7.二日目の朝と武器作製
ゾンビ発生から二日目、午前七時。一騎が自室のベッドで寝ていると、ノックなしで入室してくる人物がいた。その人物とは澪である。
彼女は静かな寝息を立て続けている一騎の枕元に到着すると、しばらく無言で彼を見つめて軽く彼の身体を揺すりながら声を掛けた。
「起きて」
「んー?」
「起きて」
「朝か」
「そう」
まだ眠そうだった一騎だが、それも数秒のこと。彼女に手を引かれて洗面台へと向かい、洗顔と口を濯ぐように促されてようやく意識が完全に覚醒した様子。
「おはよう。よく寝れたか?」
「うん。ぐっすり」
「それはよかった。 カーテンは?」
「まだ」
「正解だな」
渡されたタオルで残っていた水気を拭き取ると、一騎は澪と一緒にリビングへと向かった。カーテンが閉められたままで暗いが、それでも隙間から差し込む太陽光で明るさはある。
「おはようございます」
「おうはよう。 ご飯はもう少し待ってね」
「準備させてしまってすみません」
一騎が謝罪を口にすると、澪が袖を軽く引っ張った。
「どうした?」
「わたしも」
「え?」
「準備」
澪は一騎を起こす前に梓と一緒に、朝食の支度をしていた。それを知らない彼は梓にだけ謝罪を口にしたので、自分も準備していたのだと伝えたかったのだ。
「澪もか。 ありがとう」
「家族なら当然」
「そうか」
「そう」
彼と彼女は結婚していない。だが、お互いに両親を失い一騎は一人だけになり、澪と梓は姉妹だけ生き残った。そんな彼らだからこそ、自然とお互いを家族のように認識していたりもする。
「創太は?」
「まだ」
「そろそろ起こしてきてもらえるかしら?」
「はい」
一騎は梓に言われて707号室を出ると、隣の708号室へと向かう。お互いに合鍵を持っている関係で、遠慮なく出入りすることが可能。彼は創太の部屋まで向かうと、廊下から声を掛けた。
「創太、起きろー。 澪と梓さんが朝食を準備してくれてるぞ」
「……」
「創太ーー」
「……」
「またか」
声を掛けても返事なし。そこで彼は躊躇いもなく勝手に入室して、ヘッドホンをして音楽を聞きながらパソコンを操作している創太の背後へ。
ベッド上に置かれているハリセンを持つと、一騎は思いきりそれを振り上げて後頭部へと叩きつける。
「っ! 一騎か。どうしたのだよ」
パシーンっと派手な音と同時に、創太が痛そうに頭を撫でながら振り返った。
「澪と梓さんが朝食を用意してくれてる。 さっさと来いよ」
「なに?もう朝なのか?」
「そうだ。時計見ろよ」
「ふむ、本当なのだよ」
パソコン画面の時刻表示を確認した創太は、全く眠気を感じさせずにデータ保存を行ってスリープモードにした。
「外の様子はどうなのだよ」
「まだ確認してない」
「では、少しだけ確認するのだよ」
一騎と創太はカーテンを開けて、静かにベランダへと出る。そして七階から下の方を見て、二人は昨日よりもゾンビの数が増えているのを確認した。
「どこから来たかはわからないが、人が多く集まる場所に群がってくるのは正解みたいだな」
「うむ」
音を立てないようにして室内に戻った一騎と創太は、いつの間にか七十体に増えていたゾンビをどうするか考えながら707号室へ。
「おかえり」
「ただいま?」
「おはようなのだよ」
「おはよう」
自宅に戻った一騎は、玄関前で待っていた澪に出迎えられた。隣に行っていただけなのに「おかえり」と言われて疑問系の答えになったのは仕方ないか。創太は澪に朝の挨拶を済ませると、リビングから梓が顔を出す。
「起きてきたわね。 準備はできてるから、食べましょうか」
頷いて入ろうとした一騎と澪だが、不意に足を止めて創太へと視線を向ける。
「どうしたのだよ」
「洗顔と口を濯いでこい」
「そうだったのだよ」
一騎に言われて創太は洗面台へ向かい、程なくして戻ってきた。そして四人は席に座って合掌。
「いただきます」
「「いただきます」」
「いただくのだよ」
それぞれに食事を開始した。朝食は白米と納豆、鮭の塩焼きに豆腐の味噌汁。
「そういえば、どうだったのかしら?」
