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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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45.とあるゾンビの殺し方(検討)


 警官組と自衛隊組が落ち着いたタイミングで、改めてHZをどう殺すか。これが話し合われることになった。一騎たちが戦闘映像から得られた情報。それは正面から攻撃を行っても、異常に頑丈なハンマーのような腕で防がれること。


「映像を見る限り、HZは正面からの攻撃に強いのは確かです。オレとしてはHZの左右か後ろから攻撃して、ダメージが通るようなら、集中攻撃をするべきだと思います。

 実銃、3Dプリンター製の銃を問わずに集中攻撃すれば、二本しかない腕で守れる範囲は限定されますから。それと可能ならコブラや戦車に攻撃も。

 腕と足はかなり頑丈そうでしたけど、胴体と頭部が同じだけの強度を誇るとは思えませんから」


 一騎は創太が即興で作った3Dソフトを使い、HZを中心にして左右と後方からの攻撃を提案。全員が画面を見たのを確認すると、今度は創太が操作して自分の案を表示。


「僕は全体を囲い、四方八方から同時攻撃が有効だと思うのだよ。HZの武器となりそうな物は事前に排除するか、移動するかして少しでも攻撃力を低下させる。

 周囲の建物を利用し、角度を付けた攻撃を行えば、どうしたって腕でカバーできない場所が生じるはずなのだよ」


 一騎は特に地図や場所指定をしなかったが、創太は来栖野大学病院から800メートル離れた大きな交差点を攻撃場所に指定。周囲に様々な建物があり、交差点の中央から全方位の建物までの距離が150メートルはある。

 HZの攻撃と手段となる車などを移動させておけば、攻撃手段を奪えるばかりか、集中攻撃によって移動することさえも困難にさせようという考え。


「二機のコブラによる前後、あるいは左右からの同時攻撃を腕で防がせれば、胴体への攻撃が可能になるだろう。問題はその胴体が、どれだけ頑丈なのか、だな」

「腕で胴体と頭部を守ったことを考えると、銃撃は有効だろうと思うぞ。問題があるとすれば、ただの銃だと決定力に欠けるという点だろうな」


 盛岡は一騎と似たような戦い方を提案。鳥越の方は戦闘映像を見て胴体と頭部は普通のゾンビと変わらないだろうという予測。ただ、確実に殺すにはRPGや戦車、コブラによる直撃が絶対条件と考えているようだ。


「WZ、RZ、放置は危険。HZのみの集中は、命取り」

「私もそう思うわ。HZだけの相手をしてれば言い訳じゃないから。ゾンビ犬もいるだろうし」


 澪と三笠の二人からは、WZとRZやゾンビ犬の存在も忘れないようにという指摘。


「有栖総合病院の全自衛隊員を総動員しないと、攻撃は厳しいんじゃないか?」

「もう少し、戦力補充が欲しいところよね。明石さん、その辺はどうなのかしら?」


 中村と梓は戦力補充は絶対ではないが、必要だと判断している。


「有栖総合病院付近にゾンビはいない。だが、我々が来栖野大学病院に向かった後に、複合ファミリーレストランに向かったと思われるゾンビが移動してこないという確証もない。

