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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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40.経過観察の報告

前回の後書きに告知しましたが、かなり40話は短めです。

もう少し詳しく書きたかったんですが、医学知識ないので短いです。


 高山たちが下水から出てきて、噛まれた二人が抗生剤の点滴を受け始めてから十日目が経つ。九日目になるまで一騎たち学生組とジャーキーは、一時帰宅的な感じで上戸森のマンションへ。

 既に済んでいたマンション防衛の能力を上げるのと、病気でもないのに病院暮らしは流石に疲れるからだ。また、この時に合わせて屋上庭園に種まきも行われている。

 中村班と鳥越班も上戸森イーグルマンションに戻り、実弾を使用する実銃の整備を行っていた。この期間、北見班と四班が病院防衛に。有栖デパートは自衛隊が引き受けた。


 そして十日目を迎えた今日、一騎たちはマンションから病院へと戻った。明石たちや医師たちによる経過観察、それと高山を含めた噛まれていない三人の状況を確認するべく。

 午前中は物資の残量確認を行い、まだ問題なく生活することが出来るのを確かめてから病院へと戻ったのだ。中村、鳥越の両班も、一騎たちが到着したタイミングで合流。

 彼らはそのまま作戦室へと向かった。作戦室では明石や医師たちが、到着を待っていた。入室した一騎たちは、適当に席に座ると医師たちからの報告が始まる。午前九時半頃なので、入院患者を抱える医師たちは、回診中のために同席していなかったが。


「お帰り、とでも言っておこう。早速で悪いが、九日間の経過観察を医師たちに説明してもらおうと思う。いいかな?」

「えぇ。お願いします」

「あの、高山くんたちは同席させなくてもいいんですか?」

「彼らは自分たちの目で、毎日確認していたから改めて話す必要はない」


 梓の問いに明石が不要と答えた。そして、そのまま医師たちによる報告が開始となる。


「一日目を含めて、説明していきます。少年と少女、どちらから聞きますか?」


 医師が一騎たち学生組と、中村たち警官組に確認をしてきた。少しの相談の後、最初に少年の方からということに。


「一日目、皆さんがそれぞれの拠点に戻ってからのことを説明します。噛まれた手の傷が午後六時の段階で化膿。洗浄と消毒を開始しましたが、治る様子はなく日に日に膿の量が増えています。

 二日目は昼食を終えた頃から発熱。39度まで上昇しましたが、解熱剤を入れたら夕方に36度まで下がりました。血液中のウイルスが初日の二倍に増加していたのを確認。

 三日目は肺炎を発症。原因として考えられるのは、高熱が原因で食事ができず、ゾンビウイルスの増殖が引き金になったかと。

 四日目の早朝、三時四十分頃ぶ胸部に激しい痛みがあると本人から連絡あり。大急ぎで検査をしようとした際に咳き込んで吐血。レントゲン、MRI、CT撮影の結果は右肺の部分破裂でした」


 医師の報告内容に、病院に留まっていなかった面々が信じられない、と驚愕の表情に。


「肺の部分破裂なんて、聞いたことがありませんよ」

「わたしも」

「手術しないと、助からないんじゃ?」

「……肺の破裂なんて現象が起きるんなんて」

「放置したら、冗談抜きに死亡するのだよ。どう対処したのだよ?」

「手術しただろうな? そうじゃないと、今日まで噛み傷が化膿するなんて報告はしないはずだ」

「確かにな」


 一騎たちがそれぞれ感想を述べ、中村と鳥越が既に処置はしてあるだろう、と確認を行う。医師の返答は


「すぐに手術を行いました。それと輸血に酸素マスクも。胸を開いた時に分かったんですが、ゾンビウイルスの影響か、異常に他の内臓や、血管が弱くなっていました」


 と答えた。弱くなっていた、の部分では内臓機能が低下していたというレベルを過ぎていた、と付け加える。


「臓器の様々な場所が部分的に壊死していたんです」


 詳しい説明を上戸森にいた全員が求めた。その返答内容が、壊死という言葉だった。


「壊死した場所を全部、取り除こうという考えもありましたが、出血が止まらなくなる場合を想定して除去は延期しましたよ」

「……そうでしたか」

「経過観察の報告を続けます。五日目の昼食時に吐血があり、これを回収して検査したらゾンビウイルスが急激に増えていました。

 六日目、七日目にはウイルスの影響で肝臓と腎臓一つが壊死し、手術で除去を。八日目の夕方に大量吐血があり、胃カメラを入れたところ、残っていた腎臓と脾臓、膵臓から出血を確認。

