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10 勇者は怪盗と会う

 封印のアイテムに関する情報を真っ先に持ってきたのはジークとランスだった。夫人の流通網兼情報網にかかったらしい。

 なんでも近くブラックマーケットが開催され、そこで出品される可能性が高いとか。

 俺たちは先生も交えて会議した。

「情報屋から連絡がありました。黒い本に載っていたイラストと酷似したネックレスが出品されるそうです」

 ランスが報告書をめくる。

「出品者は?」

「金稼ぎの冒険家集団です。ブラックマーケットではよく出品してますね。世界各地を旅して墓荒らしや遺跡の破壊を繰り返し、財宝を集めて売っぱらう。賞金首リストに載ってますよ」

 まっとうな魔物退治を目指す者は国家公務員になる。前にも言ったように福利厚生がしっかりしてて、毎月の給料も保証されるからだ。

 この世界に置いて『冒険家』といえば、要するに墓荒らし・盗人を指す。

「ついでにそいつらも器物損壊と略奪、不法売買の容疑で逮捕しておこう。……日時は?」

 三日後の夜、場所は王都の繁華街だった。

 堂々とウチのおひざ元で開催するとはいい度胸だ。一網打尽にしとこう。

 場所はわざとかもな。元々人の少ない郊外でやれば人目を引く。人口が多く、夜でもにぎやかな王都でなら目立たないと思ったか。

 入口は普通の酒場だが、奥に隠し通路があり、通行証を持つ者だけが通れる。別の建物か地下室にでもつながってるんだろうな。

 繁華街の店なら大型の出品物を運びこんでも、食材の搬入だと見せかけられるってわけだ。

 先生が口をはさんだ。

「その会場は前にも使われたことがありますね。知人にブラックマーケットに潜入している者がいますが、聞いたことがあります。今回も潜入できないか連絡を取ってみましょう」

 魔具の中には裏に流れたらヤバいものもあり、先生は協力者に頼んで時折回収もやっている。ご主人でリューファの師の他、何人か潜入捜査に優れた者がいるんだ。

 回収した魔具はリューファが浄化した後、店で売っている。

 先生が会場の情報を話す。

 俺は黙って計画を立てた。

「……俺とジークにランスは三方向から囲い込む。先生はその協力者に連絡を取り、問題の品が出てきたら合図するよう手配を。突入する。リューファは自宅待機だ。押収したらすぐ持って帰るから、鑑定を」

「分かりました」

 めいめい準備を済ませ、三日後決行となった。


   ☆


 当日。俺とジークとランスはは昼間から張り込みだ。

「リューファはだめだ。危険な場所に婚約者連れてきたくない」

「魔物退治も危険なんじゃね?」

「それはそれ。普通の悪人や魔物ならなんてことないが、もし本当に封印のアイテムがあって、またそれにリューファが反応したら? 倒れたらどうする」

「……それもそうだな」

 妹を溺愛するジークはあっさり同意した。

 留守番なことにリューファは不満そうだったが、捜査は軍の管轄でしょうがないかと納得した。

「行ってらっしゃい」

 玄関で見送ってくれる婚約者。

 大好きな嫁が見送ってくれるとか。これだけで今日一日頑張れる気がする。

 つくづくチョロい俺。

「超かわいくね? さっさと片付けて帰りたい」

「分かった分かった、もうノロケいいよ。もう何時間しゃべってんだよお前。しかもリューファのことばっか」

 ただ今、付近でステルス使って待機中。魔法で防音のバリアも張ってるんで、しゃべっても大丈夫。

 って、俺そんな何時間もノロケてたか?

