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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
31/54

30.総合病院前の戦闘


 一騎と創太によるショットガン発射と、衝撃で倒れたゾンビが周囲を巻き込んでドミノ倒し状態になり、そこへ火炎瓶が投げ込まれての焼殺開始。

 あれから、十五分が経過するが未だにゾンビの数はまだまだ多い。しかし、正面シャッター付近にいたWZも含めて引き離すことはできていた。

 病院から600メートル前後、ゾンビの先頭集団は今まさに徐々に数を減らし始めている。一騎たちの車は扇形に展開していて、ラジオのザーっという音を大音量で放送。


 この音にWZは見事に反応して、音の方向へと大集合する。するのだが、一ヶ所にだけ集めるのは危険。そこで目視で集まりすぎそうだと判断したら、残り二車両のうちどちらかが音を流す。これの繰り返しが続いていた。

 病院の正面入り口シャッター方向に鳥越班、入院棟側から正面入り口を見える場所に一騎たち、そして一騎たちと向かい合うようにして北見班。


「左右から攻撃してゾンビを減らしてるってのに、全く減っている感じがしないのは俺オレだけか?」

「それだけゾンビの数が多いってことなのだよ」

「それにしたって、多すぎだろ。有栖市内だけじゃなくて、上戸森や来栖野方面からもゾンビが来てるとしか思えない」

「武藤くん、そろそろじゃない?」


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュシュ、カシュ!!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――バシュン、バシュシュシュン、バシュシュシュン!


 一騎、創太、三笠の三人は、鳥越班が正面からだと狙いにくい、集団中央を攻撃しながら会話をしている。自分たちに近い横側を狙わないのは、澪が攻撃担当を担っているからだ。


「梓さん、ラジオのスイッチ入れてください。このままだと鳥越さんたちのパトカーにゾンビが到着してしまいます」

「最大音量でいいかしら?」

「お願いします」


 ザザーーーーーーーーーー!!


 一騎が答えた直後、梓がラジオのスイッチを入れて耳障りな音が車内だけじゃなく、外にまで広がっていく。


「「「「「「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」」」」」」

「「「「「「ギィィイ゛イ゛イ゛ア゛ア″ア″ア″オ″!」」」」」」


 全く電波の入らないラジオが、最大音量でザザーっと音を出しただけで鳥越班へと迫っていた大量のゾンビが、進行方向を変えて一騎たちへと向かってくる。


「集まってきたな。中間を狙わず、オレたちは進行してくる正面のゾンビだけを優先射殺」

「了解なのだよ」

「私はRZを発見したから、そっち優先で狙撃するから」


 ――ガシュシュン、ガシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――カシュ、カシュシュ、カシュ、カシュシュシュ!!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――バシュン、バシュシュン、バシュシュシュシュン!

 ――トシュシュシュシュ、トシュシュシュシュシュシュ!


 一騎のいう中間とは大量のWZの中央部分のことだ。決して先頭集団の中央ではない。正真正銘、ゾンビ集団のど真ん中のこと。

 ゾンビたちと一騎たちが乗るラルゴまでの距離は、400メートル前後。100メートルを切るくらいまでは、自分たちに真っ直ぐ向かってくるゾンビを射殺し続ける。


「ァァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛オ゛オ゛オ゛!!」

「ギィィィァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 ――ガシュシュン、ガシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――バシュン、バシュシュン、バシュシュシュシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!

 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュ、カシュシュ!!


