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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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2.パチンコ玉と学校到着


 一騎が自転車に乗って学校へと向かったその頃。駅近くのパチンコ店に入った創太。右手に警棒を保持し、ゆっくりと店内を歩いて回る。床に多くの血痕があるが、その全てが入り口へと向かっていた。

 店内に入った段階で、創太は入り口の施錠もしていた。ここの店長は創太の知り合いでもあり、他の従業員には秘密で金庫の鍵の隠し場所や、施錠開錠の方法を教えてもらっていたのだ。


「まずは店内監視カメラの確認なのだ。次に玉の保管庫を開ける必要がある。それに僕と一騎、他の生存者の移動手段の確保も必須か」


 創太は店内を一通り見て回って、ゾンビがいないのを確認するとスタッフルームへと向かう。その途中、トイレなども確かめて一応の安全を確認。

 彼がスタッフルームに入ると、スリープ状態のデスクトップが。どうやら、店長かあるいは店員が起動させたんだろう。ちなみにだが、このパチンコ店は朝の七時半から翌朝の深夜三時まで営業している。

 創太はスリープ状態を解除して、店内監視カメラの動画データを十五分前から再生。ディスプレイに表示されたのは、噛まれたと思わしき7人のお客と開店業務をしたらしい店員の姿があった。


「全員、出ていったか。他のカメラはどうなのだ」


 ディスプレイに残りの全十四台の監視カメラの映像を分割表示。そのまま現在まで再生して、店内が自分以外に誰もいないのを把握完了。


「外の監視カメラはどうなのだ。 使えそうな車があればいいのだが」


 外の映像を見た瞬間、創太はニヤリと笑みを浮かべた。


「ラルゴが停まっているのだよ。これは店長が気分によって乗り回していたな。確か昨日の夕方に給油したばかりだと連絡があったか」


 店長は週に何度か、仕事終わりに都内や他県で人気の深夜営業をしている飲食店に店員を乗せて出掛けている。その移動手段としてラルゴは使われていた。


「ケースを運び出して来栖野高校に向かうか」


 創太はスタッフルームの中にキーボックスを開けて、そこからラルゴの鍵とパチンコ玉保管庫の物も取り出す。台車を押しながら移動と護身の準備を開始。スタッフルームの扉に立て掛けていた警棒を左手に。通学鞄は台車の上へ。

 彼は知らないが、周囲一体のゾンビは全て駅から出てきたばかりの生存者へと襲い掛かっていた。駅の利用者が襲われている間は、創太は安全を約束された状態にある。


「助けてくれーーーー!!!」

「ドッキリなら誰か、大成功の看板出せよ!!」

「ドッキリ訳あるかよ!? 警察まで混じってるんだぞ」

「なら、ドラマか!? ドラマ撮影なのか!?」

「この状況であり得ねぇだろが!!」

「ちょっと退()いてよ! 早くしないと噛まれちゃうじゃない!!」

「そうだ! そんなところに突っ立っているなら退()けってんだ!!」


 来栖野駅の方から怒鳴り合う声や、状況を知らないだろう女性の要求が店内の創太にも聞こえる。それらを一切無視して、創太は準備と周囲への警戒に時間を割く。

 さすがに十ケースを同時に運び出すのは無理だから、三ケースずつだ。最後だけ四ケースになったが。運んでいる最中に段差があり、そこで中身をぶちまけないようによ注意しつつだが。


 台車を押して裏口から十ケースを外へ運び出し、ラルゴの鍵を開ける。一ケースずつでも、彼は車内へ。後部座席とトランクへと無理矢理にでも。

 ちゃんと開ける前に誰もいないのを調べてからだ。台車の方は玉が満載ケースの重さによって、部分的に金属が割れるような音を出す。警棒だけはベルトに挟んで通学鞄は助手席へ。

 パチンコ玉は一ケースに1800個で、ケースそのものの重さを含めると十キロ前後。それを十ケースで100キロ少々。これに人間の体重が加算されるから、実際に走ると速度は遅いし燃料であるガソリンも大幅に使うことになる。