「ほんとに極端に走る傾向がありますよね、クラウス様。適度なところで止めてもらえませんか」

「そうか? でも黙ってたらリューファにまた誤解されるしなぁ。全部正直に話したほうが良くないか」

「限度があると言ってるんですよ。羞恥と怒りで真っ赤になってたでしょう」

「嫁がかわいすぎるせいだ」

 断言。

「はいはい、もういいです。ちょっと黙っててください。そろそろ出席者と思われる人間が集まり始めましたよ」

 見てると続々人影が入口のある建物へ入っていく。

 中には魔法で気配消してるのもいるが、俺たちには通用しない。

 変装した先生の旦那がこちらに合図しながら中へ入っていった。潜入してもらい、目当てのものが出てきたら連絡くれる手はずになってる。

 俺たちも潜り込んでもいいんだが、彼一人でも十分だからな。

「合図あるまでヒマだな~。トランプでもする?」

「持ってきたのかよ。いいけど」

 ヒマつぶしにのんびり三人でトランプやってたら、急に事態が動いた。

 建物の周囲に張られてる結界が破れる。

 外部から誰かが破ったんじゃなく、内部から壊れたって感じだ。

「?!」

 急いでフォーラの祖父に連絡する。

「何かあったのか?!」

「ええ。私ではありません。他にも封印のアイテムを狙う者が……!」

 なんだって!?

 俺たちはダッシュで現場へ向かった。

 会場のドアを蹴破ると、中の人間は一人残らず眠ってた。

「なんだこれ?!」

「あっ、あそこでのびてるの賞金首じゃね?!」

 嘘だろ、先生の旦那まで眠らされてる?!

 一戦は退いたとはいえ、いまだに国内トップクラスの魔法使いだ。それを眠らせるなんて何者だ?

 壇上にいる、唯一起きてる人間を見る。

 見なれない服装だ。確か東の方の国だったか? ああいうのはワフクとかキモノとかいったっけ。

 黒で袖の下部分がやたら長い服。裾も広がってる。

 あれじゃ動きにくくないか? 飛び回りづらそうだな。

 白髪だが老人ではなく、若い。せいぜい二十代前半か。

「あいつがやったのか……?」

 俺は目を細めた。モードを切り替える。

 これは……俺も知らない魔法がいくつも重ね掛けしてある。たぶんこの外見も変装だ。普通の変装術なら俺の目で見破れるのに、できない。

 服装からして他の流派の魔法のようだし、だから見破れないのかも。

 ふぅん、なかなか面白い研究素材だ。捕まえればリューファが喜ぶ。

 なるべく傷つけずに捕獲しよう。

「きさま、競売にかけられた宝を狙った賊か」

 スラリと剣を抜く。

 家で待っててくれてる婚約者へのいい土産ができた。

 謎の人物はにっこり笑ってネックレスを出した。

「ご心配なく、殿下。私は殿下と目的を同じくする者です。これが間違いなく殿下の手に渡るようにしたかっただけ」

 いうや否や、あっさりネックレスを放り投げた。俺の手の中に落ちてくる。

 紛れもなくあの黒い本に描かれてたうちの一つだ。

 なんだこいつ?

 狙ってたんじゃないのか? わざわざ俺に渡すとか。

 ランスがいぶかる。

「それ、本物でしょうか? すりかえてるかもしれません」

「それなら妹御に鑑定してもらったらいかがです? 言われなくてもするでしょうが」

「リューファのことを知ってるのか?!」

 がばっと顔を上げ、睨みつけた。

 俺の嫁のことを気安く口にするな。

「署まで来てもらおうか」

 まさかこれ口実にして俺の嫁に近付く気じゃねーだろうなぁ。これまでに何人もあれこれ口実つけてお近づきになりたいって男がいたんだよ。

 ガチの殺気にジークとランスが青くなって一歩下がった。

 不審者もうろたえる。どうすべきか迷うように辺りをキョロキョロして―――出品物の一つに目を止めた。

「…………」

 ん?

 それは小ぶりの宝石がついた指輪だった。台座は新しいが、宝石は古い。おそらくカットしてリメイクしたんだろう。

 男はそれを取ると、こっちに放ってきた。

「これもぜひ、鑑定を」

「……きさま、何者だ?」

 何を知ってる?

