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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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47.アルバムと二人の時間

短めです。


 作戦を翌日に控えた朝の十時。一騎たち学生組とジャーキーはラルゴで御巫神社へと向かっていた。本当なら明日の準備があるのだが、警官組と自衛隊組が学生組の分も用意すると言ったので甘えた形。

 御巫神社に向かっている理由は、澪と梓が家族写真のアルバムを手元に置きたいと言ったからだ。二人ともゾンビ発生時に、巫女装束、着替えと弓矢しか持ち出していない。

 姉妹はゾンビの大移動の映像を見た後、両親との思い出が詰まったアルバムを取りに行きたいと思っていた。そして今日、警官組と自衛隊組が準備を引き受けたことにより、時間に余裕が出来たのである。


 一騎、創太、三笠、三森の四人は、御巫姉妹の希望というか願いを叶えるべく神社へと向かうことを選択した。小松交通の社員寮であるマンションから、神社までの距離はそんなに離れていない。

 なので、それほど時間も掛からずに六人を乗せたラルゴは神社の駐車場へと到着。一騎と創太は万が一にもゾンビや、生存者が襲ってきた場合を考慮しホルスターからUSP45改とP30L改を抜いて武装。


「降りて大丈夫だ」


 エンジン音を聞き付け、ゾンビや勝手に住み着いた生存者が出てくるのを警戒していたが、数分が経過しても姿は見えず。一応安全と判断した一騎が車内に声を掛けると、後部座席のドアが開き、ジャーキーが勢いよく飛び出した。


「ワフーン!」


 神社を初めて見たかのような反応。興奮しているのか、ジャーキーは尻尾を振りながら勝手に歩いていこうとした。


「ジャーキー、メッ!」

「ワフン」


 続いて降りてきた澪に叱られて、ジャーキーは尻尾振りを停止。ダランと尻尾と耳を下げて「反省してます」とでもいうような感じだ。


「一騎くん、はい」

「少し待ってくれ。リードを着けてっと」


 澪がリードを渡そうとしたが一騎はUSP45改をホルスターに戻すのを優先。受け取った後、大人しく待っていたジャーキーにリードを着ける。


「ここが澪さんと梓さんのご実家ですか」

「そうよ。私も澪も小学校に上がるくらいから、お正月のお守り販売の手伝い始めたのよね」

「その時の服装って私服ですか?」

「ううん。ちゃんと巫女装束よ」


 澪が降りると、反対側の後部座席から三笠と三森。助手席から梓が姿を見せて、のんびり会話。


「澪さんは美少女だし、梓さんは美女。きっと小さい頃から人気だったんじゃないですか?」

「私よりも澪の方が人気あったわ。お守り販売の手伝いをはじめた時、澪は人見知りだったから」


 当時の澪は人見知りが激しく、他の巫女さんや梓の後ろからお守りを渡していた。人見知りで、背中に隠れながら手渡ししていたのだ。

 当時の人々は、ビクビクしながらでも渡す姿に庇護欲を刺激されまくっていたりする。 


「そうなのか?」

「昔の話」


 一騎が澪に確認を取ると、恥ずかしい記憶らしく顔をプイっと背けながら答えた。


「澪、梓さん」

「なに?」

「どうかしたのかしら?」

「アルバム以外に、持ち帰りたい物はありますか?」

「ない」

「予備の巫女装束と、何着かの浴衣くらいかしらね」

「澪、本当にないのか?」

「うん」


 一応、一騎が確認を取ったが澪はアルバムがあれば良いようだ。


「アルバムを最初に探すか、もしくは巫女装束を優先するか。澪と梓さんとしては、どっちが先ですか?」

「巫女装束は私が準備するから、一騎くんは澪とアルバムの回収をしてもらっていいかしら?」

「わかりました」


 玄関は施錠されておらず、簡単に中へと入れた。梓は創太を連れて巫女装束の確保へ。一騎、三笠、三森は澪の案内で最初に彼女へ直行。

 澪は部屋の押し入れを開けて、衣装ケースを動かしてダンボール箱を奥から取り出した。ジャーキーは退屈なのか、畳の上でゴロゴロ。


「それだけか?」

「上の段にも入ってる。身長足りないから、お願い」

「わかった」


 澪が指差した高さは、確かに彼女では手が届かない。一騎は手を伸ばして、押し入れの上段を開ける。衣装ケースはないが、複数のダンボールが詰められていた。


「澪、どの箱だ?」

「覚えてない。全部確認する」


 場所だけ覚えていて、どのダンボール箱なのかは記憶にないようだ。


「全部取り出すか?」

「うん。二人とも手伝って」

「中の確認だよね?」

「そう」


 一騎は一番手近な小さいダンボールから引っ張り出す。


「まず小さいのが一つめ。同じ大きさのを五個、連続で渡すけど準備は?」

「いつでも」

「大丈夫」

「任せて〜」


 澪、三笠、三森の順に返事を聞きながら、一騎は最初に引っ張り出した小さい箱を澪に。同じ大きさの段ボール三個を待っていた三笠へ。

 残りの小さい二箱と、宅急便で使われるA4やA3サイズの雑誌を入れるサイズの中くらいのを四箱を三森へ渡す。奥にある大きめのダンボール五箱は、さすがにイスを使って高さを確保した後に取り出した。


