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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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3.寄り道と帰宅


 創太はラルゴをノアのすぐ近くで減速させた。それは内部を確認するためだ。運転席に大量の血がぶちまけられていて、内側からフロントガラスを真っ赤に染めている。

 ゾンビが周囲から集まってくる。だから、ゆっくりとはできないが、それでもどうして事故を起こしたのか判明。


「なるほど。血を吐いた直後にゾンビとなった訳なのだよ。それなら、当然事故も起きる」

「だな。 創太、車を走らせろ。囲まれたら厄介だ」

「もちろんなのだよ」


 創太が周囲から集まってくるゾンビを上手く回避しながら走らせ始める。一騎と創太、この二人は行き先が決まっていたから問題ないが、後部座席の女性陣はそうもいかなかった。それと、ノアへと駆け寄った大人たちは、ゾンビたちに美味しく召し上がられている。


「ちょっと待って。 どこに向かうつもりなの?」

「安全な場所があるのかしら?」

「……武藤くん、これ」

「オレの通学鞄、回収してくれたのか」

「うん」


 鹿島と澪の姉はどこに向かうのかを気にしていたが、澪だけは違った。車に乗り込む前に、一騎の通学鞄を自転車のカゴから回収していた。それを渡すために言葉を発しただけでしかない。


「僕と一騎が向かうのは、自宅のあるマンションなのだよ。十階建てマンションの7階に住んでいるのだ」

「それに駅から徒歩で二十分は掛かる。だから感染者が出たとしても、市内全体に広がるには時間が掛かる」


 創太が口にした内容に、一騎は補足と言えるかもわからないが言葉を追加した。


「それにマンションはオートロック式で、防犯シャッターを下ろすこともできる。だから、下手に動き回るよりは安全なんですよ」


 後半の言葉は一騎が、澪の姉に向けた言葉だ。彼女が自分たちよりも歳上なのはすぐにわかることだから、敬語に切り替えた結果。

「そうだったの。なら、私と澪もご一緒していいかしら?実家の御巫神社はもうダメだから」

「姉さん、ダメって?」

「……それは」


 澪の姉、(あずさ)は一騎の言葉に頷くとお願いを口にした。澪の方は姉の口から出た「ダメだから」という言葉に疑問を感じ、説明を求めようとした。


「武藤君、悪いんだけど有栖市に入ったら、あたしを降ろしてくれない?」

「危険なのだよ。有栖は来栖野の隣だ。ならば、ゾンビが既に市内に入っていても不思議ではない」


 答えにくそうにしている梓を気遣った訳ではないだろうが、鹿島が気まずくなりかけた空気を変えるようにお願いを発する。

 お願い先は一騎だったが、彼が返答するよりも先に創太が答えてしまう。


「そうだとしても、家に帰りたい。 家族が無事かどうかを知りたいの」

「鹿島、自分もゾンビの仲間入りする可能性をわかっているのか?」

「もちろん。危険だとわかっていても、家族の安否が気になる。無事なら一緒に警察に保護を求めたい」

「創太、御巫、えぇっと、御巫の姉さんの意見は?」


 答えたのが一騎ではなかったが、鹿島は不満に感じることはなかったようだ。彼としては自分の判断だけで全員を危険に付き合わせてしまいかねないので、同乗者たちに考えを求めた。


