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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
29/54

28.下準備(3)


 梓がほぼ無傷状態のハイエースを発見してから二十分後のこと。ショッピングモールセンター、西ゲート駐車場で梓たちが確保した車はウェイク一台、ハイエース一台、トール二台の計四台。

 ハイエース以外は、塗装が剥がれているか、ドアに小さな凹みがある程度。この四台は幸いにも防犯用の警報器が取り付けられていなかった。

 ロックに関しては、盛岡が創太から託されたピッキングセットで解除。鍵がエンジンに刺さったままだったから、問題なくエンジンも始動できる。


 梓たちはエンジンをスタートさせて、残り燃料を確認。ハイエースだけ給油する必要がないほど、ほぼ満タン近い。それを把握して、鳥越班は四人全員でガソリン回収容器に使えない事故車両からガソリンを集める。


「こうしていると暇よね」

「そうねぇ。ガソリン回収と給油は鳥越さんたちが全て、やってくれるそうだから」

「ゾンビも外から入ってくる個体はいないし、ショッピングモールセンターから出てくる訳でもない。退屈だわ」

「外のゾンビはともかく、ショッピングモールセンターのゾンビが出てきたら大変よ」

「そうなんだけどね。 あんまりにも退屈すぎるから、センターの中に入っていってゾンビをやっつけようかと考えそうになるわ」

「やめてくれないかしら? もしゾンビが大量に出てきたら、燃料の回収を中止することになるから」


 梓と赤城は実にのんびりした口調で、持参したチョコチップクッキーと(ぬる)くなった缶コーヒーで休憩中だ。鳥越班はせっせと燃料回収し、満タンになった容器から順にハイエースのトランクと後部座席へと運んでいた。

 梓だけは休憩しながらも、センターと地下駐車場の出入り口を交互に何度も眺めていた。だからこそだろう。彼女は目撃したのだ。

 地下駐車場の出入り口から、自分たちへと走ってくるRZ十三体を。400メートルほどの距離はあるが、息切れすることのないRZは速度を落とさないまま。


「赤城さん、セーフティー解除」

「え?」

「あれ、見て」

「……退屈しのぎには丁度いいわ」

「えぇ〜。危機感がないのかしら?」


 梓は赤城から返事がないことに腹を立てることもなく、自身もUZI改のセーフティーを解除して銃口を向ける。RZが目指す先、それはガソリン回収作業中の鳥越班だ。

 梓と赤城は一切動いてない。だから、RZは彼女たちを認識することはなく、回収と積み込みで動き続ける鳥越たちのみを視認したということだろう。


「ギィィャア゛ア゛ア゛ア゛」

「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛」

「グラァァァォオ゛オ゛オ゛」

「ウグラァァァア゛ア゛ア゛オ゛」

「ヴァァァア゛ア゛ア゛ア゛イ゛」


 RZの雄叫びのような唸り声を聞いた鳥越たちは、即振り返って対応しようとする。


 ――パシュシュ、パシュ、パシュパシュシュシュ!

 ――トシュシュシュシュ、トシュシュシュシュシュ!


 100メートルまで接近され、鳥越たちは紐で背中に背負うようにしていたそれぞれの銃を構えようとした。だが、銃口を向けるよりも早くに、梓と赤城が迎撃射殺を開始。


 ――パシュ、パシュシュ、パシュ、パシュシュシュシュ!

 ――トシュシュ、トシュ、トシュシュシュシュシュシュ!


「グゥェッ」

「ギァアア」

「フルゥゥウ」

「ゲヒャァア」

「グルゥウオ」

「グギャァオ」


 最も接近してきていたRZ八体に首と頭に、梓と赤城が放ったパチンコ玉が飛んでいく。口から黒い液体を垂れ流しにしていた二体に関しては、首から上が綺麗に吹き飛んだ。


 ――ガシュシュ!

 ――パシュシュシュ!

 ――バシュシュシュ!


 残り五体は200メートル近くの距離があったのだが鳥越と盛岡、班員一人の銃撃を頭に受けて死亡。ドサっと倒れる音を立てた。


「急いで回収するぞ。 それが終わったら、三台に給油を済ませて即離脱だ」

「「「了解」」」


 鳥越の指示に盛岡たちは返事をして、すぐに作業に戻る。梓はまだ撃ちたそうな赤城をチラッと見ると、パトカーに戻って双眼鏡を持ち出す。

 梓が手にしている双眼鏡は、創太が彼女に持たせたものだ。離れた場所から安全にゾンビを発見するためにと。梓は創太から渡されていたそれを使い、地下駐車場出入り口とショッピングモールセンターの方を観察する。


「地下の方は問題……なし。 センターの方はどうかしら」


 ピントを合わせて梓が窓からセンター内を見ると、そこには大量のゾンビが。ソーラーパネルが壊れたのか、一階の開かない自動ドア、二階から四階までゾンビで埋め尽くされている。