 クラウス様がたずねる。殺気は減ってない。

 男は右手を顔の前に持ってきて微笑んだ。

「―――ただのしがない怪盗ですよ」

 次の瞬間、姿を消していた。

「?!」

 俺はすぐさま壇上に飛び乗り、床を確認した。

「転移魔法陣はない……周囲に隠し扉もない」

「嘘だろ? 一瞬で消えたってのか?!」

 ジークが仰天する。

 ありえない。

 他の場所へ瞬時に移動できる魔法は、発着場所双方にあらかじめ魔法陣をしいとかなきゃならないんだ。城とアローズ公爵邸みたいに。

 瞬間的に移動する方法はない。

「考えられるのとしては、あの男は他の流派の魔法の使い手だってことだ」

「……確かに他のところなら、我々が知らない魔法もあるかもしれませんね」

 俺はフォーラの祖父に近付き、眠りの魔法を解除した。

「大丈夫か?」

「……ああ、殿下。どうもすみません。不覚ながら眠らされてしまいました」

「いや、仕方がない。どうやら敵は別流派の魔法使いのようだ。それより怪我はないか?」

「ええ」

 どうやら俺も知ってる単純な眠りの魔法だったようで、副作用などもなかった。

 話を聞くと、怪盗と名乗る男はたった一人で全員倒したらしい。

「あの男は一体何がしたかったんだ? 封印のアイテムを手に入れておきながら、こっちに渡してくるし」

「それ本当に本物なんですか?」

「ああ、間違いない。まずはリューファに浄化を頼もう」

 逮捕者の連行など後始末は担当部署に任せ、俺たちはまず城へ報告に向かった。


  ☆


「お帰りなさい」

 愛しの嫁が出迎えてくれる。

 こんなにうれしいことはない。

 ああ、帰ってきたんだなぁと実感。

「ただいま」

 俺は感動に打ち震えながら彼女を抱きしめた。

 あー、あったかい。柔らかい。落ち着く。

 彼女は真っ赤になってジタバタもがき、

「やーめーてー! なんで無駄に動きがナチュラルなんですかっ!」

 それは魔物退治とかで鍛えたおかげだな。

 うんうん、実に役に立つ。

「リューファのところに帰って来られるなんて、こんなうれしいことはないな。そうか、結婚すれば毎日そうできる。よし、今すぐ結婚しよう」

 さりげなく誘導試みたが、バレた。

「まだ私誕生日きてません!」

「法改正すればいい」

 そんなもんどうとでもなる。

「私情で法律をねじ曲げないでください! ちょ、兄様たちも何か言ってやって!」

 ジークは見て見ぬフリをし、ランスは合掌。

 さっき俺が軽くキレかけただけに、これで落ち着くならどうぞどうぞって感じだ。

 つくづく生まれてすぐ予約しといてよかった。初めからリューファは俺のものであって、排除対象じゃないと認識してる。

「すでに事実婚状態では? 一緒に暮らしてますし」

「ああ、そうだったな。もう嫁と呼ぼう」

 とっくに呼んでるけど。

「嫁じゃありません!」

 声を大にする彼女。

 ジークが首をかしげて、

「お前は『勇者の嫁』だろ」

 うん、俺が何年も国中どころか世界中に刷り込んだからな。

「それは俗称でしょ!? キャラ属性でしょ?!」

「キャラ属性ってなんだ」

 ランスが肩をすくめる。

「生まれた時から世間的には嫁扱いされてんのに、なにを今さら……」

「私は婚約解消してって頼んだの!」

 ふぅん?