「いいんじゃないかしら?」

「わたしも」

「僕もだ。家族が心配な気持ちはわかる」

「そうか。 わかった。鹿島、有栖市に入ったらナビゲートしてくれ」

「ありがとう!」


 鹿島は嬉しそうに泣き笑い。危険に巻き込むなと言われると思っていたようだ。


「創太、悪いが少しだけ前方警戒を任せる」

「構わないのだよ。 事故車を避けるのは苦労するが、特に問題はない」

「助かるよ」


 一騎はスマフォとイヤホンを取り出して、父親から送られてきた動画を再生し始める。噛まれたらどうなるのか、それを知っておくべきだと判断して。


「えっと、創太くんでいいかしら? 彼女を降ろした後で構わないから、御巫神社へ寄ってもらえない?」

「ふむ? その理由は?」

「澪に実家に帰れない理由を理解してほしいから」

「わかったのだよ。 一騎も反対しないだろう」

「ありがとうね」


 創太が運転するラルゴは時折、事故車の影から出てくるゾンビを撥ね飛ばしながら有栖市へと向かっていく。有栖市に入るまで、もう少しのところで彼はブレーキを踏んだ。

 一騎は顔を上げなかったが、残りの同乗者はどうしたのかと前方に視線を向ける。


「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁあああ!!」

「いって! 何しやがるんだ!!」

「ドッキリ、ドッキリなんでしょう!?」

「く、来るな! 来るな!! うわああああああああぁぁぁぁぁああ!!」

「ママ!! ママ!!」

「いだいーーーーーー!!! やめ! 離してーーーー!!」


 彼らの目前には、何十台もの車が玉突き事故を起こしていて火災も起きている。しかも、かなりの数のゾンビがゥゥゥウウウ言いながら右往左往している姿があった。

 まだ噛まれたり、食べられたりしていなさそうな人々がかなりの人数いた。悲鳴や絶叫が上がるたびにゾンビはその音の方向へと歩いていく。

 保育園か幼稚園かは不明だが、まだまだ幼い子供が血を血溜まりに沈む母親に泣きついている。


「……これは……」

「どうるすの?」

「これじゃ、通れないかもしれないわね」


 この様子をみて、このままラルゴでの移動は不可能。それをすぐに理解した彼らは、動画を見ている一騎へと視線を向けた。


「噛まれたら、それだけでダメなのか。だが、ゾンビになるまでの時間は――――」


 父親からの動画で噛まれた人間が、どうなっていくかを理解した一騎。


「ん? どうした?」


 視線を感じた彼は自分を見る創太たちに視線を向ける。すると澪が華奢な手を伸ばして、一騎の右耳のイヤホンを外す。それによって、外から聞こえた声に視線を向けて困った表情へ早変わり。


「鹿島、別の道はないか?」

「御巫神社通りね」

「そうね。 車の数は少ないけど、その代わりにスリップする可能性があるわ」


 鹿島の言葉に梓が同意する。ただし、目撃していないとわからない言葉があった。


「姉さん?」

「私が神社を出た時、ゾンビが徘徊していたわ。 それと道路の半分が血と油みたいなもので満たされているの」

「それは確かにスリップの危険性があるのだよ。神社通りで道路が無事そうな場所は?」

「教えるわ」


 梓のナビゲートに従い、ラルゴは遠回りするようにしてから神社通りへと向かった。その途中で、無事だったらしい生存者たちが協力してバリケードを構築していた。

 その生存者たちは一騎たちの乗るラルゴを物欲しそうな目で注視している。何人かに関してはゾンビの頭に包丁を突き刺しながら、殺してでも奪ってやると言わんばかりの表情である。