「降りるな!! ホームに戻れ!!!」

「ックソ! 外もダメなのかよ!!」

「おい!! 俺たちを車両に匿ってくれ!!」

「電車ならすぐにでも離れられるだろ!?」


 この時、駅のホームと階段は騒動になっていた。身体のあちこちを食い千切られて、ピクリともしていなかったはずの人間が起き上がり、噛まれていない人間へと迫る。

 この段階で電車が動いていなかったのは、運転手が事態を把握しきれず混乱していたからだ。


「こいつら基本的には歩くだけだ! 突き落とせ!!」

「ホームのゴミを掃除しろ!!!」

「パパー、助けてーーーーーーー!!」

「俺の子供に触るんじゃねぇ!!」


 学校に上がる前の子供が、今まさに噛まれそうになって父親へと助けを求めた。見事にそれに応えて、父親はゾンビの顔面を思いきり殴り飛ばしていたが、創太には位置的に見えるはずもない。


「積み込み完了なのだ。 一度、施錠してから店のデスクトップで警察署にハッキングしておくか」


 十ケース積み込み終わった彼は、ラルゴの施錠をしてスタッフルームへと戻る。監視カメラの映像を一週間毎に、運営会社と映像解析の会社へ送っているから、ハッキングに必要なだけのネット回線は備わっていた。

 創太が真っ先にハッキングしたのは、来栖野市の警察署のサーバーだ。彼としては一騎を回収できたら、警察署の武器保管庫へ行くつもりである。

 ただ、その前に現状を把握するための情報が欲しかったのだ。サーバーに保存されていた報告書では一都六県で、同じ現象が起きているという内容。


 そして推測されるのは新型ウイルスか、生物兵器の可能性が高い。ウイルスと仮定した場合、噛まれたり傷口から感染者の血が入るだけでも同じように感染すると。

 感染から実際にウイルスの症状が出るまでには、噛まれた場所や傷口から侵入した血液量によって変動があると書かれていた。

 首や胸、もしくは腹部の大動脈を噛まれた場合は、発症までに五分から二十分の間に死亡。噛んだり、食らった相手と同じ状態に至るとの推測まであった。恐らく歯形が少し残るくらいなら、数週間から一ヶ月は発症しないだろうとも。


「ほとんどバイオザードなのだよ」 


 彼以外に誰もいない店内に少しだけ声が響く。それを気にする様子もなく、創太は続けて上戸森と有栖の警察署にもハッキング。

 どちらも既にパンデミック状態とだけわかり、創太が次に行ったのは武器保管庫の施錠のタイプを調べること。上戸森は複数の扉の開錠式、有栖と来栖野は音声と声紋認証。

 だが、来栖野に関しては創太が内部監視カメラにアクセスしたところ保管庫の扉が開いている。どうやら、警官たちが武装するために開放したようだ。残念ながら当の本人たちは既に噛まれた後で、今では外でゾンビになっていたが。


「一騎にこれから車で向かうとメールしておくか」


 デスクトップは電源を落とされて、ただの箱へ。創太は急ぎ足でラルゴへと戻り、鍵を開けて運転席へと乗り込む。ちゃんとドアを閉めてシートベルトも装着、それからエンジンを始動してカーナビを起動。

 一騎の通う来栖野高校へと向かう道路で、ゾンビが少なさそうであり、事故車もあまりない場所を予想して運転を開始した。


「おーーーい!! そこの車、乗せてくれーーー!!!」

「待ってーーーーーー!!! 乗せてーーーーーー!!!」

「俺たちを乗せないで、どこに向かおうってんだ!!!さっさと止まれ!!!!」


 周囲をゾンビに囲まれているだけじゃなく、既に噛まれた後の人物までいた。創太は警察のサーバーにあった報告書を読んだからこそ、彼らを無視した。


 ――見た感じだと声や音に反応するなのだよ。それにどこに行こうと僕の勝手なのだ。


 彼は今も叫んでくる声を無視し、心の中で文句を言うと時々カーナビを見ながら一騎が到着しているだろう高校へとラルゴを走らせる。


「しまった。感染がどこで始まったのかを調べておくんだった」


 来栖野高校へと向かう途中で、少しずつゾンビの数が増えていく。エンジン音に釣られてなのか手を伸ばしてくるのを見て、もう少し情報がないか確認しておくべきだったと創太は少しだけ後悔するのだった。