「これで全部だ」

「ありがとう」


 一騎は押し入れの中に何も残っていないのを確認して、澪に告げると彼女は頷いた。


「手伝って」

「オレも?」

「そう」

「見て大丈夫なのか?」

「平気。タオルや表彰状ばかりだから」

「わかった」


 一騎は大きいダンボールから確認。澪たち三人は小さいのと、中ぐらいの箱の開封開始。一騎が開けたダンボールは神社名が入ったタオルや手拭いばかり。

 御巫神社では祭りもあるから、氏子やボランティアなどに配る用の物だ。澪たちが開けた箱の中身は、色々な人から送られてきただろう年賀状が。数年分じゃなくて、かなりの量が入っている。


「ワフ」


 彼らが中身の確認を始めたのを見たジャーキーが「手伝う」とでも言うように、近くにあったダンボール箱を前足で器用に開けていく。


「次はこれか」


 一騎が次に開封した箱は、澪と梓が幼少時頃に集めた、その当時の宝物だった。


「ビー玉に綺麗な石、花の栞とビーズで作った指輪に小さい頃の写真か」

「わたしと姉さんの宝物」

「そうなのか?」

「うん」

「持って帰るか?」

「……置いてく」


 持ち帰りたいのではないか。一騎はそう思って聞いたが、澪は少しだけ考えた後に首を左右に振った。


「ワフン!」


 ジャーキーは少ししんみりとした雰囲気になりかけたところを、まるで重要なものを発見したと主張するように吠えて変化させる。


「どうしたの?」


 澪はジャーキーの頭を撫でながら、開けられた箱の中身を取り出す。入っていたのは古い卒業アルバム。


「……これって」


 ジャーキーが発見したのは、澪と梓の両親の小学校からの卒業アルバムだった。


「澪さんのご両親、どんな方?」

「高校のアルバム、見た方が早い」


 澪は高校アルバムの中から、若い頃の父親の写真を探し出して指差す。


「お父さん」

「い、イ、イケメン過ぎる!!」

「オレもそう思う。人気のアイドルや有名俳優が霞んで見えるほどにイケメンだよな」

「そ、そんなことは」

「格好よすぎる。うちのお父さんと交換してほしいくらい」


 三笠、一騎、三森の父親評価に澪は顔を赤くした。彼らが改めて手紙を確認すると、その大半は高校時代に澪父に告白したらしい同級生や先輩後輩が送り主のようだ。

 その後、澪母の高校の卒業写真も見た彼らは澪の両親は出会うべくして出会ったのだと考えた。それから程なくして、家族写真のアルバムを見つけた彼らは、梓と創太とも合流して小松交通の社員寮であるマンションへと戻った。




