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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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閑話3.苦労なしのマンション防衛

かなり短めです。


 創太によるマンション防衛力の強化が行われてから、二日後の朝。704号室で朝食の準備をしていた伊藤と鈴木は、突如として鳴ったアラートにビクッと反応した。

 二人は大急ぎで管理人室へと向かい、モニターを確認する。そこに映っていたのは、生存者ではなく全身のあちこちに噛み傷や食い千切られた後、腸を引きずりながら簡易鉄柵に近付くゾンビだ。一体や二体じゃない。六十体はいる。


「防衛力強化がされた後で良かったよね」

「本当にね」


 二人がモニターを見ている間にも、どんどんゾンビは近付いている。ほとんどがWZだが、数体ほどRZの姿も。


「このボタンだっけ?」


 伊藤が鈴木に聞いたのは、迎撃を開始するためのボタン。創太は作るだけ作って、簡単なマニュアルしか書いていなかった。

 そのマニュアルに目を通していても、一応の確認はしておきたいのだろう。全部でボタンは五個あるのだが、青、黄色、赤、オレンジと赤、黒となっている。

 青は液体窒素を勢いよく水鉄砲のように発射し、黄色は3Dプリンター製のM92改による威嚇射撃。赤がRM700改と事故車バリケードにボール射出器で、黒が全室のUZI改だ。


「そうそう。その青いボタン」

「液体窒素の水鉄砲、起動!」


 ポチっと伊藤がボタンを押すと、簡易鉄柵にゾンビが手を触れたタイミングで液体窒素が勢いよく発射された。


「うわっ」

「グロっ」


 液体窒素の圧力が強かったのか、鉄柵に触れたWZは首から上を中途半端に残して倒れた。正確には鼻から上の一部が真ん中部分を失った状態。

 首から上の全てじゃないせいで、腐った肉がダラダラと穴を覆うように落ちたのだ。しかし、そんなの関係なしとばかりに、どんどんWZが鉄柵を掴む。


 ――ベシャッ!

 ――ビシャッ!

 ――ブチョッ!

 ――ベチョッ!


 簡易鉄柵前に集合したWZは、次々と首から上を失って倒れていく。何体かは脳を周囲に撒き散らした個体も。それでも他のWZが少しずつ増えていき、鉄柵に群がり始める。


 ――ベシャッ!

 ――ビシャッ!

 ――ブチョッ!

 ――ベチョッ!

 ――バシャッ!


 液体窒素が立て続けに放出されるが、いつの間にか増えたゾンビが鉄柵に集まり体重を掛けていく。ギシギシと音を立て始めたのが、管理人室へと届いた。


「どうする?」

「壊れたら大変だから、招き入れて殺しちゃったら?」

「それでいっか」


 鉄柵を左右に開閉するスイッチを鈴木が押すと、百体近くにまで増えていたWZとRZが事故車バリケードへと接近。


「黄色は押しても意味ないから、押さなくてもいいよね」

「うん。赤を押しちゃお」


 ポチっと鈴木が赤のボタンを押すと、屋上庭園と周辺民家のベランダに配置されたRM700改の銃口が、事故車バリケードに殺到するWZとRZに向く。


 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!


 次々に撃ち出されるパチンコ玉。どれも正確にゾンビの頭部を撃ち抜く。二十を超える銃口がWZを射殺し、動くことがなくなった死体を量産していく。


『ギュァァア゛ア゛ア゛ア゛!』

『ゥゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!』

『ギィィャア゛ア゛ア゛ア゛!』

『グヌゥゥオ゛オ゛オ゛オ゛!』

『ギュロォオ゛オ゛オ゛オ゛!』


 八体のRZが大きな唸り声を上げると、勢いを付けて走り出す。そして、RM700改が狙撃するも二体しか殺せていなかった。残りの六体が見事な跳躍で先頭のWZを無視して、事故車バリケードに張り付いた。


 ――ザシュザシュザシュザシュッ!!!

 ――ドスドスドスドスドスドスッ!!!

 ――ポンッ!

 ――パンッ!

 ――ドコッ!

 ――ボコッ!


 事故車バリケードに乗ったRZたちだが、重量感知センサーが反応。十キロ以上の重さが掛かったことで、包丁とナイフの連続突き刺しと、大量の尖った小石が入った缶の火薬が炸裂。

 六体のRZは顔や胸、腹部に包丁とナイフの連続突きを食らう。さらに尖った小石が、首や股間などに次々と勢いよく当たっていく。さらに、ボール射出器からも、テニスボールや野球ボールが。

 それでも別のRZたちは臆することもなく、事故車バリケードを何とか越えてフェンスを掴んだ。


「押しちゃっていい?」

「私も押す!!」

「「せーの!!」」


 二人が黒ボタンをポチっと押すと、全号室のベランダにUZI改が出現。そしてカメラの映像を頼りに、AIが制御してパチンコ玉を一斉に撃ち出す。


「うわぁ」

「生存者だったら、かなり苦しんだろうね」

「葉加瀬くんってさ、これより凄いのを有栖総合病院に作ったんでしょ?」

「澪ちゃんと梓さんが言ってたね」


 のんびりとした雰囲気で話す二人だが、フェンスを掴んだRZたちは既に唸り声も上げなくなっていた。威力が高かったせいか、RZたちは蜂の巣にされていたのである。

 もしも生存者だったら、必死にパチンコ玉から逃れようとして、激痛を味わっていた頃だ。三十分ほどで完全にゾンビは沈黙。

 伊藤と鈴木はこの光景を諸星に見せないようにするべく、さっさと掃除しに向かうのだった。

防衛に関しては、ボタン操作なので苦労なし。

しかし、死体処理を考えると苦労するんですよねぇ。

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