 創太からがメールを送った頃、一騎はちょうど学校に到着したところだった。彼以外にも無事らしい近隣住民などが少なくても四十人は、来栖野高校へと向かっている最中。

 ただし、一騎はそれを喜ぶ気にもならない。なぜなら、昇降口の近くにゾンビとなった同級生や教師陣がいたのだ。一騎は自転車を降りて、施錠を行う。鍵をポケットに入れて通学鞄もカゴに入れたままで放置。スタンドは上げた状態で門に立て掛けた。

 その代わりに創太から受け取った警棒だけは、しっかりと持っている。この警棒は伸縮タイプであり、伸ばす方法も短くする方法も聞いていた。


「少しでも数を片付けられればいいんだけどな。とりあえず近付いてきたら頭をぶっ叩くか」


 一騎は足音を立てないように慎重に一体に忍び寄っていき、思いきり警棒を振り下ろした。二回だけだが。


 ――ゴキッ!!!! グシャッ!!!!!!!


 一回目で頭蓋骨を割り、二回目で脳が潰れる音。ゆっくりとうつ伏せに倒れていく。倒れても動かないかを確かめるべく彼は警棒で突くが、一切の反応はない。


「頭部を潰すなり、破壊すれば動かなくなるって考えてもよさそうだな」


 革靴のまま土足で校内へと入った一騎が見たのは、かなりの数のゾンビ。その多くが食い千切られた場所から、筋肉や骨が見えている。腸が外に出ている場合も。そして共通するのは強烈な腐敗臭をさせていることだ。


「ウウウウアアアァァァア」

「アアアアアァァァア」


 白内障のように真っ白になった眼球なのに、二体のゾンビは彼を見たかのように手を伸ばしながら歩き出す。


「ふん! せいっ!!!」


 伸ばされてきた手を屈んで回避した一騎は、生徒ゾンビの頭を叩く。もう一体の体育教師ゾンビの首を折るつもりで叩いた。


「おいおいおい」


 体育教師ゾンビは首から上がポーッンとなくなった。見事に吹っ飛んだのである。


「武藤、こっちだ」

「あまり大きな音や声を出すなよ」

「見つかったら、食われちまうから」

「2Bの教室に何人か逃げ込んでる。一緒に来いよ」


 階段の踊り場でそれを見ていた四人の男子生徒が、あまり大きな声を出さずに手招きする。その四人は全員が去年、一騎と同じクラスだった相手だ。警棒を軽く振って血を周囲に飛び散らせて、彼は警棒をベルトへ。