 それを考慮すると、これ以上の人員は割けないな。武器と弾薬の補充要員を手配するだけで、残りは病院防衛に残す必要があるだろう」


 明石の危惧は当然のことだ。だからこそ、誰も反論しないし、異議を唱えたりもしない。


「現在の戦力だけで、何とかするしかない」


 明石の言葉を聞き、室内にいる自衛隊員たちが頷く。それと同時に何人かが案を出した。


「火炎放射器で、こんがりと焼けないでしょうか?」

「WZとRZは、オスプレイに乗った俺たちが上から攻撃して殺すのが確実か」

「ドローン搭載のミニガン改を使って、斜め上から頭部を狙うのも一つだろ」

「81mm迫撃砲 L16と110mm個人携帯対戦車弾を、腕で守れない場所に命中させれば確実だろうな」

「後ろから電ノコを突き刺して、抉ってしまえば勝利確定かと」


 火炎放射器で焼くとしても、死ぬのを前提に接近する必要がある。もしも、社長たちが撮影した動画の中のHZと同じか、超える程の移動速度を持っていたら自殺行為だ。

 これは誰もが言葉にしなくても、自然と理解していた。車を簡単にペシャンコに出来て、移動速度も早い。そんなゾンビを安全確実に殺す方法。意外と難しいものだ。


「僕が他に思い付いたのは、液体窒素なのだよ。手足のどちらか一方を急速に冷やして脆くし、ショットガンの乱射。これで勝つのだよ」

「液体窒素か。上空のオスプレイから吹っ掛ければ問題ないだろ。ただ、効果があるかは不明だけどな」


 創太も液体窒素に関しては、思い付きで発言した様子じゃない。ただし、ショットガンだけは絶対に本気である。創太のゾンビに使用する武器には、必ずショットガンが含まれているからだ。

 それを分かっているからこそ、一騎も液体窒素にのみ対して自分の考えを出した。


「私はゾンビたちの唸り声から、何を言ってるのか理解しようと試してみよっかな」


 今まで黙っていた三森が、ここに来て周囲をハッとさせる内容を口にした。


「三森、ゾンビの大移動の動画を見て言ってたよな。「呼んでる」って」

「言ってた」

「確かに言っていたのだよ」


 自然と三森に視線が集中する。もしも、三森がゾンビに人間の言葉で指示を与えられるなら、WZ、RZ、ゾンビ犬にゾンビ猫に襲われずに済む可能性があるんじゃないかと。


「三森の言葉というか指示に、ゾンビが反応するのかの実験。してなかったな」

「SZやHZには無意味だと思うのだよ。ただ、それ以外のゾンビならば、もしかしたらなのだよ」

「三森が指示を出して、それに従うなら一ヶ所に集中させて一斉攻撃で殺せるな」

「もしくは、隣にいるゾンビを食べろ、とかな」

「それが実現できたら、どれだけ弾薬の節約に繋がることやら」

「創太、SZとHZに指示を出しても無意味って言ったよな?」

「うむ。言ったのだよ」

「その理由は?」

「変異体だからなのだよ。特にHZは自分から共食いをした。という事は、少しは知識や理性があると考えても問題ないはずなのだよ」

「可能性としてはある、かもな。HZの殺し方を考えるのと、多すぎるWZ、RZとゾンビ犬を少しでも減らしに来栖野大学病院に向かってみませんか?」


 一騎がこう発言すると、全員賛成で話はまとまった。ただし、74式戦車と10式戦車は参加せず。また、今まで空気と化していた小野は、一騎と澪の二人が戻るまでジャーキーの遊び相手に任命される。

 一騎たちが最初に行ったのは、周辺民家の内部調査。家の中でゾンビ化した住人がいないかの確認。それと、火炎瓶の材料となる酒と油の確保で、この次に空き瓶。

 幸いにも周辺民家にゾンビの姿はなく、ある家で大量の火炎瓶材料が入手できたのである。火炎瓶作りで三十分ほどを消費して、彼らは車に乗り込み来栖野市へと向かった。

 明石は狭間にHZとコブラの戦闘映像を送信するのと、可能なら人員と弾薬の送ってほしいと伝えるべく有栖総合病院へと戻っていった。無線機なら505号室にもあったが、電波強度が足りなかったのである。





 大通りや一方通行の道路の中でも、事故車が少ない場所を移動して四十分。学生組、警官組、自衛隊組は来栖野大学病院まで、残り十分の距離まで接近していた。

 大学病院に近付けば、それだけゾンビの数も増加していく。最初は数が十体前後なら、彼らは小松社長から借りたゴルフクラブで頭を破壊しながら前進していた。

 しかし現在の彼らには、ゴルフクラブで殺している余裕などない。HZが事故車を殴り飛ばした道路を進んでいるのだが、遮る物がないだけに軽く百体近いゾンビを3Dプリンター製の銃で射殺しながら前進中。