「赤城さん」

「退屈中の赤城さんですよー」

「あのショッピングモールセンターに、どれだけのゾンビがいるのかしらね」

「五百体以上はいそうよね」


 彼女らは知らないが、上戸森ショッピングモールセンターは店員や買い物客が隙間なくピチッと距離を完全に詰めると千人は入ることができる。そしてゾンビたちは千体も中にいた。


「鳥越さん」

「なんでしょうか」

「作業を急ぐか中止して、三台に給油してもらっていいかしら?」

「なにかありましたか?」


 梓は自分が使っていた双眼鏡を隣に来た彼に渡す。そして一階の自動ドアから四階の窓までをゆっくりと指差した。鳥越はこれからなにが起こるかを予想すると、一瞬にして顔を真っ青にする。


「ガソリン回収をできる限り急げ。ゾンビがこっちに気付いているぞ。 自動ドアや窓ガラスをバンバン叩いている」


 ショッピングモールセンターのガラスは、強化ガラスを採用している。と言っても、本当に一番安い強化ガラスだ。それがゾンビたちに叩かれ、何十体ものゾンビが押しくらまんじゅうのように密集すれば負荷はとんでもなく大きい。

 鳥越が双眼鏡で見ている間にも、強化ガラスにヒビが入る。そしてそれが、少しずつでも広がっていた。


「鳥越、RZは視認できるか?」

「ダメだ。 WZが壁のようになっていて、奥の方は全然見えない」

「了解。とりあえず、後五台くらいは回収する」

「わかった。ただし急げ」


 盛岡の言葉に鳥越が承諾の返事をした直後、一階自動ドアから三階までの窓ガラスが割れた。そして大量のWZがゆっくりと、だが確実に迫る。


「鳥越さん、どうします?」

「梓さんと赤城さんにも射殺を手伝ってもらいますとも」

「任せて!」


 機嫌よさそうな赤城を梓は横目で一瞬だけ盗み見て、ため息が出そうになるのを慌てて止める。大量のゾンビが迫ってくるのを見て、赤城は嬉々とした表情でMP5改に取り付けられたドットサイトを覗いている。


「盛岡たちは作業に専念しろ。三台に燃料補給を済ませたら、すぐに乗車しエンジン始動で脱出だ」

「「「了解!」」」


 ――トシュシュ、トシュシュシュ、トシュシュシュ!

 ――パシュ、パシュシュ、パシュシュシュシュシュ!

 ――カシュ、カシュシュ、カシュシュシュ、カシュ!


 射程に入った直後、梓と赤城が発砲開始。続けて鳥越も銃撃に参戦する。最初の数十体は一階自動ドアから出てきたゾンビたちだ。

 パチンコ玉は次々とWZの頭を穿ち、首から上を千切れさせていく。二階から上のWZたちは足の骨が曲がった状態でも平然と歩いて迫ったり、完全に骨が折れても這って迫る。


 ――トシュシュ、トシュトシュシュ、トシュシュシュ!

 ――パシュ、パシュシュ、パシュシュ、パシュシュシュ!

 ――カシュ、カシュシュシュ、カシュ、カシュシュシュ!


 梓と赤城は普通に歩いて迫るWZたち集中攻撃。鳥越はRZがいないかと神経を配りながら、ひたすらにWZの大集団にパチンコ玉を放ち続ける。

 この頃、盛岡たちは自分たちで決めた最後の事故車からガソリンを回収し終えた。そして、回収したばかりの燃料を梓と赤城が見つけた、損傷が少なく問題なく乗れる三台へと給油していく。


「給油完了!」


 ――トシュ、トシュシュ、トシュシュシュ、トシュ!

 ――パシュシュ、パシュ、パシュシュ、パシュシュ!


「よし! 二人とも射撃を中止して乗り込んで」

「えーっ!? もう少しくらい撃っておきたいのに」

「私はゾンビの仲間入りは嫌だから、先に失礼させてもらおうかしらね」

「えっ!? わ、私も帰る!!」


 二人の班員がそれぞれパトカーに、梓がハイエースの運転席に、赤城はウェイクに。鳥越と盛岡は容器をハイエースの後部座席に乗せると、二台のトールの運転席に飛び乗りそれぞれエンジン始動。

 パトカーが先導するように走り出し、ハイエース、ウェイク、トールと続き西ゲートから侵入しようとしたWZ数体を撥ねながら、イーグルマンションへと帰還を急いだ。





 梓たちが確保した車と燃料を持って、イーグルマンションに帰るべくショッピングモールセンターを出発した頃。北見班は小野が運転するキャンピングカーで、来栖野市に到着していた。

 石田に電話連絡でイーグルマンションへと呼び戻されて、今後の活動においての下準備に関しての打ち合わせのために。それが終わって、しばらくは創太が残していった三台の無線中継器の組み立て。

 これが終わると、彼らは小野の運転するキャンピングカーで有栖デパートに戻った。組み立てた中継器の一つを設置し、事故車の少ないルートを選んで来栖野市へと進み続けていた訳である。