 ゾンビたちは頭部を撃たれると、後ろ向きに倒れたり、横向きに倒れることがある。これに巻き込まれた周囲や後方ゾンビを確認すると、その数に合わせて一騎は鳥越班と北見班に火炎瓶を投げるよう無線連絡していた。

 今回は特に転倒に巻き込まれたゾンビが多い。だからこそ一騎は無線で距離的に近い鳥越班に告げる。


「鳥越班、火炎瓶をお願いします」

『了解! 少し待ってくれ』


 無線連絡を受けた鳥越班は、車から降りると一騎たちへ殺到するゾンビたちの中から、転倒集団を見つけるとすぐに火炎瓶を投げる。


「お見事!」


 一騎がドットサイト越しに転倒集団を見ていると、そこに一本の火炎瓶が投げ込まれる。瓶が割れて中身のウォッカが周囲へと拡散。

 そこに布を燃やしていた火が着火して、一瞬にして火の海ができていく。


「武藤くん、RM700改のマガジン全部使いきりそう!」

「まずい! 車内に予備が五マガジンあるから、急いでくれ!! WZを突き飛ばしながらRZの団体が来てるから!!!」

「わ、わかった!!!」

「僕はこのまま最前列を撃つのだよ!」


 一騎は最も自分たちに近い距離にいたWZから、狙いをRZの集団へと向ける。その数、五十数体。


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュン、ガシュン、カチャ!


「このタイミングでリロードかよ。創太、フォロー頼む!」

「了解! 急ぐのだよ!!」


 ――ゴソゴソ、カチャ、ゴトッ、カチャン!


「リロード完了!」


 空になったマガジンをラルゴの屋根に放置し、一騎はすぐさま射撃を開始。彼はドットサイトを覗き込み、部分的に火の海状態になっている場所をも突破。


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュン、ガシュシュン!

 ――カチャカチャ、ゴトン、ガチャリ


「お待たせ!」


 一騎が接近するRZを大急ぎで射殺していると、リロードを終えた三笠がRM700改を持って窓から屋根へと上がる。


「三笠、左手側のRZを。創太はそのまま正面、オレが右手側から来るRZを撃つ」

「任せるのだよ!」

「は、早すぎて狙いにくい!」


 ――ガシュン、ガシュシュン、ガシュン、ガシュシュン!

 ――パシュン、パシュン、パシュン、パシュン!


「外した!?」

「澪、頼む!」

「うん!」


 最も接近してきていたRZ一体に三笠が慌ててしまい、外してしまった。


 ――バシュシュシュン、バシュン、バシュン!


 三笠が撃ち漏らした一体が、残り二十メートルにまで接近したところで、澪がMP7A1改を発砲。少し急いでいたせいだろうか、両腕と右脇腹を吹き飛ばすだけだった。

 しかし、衝撃によって速度が落ちたところで左足の膝を貫通。バランスを崩したところで、その頭に最後の一発が見事に命中。


 ――ガシュシュン、ガシュン、ガシュシュシュシュン!

 ――バシュン、バシュシュシュン、バシュシュシュン!

 ――パシュン、パシュン。パシュン、パシュン!

 ――カシュシュ、カシュシュシュ、カシュシュシュ!!

 ――トシュ、トシュシュ、トシュシュシュシュシュ!!


 残りのRZたちがラルゴまで残り170メートルになったところで、運転席の窓を開けてUZI改を発砲した梓を含めて、ラルゴにいる一騎たち全員の一斉射撃。

 これにはまだ数があったRZたちも次々と放たれるパチンコ玉に、頭を撃たれてバッタバッタと倒れていく。


 ――パシュシュ、パシュ、パシュシュシュシュシュ!

 ――ガシュシュ、ガシュ、ガシュシュシュシュシュ!


 それでも九体が無事だったが、いつの間にかハイエースの屋根に上がっていた一騎たちのために放った、北見班三人の援護射撃によってラルゴへ接近していたRZは全滅した。


「三笠、落ち着いて狙え」

「わ、わかったわ!」


 ――ザザザーーーーーーーーーーー!!