 三森は普通に言葉でWZやRZに、邪魔だから左右に広がるようにと指示を出していた。だが、ゾンビが指示に従う様子などない。

 彼女が指示を出しても、ゾンビたちは完全無視。ただ唸って接近を続けるだけであった。


「パチンコ玉の残りが不安だな。この状態でHZやゾンビ犬、ゾンビ猫なんかに遭遇したら厄介だぞ」

「頭部を撃てばいいのだよ。そうすれば、即死するのだよ」


 一騎と創太は実に気安い感じで話しているが、周囲の人間は違う。ゾンビの発する強烈な腐敗臭によって、鼻呼吸ができない状態。

 二人を除く学生組に警官組、自衛隊組はマスクをして、腐敗臭を嗅がないようにしている。


「二人ともマスクは?」

「「臭いに慣れた」」


 澪はあまりにも普通に鼻呼吸しながら、ゾンビを確実に射殺していく姿を見て臭いが気にならないかを聞く。その答えは物凄く単純だったが。


「ゥゥゥウウウ」

「ァァァアアア」

「ギュァァアア」

「ゴァァアアオ」


 唸り声を上げながら接近してくる膨大な数のWZ。


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――ズドーーーーン!

 ――カチャリ

 ――ズドーーーーン!

 ――カチャリ

 ――バシュシュン、バシュシュン、バシュシュシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュシュシュシュシュン!

 ――パシュシュ、パシュ、パシュシュシュ、パシュ!!

 ――トシュシュシュシュ、トシュ、トシュシュシュ!!


 接近しようとするWZの大半は、一騎、澪、創太、警官組と73式装甲車の一号車に乗車している自衛隊組によって確実に射殺されていく。


「グゥゥゥア゛ア゛ア゛!」

「ギュァァオ゛オ゛オ゛!」

「グギィィィイ゛イ゛イ゛!」


 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!


 WZの死体を飛び越えるようにして迫るRZもいるが、ラルゴの屋根に伏せてRM700改を使う三笠の狙撃によって確実に殺される。


「三森、WZやRZの唸り声に意味とかってあるのか?」


 ――ガシュシュシュン、ガシュン、ガシュシュシュン!


「……今のところは、本当に唸ってるだけ!」

「もしもゾンビ同士でならコミュニケーション可能という事なら大変なのだよ! そうしたら、厄介なのだよ!! 生存者を襲うの方法を効率化しかねないのだよ!!!」


 一騎はTARー21改のスコープを覗き、正確に頭部を撃ち抜きながら問いを発する。問われた三森は、少しだけ集中するように目を閉じた後に結果を告げた。

 その結果を聞いて、創太は真っ先に最悪な事態を考えたようだ。ゾンビ同士による連携。生存者が多く集まっている場所にゾンビが集まり、協力して襲うようになったら。それが創太の言う効率化。


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――ズドーーーーン!

 ――カチャリ

 ――ズドーーーーン!

 ――カチャリ

 ――バシュシュン、バシュシュン、バシュシュシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュシュシュシュシュン!

 ――パシュシュ、パシュ、パシュシュシュ、パシュ!!

 ――トシュシュシュシュ、トシュ、トシュシュシュ!!


 迫ってくるゾンビを射殺しながら、一騎は空になったマガジンと、残っているマガジンを数える。


「射殺した数だけ増えてるように思えるのは、オレだけか?」

「一騎くんの言う通り。わたしも増えてると思う」

「私、残り十発しかないんだけど」

「僕はまだまだ撃てるのだよ。シェルポーチを持ってきておいて正解だったのだよ! はぁ。ゾンビをショットガンで殺すことができる。

 これは最高なのだよ! 坑ウイルス剤が完成して、ゾンビも一掃できたら僕は有名人なのだよ!! ゾンビから仲間と一緒に生存者を救った英雄なのだよ!!!