 俺はそれはそれはいい笑みを浮かべた。

「俺は承諾していない。リューファは変わらず俺の嫁だ。さて、疲れて帰ってきた夫を癒してもらおうか」

 嫁はもう何から言っていいやらとパクパク口を開閉し、顔色も赤やら青やら忙しい。 

 大喜びで連れ込み、膝の上にのっけた。この体勢が通常になりつつある。

「ぐぬぬぬぬ……!」

 リューファは逃げ出したいようだが、必死に耐えてる。

 耳まで真っ赤になりつつも、服握りしめて我慢してちょこんと座ってるのが実にかわいい。

 逃げるから俺が追いかけてくる→大人しく従ってればいい、とか考えてんだろうなー。

 恥ずかしいけど我慢していちゃつかれてる嫁でしかないって分かってないだろ。こういう鈍感なとこがまたなんとも。

 髪に顔うずめても、ビクッとしただけで抵抗しない。

 うんうん、俺の嫁は純粋で鈍感でかわいいなぁ。

 ジークとランスは生暖かい目で放置することに決めたようだ。

 耐えきれなくなったのか、リューファがきく。

「し、首尾はどうだったんですか……っ」

 ああ、忘れてた。

 嫁のことで頭いっぱいになってたよ。

 魔術を施したハンカチを開き、ネックレスを出す。

 この大判ハンカチはリューファにもらったもので、ゲットしたアイテムを持ち運ぶときは必ずこれでくるむ。俺が魔物倒したりして手に入れるものって、呪いがかかってたりとかするんだよ。

「これがそうだ。本に描かれていたのと同じものだと思うが」

 ハンカチにのせたままテーブルに置く。

「本物ですね。なんとなく分かります」

「よかった。妙な乱入者がいたから、すりかえられてたらと心配したよ」

「乱入者?」

 きょとんとしてきく嫁。

 ジークが説明する。

「待機してたら、急に大きな音がして周囲の結界が消えたんだ。何事かと思って突入したら、城内の人間は全員眠らされてた。用心棒の賞金首も倒れてたよ」

「ふぅん」

「やったのは謎の男。怪盗だって名乗ってた。そいつの目当てもこのネックレスだったらしい」

 俺は眉をひそめ、

「どうやらそいつも封印のアイテムのことを知ってたみたいだが、どこで知ったんだ? しかも、おかしなことに、あっさり俺に渡してきた」

「そのまま盗んでいかなかったんですか?」

「この通りくれたよ。目的は同じと言っていた。つまり奴も魔王復活を阻止したいとみえる。確かに悪意は感じなかった」

 それは確かなんだ。

 あの男に敵意や悪意は皆無。だから奇妙なんだ。

 協力する気があるなら、どうして正々堂々来ない? はっきり「手伝いたい」と明言して城に来ればいいだろう。あれだけの実力者だ、使えるのに。

「代わりに確保してくれたんなら、いいじゃないですか」

「だが、正体不明の輩が同じものを狙ってるのは見過ごせない。捕らえようとしたら逃げた」

「あらら」

「それさ、おかしいよな。オレたちにも連中にも気づかせず侵入し、同じように逃げた。調べてみたけど城内に転移魔法が仕掛けられてた形跡はなかったし。絶対跡が残るはずなのに。しかも、『勇者』のクラウスから逃げられるなんて」

 なんだかんだで今まで取り逃がした獲物はいないジークはくやしがった。

 で、むしろ燃えた。

「うおおおおお、燃えてきたああああ! 倒しがいのある奴と会うと、闘争心に火がつくな!」

 いや、物理的に燃えてる。

 ランスが冷静に周囲へバリア張った。

 逃げる獲物こそやる気出るってのはこういうのを言うんだぞ? なんで俺のも誤解するんだか。

「えー、ジーク兄様はほっといて……と。まず浄化しますね」

 呪文を唱えて手をかざせば、ネックレスを光が包んだ。

 浄化完了。

「はい、終わりです。もう素手で触ってもいいですよ」

「いつもながら早いな」

「『招かれざる魔女』封印のアイテム浄化が、そんなさくっと終わりでいいのか?」

「慣れてるから。固い封印で、全然外に漏れだしてないしね。さあ、詳しく調べ……」

 調べようとリューファが触れた瞬間、彼女は停止した。 

 虚ろな目で虚空を見つめる。

「リューファ!?  どうした!」

「―――眠り姫……っ!」

 彼女は何かをつかむように宙へ腕を伸ばす。俺はとっさにそれをつかんで引き戻した。

「リューファ!」

 耳元で怒鳴る。

 帰ってこい!

