4.武器と弾薬の調達相談
無事に帰宅ができたという思考よりも、まず最初に一騎と創太の頭の中に浮かんだのは情報収集と707号室と708号室のカーテンを閉めることだ。
もしも他に生存者がいたとして外から一騎たちの姿を見たら、マンション内に入ってくる可能性がある。そして、その生存者が噛まれていたら、ゾンビとなってしまう。
仮に噛まれていなかったとしても、来栖野高校の時のように自分勝手な大人たちが来たら状況は最悪になる。彼らが集めた物資を奪うだけではなく、外でゾンビを殺してこいと言ってくるかもしれない。
これだけでなく、澪と梓という年頃のそれも美少女と美女姉妹。大人たちが欲情して襲い掛かる危険性もある。この危険性を一騎と創太は的確に考えていた。
707号室と708号室のカーテンが閉められた後、創太は管理人室に向かって太陽光発電の電力の振り分けを自分たちの住む部屋にだけ送るよう設定変更。その後、すぐに武藤家へと戻った。
一騎はテレビの主電源を入れて、各放送番組を次々と選択していき、なにが放送されているかを確認していく。
「澪、少し早いけどお昼の準備をしない?」
「賛成」
御巫姉妹は一騎と創太に情報収集を丸投げして、少し早めの昼食作りを開始。冷蔵庫の中を確認してから、賞味期限の早いものから順に取り出して、メニュー相談。
『今朝の六時頃から徐々に広まっていったと思われる暴行傷害事件は、現在になっても解決の兆しはありません。 また、来栖野だけではなく、新宿、渋谷、原宿、代々木などでも同様の事件は発生しており――――』
NHK放送から別の放送番組に一騎はチャンネル変更。
『都内各所だけではなく、他県でも同様の現象が――――』
『何らかのウイルスによる感染症なのか、生物兵器なのかは不明ですが――――』
『噛まれただけで吐血し、噛んだ相手と同じ状態になって別の人間を襲うという、この異常事態ですが既に日本全国にて起きていると思われ――――』
『視聴者の方から送られてきた映像ですが、ご覧のように噛まれたり身体の一部を食べられてから早ければすぐ、遅くとも数十分から一時間前後で吐血。 徐々に皮膚の色が変色していき――――』
『国立感染症研究センターは、なんらかのウイルスであると判断し感染者を拘束。どのようなウイルスなのかを検査して、坑ウイルス剤の開発に――――』
一騎はどこも同じような内容ばかりだと判断して、電源を切るとそっとベランダへと近付き、カーテンの隙間から外の様子を観察する。その直後、一騎が消したはずのテレビの電源が入った。
「ほとんど同じ報道だぞ」
すぐに創太が電源を入れたと気付いた一騎は、さっきまでの似たような内容から判断して無駄じゃないかと考えていた。
「避難場所の情報や、警察や自衛隊がどう行動しているのかを知りたいのだよ」
「スマフォで検索すれば?」
「既に試したのだよ。 だが、アクセスが殺到し過ぎたのか一時的に閉鎖されているのだ」
「マジかよ」
『続報です! 八時前から都心方面へと向かった取材ヘリが戻ってきました。戻ってきたクルーの話によりますと、都心は壊滅状態とのこと!!』
男性アナウンサーが取材ヘリのクルーが撮影した映像を、流してきた。上空から撮影された映像には、警察やSATなどがバリケードを築き、接近するゾンビの大集団へと銃撃している。
眉間や頭を撃ち抜かれない限り、何度でも立ち上がっては銃撃を行う彼らに迫っていく。あまりの数に徐々に後退を始めていくと、バリケードが突破されてしまう。
そして数の差によってあっという間にゾンビたちは、懸命に数を減らそうとしていた警官とSATの隊員たちを食らっていく。程なくして撮影が止められたのか、映像は消えてしまった。
『撮影クルーが地上の支部に連絡を入れ、最後に得られた情報は個人医院や病院、大学病院などは既に閉鎖されて各地の警察署には発砲許可があったとのことです』