 さぁ、ゾンビ共! 僕にショットガンで殺されることを光栄に思うといいのだよーーーーー!!!!!」


 最初、創太は「もっとだ! もっと来るのだよ!!」的な発言をしていた。しかし今は絶賛高笑い中。


「前衛、下がれ!! 火炎瓶投擲までカウント五!!!」


 火炎瓶を手にした盛岡が大声で言うと、一騎たちは距離が最も近いゾンビのみを射殺して車に乗り込む。


「ゼロ! 火炎瓶、投げろーーーー!!!」


 八本の火炎瓶が投げられた。投げられた火炎瓶は、最前列のゾンビと五、六メートル後方に広がるゾンビたちを一斉に焼き上げていく。


「グワァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛オ゛!!」


 火炎瓶が投げられ、ゾンビが焼殺され始めてから数秒後。一騎たちのいる場所から、八十メートル先のコンビニからHZが姿を見せた。しかも雄叫び付きで。


「最悪だ! 時間も装備も作戦もないってのに!!」


 中村が「絶対に戦闘を避けるべきだ」と追加で叫ぶ。鳥越の方は既に判断を出していた。


「撤収! 撤収!! 小松交通まで戻るぞ!!! 武藤くんたちが戦闘を走れ!!! 警官組と自衛隊組は牽制射撃だ!!!!」


 運転席からUZI改を撃っていた梓は、鳥越の言葉を聞くと全員が乗り込んでいるのを最確認。シートベルトの着用に関しては無視して、アクセルを踏んで離脱を開始。


「ギュラァァァァア゛ア゛ア゛ア゛オ゛!!」

「ひぃっ!?」

「どうした!?」


 HZの二回目の雄叫び。それがあった直後、三森が縮こまるような声を出した。


「き、聞こえた! 全部まとめて叩き潰す!! って叫んでた!!!」


 一騎の問いに三森はHZの雄叫びを、日本語訳して伝える。雄叫びの内容を知った彼らは、何としてでも生還するべく思い付く限りの手段を講じた。

 走る道を変えたり、火炎瓶を投げたり、銃撃したりと。意外に有効だったのは火炎瓶であったことだ。HZは腕を交差させた状態で銃撃を塞いでいたために、火炎瓶が頭上に飛んできたことに気付かなかったのである。


「グヌァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛オ゛!」


 一発のパチンコ玉が偶然にも火炎瓶を破壊。撒き散らされた油がHZの身体を濡らし、火が着いた状態のタオルが触れた。その直後、驚くほどに良く燃えたのだ。


「暑いぞーーーー!! って怒ってる!!!」


 HZは一騎たちを追うのを中止し、頑丈すぎる両腕で全身を軽く叩いた。そして、いきなり血を吐き出す。


「頑丈なのは両手足だけか。火を消そうと自分の身体を叩いて、自分自身にダメージを与えてしまった、と」

「ゾンビが血を吐く、か。普通じゃ考えられないが」

「そういう変異体って思うことにしましょう」


 中村と鳥越の呟きに、中村班の一人が今は生還するのが最優先とばかりに告げた。その後、なんとか生還した彼ら。戦車組を呼び出して情報を共有し、505号室でどう殺すかを改めて話し合いに入る。


「胴体への攻撃、これが有効だというのが分かった。来栖野大学病院で改めて戦う際、銃撃により両腕で防御させて無防備になった場所をRPGや110mm個人携帯対戦車弾で攻撃。もしくは戦車の砲か、コブラのミサイルで攻撃、だな」

「もしもHZが74式と10式、コブラの砲を防ぐことを優先したら?」

「その時はRPGと110mm個人携帯対戦車弾だろ。あるいは、囲むように戦車を配置すれば問題ない」

「厄介なのはWZやRZ、ゾンビ犬だろうな。HZ攻略中に接近されたら、その分だけ戦力を割くことになる」

「もしくは、先にWZやRZを優先的に殺すのも一つの手だな」

「確かにな。数がまとまった状態なら、火炎瓶や戦車の砲撃で掃討も楽だろう」


 中村や鳥越、自衛隊組の会話を聞きながら、一騎は創太が3D表示したHZ攻略地点に、どう戦力配置するかを検討していた。

 時折、澪や創太、三笠に三森とも言葉を交わしながら、安全確実にHZを殺すのに必要な算段を本格的に考え始めたのだった。

サブタイトルを読むと、知っている方なら某人気作品のタイトルに気付かれると思います。

幾つかサブタイトル候補があったのですが、作者的に、一番しっくり来ました。

誤字脱字指摘、ありがとうございます。

まだ決定ではありませんが、来栖野大学病院で完結させる予定です。


完結まで、どうか作品にお付き合いください。


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