「どう、とは?」
「外、増えていたの?」
「うむ。増えていたのだよ」
「どれくらい増えていたの?」
「フェンスや街灯周辺にいたのを上から数えて、全部で七十体です」
「大変」
「本当にな」
ゾンビが増えているという状況でも、特に慌てた雰囲気もなく食事を済ませた四人。食器洗いは一騎と創太が行い、御巫姉妹は朝風呂の準備を開始。
昨日は警官たちとの情報共有と意見交換で時間を使い、さらにマガジンへの弾込めを行ったせいで、精神的な疲労が蓄積して入浴せずに寝てしまったのだ。なので姉妹は朝風呂を行うことにした。
食器洗いを終えた男二人は、姉妹の邪魔にならないように歯磨きなどを済ませて、玄関を出て廊下に。女性二人がゆっくり入浴を済ませられるようにと気を使ったのだ。
「一騎」
「んー?」
「避難民と警官たちが移動した後に、定期的に連絡を取り合う手段を確保したいのだよ」
マンションの廊下にある転落防止、外部からの覗き防止の柵の隙間から階下の様子を見ていた一騎に創太は自分の考えを伝え始めた。
「連絡を取り合うっていってもな。 普通に考えればスマフォで電話やメール、ラインを使えばいいんじゃないか?」
「それも長期的に使える訳じゃないのだよ」
「なんで? ってそうか」
「うむ。中継局や回線の確保、相手の使用する通信機器の電池が永続的に保たれる訳ではないのだ」
「そうだな。 だけど、どうやって連絡を取り合うつもりだ?」
「無線機を使うのだよ」
「いいと思う。 だけど一キロ先まで電波が届くのか?」
「それは問題ないのだよ。以前、興味本意で作った無線機なら、周囲に建物があっても最大三キロ先まで使えるようにしたものがあるのだ」
「三キロ先って。 なぁ、それって資格必要なんじゃないか?」
「問題ないのだよ!」
創太の考えを聞いている最中で一騎は、無視してはいけないことに思い至った。創太が作る物の大半は、基本的に違法な物ばかり。もしくは何らかの資格が必要になるケースが多いのだ。
だから気になった一騎が聞くと、創太は満面の笑みを浮かべる。それを見て一騎は確信した。
――絶対、まともじゃない考えだよな
そんな一騎の考えを肯定するかのように、創太は自信満々に言い放った。
「バレなければ犯罪ではないのだよ!!」
「今日バレるだろ」
「問題なしなのだよ。 なぜなら今の日本に法律などいうものはないのだから」
「そうかよ。 それで、その無線機はいくつあるんだ?」
「とりあえず六台、いや六基?はあるのだよ」
「ならオレたちで四つ、警官組に二つでいいだろ」
「不満が出るのではないか?」
「オレたちは一人一つは持っておいた方がいい」
一騎が何を考えて言ったのか。創太はなんとなくわかっていたからこそ無言で同意した。708号室から無線機をとって、創太は階下の警官たちの元へ。
一騎は自宅のベランダへと向かい、下にいるゾンビたちを見ながらそう遠くないうちに問題となるだろう綺麗な水の確保をどうするか考え始める。
一騎が水の確保を考え始めた頃、入浴中の御巫姉妹は昨日の一日分の汚れを落とし終えた。澪と梓が二人一緒に入浴したのは小学生低学年の頃まで。
それ以降は、一人ずつの入浴だったが今回、久しぶりに姉妹は一緒の時間を過ごしていた。
「澪、これからのことを考えないとね」
「これから?」
「そう。これから。未来のこと」
「……未来」
「そう、未来。 政府機関が無事なのかはわからないけど、ゾンビをこのまま放置ってことにはしないはず」
二人で一緒に浴槽に入っているから、どうしたって狭い。その狭い浴槽の中で梓は澪に聞いておきたいことがあったのだ。長い黒髪をタオルでまとめた状態で、彼女は一人しかいない妹に質問する。
「ゾンビが完全にいなくなった後、澪はどうしたいの?」
「どうって?」
「平和だった頃の生活を取り戻すには、かなり時間が掛かるはず。今年中に解決するのか、あるいは数年から数十年掛かってしまうのか。
とにかく、平和で穏やかな生活を送れるようになったら、どんなことをしたい?」