「西戸、井村、川瀬、早川。無事だったか」

「「「「あぁ。2Bへ行こう。他よりは一応、安全だから」」」」


 見事なハモりで手招きのタイミングも全く同じ。一騎はこんな状況でも少しだけ笑ってしまう。足早に階段を上がって、2Bのクラスへと入った。

 五人が入るとすぐに、ドアは閉められる。中にいた無事だった生徒たちが、机やイスを動かしてドアに押し当てて入ってこないようにする。

 施錠しないのは他にも生存者がいた時に、すぐに廊下へと出られるようにするため。だが一騎はそんなことよりも、クラス内にいた人数を見て落胆。


「これだけしか生き残れなかったのか?」

「わからない。1Dと2C、3Aと3Eはドアが閉まっていた。中から鍵が掛かってるのは間違いない」

「生き残ってるのか、あるいは噛まれたり食われたりして仲間入りを嫌って逃げ込んだのか。さっぱりか」

「あぁ」


 現在2Bのクラスには一騎を含めた十三人しかいない。男子六人で女子七人。待機していた最後の男子は、新入生の男子だ。女子は一年が三人、二年が二人で三年が一人。

 二年と三年は一騎は話したことないが、それでも有名人だから苗字は知っていた。


「武藤、外の様子はどうだ?」

「普通に出歩けない状態だ。俺は電車で来たんだが、隣の車両では既に外を歩いてる連中がいた」

「あれってゾンビだよな?」


 西戸が口にしたゾンビという単語。これはゾンビ映画を一度でも見たことがあれば、誰だって出てくる状態だ。


「見たままを表現するなら、そうだろ」

「あ、あの先輩。 学校の周りってどんな感じですか?」

「最悪だな。いろんな場所にゾンビがいる。 どうやってこっちを認識してるかわからないが、生きてる人間を認識すると迫ってくる」


 新入生の一年生女子からの質問に、一騎は的確に自分が見てきたことを話す。


「基本的には歩いてるが、俺が来栖野駅で降りた時には一体が走ってきた」

「助けが来ますよね!? ね!?」

「どうだか。交番の警官でさえゾンビになっていたからな。110番には連絡してみたのか?」

「い、いえ。 やってみます」


 一騎に質問をしたツインテール新入生は、鞄からスマフォを出して110番に電話を掛ける。掛けるとすぐに『現在、通報が多く対応ができません』と用意されていただろうメッセージが再生されただけ。


「そ、そんな」

「私たちも食べられちゃうの!?」

「やだやだ! 先輩、なんとかしてください!!」

「っし! あまり大きな声を出すな。あつま――――」

「ウウゥゥウ!!」


 西戸が集まってくるからと言おうとした直後、ドアをバンバンと叩く音。声を聞き付けたのか、ゾンビが来てしまったようだ。


「っくそ! 井村、ドアの鍵を掛けるぞ」

「おう!」


 早川と井村の二人が前後のドアへと移動して、ドアの鍵を掛けた。


「西戸くん、川瀬くん。これからどうする?」

「なんとか移動手段を確保するしかないだろ。このまま立て籠っていたって、食料や水がない。確保をするためにも行動を起こす必要がある」


 川瀬は同じクラスの女子で、数々の大会で金メダルを獲得している水泳選手として有名な鹿島から意見を求められて即答した。


「移動手段だけなら問題ない。オレのダチが車を確保したらしいからな」

「マジかよ。 ん?ダチってことは無免許運転か?」

「そうだ。 だが、こんな状況では取り締まる人間もいないだろ」


 一騎がドアの鍵を掛けて戻ってきた早川の問いに答えたタイミング、やや遠いがエンジン音が少しずつでも近付いてきていた。


「あれ!!!」


 窓から外の様子を伺っていた三年女子が、緊張感に満ちた声を上げて、正門の方を指差していた。一騎たちが窓辺に小走りで 駆け寄って視線を向ける。

 通学鞄を抱くようにして走って来るのは、一騎もよく知っている女子生徒だ。去年だけじゃなく、数日前に届いたクラス名簿で今年も同じクラスになったから。

 それだけじゃなく、彼女はあまり表情を変えず感情表現もしないから自然とクラス内でも目立っていた。他にも理由はあるが、主な理由は彼女が美少女であることと、御巫(みかなぎ)神社の現役巫女だからだ。