 一騎が三笠にアドバイスをした直後、北見班のハイエースから電波が入っていないラジオの音が大音量で流れる。すると、今までラルゴに向けて大移動していたゾンビの集団は、あっという間に方向転換。

 北見班の乗るハイエースの方へと向かう。この間に一騎たちが今、優先するべき行動を取ることにした。まず屋根にいた一騎、創太、三笠の三人は車内へと戻る。

 扇形に展開する前に予備マガジンを人数分、五マガジンずつ配布しており、空になったマガジンと交換するためだ。


「一騎くん、いくつ?」

「三マガジン頼む」

「はい」

「ありがとう」

「好きでやってるから」

「澪さん、私は残り二マガジンよ」

「これ」

「ありがとう。全部で六マガジン使っちゃったかぁ」


 一騎は空になったマガジンを、回収と書かれたダンボールに入れる。そして、澪から受け取った予備の三マガジンを、空のマガジンポケットへ。

 創太は自分で予備マガジンを取り出し、空のマガジンを回収のダンボールへ。三笠は梓から渡されたポカリで、水分補給と糖分補給。

 ゾンビを相手していると、知らず知らずのうちに神経を張り詰めて体力を消耗する。それを回復するには、短時間でもいいから休息と糖分と水分の補充が肝心。


 一騎は残りのマガジンがしっかりとベストのポケットに入っているのを確認し、澪から差し出されたチョコボールを口の中へと放り込む。

 舌の上でゆっくりとチョコを溶かしながら、目を瞑って全身の力を抜き脱力。三分もこの状態でいれば、疲労も少しは回復するのだ。


『武藤くん、WZたちの間からゾンビ犬だ。手榴弾を使ってもいいかな?』

「ゾンビ犬の数は?」

『二十三体』

「使ってください! その数は射殺するよりも爆死させた方が手っ取り早い」

『了解!』


 一騎は北見からの連絡を聞いて即決した。それと同時にすぐに、全身に力を入れて立ち上がる。口の中のチョコボールを噛み砕きながら、立ち上がって再びラルゴの屋根へと上がった。





『武藤くん、WZたちの間からゾンビ犬だ。手榴弾を使ってもいいかな?』

『ゾンビ犬の数は?』

『二十三体』

『使ってください! その数は射殺するよりも爆死させた方が手っ取り早い』

『了解!』


 HK416改を構えて、ゾンビ犬を狙い撃とうとしていた盛岡は、一騎と北見の無線連絡を聞いてすぐに狙い変更。最もハイエースに接近していたWZを射殺した。


 ――ドガーーーーン!!


 盛岡が射殺した直後、北見班の班員が投げた手榴弾がゾンビ犬とWZ十七体をまとめて吹き飛ばす。


「盛岡、未使用マガジンはどれくらい残っている?」

「四マガジンだ」

「そうか。このままだと撤退する可能性もあるな」

「ある程度のゾンビを片付けられたんだから、このまま掃討しておきたいんだが」

「無茶を言うな! 全員が弾切れになったとしても、まだあれだけの数だぞ!!」

「落ち着けよ、鳥越」

「落ち着いているとも。十分にな」


 盛岡は鳥越が自分たちの弾切れで、ゾンビに生きたまま食われてしまう可能性を考えている、そう気付いた。火炎瓶と手榴弾はまだあるが、それだって無限ではない。

 どうにかして、運んできている水とレトルト食料を届けてたいと盛岡は思うが、その手段がないのが現状。


「これだけの数のゾンビ。あっという間に処分する方法があればいいんだが」


 盛岡は同じ鳥越班の班員から渡されたドライフルーツを食べて缶コーヒーを飲む。その間にも、なにか方法がないかと検討を重ねていた。


「聞くだけ聞いてみるか」 

「盛岡?」

「盛岡さん?」


 盛岡は同僚たちの不思議そうな視線を受けながら、スマフォをポケットから取り出す。彼はここしばらく使っていなかったが、充電だけはしていたのだ。


 ――プルルルル、プツ


『どちらんさかな?』

「後藤さん、覚えておいでかはわかりませんが盛岡です。衛生兵訓練で、何度も頭を叩かれた盛岡です」

『……おぉ。思い出した。一体どうした?』


 何度も頭を叩かれた。これで後藤は本当に思い出したようだ。事実、彼が衛生兵訓練で担当した中で盛岡という苗字は二人しかいない。

 そのうち一人は非常に優秀で、外国で起きた大規模地震の際には少ない医療器具で大勢を救っている。一方、現在電話をしている盛岡は、他の訓練兵よりも時間が掛かっていたからこそ、はっきりと思い出せたのだろう。