平和になったら。この言葉を聞いて澪は困惑した。既に両親はいない。親戚が無事かもわからないし、なにより彼女はもう御巫神社の自宅兼社務所に戻りたくはなかった。
両親のいない、姉である梓と二人だけであの場所でまた生活するのは、澪にとっては避けたい心がある。まだこれはいい。だが、平和になったら、どんなことをしたいのか。これは意外な程に難問。
「澪?」
完全に黙ってしまい、なにを考えているのか、なにを思っているのかもわからない表情の妹に梓は名前を呼んだ。
「…………わからない」
しばらくして澪が口にした言葉に、最初こそ梓はなにがわからないのか検討が付かなかった。だが、それでもちょっと考えて気付いたようだ。
「平和になった後に、どんなことがしたいのか。それが思い付かないってこと?」
「……たぶん、そう」
「そっかぁ」
梓としても平和になった時に、どんなことをしたいかと問われたら考え込んでしまうだろう。自分からした質問だというのに。
「姉さんは?」
「私?私も思い付かないわね」
急に両親が人外になったばかりか、今まで家だった場所に住めなくなってしまった。だからこそ、梓にも自分がどうしたいのかが、思い付かないしわからない。
「……でも」
「うん?なぁに?」
「武藤くんの近くにいたい」
「……どうして?」
急に一騎のことが出てきて、梓は思わず聞き返してしまった。
「安心できる」
「なにが?」
「武藤くんと一緒、安心できる」
「安心ねぇ。具体的には?」
「わからない」
この時、澪自身は気付いていなかったし、考えてもいなかっただろうが一騎に心を許しすぎていたのだ。それは同級生に向ける、親しくするという意味での心理的防御の低さではない。
昨日の仮眠時に一騎に抱き寄せられたまま寝ていた時、澪は安心感と幸福感を抱いていた。梓は妹が一騎を無意識に異性として意識し始めていることに、なんとなくだが察することができていた。
「そっか。じゃあ、時間がある時にでも考えよっか」
「うん」
「そろそろ出る?」
「そうする」
澪と梓は一緒に脱衣場へと出て、用意していた下着と洋服に素早く着替えた。澪は梓よりも髪が短く先にドライヤーを使って乾かしてから脱衣場を後にした。
一騎に入浴を勧めた際、乾ききっていなかった髪が首筋に張り付き、湯上がりでうっすらと赤くなっていたこともあり妙に色っぽい。これには一騎も澪を異性として意識してしまうきっかけとなった。
□
午前十時三十二分。708号室には一騎と創太はいた。正確には創太の部屋にだが。そして、室内にはパチンコ玉四ケースも置いてある。
二人は創太が自作した通常の3Dプリンターと、金属3Dプリンターの前にいる。御巫姉妹の後に入浴を済ませた一騎と創太は、警官たちと少しだけ話して武器を作製することにしたのだ。
創太は所有している銃の設計図から、必要になるだろうと考えた物をプリンターを使って用意することにした。一騎はあくまでも手伝いとして、一緒にいるだけ。
創太が必要と判断したのはショットガンと狙撃銃。火薬に関しては、ショットガンの分だけマンションから車で十五分の場所にある花火工場から調達することに決まっている。
今まさに3Dプリンターは忙しく動きながら、二種類のショットガンを作り出していた。一応パーツ毎に作り出してそれを組み合わせていく方針。
一騎は創太が実に楽しげな表情を浮かべながら、既に出来上がっているパーツを組んでいくのを眺めている。
「創太」
「どうしたのだよ」
「今組み合わせてるのって、なんてショットガンなんだ?」
「これか? これはイサカM37なのだよ。 セーフティーを追加したり、従来の物よりもシェルや中に込める弾を多く入れられるように独自改良したものだ」
「へぇー。本来の物より大きいのか?」
「うむ。 それとシェルの中に込めるのは、このパチンコ玉なのだよ」
「それを入れるための物は?」
「フィルムカメラのフィルム入れがあるのだよ。 あれを改造した物にパチンコ玉を詰めていくのだ」
一騎の問いに創太が答えた直後、残りのパーツが完成。創太は慣れた手付きでイサカM37の改造版を完成させた。まるでこれを待っていたかのようにパチンコ玉を入れるシェルも完成する。数は一度に四十もだ。