 付け加えるなら小柄でありながら、身体のメリハリがハッキリし過ぎていることか。


「足音に引き釣られるように、何体か追ってきているな。他の生存者も向かってきているみたいだから、複数の足音を聞き付けたのかもしれない」


 一騎はそれだけ言って、教室のカーテンを外し始める。


「どうするんだ?」

「オレのダチが来た時に、すぐに乗り込めるようにする準備だ。それと助けに行ってくる」


 四枚のカーテンを固く結んで、教卓の足に縛り付ける。そして窓を開けてラペリングをするように彼は地上へと降りていった。


「俺たちも外に向かうか」

「だな。 置いていかれるのは絶対にお断りだ。 行くぞ!!」


 2Bのクラスにいた西戸たちは、机を動かした後にモップなどが入ったロッカーを開けて武装。頼りない武器を片手に、クラスの外へと出た。


御巫(みかなぎ)、こっちだ」


 この時に御巫(みかなぎ)(みお)は、正門から入ってきた。一騎は澪に対して手招きをする。


「大丈夫?」

「あぁ。噛まれたり、どこか食べられたりしてないか?」

「平気。……今のところは」

「そうか」


 こんな状況でも淡々とした受け答えをする澪に、彼はほんの少しだけ日常が戻ってきたように感じた。


「助けて!」

「歩きながらでも追いかけてくるぞ!」

「君たち、学校内はどうなっているんだ!? 避難してきた人々ばかりだよな!?」

「こういう時は体育館でしょ。 すぐに向かおうじゃないか」

「そうだな。 君たちはここで見張っているんだ」


 正門にたどり着いたスーツ姿の三十代後半から五十代前半の九人の男女は、一方的に言って去っていく。しかも、自分たちが休憩するために一騎と澪に見張りをしろと言ってだ。

 この時に二人が思ったのは、彼らが車が近付いてきていることに気付いていなくて、よかったという点。それと校庭をうろついていたゾンビの姿がいつの間にか減っていたこともそうだろう。


「どうするの?」

「放っておく」

「……いいの?」

「あぁ。 あの人たちは守るべきじゃない。なにかあれば、他人に厄介事を押し付けて逃げるタイプだ。それで問題があれば全力で非難ばかりする輩だろ」


 澪は一瞬だけ体育館へと向かっていく彼らを見て、一騎に見上げるような視線を向けるとコクリと頷いた。


「ゥゥアアア」

「ァァァ」

「ウォォォオ」

「ヴァアア」

「ッウウウ」


 何体かのゾンビが正門内に入ってくる。一騎は警棒をベルトから引き抜いて構えると澪に「少し下がってろ」とだけ言って駆け出した。


「ォォォオオ」

「ウルアアァァァ」


 一騎は歩きながら、手を伸ばしてきた二体の頭を薙ぐようにして強打する。


「っふん! そりゃっ! っは!」


 澪に近寄ろうとした三体だが、一騎に警棒で両腕両足を思いきり警棒で叩かれた。


 ――グキ! ――ボキン! ――グシャ!


