかにすごい魔法を作り出すかだ。ぶっちゃけて言うと視覚的にも威力的にも圧倒的で「誰も見たことがない」ものを作ることが好き。なぜなら第一人者として一目置かれるし、人々から称賛されるからだ。

 魔物退治も好んでやってる。何かを倒すって成果が目に見えるのと、征服欲が満たされるんで好都合なんだろうな。みんな喜んで褒めてくれる、自分の名声も高まる、試作品の魔法で好き放題実験できる、と一石二鳥どころか三鳥。

 俺は人から「すごい」って言ってもらえる魔法の創造なんか興味ない。うっかりするとあの時みたく暴発する危険があるんだ、それより上手いコントロール方法探す方がいいよ。

 実はこっそり自主練してる。

 カレンは少し考えて、

「魔法でお金を稼ぐ方法はいくつかあるけど……。パパに相談してみましょ。今日は授業があるから帰ってくるはずだもの」

 この時代、魔法使いは数が少なく忙しい。けど俺を引き取ってからは、授業のため帰ってくる頻度が上がっていたらしい。

「パパー」

 カレンは師匠が帰ってくると父親の部屋に向かった。師匠は本を積み重ね、何やら熱心に研究していた。

 まぁた何を考えてるのやら。

 内心あきれる。

 どうせいかに自分のすごさを見せつける魔法作るかとか考えてんだろーな。

 でも師匠は絶対本性を外には出さない。外面の良さは確かにすごいと思う。自覚がなくて無意識にやってるからかもしれないな。どうやら危険性に気付いてるのはカレンだけらしいと俺は分析した。

 この屋敷に来て割とすぐにそれは気づいた。カレンは大人びてるのにそれをあえて隠し、特に父親に気を遣ってる。決して出過ぎず、父親に敵視されないよう自分は『下』の存在だと見せかけるようにしてた。

 師匠は自分より相手が格下だと安心する。自分のほうが優れていれば寛容で温和なんだ。だからわざと無知で無邪気なふりしてるんだと悟った。

 実の親子なのに。首をかしげたくなる。

 そりゃ、村でも仲の悪い親子はいたさ。でもここまで子供側が恐怖にも似た思いで、自分の身を守るために気を張って演じてるのを見たことはなかった。カレンはそうしなければ自分は殺されると思ってるフシがある。

 いくら何でも殺しはしないと思うけど。実の娘だろ?

 師匠は性格は難アリだが、娘への愛情は持ってる。時折それが見えるよ。だから、さすがに我が子をいくら自分を超えてしまっても殺すまではいかないんじゃないのかなぁ?

 師匠は今も黙ってカレンの話を聞き、ちゃんと教えてくれた。

「ふむ。よくあるのは薬を作って売ることだな。ただ貧しい人々は薬を買う金がない。その点は国王陛下も問題視されている」

「はい。値段が高すぎるんです。俺の母も薬が買えなかったせいで死にました。なぜこんなに高いんでしょうか?」

「一つには魔法使いが金稼ぎのためわざと値段を吊り上げていること。一つは単純に原材料が高価だからだ。例えばこれ」

 師匠は標本を出して教える。

「我が国の気候では栽培が難しく、入手しづらい。現在は輸入に頼っている状況だ。元々薬草の栽培研究が遅れていて、ほとんどを輸入しているからな。国内でも人工的に栽培できればいいのだが」

「気候ですか……」

 魔法を使っても気候を変えることはできない。一時的に晴れにしたりくらいはどうにかなっても、常に一部の天気や温度・湿度を変えてしまっては世界レベルで影響が出ることは想像がつく。

 ちょっとまずいな。

「やってみる価値はあるぞ。成功すれば、たくさんの人が救われる。こっちの標本はペガサスの角の一部で、これも薬になる。だがなにしろペガサスは希少だからな。馬のように牧場で繁殖できないか、研究中だ」

「すごーい! ペガサスいっぱいの牧場なんて夢みたい!」

 カレンが手をたたいて喜んでいる。

 って、それカレンが誘導して師匠が『考え出した』ものだよな。

 カレンは自分から何かを作ろうとすることがない。誰も見たことがない新しいものを作り出してしまったら、師匠に敵視されると分かってるからだろう。これみたく、「ペガサスってきれいだよねぇ。でも数少ないんでしょ? いっぱいいればいいのに……お馬さんみたいに」って師匠の前でつぶやいて、師匠の思考を誘導する方法をとる。決して自分が考え出したことにはしない。