ちなみにイサカM37改は全弾入れると、追加でシェルを入れなくても11発も撃てるとんでも仕様。
「一騎、パチンコ玉を入れておいてくれなのだよ」
「どれくらい入れるんだ?」
「一シェルに、十個なのだよ」
一騎は空のシェルの中にパチンコ玉を十個ずつ入れていく。途中でどうやって火薬を入れるのだろうかと思いながらも、彼は黙々と作業を行う。
「おっと。 そろそろ次が出来上がるのだよ」
一騎がパチンコ玉詰めを行っている間に、次のショットガンのパーツが全て揃う。それを実に手早く組んでいき、完成させた創太は、実に嬉しそうな表情。
「それは?」
「これはウィンチェスターM1887。 とある映画作品のアンドロイドロボットが、バイクに乗りながら使ったショットガンなのだよ」
創太はもちろんこれも改造している。一度、シェルを完全に入れれば、補充なしに14発も撃てるようになっていた。こちらもセーフティーが取り付けられている。
「イサカM37だっけか。 これとどう違うんだ?」
「そっちはポンプアクション式で、こっちはレバーアクション式なのだよ」
「ポンプ? レバー?」
「うむ。実際にやってみせるのだよ」
創太はウィンチェスターM1887のレバー部分を、片手でカチャリっと動かして見せる。しかも某映画のキャラと同じ動きを再現して、だ。続いてイサカM37のポンプアクションも実行してみせた。
「なんとなくわかった。 それで狙撃銃の方は?」
「レミントンM700を改造した物なのだよ。 ボルトアクションは同じだが、一マガジンに22発も入れることができるようにした」
「肝心の弾はパチンコ玉か」
「うむ」
一騎はシェルにパチンコ玉を詰め終わり、それを渡すと気になったことを聞く。
「狙撃銃の方には火薬を使わないのか?」
「火薬とて無限にある訳ではないのだよ。 建物内で群がってくるゾンビは、ショットガンかライフル、サブマシンガンで殺す方が早いのだよ」
「なるほど。 オレとしては火薬を使わずに、どうやって勢いよく弾を発射するのか気になるんだが」
「簡単なのだよ。かなり強力なスプリング、つまりバネを複数使って撃ち出すのだ」
「バネって。本当に大丈夫なのか?」
「気になるなら、後で試射すればいいのだよ。 幸いにもスコープは本物があるから、照準も問題なしなのだ」
本物のスコープ、この言葉を聞いて一騎は常識を一時的に放棄することにした。十五分後にはレミントンM700改とマガジンも完成し、二人は階段を使って屋上庭園へと移動。
一騎が移動する前に澪と梓、それと一階の警官たちに声を掛けるとなぜかぞろぞろと一緒に来ていた。一階の警備をゼロにする訳にいかないから何人か残っているが。
それと数少ない善良な避難民たちは、空のペットボトルや以前の住人が使っていただろう水筒に水を詰めていて、いつこのマンションを出ても飲み水だけは確保していた。
創太は肩に担ぐようにして持っていたRM700改、レミントンM700改を勝手に略称した、を転落防止の柵の隙間に置くとスコープを覗いてマンション周辺のゾンビの位置を把握していく。
警官たちは特に合法だの、非合法だのを言わずに黙ってちゃんと撃てるのかを気にしているようだ。ちなみに澪と梓はRM700改よりも、野菜を育てることもできる庭園に興味を抱いていた。
畑とは言えなくても、意外に広い屋上庭園には何種類かの花が綺麗に咲いているのを見て嬉しそう。
「一騎、いつでも撃てるのだよ」
「了解」
一方で一騎は両親の寝室から持ってきた双眼鏡で下を見ながら、標的とするゾンビを選んでいく。
「この位置から見える自販機の前を右往左往中のゾンビ二体と、ここから右斜めの街灯下のゾンビ五体を撃ってくれ」
「最初に撃つのはどっちなのだよ」
「街灯から」
「了解なのだよ」
警官たちは柵に寄り掛からないようにしながら、一騎が創太に指定したターゲットゾンビを視認する。創太はセーフティーを解除し、ボルトアクションで初弾装填。
――バシュン!