発砲許可という内容が出た直後、それを待っていたかのように外から銃声が響く。すぐにテレビの電源は切られた。
「ひゃっ!」
「び、ビックリしたわね」
澪は銃声に驚いて、小さく悲鳴かもしれない声を一瞬で上げた。梓の方は妹の悲鳴ともいえない声に驚いたようだ。
「御巫、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
一騎が澪の方に声を掛けたのは、彼が振り返った時に包丁を持っていたのが彼女だったからだ。梓の方はレタスや白菜を食べやすいように千切っていただけ。
「よかった。御巫の姉さんは?」
「澪と梓って呼んでいいわよ」
「すみません。 梓さん、ケガは?」
「レタスと白菜を手で千切っていているだけだから、ケガなんてしないわよ」
二人ともケガがないことを確認して、一騎は創太へと視線を向ける。
「一騎、昼を済ませたら警察署に向かうのだよ」
「なんでだ?」
「武器と弾薬の調達なのだよ。 僕の部屋にある3Dプリンターを使っても、パーツを作るだけでも時間が掛かってしまう」
「その間に警察が保有している銃と弾薬を取りに行く、と」
「うむ。 彼らは納得しないだろうが、ゾンビが雪崩れ込む前に確保しておきたいのだよ」
「さすがに、ゾンビがうようよしている場所を突っ込む気にはならないしな」
「うむ」
一騎と創太が武器と弾薬の調達は必須と判断を共有したところで、梓から待ったが掛かった。
「ちょっと待って。拳銃とかが保管されている場所、わかっているの?」
「問題ないのだよ。 一騎たちを迎えに行く前に、ハッキングして確認済みなのだ」
「ハッキングって」
梓が「犯罪行為じゃない」と反応したが、創太は実になんてことない表情。
「場所はわかっていたとしても、厳重に管理されているんじゃない? どうするつもり?」
「さっきの銃声を聞いただろう? 警官たちはとっくに武装している頃なのだよ」
創太が断言した直後、断続的に銃声が響いてくる。それは、本格的に発砲が始まった証明でもあった。一騎がテレビの電源を再度入れると、NHKが上戸森警察署の近くから報道を開始し始めたタイミング。
大量の事故車と持ち運び式の鉄柵で、警察署の周囲にバリケードが築かれている。
『上戸森警察署付近より放送します。 警官たちは押し寄せる感染者に対して警告を実施。これが無視されたために銃を発砲しました!
また感染していない市民が、警察に保護を求めて殺到しています。銃声と市民に引き寄せられるかのように感染者の数は増加する一方です!!』
どこか高い位置から撮影しているのか、少しばかり見下ろすように撮影されている。警察は殺到する生存者を全員、保護しようとはしていない。
『なんでだよ!? 俺も中に入れてくれよ!!』
突然に響いた大声に、カメラがズームされた。大学生くらいの男が、血液検査や体温検査の列に加わっていたのだ。その男が採血のために左腕の袖を捲ると、かなり強く噛まれた後がある。
それを目撃した警官たちと、協力しているらしい医師や看護師たちが警察署内へ入るのを拒否したのだ。
『あなたは既に噛まれている。 噛まれた人間は感染者の仲間入りまでカウントダウンに入っているんです。中に通すわけにはいかない!!』
『ふっざけるな! 俺は感染しない!! 噛まれて時間が経った後でも、ちゃんと消毒したんだ!!!』
『私の同僚も噛まれてすぐに消毒しましたが、感染者の仲間入りをしました。 だから、あなたの主張は受け入れられない』
『ふっざけんな! そいつがダメだっただけで、俺は大丈夫なんだ!!』
『我々の判断は同じです! 一度でも噛まれた人間は、警察署内で保護はできない!!』
医師が否定し、大学生くらいの男が怒鳴るように叫ぶ。掴みかかろうとした瞬間、刺叉で腹部の部分を押して列から離れさせていく。