「……あ……」

 ぼんやり俺を見返す。

 もう一度呼びかけた。

「リューファ、大丈夫か?!」

「大丈夫……です」

 まばたきしてぎゅっと握り返してくる。

 よし、意識しっかりしてるな。

 しっかり抱きよせる。

「残留思念でしょうか……。それに共鳴しただけなので……」

 浄化すれば残留思念も消えるはずだが。

「『最後の魔女』の思念ですね。わずかに記憶が見えました」

「『最後の魔女』の?!」

 なんだって?

「作った本人、しかもかなり力の強い魔女だ。残留思念がついてても不思議じゃないな」

「なにか手がかりになる情報はなかったか?」

 リューファは残念そうに首を振った。

「それが……『招かれざる魔女』が眠り姫に呪いをかけて立ち去った直後、呪いを修正した時のことで」

「うーん、それじゃ手がかりにはならないね」

 ランスがネックレスに触る。

 おい、躊躇ないな。危ないぞ。

「僕にも見せ……あれ? 反応しない」

 おかしなことに、誰も記録を見ることはできなかった。どうやら浄化したからほぼ消えており、一回きりしか見えなかったらしい。

「一回限りだったのかも。つけようと思ってつけた思念じゃないから。たまたま残ってただけで、弱かったのね」

「そうか、残念だな」

 もっと詳しいことが知りたかったが……。

「ああ、そういえば、もう一つある。こっちはなんなんだろう。例の怪盗がこれも渡してきたんだが」

 俺はもう一個のほう、指輪を出した。

 リューファは浄化して、今度は安易に触らぬよう注意しながら、

「こっちは残留思念はないですね。というか、これは本に載ってないですよね? あ、でも、もしかして……」

 本のコピーか。

 出してやればぺらぺらめくって、

「この指輪。これについてる宝石じゃないですか? 絵のほうがおおぶりで、台座も違うけど」

 絵では一回り宝石が大きく、台座もがっちりしてる。

「元々の宝石をカッティングして小さくして、別の台座に付け替えたって感じですね。加工の跡があります。もしかしたら、入手しただれかがリメイクしたんじゃないでしょうか?」

「封印のアイテムをリメイク?!」

 おいおいおい!

「そんなことしたら、術式が崩れて無意味になるじゃないか!」

 ランスが慌てて確認する。

 封印術式はカッとされた表面部分に施されてたとみえ、ほとんどが削り取られてしまっていた。

 魔法陣っていうのは繊細なものだ。一文字間違えただけで発動しなかったり、逆にヤバい結果になったりする。

 特に封印術は細かい。大体アイテムを使うわけだが、なにかの拍子にそれが破損すると封印が解ける。「昔封印した魔物が復活した」ってのはまさにそのパターンだ。

 封印は意外とそういうリスクが高い。

 術が破られないよう、封印された物は安全な場所に保管しなければならない。よくあるのは地中、遺跡、秘密の保管庫とか。

 知らなかったのかもしれないが、封印術式を壊すとか。

「見たこともない術式だね」

「うん、私も知らない。調べてみるね」

 ここは専門家に任せよう。

 ジークが挙手して、

「ちょっと待て。封印のアイテムが壊されたってことは、魔王はもう復活してるってことじゃないか?」

「……いや、それはない。もしそうなら、俺には分かるはずだ」

 俺は悪意や敵意の感知に長けている。魔王レベルが現れたら、たとえ気配を隠していても、無意識に「あれ、どこか分からないけどいる」と気づくはずだ。

「それに、一つのアイテムでは封印できず、複数使った。一つ壊れたところで、封印が少し緩くなる程度だ。完全復活するためには、全部を壊す必要がある」

「あ、そうか」

 複数のアイテムで封印したのは、それくらいないと封じられなかったのと、わざとだろう。分散しておけば一個が壊れれば多少緩まるが、完全に封印を破るには全部を壊さなきゃならない。