サバイバルゲームで使われる銃の発砲音に似ているような音が。その音が聞こえた頃には、街灯下のゾンビ一体が眉間を正確に撃ち抜かれてドサっと倒れた。後頭部から血がドローっと流れ出る。生きている人間でも殺せる威力だ。
「ナイスショット」
「次、撃つのだよ」
創太はすぐに次弾を装填し、少しだけ銃口の角度を調整して発射。さらに装填、角度調整からの発射。これが七回繰り返されて、ゾンビ七体は死んだ。
「こ、これを我々にも提供してもらえないか!?」
指揮官役は実際の射撃でゾンビを殺したのを目撃し、自分たちも安全な距離を保って排除を行えればと考えた。
「構わないのだよ。 ただし、これは渡せないが」
「それでも構わない。 安全確実にゾンビを殺せるなら、多少作製に時間が掛かっても待つ」
「了解したのだよ。 もちろん報酬はもらえるのだろうね」
「現金か?」
「違うのだよ。 今後、僕らが活動するのに必要になる物があれば知らせるから、それを調達して欲しい」
指揮官はしばらく考え込んでから、勢いよく頷いた。話がまとまったところで、一騎や他の警官も試射。火薬を使わなくても見事な殺傷能力があることを彼らは認識する。
澪と梓は一騎たちの方へ視線を向けず、屋上に設置されていた倉庫を開けて中を確認中。
「い色々な肥料に花、野菜の種。他にもスコップやじょうろ、プランターにネットもあるわね。あっ、育て方に注意事項が乗った栽培入門書まで」
「野菜、種類豊富」
「本当にね。ちゃんと育てれば新鮮な野菜が収穫することができるようになるわ」
「健康大事。育てる?」
「上手く育てられるかわからないけど、何事もチャレンジしないと」
「同意」
「それじゃ決まりね」
「うん」
姉妹が野菜を育ててみようと決めた頃、一騎たちも試射を終えて708号室に戻ってRM700改の増産をしに行動を起こし始めていた。
「葉加瀬くん」
「ふむ?」
「ハンドガンやライフルも、火薬を使わずに同じ威力の物を作れるか?」
「試してみないとわからないのだよ。 連射するとなるとスプリングだけで大丈夫なのかは作ってみる必要がある」
「なら試作を頼む」
「わかったのだよ」
階段を降りて一騎と澪、梓は707号室へ向かい、創太は指揮官役を連れて708号室へ行った。
「武藤くん」
「んー?」
「実験、いつ?」
「オレたち四人が、身を守れるだけの装備が整ったらって考えてる」
「それだと、遅くなりすぎないかしら?」
「時間が掛かると判断したら、その場合は音に反応するかと視力があるのかの二つを最優先で確認しますよ」
「その二つの理由は?」
リビングに入って、一騎は三人分のコップを用意しそこに冷蔵庫から取り出したコーラを注ぎながら答えた。
「もし音に反応し、明暗程度でも判別できるだけの視力があるかがわかったら、少しでもゾンビを遠ざける方法を考えられますから」
一騎はコーラが入ったコップを姉妹に渡して、ゆっくりと飲み始める。
「ありがとう」
「ありがとうね。ゾンビが外を歩いているような世界でも、冷たくて美味しいコーラが飲めるなんて嬉しいわ」
飲み干した後、コップを水洗いしながら一騎は話を続ける。
「音に反応するなら、空き缶に石なんかを入れて、どこか高いところに設置。風で揺れて音が出れば、そっちに移動してくれるかもしれません」
「視力は?」
「もし姿を判別することができなくても、明るさや暗さを認識することができるなら、明るいところに寄ってくるはず。そうなったら遮光カーテンを調達して、室内から光が漏れないようにするだけです」
実にシンプルな方法だが、それでも少しは効果があるはず。一騎と澪はそう思っていた。会話を終えた直後、隣の708号室から「おぉ!!」と何やら歓声が聞こえたが、三人はスルー。
ショットガンのシェル数ですが、実銃よりも多目にしてあります。
またイメージとしては、銃自体も実物よりも少しばかり大型化しています。