それをある程度まで映したカメラは、バリケードに群がる大量のゾンビへと向けられた。この間にも男が怒鳴る声が聞こえていたが、程なくして一発の銃声がテレビからだけではなく、実際に窓越しにも聞こえた。
「ゾンビ化が始まったから射殺した。そんなところか」
「バリケードを突破しようとしたゾンビかもしれないのだよ」
「映されないから、どっちなのかわから――――ゾンビ化だったな」
「うむ。 放置すればゾンビの仲間入りだから当然の判断なのだよ」
創太は不意に立ち上がって、出ていこうとする。それを不思議に思った梓が声を掛けた。
「どこに行くの?」
「自分の部屋に行って、上戸森警察署内の地図を印刷してくるのだよ」
創太は708号室の自分の家へと戻った。一騎はその姿を見送ると、自分の部屋へと向かい通学鞄を置く。そしてクローゼットを開けて、動きやすさ重視の服装に着替えてリビングへ。
「澪と梓さんは両親の寝室を使ってください。場所はここです」
「ありがとう」
「そうさせてもらうわ。 澪、お昼御飯を済ませたら私たちも着替えましょう」
「うん」
澪は調理中だったが、梓は一騎が指し示す部屋を確認して頷いた。程なくして創太が戻ってきて、すぐに内部確認しようかという流れだったが、澪が待ったを掛ける。
「みんな、緊張で疲れてる。お昼まで仮眠しない?」
「噛まれないように、遭遇しないようにって気を使っていたからな。確かに疲れた」
「うむ。万全を期すには賛成なのだよ」
「最初は一騎くんと澪が休んで。 私と創太くんは二人が仮眠を済ませてからにするわ」
梓の言葉に澪はコクリと頷いてから、小首を傾げた。どの部屋で寝れば良いのかわからないようだ。一騎が部屋を指差した時、彼女は調理中で顔を上げなかったから当然だ。
一騎は澪に両親の寝室を指差し、その後に自分の部屋も教えた。間違えたりしないようにと。澪が寝室に入ったのを確認して彼も部屋へ。
「武藤くん」
「澪?」
「うん」
一騎がベッドに寝転がった直後、ドアの向こうから澪に呼ばれたのだ。どうしたのだろうかと、彼がドアを開けると澪が立っている。
「どうした?」
「一緒、いい?」
「一緒?」
「そう、一緒」
「えっと?」
「寝る」
一騎は澪がなにを言いたいのか、さっぱりだった。しかし、彼女から「一緒」という言葉の後に「寝る」と続いて、ようやく理解した。
「一緒に寝ようって?」
「そう」
「でも、どうして?」
「なんとなく」
あまりハッキリとしたやり取りではなかったが、それでも一騎は了承した。彼女は枕を大事そうに抱えて入室すると、一騎のベッドに静かに腰を下ろす。
――同い年の女子と一緒のベッドって。めっちゃ緊張するんだけど!!
一騎はかなり緊張していたが、それでも平静を装って横になった。すると、彼女もベッドの中に入ってくる。彼が緊張と気恥ずかしさで、寝付けないでいるのに対して澪はすぐに規則正しい呼吸に。
失礼だろうと思いつつも、一騎が澪の寝顔を見ていると彼女は眠りながら涙を流し始めた。その理由をなんとなく察した彼は、そっと澪を抱き寄せて目を閉じた。
「澪ったら大胆ねぇ」
「一騎は見事に意識しているのだよ」
澪が一騎の部屋を訪れた瞬間から、創太と梓はしっかりと盗み聞きしていた。そして、今まさにドアをほんの少しだけ開けた状態で、室内の様子を窺い見ていたのだ。
「あの二人、意外とお似合いかもしれないわね」
「梓も含めて両親を失った組み合わせなのだから、互いに温もりを必要としているのかもしれないのだよ」
「私は平気よ。 ところで創太くん」
「うむ?」
「辛いのは平気?」
「問題ないのだよ。 一騎はあまり辛いと食べれないが」
「そう。 なら問題なさそうね」
「ふむ?」
静かにドアを閉めて、一騎と澪が起きてくるまでの間そっとしておくことにした創太と梓だった。
□
「むぅ」
「澪、ごめんね。別に悪気があった訳じゃないのよ」
「ぷい」
「澪、お姉ちゃんが悪かったから、もう機嫌直して!」
「……」