「明日だな」

「うん」


 小松交通に戻り、昼食を済まさせてから一時間後、一騎と澪は二人だけでジャーキーの散歩を行っていた。


「オレたちだけで作戦を行ったら、半分以上の確率で失敗だろうけどな」

「援軍、来ると思う?」

「どうだろう。昨日、明石さんよりも地位が上の狭間さんが、ネットやテレビ、ラジオに防災無線を使って協力を呼び掛けてくれたようだ。

 だけど、どれくらい生存者がいるのかわからない。それに自衛隊や警察の特殊部隊に生き残りがいても、オスプレイとか戦闘ヘリでも使わない限りは来れないと思う」

「どうして?」

「道路は事故車によって道を塞がれてるから」

「そう……だったね」


 会話の内容は誰が聞いても明日の話。もしもゾンビ発生がなければ、年頃の男女が歩いているなら恋バナくらいしていただろう。

 だが、実際にゾンビは発生し、どれだけの生存者がいるのかも不明だ。年頃らしい会話がなくても、これは仕方ないと言える。


「澪、もしも、だ。もしもHZを仕留めることが出来ず、援軍もないまま周囲にWZやRZが集まってきたら、なんとしても生き延びろ」

「どうやって?」

「梓さんや三笠たちと一緒に逃げろ。逃げるだけの時間は作り出すから」

「一騎くんは?」

「HZを殺せず、周囲をゾンビに囲まれたら病院まで強行突破する。小野先生を送り届けて、WHOの超高度AIに抗ウイルス剤を作るように依頼を出すまで、死守する」


 一騎の言葉を聞いて、澪は足を止めた。自然、彼も足を止めて二人は向かい合う。


「……。一緒に逃げてくれないの?」


 澪が寂しそうに上目使いで問いを発した。


「逃げたいさ。でも、明日はオレの考えた作戦が実行される。考えた本人が逃げ出せるはずないだろ」


 整った顔立ちの澪に上目使いで問われ、一騎は少しだけ気恥ずかしさを感じながらも答える。


「作戦を考えた張本人が逃げられないさ。いざとなれば、オレ一人でも残って他の全員を逃がす。作戦に参加する人たちが、命を預けれてくれるんだから」

「…………。危険になっても、わたしは……離れない。一騎くんといたいから」

「え!?」


 告白とも取れる言葉を聞き、一騎は驚愕の表情で彼女を見る。


「どういう……ことだ?」

「あの、ね。わたしは一騎くんが好き……なんだと思う」

「思う?」

「うん」


 視線を反らさずに、二人は見詰め合う。ジャーキーは雰囲気から邪魔するべきじゃないとでも判断したのか、非常に大人しい。


「いつからか分からない。でも、一騎くんが近くにいると安心できるの。それに時々だけどね、ドキドキするの」

「安心とドキドキ、か」

「うん。最初は家族を失った仲間、みたいな感じだった。でも、一緒に過ごしていくうち、気付くといつも視線で追ってたの」


 普段、短い会話ばかりの澪が珍しく長く話す。話しているうちに顔を赤くしながら。


「そっか」

「そうだよ。それに映像でゾンビになったお父さんを見て、わたしが泣いた時に抱き寄せてくれた」

「嫌じゃなかったか?」

「嬉しかったよ」


 一騎が澪の肩を抱き寄せたのは、ほとんど無意識に近い。それだけ彼にとって、御巫澪という美少女は大切な存在なのは確かだ。

 二人はその時の互いの感触を思い出し、顔をかなり赤くする。それでも、澪は言葉を続けた。


「あの時にわかったの。わたし、一騎くんが好きだって」

「ありがとう」

「ううん。それで、その、一騎くん……は? わたしのこと、どう思ってる?」


 梓がいたら、告白の返事を促すような澪を見て「抱き付いちゃえ」などと言っていたかもしれない雰囲気が。


「大切だよ。澪には生き延びて欲しい。どんな危険からも守ってみせるって思うくらいに」

「……それは、仲間として?」


 澪の声が震えている。ただ、仲間として大切だと言われているのかと。そう思って。


「違う。一人の男として御巫澪っていう女性を守りたい。ずっとだ」


 言った途端、一騎は今まで以上に顔を赤くする。この時点で好きだと言っているのと同じだから。


「ありがとう」


 それが分かったんだろう。澪が涙を浮かべて、微笑を浮かべた。それを見て一騎は言葉を続ける。


「ゲームなんかだと、死亡フラグだとか言われそうだけどさ。もしも無事に小野先生を送り届けられたら、オレの彼女になってもらえませんか?」

「はい。幸せにしてください」


 恋人になるための告白的な感じじゃなく、完全にプロポーズになっているのに二人は気付かない。一騎も澪もお互いの気持ちが分かると、湯気が出るんじゃないかと思うくらいに顔を真っ赤にした。


「明日の作戦、成功させようね」

「あぁ」


 言外に「ちゃんと幸せにしてね」という澪に、一騎はしっかりと頷いた。


「ワフン」


 非常に甘ーい雰囲気が完成したところで、ジャーキーが散歩を促すように鳴いた。


「さ、散歩の続き、しよ?」

「そ、そうだな」


 ジャーキーに鳴かれたことで、二人はジャーキーの存在を忘れていたのを思い出す。恥ずかしさで顔を直視できない二人だが、どちからともなく手を伸ばして恋人繋ぎ。そしてジャーキーの散歩を再開した。

 二人は恋人繋ぎのまましばらく散歩を続け、援軍が来るのとお互いケガをせずに生き延びられるようにと願いながら小松交通へと帰っていった。

 恋人繋ぎのまま帰宅した二人を見て、創太、梓、三笠、三森の四人が物凄くニマニマした笑みを浮かべて出迎える。帰宅から夕食までの時間、二人は関係変化に気付いた全員に質問攻めにされてしまった。


 夕食後、二人は学生組や警官組、自衛隊組に小松交通の社員から今夜は二人だけで過ごすよう言われ、倉庫部屋状態になっていた707号室へ。

 明日の持ち物の最終確認を行い、入浴を済ませて二人は同じベッドで眠るのだった。二人のために言うならば、互いを抱き枕状態にしたが、それ以上の接触はなしだ。

一騎と澪の関係変化、どうでしたでしょうか。

無理矢理感があるかもしれませんが、数話で完結するのでご容赦を。


一騎と澪の関係を書きましたが、他に読みたい二人の組み合わせはあるでしょうか?

読みたい、と書かれた数が多いものがあれば48話の前に投稿したいと思います。

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