 上手いよな。こういう技術がカレンは巧みだ。師匠も全然気づかず、自分の手柄だと思ってる。幼い娘に誘導されて『創造した』のに悦に入ってるのは滑稽だが。

 なるほど、こうやって満足させてればいいことを俺はカレンから学んだ。

「こっちの鉱物は魔具によく使われる。それゆえほとんどの鉱脈を掘りつくしてしまってな。代替品の研究が盛んだ」

「へえー、おもしろそう。ネオ、どれかやってみたら?」

「ああ、やってみる」

 すでに他にも研究してる人間がいるなら、俺が『第一人者』になならずにすむ。先に色んな人が研究しててくれたから成功したんだって言えるからな。師匠も俺を敵視はしないだろう。

 失敗データや上手くいった結果もあるだろうし、データが豊富なほうがやりやすい。

「作物を育てるなら、父君に来てもらったらどうだ。慣れているだろう。人手もあったほうがよい」

「父はまた辞退するかもしれませんが……きいてみます」

 最近あまり体調がよくないと聞く。連絡したところ、やはり固辞していたが、説得して来てもらうことにした。

「わたしまで住まわせていただいて。先生には本当に感謝しかありません」

「いやいや。息子さんがいなくなればあなたも一人。寂しいでしょう。ネオも寂しがっているでしょうしね。しかもあなたは病人だ。大切な弟子のお父上なんですから、ゆっくり養生なさってください。それにあなたがいてくださるほうが助かります。私はこの通り忙しい。娘には寂しい思いをさせています。ですから私のいない間、ぜひ父親代わりになってやってください」

「そ、そんな畏れ多い!」

 よくまぁ心にもないこと言うなぁと感心した。俺の指導のため在宅が多くなったとはいえ、まだまだ留守がちで娘が寂しがっててかわいそうとは確かに思ってるみたいだけど、俺の父を父親代わりにしてもいいなんてカケラも思ってないくせに。しょせんは無学な貧乏人と優越感たっぷりだよな。

 ただし奇妙なのは、師匠にとって身分はどうでもいいらしいってことだ。先祖が王の庶子で、自身も功績からじゅうぶん叙爵を狙えるのに何もしない。それどころか王の打診を断ってる。

 自分が一番『上』じゃないと我慢できないのに、身分や爵位はいらないんだ? 変なの。

 俺は首をかしげた。

 薬草の増産は試行錯誤の末、成功した。

「……ついに成功したぞ!」

 成功した理由は温室の発明だった。魔法で適した温度・湿度に整えた屋内での栽培。魔法の絨毯で使ってるみたいに、魔力をこめた電池はすでに師匠が開発してる。それを部屋に組み込んだわけだ。

「やったあ! よかったね、ネオ!」

 カレンが大喜びで抱きついた。

 っかわいいいいい。

 俺が感動でうち震えてるように見えたらしいが、感動ポイントはこっちだ。

 自分の発明した電池のおかげで成功したという自負から、師匠も満足げだった。

 まぁ確かにその通り。師匠の発明品や知識がなければできなかった。

「これでたくさんの人を救うことができるな。よくやった」

「はい! 全部師匠のおかげです。ありがとうございます!」

 このことは王に報告され、俺はある日午前に呼ばれることになった。

「えっ……陛下がお呼びなんですか?」

 さすがに慌てた。

 ド田舎の貧乏人のガキにとって、王族なんて一生のうちに会えるかどうか分からないレベルだ。ああ、奥様は元王女だし、カレンも実質お姫様なんだけど。

「うむ。お前の薬草栽培の成功を聞き、お褒めの言葉をくださるらしい。私もちょうど報告したいことがあったところだ、一緒に来なさい」

「お、俺がお目にかかって大丈夫でしょうか? マナーとか」

「教えてたことを完璧にマスターしているだろう? 問題ない」

「そうよ、お兄様は気さくな方だもの。私も行くし、大丈夫よ」

 元王女殿下一家のお付きみたいな感じで城へ向かった。実際そうか。

 初めて見る都はすごいの一言だった。人が多い、物も多い、活気にあふれてる。何より大きくて荘厳なお城に圧倒された。

 城の中もとにかくすごい。師匠の屋敷も相当だけど、こっちも高そうなものばかり。下手な動きしたら何か壊しそうで恐い。

 緊張マックスでガクブルしてるうちに王の前まで連れてこられてた。

 現国王はいかにも「王様」って感じの男性だった。奥様とは全然似てない。王は父方、奥様は母方に似てるらしい。

 華美じゃないが品のいい服に身を包み、玉座に腰かけてる。

「おぬしがカレンの学友か。『至高の魔法使い』からなかなか見どころのある少年だと聞いている。彼は国内一、いた、世界一の天才だ。よく学び、師のように立派な魔法使いとなるように」