 だが、そんな生存者たちも神社通りを埋め尽くすようなゾンビの数を見て大慌てで引き返していく。


「うわぁ。 どれだけいるんだよ」


 一騎が心から嫌そうな声を出したのも無理ない。創太は停車させると、エンジンを切った。エンジン音に釣られて、ゾンビたちが接近し始めたから。


「どうする?」

「危険だが一体ずつでも殺すしかないのだよ」

「それしかないか」

「御巫の姉さん、えぇっと……」

「梓よ。運転席に移って待っていればいいのかしら?」

「そうなのだよ。 それと、後部座席以外のロックはしておくように。奪おうとする輩がいるかもしれん」


 一騎と創太は車外に出て、少しずつ近付いてくるゾンビへと向かっていく。二人は手にした警棒を頭へと振り降ろして確実に仕留める。

 それと安全のために、警棒が届く範囲まで来たゾンビだけを叩くことで噛まれるリスクを低下させる方法だ。


「ゥゥゥウ」

「アアアア」


 近付いてくるゾンビを二人人が三十七体を殺すと、先にいるゾンビとの距離ができた。それを確認すると、落ちていたコーラの缶を一騎が拾う。


「創太、これにパチンコ玉を入れて遠くへ投げるか、地面を転がすのってはどうだ?」


 一騎もラルゴの中にパチンコ玉が大量に入っているのを目撃していた。だからこその考えだ。


「十ケースも持ってきたのだ。一個くらい使っても問題ないのだよ」

「決まりだな」


 一騎は車へと戻り、後部座席のケースから1個のパチンコ玉を取り出して缶の中に入れる。


「それじゃ、なげ――――」


 彼が投げるかと続けようとした直後、通学途中にも聞いた大きな音が響いてくる。彼らだけじゃなく、ゾンビたちでさえも音のする上空へと視線を向けた。

 どんどん音が近く、大きくなっていき、やがてその正体が明らかになる。


「またNHKのヘリなのだよ。 なにをしに来たのだか」


 創太が呆れたような声を出すも、それは隣に一騎にのみしか聞こえていない。ヘリは真っ直ぐに有栖警察署の方向へと飛び去っていく。

 その音を聞き付けたらしいゾンビが、どこからともなく大量に姿を見せてヘリが去っていった警察署の方へと歩き出す。生存者である一騎たちに視線を向けることもない。

 視界にゾンビがいなくなったのを確認してから、澪と鹿島が降りてきた。


「鹿島、家に向かうなら今のうちだ」

「送ってくれてありがとう」


 短くそれだけ言って、鹿島は家へと駆けていった。創太は梓と交代して運転席へと戻る。一騎は御巫姉妹の護衛として、御巫神社へ。

 境内は血の海と化していた。ゾンビに食べられたらしい遺体が八体ほど残っていて、一騎はその八体へと歩み寄る。


「安らかに眠ってくれ」


 両手を合わせてから、ゾンビとして動き出さないように頭部を警棒で叩き潰していった。一方、澪と梓は自宅兼社務所へと入る。

 梓が澪を案内するように先に歩いて、各部屋を見て回るがどこも血だらけ。ただし、二部屋だけ綺麗なままの部屋があった。

 そこは姉妹の部屋。しかも部屋の中央には大きなリュックが置かれていて、梓、澪と書かれた手紙まで用意されている。それぞれのリュックには数日分の着替えと必要となる日用品、そして巫女装束が詰まっていた。


 手紙の内容を読んだ姉妹は、既にゾンビになっているだろう両親に涙ながらに読んでいく。全てとなると長くなる。簡単に略せば、どんなことになっても、どんな道を進んでも幸

せになって欲しいと。

 二人に明るい未来があることを願うと同時に、いつまでも愛しているという内容。追伸には弓矢を用意したから、それを使って生き残るようにとあった。

 弓矢が用意されていたのは、玄関の下駄箱上の物置スペース。そこには二つの弓と矢筒に入った矢がそれぞれ100本も。どうして神社が200本もの矢を有しているのか。これに関しては、姉妹でさえも理由を知らない。


「待たせてしまったわね」

「お待たせ」


 一騎が周囲を警戒しながら待っている姿を見て、澪と梓は声を掛けた。


「もういいのか?」

「うん」

「本当に?」

「本当よ。これからお世話になるわね」


 一騎は澪に問い掛け、返ってきた答えを聞いた後に梓にも確認するように視線を向けた。彼女からも肯定があったので、三人はラルゴで待っている創太の元へと戻った。





 有栖市の御巫神社通りを出発してから一時間三十二分。一騎、創太、澪、梓の四人が乗ったラルゴは、無事に上戸森市へと入った。ここに鹿島がいないのは、母親と妹と合流が出来て、有栖小学校へと避難しているからだ。

 時刻は十時を少し過ぎた。有栖市から上戸森までは、四十分もあれば到着できるのだが、遅れた理由はある。有栖NHK放送局のビル屋上にヘリが着陸したせいか、ビル周辺は大量のゾンビが集合。