 また、発熱があり39度7分まで上昇。意識混濁により、絶叫を上げ始めたので、鎮静剤を用いて今日まで眠らせているのが現状です」

「……先生、ゾンビ化が本格的に始まった。そう判断して問題ありませんか?」

「問題ありません。ゾンビ化が始まったのは確かでしょう。このまま放置すれば、苦しめ続けるだけになります」


 医師の報告を受けて、一騎たちは警官組に視線を向けた。特に一騎と石田、中村、鳥越は確認し合うように頷くと、この時点で一つの決定を出したようだ。


「明石さん」

「なんでしょうか」


 石田が代表して重々しく口を開いた。この段階で室内の全員が同じ結論に至っていた。これ以上は、無意味に苦しめるだけ。だったら、苦しみから解放するべきだと。


「少年を処分しましょう。薬で心臓を止めても、時間が経てばゾンビになり襲い掛かってくる可能性が高い。そうなる前に頭部を撃ち抜き、安らかに眠らせてあげたい」

「……。実は高山くんたちから、八日目の段階で楽にしてやって欲しいと嘆願を受けています。最終的な判断と、射殺のタイミングはこちらに任せると」

「オレは高山生徒会長たちに、最後に会わせてからでいいと思います。強化ガラス越しになりますが」

「賛成。ちゃんとしたお別れの機会、必要」


 一騎の考えに澪が賛成。そうすると創太たちも賛成していく。ゾンビ発生から今まで一緒に生きてきた仲間。最後にしっかりと会わせて、気持ちの整理をしっかり付けさせるべき。そう判断したのだろう。


「少女の方の説明に移ります。とは言っても、ほとんど詳細な報告はありませんが」

「どういうことですか?」


 ほとんど詳細報告なし。こう聞いて、九日間を知らない一騎たちは一斉に首を傾げた。一騎が代表して質問すると、医師たちは印刷したデータを机の上に出す。


「初日から現在まで、ウイルスの増殖は驚くほどにゆっくり。少年と同じ検査を行っても、特に異常や異変もなく極めて健康体。

 栄養状態は最初の三日間は点滴を入れていましたが、四日目は重湯やおかゆ。現在では普通に入院食を食べています。それと噛み傷ですが、三日目の朝には完治していました」

「他には?」

「心理カウンセリングなども行いました。ゾンビ発生から現在に至るまで、かなり精神的な疲労と苦痛を溜め込んでいたようですが、隔離コンテナの中では落ち着いています。

 最初の数日は睡眠剤を使わないと寝れていませんでしたが、それも今は必要なしの状態です。コンテナ内では自衛隊が無人化した書店などから回収したコミック、小説などを読んで時間を過ごしていますね」

「先生、二人の違いってわかりますか?」

「ゾンビウイルス、長いからZウイルスとしましょう。Zウイルスの増殖状況が要因だとしか。ゾンビには性別など関係ないので、どうして少女の方だけが増殖が遅いのか。さっぱりです」

「他の生存者との違いは?」

「特に見当たりません。ただ、少しずつですがZウイルスの形が変化しているのは確かです」

「変化?」

「えぇ。変異とも言えますが、悪影響を及ぼすような状態ではなさそうです。何と言うか、身体がウイルスに順応しているのか。もしくはウイルスの方が身体に順応しているんでしょう」


 少女に関しては特に共有するべき情報が、ほとんどない。というのは正確だった。なので、変異が終わったと思われるタイミングで、一つの実験を行うことが決定。

 この後、高山たちが隔離コンテナに呼ばれて、最後にしっかりと顔を見た後にゾンビ化が本格的に始まった少年は明石に3Dプリンター銃で頭を撃たれて死亡。

 解剖が行われた結果、臓器や筋肉が腐り始めていたのが判明。Zウイルスに侵食されたことが原因だろうとしか分からずじまいだった。

誤字脱字報告、ありがとうございます。

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