「はっ」

 最敬礼する。

 しながら眉をひそめたくなった。

 なんだ、この違和感は。

 ああ、そうか。王の言葉と内心が違う気がするんだ。

 悪意や敵意に敏感な俺は、巧妙に隠されててもそれに気づいた。

 王は師匠のけた外れなプライドの高さと、常に褒められていなければ気がすまない本性を知ってる。だから適度にヨイショしてるんだ。巧妙に師匠をいい気分にさせて知識を出させ、自分の利益につなげようとしてる。

 おそらく誰も気づいてないな。まぁそれくらいしたたかじゃなきゃ、一国の王なんてやってられないか。

 ……なかなかたいした王サマなようだ。

 王はカレンに心からの親しみがこもった視線を向け、

「カレンも年の近い友人ができてよかったな。楽しいかい?」

「はい、伯父様」

 ふぅん。子供のいない王にとって、カレンは我が子同然ってわけか。かわいくてたまらないって感じだ。

 奥様と王が久しぶりに兄妹水入らずの話をしたりするうちに結構時間が経ってたらしい。

 一人のすらりとした女性が入って来た。黒いローブで魔法使いと分かる。

 キツイ顔つきで腰回りに鞭をつけた、Sっぽい女性。見た目は二十代だけど、かなり年いってそうだ。

 師匠から一瞬不快そうな空気が漏れた。

「陛下。お時間です」

 ピシッと幼子を叱るように言う。

 王が妹と歓談してるとこに入ってくるとこといい、この言い方といい、相当重要人物か?

「む? ああ」

 王は母親に対する罰の悪い子どもみたいな様子で、

「まったく、久々に会った妹とゆっくり話すこともできんとは」

「仕方ありません。王というのは民のために働くものです」

「分かってる分かってる。説教はもうたくさんだ」

 奥様は気を遣って腰を上げた。

「お兄様、そろそろ私達はお暇しますわ。邪魔してはいけませんもの」

「すまんな。ああ、だがその……ネオ君だけはまだ少し話がしたい。残していってくれるか」

 ええ? やだな、めんどくさい。

 奥様は困ったように首をかしげ、

「いじめないでくださいよ?」

「しないよ。ついでに司法長官を紹介しておくだけだ」

 嫌だけど国王から命じられれば従うしかない。俺は残った。

 言葉通り、入って来た女性を紹介される。司法長官で、前国王つまり現国王の父親の代にはすでにベテランだったという魔法使いだった。

 ……いくつだよ。

 地位や名声にまったく興味がなく研究一筋できたものの、現国王が若い頃にこの国は隣国と戦争になったことがある。その際立ち上がり、両国に説教して和解に持ち込んだという。以後、本人は嫌がってるが司法長官の座に据えられた。

 他国への牽制だな。

「―――ところで本題に入ろう」

 王はふいに居住まいを正した。

「『至高の魔法使い』に師事しているなら分かっているだろうが、あやつの知識や技術は非常に貴重なものだ」

「……はい」

 話がどの方向に行くのか分からず、慎重に頷く。

「他に類を見ず、独特で多岐にわたっている。よいか、これから先話すことは他言無用である」

「はい」

「あやつはその全てを自ら考えだしたものだと思っておるが、おそらくそうではあるまい。あれらは前世の記憶であろう」

「―――」

 この世界では魂は転生する。それが当たり前だ。

 たいてい転生すれば前世の記憶を失うが、稀に覚えているケースもあるときく。

 俺も考えたことのある仮説だったkら、さほど驚かなかった。

 司法長官もすでに聞いた話らしく、冷静だ。

「いくら天才でも、あれほど広範囲の分野を独力でカバーできるとは思えん。あまりにスラスラと出てきすぎるしな。あれは『考えついた』というより『思い出した』だ。つまり前世学んだ・知っていたことを思い出しているだけなのだ」

「…………」

「あやつは一体いつの時代のどこの人間だったのはは知らぬ。それはどうでもよい。ただそこではあやつの知っていることは誰もが知っていることであり、特段珍しくもないのであろう。ふふ……」

 王は肩を揺らした。

 笑ってる。

「……ははは!」

 上を向いて嘲笑した。

「愚かだなぁ! あれほどの情報を記憶しているのだから知能が高いのは確かだろうに、なんとまぁ。今は失われただけでかつては一般常識にすぎないものを、さも自分が作り出したことのように。勘違いして悦に入っているだけだ。天才だ、我こそは至高の存在だとな。鼻高々なあやつの正体は、ただの褒められたがりな子供と同じ。ねぇぼくすごいでしょう?ほめてよ!とな! 馬鹿めが!」