 これを避けて上戸森市へと続くルートを一騎と創太は選んで走ったのだが、どのルートも事故車によって道路が塞がれていたのだ。


 大通りでなくても、道路幅が広い場所の中にはバスが横転していて、しかも火事になっていたところも。ここで一騎は創太に一方通行の場所を進んではと提案。

 創太もこれに賛成して七ルート中、五ルートはゾンビの数が多くて突破は困難。残る二ルートのうち、最も早く上戸森駅へと続くルートが選択された。

 現在、ラルゴは駅前ロータリーから少し離れた場所で停車している。澪と梓は弓の弦の状態を確認中で、一騎と創太は帰宅する上で非常に重要となることを話し合い中。

 生存者の姿もゾンビの姿もなく、多少の時間であれば安全とも言えるだろう。エンジンも切ってあるから、音を聞き付けてくる事態も低い。


「一騎、僕が思うに地下駐車場のシャッターが開いている可能性が高いのだよ」

「理由はって。 聞くまでもないか」

「うむ。僕は確認していなかったから正確なことはなにも言えない。 しかし、ゾンビに関する情報はNHKが放送していただろう」

「その放送の中で避難の呼び掛けがあっても不思議じゃないな」

「そうだ。 そして、その避難の呼び掛けに従って車が一斉に出た可能性が考えられる」


 避難というか移動することだけ思考が満たされていた場合、住人たちは防犯シャッターを降ろした可能性は限りなく低いだろう。これは二人とも言葉に出さずとも理解していた。電気に関しては、マンションの屋上庭園にソーラーパネルがあるから問題はない。


「防犯シャッターは、手動でも電動でも動く。そして開閉には必ず音が鳴る」

「そうだな。 だけど、無視ができないことがある」

「「ゾンビが地下駐車場にいる可能性」」


 見事に重なった二人の言葉。弓の状態確認をしていた御巫姉妹が、揃った声に彼らへと視線を向ける。


「明かりは?」

「あるのだよ。 動体感知式で、ゾンビが少しでも動いていれば、明るくなっている」

「動いていない場合は暗いまま、と」

「そうでもないんですよ。 動体感知式は駐車場の入り口から200メートルまで。その奥に行くと熱感知式なんです」


 澪に創太が答え、梓に一騎が答えた。


「入り口付近の明かりが安心と考えるべきかしらね」

「姉さん、違う」

「どうして?」


 梓は早々に自分で結論を出してしまったが、澪の言う通りに絶対安全だとは限らない。


「避難中や夜勤明けなどで外で噛まれたり、食い千切られたりした運転手が運転してきて、駐車を終えて外に出た瞬間にゾンビにって可能性もああります」

「そうなのだよ。 付け加えるなら、駐停車させた直後にゾンビになっている場合も考慮すべきだ」


 数分間しばらくの意見交換が行われた後、マンションへ向けて出発しようかという流れに。いざ、出発となった時、これに待ったを掛けたのが一騎。


「一騎、どうしたのだよ?」

「今のうちに、そこのドラッグストアから物資を集めないか?」

「賛成」

「中にゾンビがいる可能性を考えないと」


 澪は賛成したが、梓は反対ではないが、様子見をしようという意見。三人は創太に「どうする?」と問い掛けた。


「一騎と御巫妹は中へ。僕と御巫姉は車内待機なのだよ」


 創太がかなり真剣な表情で思考する。しばらくして出したのが、この案だった。


「車内に女性だけを残すと、車を奪われるリスクが高くなるのだよ。 それに一騎と御巫妹は運転できないだろう?」

「オレは運転できるから問題ない。 だけど、今を考えるなら確かに創太の言う通りだな」

「姉さん、行ってきます」

「二人とも気を付けてね」


 外に出た一騎は警棒を片手に、澪は矢筒に紐を通して矢を右手ですぐに掴めるようにした。だが、これは一騎だけでなく、創太にとっても目に毒。

 二人が同時に視線を外し、澪は不思議そうに小首を傾げて梓は「年頃ね」などと呟く。小柄な澪だが、女性らしさは非常に恵まれている。そのせいで、紐が大きく形のいい胸部を際立たせていたのだ。


「?」


 一騎と創太が視線を外した理由を当人だけは理解していないようで小首を傾げている。


「気を付けてね」

「うん」

「一騎、荷物は買い物カートに乗せて、それをここまで運んでくればいいのだよ」

「一度に大量に運ぶには当然だな」


 一騎は澪より少し前を歩き出した。彼女を可能な限り危険から遠ざけるため、というのが目的だ。それに弓矢で武装しているから、安全に攻撃することができる。


「店を開けた時に避難情報が流れたのか、あるいは避難する人々に少しでも供給しようとしたか。 どっちだかわからないな」

「うん」


 まだ電力が来ているから暗い場所はない。注意力や警戒心が低い人間なら、このまま商品を集めようとするだろう。しかし一騎はそうしない。

 澪は彼がどうして商品を集めようとしないのか、その理由を正確に察している。戸棚で見えない死角からゾンビが出現する場合を考慮して。


「よし。 御巫、商品を集めよう」


 全ての戸棚の死角と通路を調べて、ゾンビがいないのを確認した二人はカートに、商品を次々と放り込んでいく。飲料、食料、栄養剤、市販薬、包帯や絆創膏(ばんそうこう)なども。