「ただし、少しでも封印が緩めば、『招かれざる魔女』ならなにをするか分かりません。思念体くらいは飛ばせる恐れがある。魔族に呼びかけて、よからぬことをしでかすかもしれませんね」

 ありそうだな。

「これで二個手に入ったわけだけど、一刻も早く残りを集めなきゃならないのは変わらないわね」

「にしても……なんであの怪盗は外観も変わってるのにこれが封印のアイテムの一つだと分かったんだ?」

「ね、怪盗ってどんな奴だったんですか?」

「ん? こんなのだ」

 ジークが紙に魔法で念写して見せた。

 ぱっと嫁が顔を輝かせる。

 ……ちょっと待て。

 俺にそんな顔見せてくれたことあったか?

「かっこいい……」

 ん?

 ぽつりとなんつった?

 冷や汗が滝のように流れる。

「…………リューファはそういう男が好みなのか?」

 聞きたくなかったけど、勇気を出してきいてみる。

「え? そうですよ」

 何か地面が揺れた。

 あー、どっかで大規模な陥没か地割れが起きたな。←他人事

「り、リューファ……っ」

 正確に理解し、妹に体の動きで信号を送る兄二人。

 へーえ、ふーん。そうなんだー。俺の嫁はこういうのがタイプなのかー。

 ランスが拳を握って力説。

「だ、大丈夫です! クラウス様のほうが美形ですよ!」

「えー? そう?」

 グフッ。

 致命傷。

「こここ、こらあ。クラウス様は美形だろ、それは認めるよね?!」

「ああ、うん。昔から成長したらイケメンになるだろうなぁと思ってた。予想は外れなかったね」

「ほ、ほら、リューファもクラウス様がイケメンだって言ってますよ!」

「んー、それはそれとして、これは別物なのよねー。二次元最高、クールジャパン万歳っていうか」

 ブツブツつぶやく嫁。

 もうヤメテ。俺瀕死。

「なにを言ってるんだ? とととにかくやめろ。そ、そうだ、この封印形式! 調べてきてくれ」

「ん? ああ、はーい」

 ジークとランスは半ば無理やりリューファを追い出した。

 俺はというと、ガクッと机に突っ伏した。

「うわぁ……」って万感の思い込めた憐みの声が降ってきたけど、言い返す気力もなかった。

「……く、クラウス、なんか妹がすまん……。気にするな!」

「そうか……。リューファはこういう男が好みなのか……」

 そっか、へぇー……。

 ブツブツ。

「お、落ち着け! お前がイケメンだって言ってたじゃないか!」

「……イメチェンしようかな……。長髪が好きなら伸ばす」

「それはやめろ!」

 なぜかジークがものすごい勢いで止めてきた。

「……ん? 必死だな」

「自分でもなんでだか分からないけど、とにかくダメだって気がものすごくした」

 ?

「クラウス様、落ち着いてください。しなくていいです」

「別に、嫁に好かれるためならこれくらい……」

「やめろ、涙が出そうだ。頼むからやめてくれ」

 親友に半泣きで頼まれた。

「そうですよ。リューファは謎の怪盗っていうミステリアスさに目がいってるだけです。姿かたちじゃないですよ」

「ミステリアス……俺もキャラ変えた方がいいかな……」

「無口クール系で大失敗したんだからやめろ」

 速攻ツッコまれた。

 そういやそうだった。

「捕まえちまえばチンケな泥棒だったってことが分かって、興味も失せるさ」

「……そうか」

 俺はやっと顔を上げた。

「速攻捕まえるぞ。俺の嫁は渡さん」

 めちゃくちゃやる気出てきた。殺る気って言ったほうが正しいかもしれない。

 ふふ……俺の嫁にカッコイイって言わせた罪は重いぞ。

「俺の嫁に手を出したことを後悔させてやる」

 手は出してないと言いたげに、ジークとランスが天を仰いだ。

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