一騎と澪が起きて、仮眠を交代。ちゃんと四人が仮眠を済ませて、昼食を開始してから今の流れになっていた。食事中に梓が「これからも一騎くんと一緒に寝るのかしら?」と満面の笑みで聞いたことが原因だ。
一騎に抱き寄せられて、すっかり安心しきった顔で寝ていたのを梓はバッチリと目撃。からかうつもりで話した結果がこの状況になっている。
「そもそも一騎くんが、澪を抱き寄せて寝たりしなければこんなことにはならなかったのに」
「真横で寝ながら涙を流してたのを放置すればよかったと?梓さん、冷たいんですね」
梓は妹から向けられるジトっとした目線から逃れるため、一騎を悪者にしようとした。しかし、彼は悪いことをしていない。
一騎としては澪が眠りながら涙を流していたのは、不安や緊張、寂しさが原因では考えている。それに寝ている人間を起こすような方法は取りたくなかったのだろう。
さらに言えば、わざわざ起こして「泣いてたぞ」と教えたり指摘するのは、可哀想だという判断もあった。
「冷たくなんかないわよ! 別の方法があったんじゃないかって言いたいの!!」
「起こさずに泣き止ませる方法があったなら、堂々と部屋に入ってくればよかったじゃないですか」
「そ、それは。 そ、そうよ。気を使ったのよ」
「気を使った結果がこれでしょうが」
「うぐ!」
放置すれば一騎と梓の言い合いはずっと続くだろう。それを察した創太が止めに入った。
「二人ともそこまでなのだよ。 そもそも覗いていた梓に問題がある」
「創太くん、妹が同い年の異性と一緒に寝たのよ。 なにかあったらと心配するのは姉として当然じゃない」
「だったら、最初から姉妹で寝ていればよかったのだよ」
あまりにも自然に発せられた正論に、梓は反論するのを止めた。確かに自分が一緒に寝れば、妹にジト目を向けられたりはしなかっただろうから。
「お代わりは?」
「もらう。半分くらいでいい」
「半分ね」
「あぁ」
梓が沈黙したのを横目で確認した澪は、一騎にご飯のお代わりをするか確認。言われた通りに半分ほど茶碗へと入れて手渡した。
ちなみに、四人が食べている昼食は白米、麻婆豆腐、野菜たっぷり中華スープ。程なくして食べ終わった一騎は、食器を流しへと運んでから澪に感想を伝えた。
「ご馳走さま。美味かったかよ」
「よかった」
一年の頃から表情変化の乏しいことで有名な澪が、心底嬉しそうな雰囲気を漂わせる。その後、全員が食べ終わると協力して食器を洗った。
食後にお茶を飲みながら、四人は創太が印刷した上戸森警察署内部の地図を見る。それと追加の情報も創太から聞かされる。
「署内の監視カメラをハッキングした結果、バリケードは署全体を囲っていない。 正門と業者が出入りする裏門周辺だけなのだよ。
それとゾンビ集団は現在、正門バリケードのみに集中して裏門には一体の姿も確認できなかったのだ」
「なら署内に入るには裏門からだな。 問題は武器保管庫が何階のどこにあるかが問題だ」
「六階奥にあるのだよ。 まだ電力が生きているからエレベーターも動いているが、使わない方が懸命なのだ」
「どうして? あっ。もしも急に電力供給がなくなったら動かなくなっちゃうか」
「それもあるのだよ」
「それも?」
四人は顔を付き合わせるようにして、内部地図に目を通していく。そして、一騎が気付いた。
「エレベーターは警官が見張ってるのか」
「うむ。 それに各階を常に十二人が三人ずつで警戒しているのだよ」
警察は民間人に銃を持たせたくないだろう。もしも使い方を正確に理解している人物がいた場合に後ろからズドン、なんてことを避けるためにも。
「確実に六階へと向かうには、裏門から署内に入って非常階段を使って向かうしかないのだよ」
「そうか。 保管庫の鍵は?」
「幸運にも開いているのだよ。 ただし、内部には警官が数名いるのだが」
どうやって警官の目を盗んで中に入るか。これは慎重に考える必要がある。
――ズドドドドド!! ――ダダダダダダン!!