 飲料は水だけでなく、コーラやコーヒーなどのジュースや嗜好品の類いまで。食料はほとんどが、カップメンやレトルト食品、菓子パンにお菓子。

 栄養剤はゼリーやドリンクタイプで、市販薬に関しては一般的な風邪薬から整腸剤、胃薬、花粉症用治療薬など。ここに一騎はゴム手袋と軍手を大量投入。ちゃんとティッシュ箱にトイレットペーパーなども積んで。


 澪の方は女性にとっての必需品確保と電池、それと乾電池の類いをカートの中へ。代金を支払わないのは、別に泥棒をしたいとか、万引きをしたいからではない。

 そもそも金額からして足りないのだが、それでも払っていないのは飲み物の補充をする時に、自販機が動いていることを期待してだ。


「行くか」

「うん」


 一騎はカート二台をガラガラと押し、澪は一台だけを押す。これを見ていた創太が、入り口近くまでラルゴをバックさせ、梓は停車と同時に車を降りると残りのカートを押してくる。

 協力してカートそのものをトランクと後部座席へと押し込んで、四人は生活拠点となるマンションへと出発。

 彼らは移動中に、大手スーパーマーケットに大集合していたゾンビ集団を目撃。

 これを完全無視して移動は続けられた。何度か手首や腕などを食い千切られた男女が、助けを求めてきたものの完璧スルー。

 ゾンビの仲間入り確定人間を誰も乗せようとは思わなかったのだ。数分で一騎と創太の見慣れた道に到着するも、事故車や火災車両が道路を塞いでいた。


 仕方なく迂回して移動した先は、ゾンビ七体が彷徨(うろつ)いていたものの素早く御巫姉妹が矢を頭部へと放って確実に殺したことで、問題なくマンション前へと移動完了。

 一騎は途中下車して、矢を折らないよう工夫して回収した後に、車内へと戻った。矢の一本だって無駄にできないと理解しているから。


「シャッターは開放状態か」

「うむ。照明も消えているのだよ」


 創太はゆっくりと地下駐車場へとラルゴを進ませ、明かりが点いてからも慎重に奥へ。今回に限っては幸いにもゾンビの姿も仲間入りする人間の姿もなかった。それどころか車も彼が乗って来たラルゴのみ。創太が駐車場入り口のシャッターを手動で降ろした。

 マンション内にゾンビがいる危険性を考え、可能な限り音を立てないように彼らは買い物カートを降ろした。六台を降ろすと、創太が管理人室へ直行。

 まず最初に玄関のシャッターを起動させて、生存者もゾンビも入ってこないように封鎖。次に彼が行ったのは廊下の監視カメラを自分たちが出発した十分後まで巻き戻して、そこから早送りして危険確認。


 この時、一騎と御巫姉妹はパチンコ玉が入った十ケースをカートに乗せられないかと四苦八苦していた。残念ながらすぐに諦めていたが。

 理由は上から乗せた場合、商品を潰してしまうことにあった。それに、商品を全て降ろしてから乗せるには時間が掛かりすぎるため。

 結局はカートを最優先でエレベーターで運んで、その後にケースを運ぶことで解決案としたようだが。


「一騎」

「創太、どうだった?」

「監視カメラの映像を全部確認した。今、マンション内には僕ら四人だけなのだよ」

「そうか。 なら、さっさと運び込むとするか」

「うむ」


 幸いにもエレベーターは大きめに作られていて、人間2人にカート二台を運ぶことができた。707号室と708号室の前にカートを並べて、一騎は自宅である707号室の鍵を開けて中へ。


「ただいま」

「お世話になります」

「お邪魔します」

「荷物を運び込むのだよ」


 澪は一騎に「お世話になります」と頭を下げ、梓の方は「お邪魔します」とだけ。創太は何度も707号室に入っているから、実に気安い。

 四人は協力してカートに積んであった飲料と菓子パンと冷蔵のお菓子を冷蔵庫に詰め込んでいく。入りきらなかった分は、創太が生活する708号室の冷蔵庫へ。

 他にも荷物を運び込んでから、一同は707号室へと集合。一騎と創太からすれば、無事に帰宅ができたという気持ちで満たされていた。

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