 ……こいつ……。

 困って司法長官を見れば、冷やかに王を見つめてた。

 ふと目が合う。

 お互い何を考えてるか分かった。

「本人は巧妙に隠しているつもりでも、余には分かる。人から褒められたい、一番でなければ気が済まないというあやつの欲望をな。現にそれを満たしてやればあの通りだ。あやつよりも余のほうが演技は上手だ。余の手のひらで踊らされているとも知らずに偉ぶって、愚か者め」

 王の表情はどこか狂気を孕んでいた。

「よいか。お前の役目はあやつからさらに情報を引き出すことだ。上手くおだてて機嫌を取り、知識を出させろ。妹もその目的で嫁がせたのに失敗ばかりだ。まったく、なんのために嫁がせたのか」

 へー。王女である奥様を、いくら才能ある魔法使いとはいえ降嫁させたのはそのためか。

「あの男が自分こそ最も偉いと思っているなら、そう思わせておけ。まったくお笑いだ。まったく事実と反することを信じ込みおって。―――余こそが世界で最も優れた存在である」

 王は満足げに言い切った。

 …………。

「あやつを操っているのは余だ。余のほうが当然優れているに決まっているであろう。そうとは知らずに間抜けな踊りを続けている、馬鹿なやつよ。くっくっく」

「…………」

「陛下」

 司法長官が口をはさんだ。

「そのような考えはおやめになったほうがいいと再三申し上げてますよね。いつか大変なことが起きますよ」

「お得意の予知か? ふん、外れることもよくあるだろう」

「元々予知能力など万能ではありません。漠然としたものしか見えないし、見たことによって現在の行動を変えれば未来が変わり、結果予知が外れるのは当然の道理」

「知っておる。もうよい、二人とも下がれ。小僧、よいな? 役割をゆめゆめ忘れるな。余のために働くのだ。あやつを上手く利用すれば、世界が我が物になる……ふふふ……」

 俺は肯定も否定もせず退席した。

 司法長官が黙ってついて来いと目配せしてくる。ついていった。

 人気のない庭園まで来てから、司法長官はおもむろに口を開いた。

「周囲に防音障壁の魔法をかけたわ。さて。―――どう? 感想は。驚いたでしょう。あれがこの国の王よ」

 いくら魔法で人に聞かれないとはいえ、すごいこと言うな。

「不敬? まぁね。でも私のほうがはるかに年上で、あの子なんてヒヨッコだし。それに私くらいしか諫められないから。そしてどうやらあなたも『至高の魔法使い』の本質に気付いていたみたいね?」

 この人は信用できる。直感的にそう思った。

 悪意や敵意がない。善良な人だ。

 師匠に騙されない相手だから、この人が入って来た時、師匠がつい嫌そうなオーラ出しかけたのか。

「ええ。そちらもなようですね」

「あの男は隠すのが上手いからねぇ……。本性知ってるのはわずかな人間だけよ。中でも最悪なのが王ね。己の野望のために利用しようとしてる」

「世界征服ですか。……バカらしい」

 世界を手に入れてどーすんだ? 一番偉くなりたい? 人がかしずいて虚栄心満たされないとダメって。

 司法長官はあっさり同意した。

「本当に。そんなことして何になるのかしらねぇ。虚栄心やら承認欲求やら満たされたいなら、もっと他の、人に迷惑かけない方法にしてほしいわ。栄枯盛衰―――どんなに栄華を極めても、いずれ終わりが来る。次は追い落とされるだけよ。いつとってかわられるか、戦々恐々となるだけなのにね。そんなに人にかしずかれたいなんて、あの男と同じだわ」

「毒舌ですね」

「言ったでしょう、私しか言えないと。私は本来どこかにひっこんで研究だけしていたいの。こんな所にいたくなんかないのよ。なのにこうしているのは、ひとえにこのままでは厄介なことが起こるから。私が諫めて王が思いとどまってくればいいと願ってのことよ」