四人がどうやって気付かれないようにするかと、思考に集中しようとした直後のこと。連続した銃声が警察署の方角から響いてくる。
「一騎、テレビを」
「あぁ」
一騎がテレビの電源を入れると、上戸森TVのチャンネルでちょうど報道が始まったところだった。
『感染者の数が非常に増加し、警官たちが警告を何度か行いましたが無視されました。 感染していない人々の安全を守るために本格的な発砲が開始されます!』
カメラが少しずつバリケードの隙間を作っていくゾンビをアップで映し出す。防弾ベストを着込んだり、腕や足をプロテクターで覆った警官たちが発砲している。
バリケード内で感染していないかの検査を受けていた生存者たちは、悲鳴と絶叫を上げて署内へ入ろうと順番や検査を無視していた。
「MP7A1、MP5A1、G36、ベネリM4スペール、ベネリM3なのだよ」
一目見ただけで創太は警官たちが使用している銃を正確に理解した。
「おっ!」
一騎たちが見ている中、警官たちはどんどん署内から出てきて銃撃開始。ゾンビたちは頭を撃たれたり、ショットガンによって首を吹っ飛ばされるが、次々とゾンビが殺到していく。
検査を無視した生存者の多くは、署内までもう少しという場所で中から出てきた警官たちに押し返された。
『警官たちが銃撃を開始しましたが、感染者たちは全く臆することもなく署内へ入ろうとバリケードを壊すかのような勢いです!』
報道を見ていた澪が、ふと画面に映るゾンビを見て目を見開いた。
「澪?」
驚愕しているのを感じ取った梓が、どうしたのだろうと澪に視線を向けた。
「ここ!」
澪が画面を指差した場所、そこには歩いているゾンビではなく走っているゾンビだった。しかも七体だ。
「おい! まさか!!」
一騎はなにが起こるのかを予想し、それが現実になる瞬間を目撃した。
「バリケードを飛び越えたのだよ!!」
「ボーッとしてる暇があるなら撃てよ!!」
まるで走り高跳びのようにバリケードを飛び越えた走るゾンビを七体を前に、警官たちは驚愕のあまりに動きを完全に止めてしまった。
創太はまさか走るゾンビがいるとは思わず、信じられないとばかりに叫ぶように言った。一騎の方は聞こえないとわかっていても、画面向こうの警官たちに撃てと叫ぶ。
――ドン!!!
警官たちだけでなく、上戸森TV局の取材班はゾンビが走ってバリケードを越えたことに驚いていた。そんな彼らを正気に戻すようにベネリM4スペールを持つ警官たちが、走ってきた七体のゾンビへ一斉に発砲。
四体は頭を吹き飛ばされて完全に死亡、二体は両手足を失い地面に倒れ伏した。最後の一体は、ニューナンブM60で武装した警官の首筋に噛みついて食い千切っている。
『な、なんということでしょうか! 感染者の多くは歩行するだけだったのに、走れる感染者がいました!!』
マイクを持っているだろう人物は、自分が目撃した光景が信じられないかのように声が震えている。そんな撮影クルーの元へもゾンビは向かっていた。
『こ、これは危険です。 我々もすぐに逃げないと!!!』
リポーターはかなり焦っているのか、自分たちがいる建物から慌てて外に出ようとする。だが、それは下へ向かうしかなく、今まさに迫るゾンビに突入しに行くような事態。
『うわああああぁぁぁぁあああ!!』
カメラマンがリポーターの声に反応して、階段下を映すとそこにはドアを破壊して入ってきたゾンビが。
「一騎、これはチャンスなのだよ」
「警官たちがゾンビの相手をしている間に、武器保管庫に向かおうってか?」
「うむ。 警察署までの移動手段は、外にある車を使うのだよ」
「乗ってきたのを使わないの?」
「あれは使いたくないのだよ。 奪われる場合を考えると、事故車の中から動くものを使うべきなのだ」
一騎たちは大急ぎで警察署までのルートを考え、署内に入って武器と弾薬の調達方法を検討。中にゾンビが入ってきてしまった場合を想定し、脱出ルートも打ち合わせた。
十五分もしないうちに四人はマンションの廊下に出て、施錠を行い音を立てないように一階まで移動。創太が管理人室から、全室の予備鍵を持ってきて101号室と102号室の窓から彼らはマンションの外へと出る。
バス停周辺で停まっていた、最も損傷が少なそうなプリウスを外から確認。内部に人間もゾンビもいないのを確認して、一騎たちは乗り込む。
マンション周辺にゾンビは一体しかおらず、一騎は背後へ駆け寄ると警棒を全力で振り降ろして仕留めた。
「鍵が刺さったままで助かったのだよ」
今回、ハンドルを握るのは梓で助手席に創太。警察署までの案内役だ。
「シートベルトをして」
「完了」
「した」
「発進させるのだよ」
梓に三人はシートベルトをしたことを伝えて、すぐ出発するように言った。彼らが出発したのは時刻は午後二時八分のことだ。