「今、有栖総合病院のすぐ近くまで来ています。ゾンビを射殺し、水と食料を届けるために」

『外から聞こえてきているのは、お前が戦っているからなのか』

「自分だけじゃありません」

『そうだったか。それで、どうしたんだ?』

「後藤さん、自分たちはなんとか病院に近付こうとしていますが、ゾンビの数が多すぎます。そこでお願いしたいことがあるのですが」

『賀古市の自衛隊基地に連絡は入れてある。お前たちが戦闘を始めて早々にな』

「……どのくらいで到着しますか?」

『AH-1コブラ二機とオスプレイ三機が十分前後に来る。それまでになんとか生き延びろ』

「了解です」


 通話を終えた盛岡は、今の会話内容を無線で全員に伝えた。そして援軍が到着するまでの間、噛まれずになんとかゾンビを殺し続けようと。


 ――後藤さん、俺が言いたかったことを理解していた。もしかしたら、掃討を開始する前の段階で連絡を入れていたのか?


 ――カシュシュシュシュ、カシュシュ、カシュシュ!

 ――パシュシュ、パシュシュシュ、パシュシュシュ!


「盛岡、そろそろ射殺に戻れ! ゾンビの数が多い状況で、いつまでも考え事や休憩されていると武藤くんたちや、北見班にばかり負担を掛けることになる」

「了解!」


 無線連絡を終えた後も、なかなか動こうとしない彼に鳥越が鋭い声で促す。窓を開けて銃口を北見班のハイエースへ向かっていくWZを狙う。


 ――バシュシュ、バシュ、バシュシュシュシュシュ!

 ――パシュ、パシュシュシュシュ、パシュシュシュ!

 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュ、カシュシュ!


「鳥越、どれだけ減らせたと思う?」

「とりあえず二千くらいだろうな」

「武藤くん、葉加瀬くんのショットガン、WZたちが集団転倒を起こしたところへの火炎瓶。これだけでも数を減らせたはずなんだが」


 ――ドガーーーーン!!


「ギィィィイ゛イ゛イ゛イ゛!」

「ァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

「グヌゥゥゥオ゛オ゛オ゛オ゛!」

「ギュァァァア゛ア゛ア゛ア゛!」


 ――バシュシュ、バシュ、バシュシュシュシュシュ!

 ――カシュ、カシュシュシュ、カシュシュシュシュ!

 ――パシュシュシュシュ、パシュ、パシュシュシュ!


 北見班の一人が突然、手榴弾を投げたのだ。手榴弾の爆発音を聞いたゾンビと、巻き込まれたゾンビの唸り声と絶叫(?)が響く。


「北見、どうして手榴弾を使った?」

『ゾンビ犬だ! 中間のWZの足元にまだ残っていた!』

「全部、吹き飛ばせたか?」

『ここから見える限りだ』


 今回、手榴弾が投げ込まれた場所は確かにゾンビ犬の頭部が複数転がっていた。また、周囲のWZ三十体前後も巻き添えを食らって死亡。

 また、密集状態にあったからこそ爆発の衝撃がしっかりと伝わり、八十九体が転倒している。


「盛岡、火炎瓶だ!」

「了解!」


 班長である鳥越の指示を受けて、ダンボールから火炎瓶一本を取り出す。ライターで布に着火。軽く助走して投擲距離を稼ぎ、盛岡はその手から瓶を手放した。そして、自分に迫るRZ一体に銃口を向けようとする。


 ――パシュン!

 ――ドシャ!


「助かったぞ!」

『気を付けてください!』


 盛岡が火炎瓶を投げた直後、RZ一体が彼めがけて飛び出したのだ。残り二十メートルという距離で、銃口を向けた瞬間には三笠が狙撃。RZの側頭部へと命中して、見事に射殺。

 礼を告げた盛岡だが、三笠に叱られた。確かに班員に援護を頼んでいなかったせいで、危うく噛まれかけたのだ。叱責くらいは仕方ない。

 ただし、叱られた相手が班長や同僚ではなく、年下の少女だというのが恥ずかしかったようだ。羞恥で顔が赤くなっている。


「盛岡、無茶するなよ」

「そう言うなら援護してくれ」

「SZがいないか警戒していた」


 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュシュシュシュ!