 骨が砕ける音と、完全に潰れた音が。


「ゥゥゥゥアアア」

「このっ! 俺たちは生き残るんだ!」

「ァァァアアウ」

「邪魔だ! お前らに噛まれる暇も、食われてやる時間もないんだよ!!」


 一騎と澪に見張っていろと大人たちが、体育館に入り盛大な悲鳴と叫びを上げたのと同じタイミングで西戸たちが昇降口から出てきた。


「みんな無事だな? このまま離れるぞ」

「おう!」

「だな!」

「家族に会いに行こうぜ!」

「はい!」

「お父さんやお母さん大丈夫かなぁ?」

「きっと大丈夫のはずだよ!」

「「死にたくないしね!!」」

「っし! 声を小さくしなさい」


 西戸たちが賑やかに話ながら、正門へと向かおうとした直後一番後ろを歩いていた川瀬が噛みつかれた。


「いってぇ!」

「川瀬!」

「俺たちの親友に、何してくれてんだ!!」

「ちっ! 足を砕いておいたのに」


 川瀬が左手の親指から中指を食い千切られた直後、無事だった西戸、早川、井村の三人はすぐに後ろを振り返った。


「「きゃああああぁぁぁあ!」」

「先輩!」

「どんどん来るわよ!!」


 川瀬を食べようとしたゾンビに、モップや金属バットが何度も叩きつけられる。彼らは親友を食べようとしたゾンビを殺したのだが、自分たちの注意を散漫させてしまう。


「アアアァァ」

「ウアアァ」


 昇降口から出てきた三十を数えるゾンビが一騎以外の男子生徒四人へと殺到する。


「っくそ!」

「来るんじゃねぇ!!」

「共食いでもしてろっての!!」

「相手してる時間はないんだっつの!!!」


 彼らがそれぞれの武器で、迫ってくるゾンビの集団を迎撃する。一騎はこれに加わっていなかった。一人で正門の門を押して広げていたからだ。

 エンジン音が近付いてきていたが、普通車ならともかくトラックや1.5ボックスのワゴン車だった場合、狭いだろうと判断したのである。

 門が「キィキィ」と音を出すが、ゾンビは体育館側から出てきて大騒ぎしている大人たちと西戸たちに殺到中。


「よし」


 十分に通れる広さを確保した直後、ノアとラルゴが入ってくる。


「澪!」

「一騎!」


 左右に展開するようにして停車し、二人の男女が同時に降りながらそれぞれの相手に声を掛けた。


「姉さん?」

「創太!」


 一騎は創太の元へ、澪は姉の元へと走った。澪の姉は一騎と同じくらいの身長であり、妹以上に身体のメリハリがすごい。


「ぐああああぁぁぁぁああ!」

「ちっくしょう! ここまでかよ」

「いたい、いたい、いたい、いたい」

「殺るだけやってやるぜ」


 西戸たちの声と一部女子生徒の声に、一騎たちが振り返ると手や足に噛みつかれ、食い千切られた姿があった。


「急げ! 乗り込め!」

「無理だ。 噛まれたらどうなるか、俺たちは見たからな」


 ――噛まれたらって。そうだ、父さんから動画送られてきてた!


 彼らの言葉によって、一騎は自分の父親から電話口で言われた内容を思い出す。そして、悪い予感を抱きながら友人たちに聞き返した。


「どういうことだ?」

「噛まれたら、こいつらの仲間入りだ。個人差はあるけどよ、助からねぇのさ」


 早川が右手首と左足首の噛まれ、中の筋肉が見えている場所を指差しながら続けた。


「俺らがゾンビになっちまうまでに、可能な限り殺っておく。だからお前たちは逃げろ」


「無茶だ。多すぎる!」


「俺らはゾンビになって友人を同じようにしたくないんだ。行け!!」


「悪い!!」


「姉さん、どこに行くの?」

「どこかよ。お父さんもお母さんは、全身を噛まれていたわ。もう助からない」

「……そんな」


 御巫姉妹が今後の行き先に関して、言葉を交わそうとした途端、それを邪魔するように大人たちが来た。既にあちこち噛まれて出血している。


「よくやった! 車は俺たちが使うから、お前らはここで奴らを殺せ!!」

「邪魔だ! 俺たちがその車に乗る。 子供は俺たちのためにこの場に残れ!」

「ちょっと! これは私のくる――――きゃっ!!」


 あまりに自分勝手な大人たちが、ノアとラルゴを奪いに掛かる。澪の姉は突き飛ばされてしまった。


「姉さん!!」

退()け!!」

「おい、なにさま――――っぐぎゃああああああ!!」


 どこかのサラリーマンがラルゴに手を伸ばした直後、創太は警棒を構えてその手足を思いきり強打。


「ガキ! なにしや――――やっ、やめっ――――」


 創太に警棒で強打された二人が文句を言おうとした直後、さらに追加の強打を全身に浴びる。


「あっ! 私の車!!」


 一人がノアの運転席にたどり着いて、勝手に運転して正門を出ていく。


 ――キキーーーー!!! ――ドーーーーーン!!!


 だが、それも五十メートルも行かないで電柱に激突。創太に叩きのめされた姿を見た大人たちがノアへ。そして、そこにゾンビが大きすぎる音によって吸い寄せられていく。


「ゥゥゥアアア」

「武藤、御巫、生き残りを連れて行け!!!」

「オエエエェェ」

「噛まれていないなら乗るのだよ!」


 井村が怒鳴るように一騎たちに言った瞬間、一番噛まれた数が多かった早川が胃の内容物を盛大に地面へとぶちまけた。それを見て創太が一騎や澪たちを急かす。


「武藤、生き残れよ!」

「おう!!!」


 無事だったのは一騎、澪、澪の姉、創太。そして水泳部のエースである鹿島だけだった。一騎と創太は近付いてくるゾンビの頭を警棒で強打してから、ラルゴに乗り込む。

 創太が運転席へと乗り込み、一騎は助手席へ。澪たちは後部座席に。彼女たちが十ケースものパチンコ玉に驚いたのは一瞬で、全員がシートベルトをするとラルゴは来栖野高校を後にしたのだった。

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