「さっきちらっとうかがいましたが……予知能力があるんですか?」

 生まれつきの特殊能力の一つで、特に予知はめったにいないときく。

「ええ。国内では一番強いわ。といっても、曖昧なものしか見えないんだけれどね。思ってるほど役に立たないわよ。未来はどんどん変化するし」

 司法長官はまっすぐ俺を見た。

「予知であなたが『至高の魔法使い』の弟子になることは分かっていたわ。そしてあなたが未来を大きく変える存在だということも」

「俺が?」

 まっさかー。

「具体的なことは分からない。そのあたりの未来はひどくぼやけていて……少なくともまだまだ先のことのようだけど。恐らく……王の目論見はいずれ外れる。計画は大失敗するでしょう。それは間違いない」

「それはよかった。世界征服の片棒担ぐのはゴメンですね」

「『至高の魔法使い』が王の思惑に気付くとは思えないわ。自分が手の中で転がされてたとは死んでも認めたくないでしょう。もっと頭のいい人間がいるなんて思ってもいない男だから。そうではなくて、あの男の大きすぎる虚栄心とプライドが膨張しすぎて爆発すると思うのよ。もっと、もっと欲しいといくら褒められても満たされず、際限がないんだもの。いつかあの男より『上』が現れて怒り狂うでしょう。いつまでも彼が一番ではいられない」

「どういうことですか?」

「あの男の持つ知識には限りがある。前世の記憶が出尽くしてしまえば、それ以上『新発見』はできないわ」

 そうか。師匠が記憶してる情報を吐き出してしまえば終わりなんだ。

 本当に考えだしてるんならまだ思いつくかもしれないが、違う。師匠に一から新しいものを創造する力はない。

 ただ、これだけの情報量を記憶しておけるんだからそこは誇っていいと思う。確かに才能はある。十分人から尊敬うけるだけのことはあるんだよ。

 でも人の手柄を自分のものにしてるのが問題ってだけ。それと、それで満足してればよかったんだ。

 師匠もバカじゃない、『新発見』が本当は前世の知識なだけだと分かるだろうに。……いや、あれは意図的にそういう思考ブロックしてるんだろうな。自分の功績だと思い込みたくて。自己暗示といったほうが正しいかも。

「今はまだあの男の知識は『最初』で珍しく画期的だけど、それが広まって『誰もが知っている当たり前のこと』になったら? 最初の発見者として得られる尊敬程度じゃ、あの男は満足できないでしょう。褒められることに慣れてしまって感覚がマヒしてるのか、年々あの男の要求はひどくなってるわ。悪化の一途よ」

 人間てのは最初こそもらえると喜ぶけど、それがいつもになると物足りなくなる。そういうもんだ。

「王が助長してるのも問題なのよね。しかも、必ず他にも優れた才能を持つ者が現れるはず。彼が広めた知識を受け、そこから新たなものを生み出せる本物の天才がね。『至高の魔法使い』を超える何者かが現れるでしょう」

 師匠を超える……?

「そりゃそうでしょう。上には上がいるもんだ」

「そこが問題なのよ。いざ自分よりすごいと言われるものが現れた時、あの男が我慢できるか。無理でしょうね」

「はい」

 100%無理だな。

「下手に力も知識も地位もあるだけに、何しでかすか分からない。少なくとも相手をつぶそうとするでしょう」

 師匠とそいつがやりあうのは勝手だけど、カレンは巻き込まないでほしい。

「『至高の魔法使い』を超える者が現れるのはどうしようもないわ。ただその時なるべく被害を抑えるため、私は王もあの男も止めたい。いくら聞く耳持ってもらえなくても続けるわ」

 だろうなぁ。師匠は人に言われて考えを変えるのを嫌がる。それは『負け』だと思ってるんだ。

 負けるのが嫌い、下の存在になるのは嫌。それが師匠だ。

「最悪の未来を回避すべく、私は動く。―――あなたも気をつけなさい」

 師匠に目をつけられないように―――か。

 師匠より『下』のスタンスを取り、決して出すぎない。師匠が考えつかないものを思いついたとしても、それを出す時はじゅうぶん注意しろ。なにしろ俺は貧乏人のガキだ、簡単に消せる。

 そういうことな。

 心配することないだろ。俺は金なし学なしの貧乏なガキだったんだぞ? どう考えても師匠より『下』じゃん。

 あまりにも下すぎると敵意を抱く価値すらねーもんだ。

 カレン達のところに行くと、カレンははじかれたように駆け寄って来た。

「大丈夫? 伯父様とお話なんて緊張したでしょ」

「大丈夫だよ」

 師匠の考えも王の目論見も、俺にとってはどうでもいい。

 ただこの子の、カレンの傍にいられれば。

 カレンは俺の手を引いた。

「さ、帰ろ、ネオ」

「うん」

 彼女と一緒に同じ家へ帰れるのがたまらなくうれしかった。 


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