 ――パシュシュ、パシュ、パシュシュシュ、パシュ!


 車に戻った盛岡を、鳥越がすまなそうに出迎えた。残りの班員二人は、どうやら四人全員揃ってのリロードを開始してしまったらしい北見班の援護。

 盛岡は自分たちの手元にある手榴弾と火炎瓶の残りを確認してから、同僚たちに聞いた。


「どれくらいマガジンが残っているか教えてくれ」

「残り二マガジンしかない!」

「こっちは五!」

「俺は三だけだ」

「了解! 武藤くんたち、北見班へ、残りのマガジン数は?」

『こちら北見、班員全てで――――』


 一騎たちと北見班からの返事を聞いた盛岡は、すぐに結論を出した。このままだと、持たないと。


「それぞれの残りニマガジンになった時点で後退しよう。自衛隊の戦闘ヘリとオスプレイが到着すれば、少しはまとまった数を殺せるはずだ。

 可能な限り頭じゃなく足を狙ってくれ。集団転倒を引き起こしたら手榴弾と火炎瓶で、まとまった数を減らす作戦を実行したい」


「俺は賛成だ」

「俺も」

「やってやろうぜ」

『こちら北見、決行するのは構わない。だが、爆発音がした方向だけにゾンビが集まり出したら、自衛隊が攻撃するときに巻き込まれる可能性があるんじゃないか?』

「それに関しては考えがある。三方向から実弾で数体を射殺しつつ、少しずつ後退してWZもここからだと視認ができないRZも広い場所へ誘導。

 後は上空から地上攻撃してもらう。それにヘリの音でゾンビたちが集まり出すから、俺たちはさっさと退避すれば問題ない」

『北見班、了解』

『武藤、了解です』

『葉加瀬も了解したのだよ』

『御巫姉妹、了解よ』

『三笠もです』


 全員から賛成をしてもらえて、盛岡は力強く頷く。その直後、遠くからヘリの音が聞こえ始めてきて、徐々にその音は爆音に変わり出す。

 これを聞いた盛岡はすぐに、無線で全員に車内に戻るようにと促した。


 ――まだ時間じゃないと思っていたんだが、思いの外、早かったなな。


 盛岡はこんなことを考えていた。考えながら自衛隊で使用される無線周波数を合わせると、AH-1コブラ二機とオスプレイ三機に連絡を入れた。


「こちら地上戦闘中の元陸上自衛隊所属、盛岡。応答願う」

『こちら松平だ。盛岡か、久しぶりだな』


 盛岡の突然の無線にも関わらず、応答したのは彼と訓練生時代に同室だった相手だ。配属された先は陸上と航空とで違ったが、それでも休暇をもらっては互いに飲みに誘った相手。元気そうな声を聞いて盛岡は、ゾンビ発生前に一緒に行った居酒屋での会話を思い出しながら告げる。


「お互いにな。早速で悪いが松平、お前はどっちに乗っているんだ?」

『コブラだ。ミサイルと機銃をぶっぱなしても問題なさそうな場所を探している』

「俺たちはパトカー、ラルゴ、ハイエースに乗っている。これから、ゾンビを誘導するから攻撃してくれ」

『了解した。巻き込まれないように注意しろよ』

「了解!」


 盛岡はすぐに一騎たちに無線を切り替えて、ラジオ音を出しながら車を発進させることを告げた。この途中、ヘリの音が少しだけ聞こえにくくなったのは、松平が他の一機に連絡を入れて高度を上げたことによる。

 ヘリの音がする方向に向かおうとしたゾンビたちを、ラジオの音で誘導して上空からでも確実に視認できて、なおかつ自分たちが巻き込まれないように逃げれる場所へと移動を開始した。

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