 現在、北見たちが向かっているのは創太がゾンビ発生当時にパチンコ玉を確保したパチンコ屋。ここしばらくの間にパチンコ玉の消費ばかりだったから、補充するのが目的。

 来栖野駅までは、まだまだ距離があるがそれでもここまでゾンビ大集団との遭遇はゼロ。十体前後の小規模集団なら四回ほどあったが、WZだったこともありスルー。


「班長、来栖野西商店街通りなら事故車は八台だけです」

「ゾンビは?」

「見える限りで二百体前後かと」

「迂回路はどうだ?」

『来栖野北大通りまで出れば、ゾンビ数は七十前後。ただし、事故車が道路を塞いでいます』


 キャンピングカーの二階の窓から、双眼鏡を使って安全そうなルートを探していた班員からと、放置自転車で様子見をしていた班員からの報告。

 どっちのルートを選んでも、問題なく来栖野駅までは向かえるが危険性は異なってくる。


「事故車が少ない代わりにゾンビが多い商店街通りを進むか、あるいは事故車が多い代わりにゾンビが少ない北大通りを選ぶべきか。

 商店街通りを行くとなると、大量のゾンビが集まってくるが射殺すれば問題なし。 ただし、それによって今あるマガジンが全員一つ半はなくなる」


 北見は迂回によって燃料を消費することと、事故車の角にゾンビがいた場合を想定。数体のWZくらいなら問題ないが、もしもRZだったら、射殺しない限りはずっと追い掛けてくるだろう。


「北見さん、ちょっと」

「小野先生?」


 本格的な思考を始めようとしたところで、運転席から離れた小野が彼を呼びちょいちょいと手招き。


「どうしたんだ?」

「武藤くんから預かっています。 必要と判断したら使うようにと」

「武藤くんから?」

「そうです。使うかどうかは、北見さんの判断に任せます」


 北見は小野からダンボールを渡される。ずっしとまではいかないが、そこそこの重さがあった。一騎が小野に渡していたもの、その正体を知るべくガムテープを剥がして中を覗き込む。


「…………」

「北見さん? どうかしました?」

「なんでもない」


 北見は心の中で一騎に感謝しながら、ダンボールから二本のラムネ瓶を取り出した。中にはまだラムネ瓶六本と一升瓶が四本ある。

 その全てに布が用意されていた。そう、ダンボールの中にあるのは火炎瓶そのものだ。一騎は北見たちがパチンコ玉の補充を確保しに行くのを知り、伊藤たちに用意させていたのであった。

 もしも大量のゾンビに遭遇した場合、マガジンと車の燃料を気にして判断を鈍らせてしまう事態を考慮して。


「小野先生」

「はい」

「クラクションを。集まってきたところで焼殺する」

「わかりました」


 ――パパーーーーーーーーーーーーン!!!


 小野がクラクションを鳴らすと、600メートル先の商店街通りにいたWZたちが移動を開始する。移動開始を目撃すると、小野はクラクションを鳴らすのをやめた。


「火炎瓶を二本か三本使って、ゾンビを焼殺。全て焼き殺せなくても、残ったゾンビは射殺せよ」

「「了解」」

『了解』


 北見が指示を出した直後、WZの間からRZ五体が姿を見せる。五体は北見たちが乗るキャンピングカー目指して、全速力で走った。


「RZ射殺せよ」


 ――ガシュ、ガシュ、ガシュシュシュ!


 残り八十メートルという距離で、北見の指示を受けた班員がM4A1改で射殺。


「中央のWZに一発発射。周囲を巻き込んで倒れたところで、火炎瓶を使え」

「「はい」」


 二階の班員が窓から身を乗り出し、迫るWZの先頭中央の個体を射殺。そのWZは両腕をしっかりと広げた状態で後ろ向きに倒れた。ドミノ倒しのようにゾンビたちが転倒を開始。


「火炎瓶、投げ!!」


 北見は指示を出すと同時に、ドアを開けて外に出る。自分に続いて降りた班員と一緒に、手にしたラムネ火炎瓶の布に着火して投げた。転倒状態から起きようとしたWZたちを狙った、彼の正確な火炎瓶投げ。

 班員の方は転倒したまま、手足をジタバタと動かしている中間辺のWZに投げたのだ。


「ギュァァァァァアアアア!!」

「グギュラァァァァァアア!!」

「ゥゥゥゥウウウウアアア!!」

「バァァァウウウウウウオ!!」

「ギィィィィイイイヤアア!!」


 火炎瓶が割れた同時に足元が濡れたWZたち。下を見ようともせず起き上がろうとしていたタイミングで、着火済み布が中に入っていた度数五十超えのウィスキーを燃やす。

 ゾンビたちは唸り声のような、悲鳴とも絶叫かもしれないとも思える声を出した。いい感じに腐り、水分が抜けているせいかよく燃える。


「北見班長、戻りました」

「自転車をトランクへ。すぐに武装し、火炎瓶の火が届かなかったゾンビを射殺する準備を整えろ」

「了解」


 北見は自分に声を掛けてきた、大通りの様子を見に行っていた班員を迎えるとすぐに次の指示を出した。


「班長、六十から七十ほどキャンピングカーに到達するかと思います」

「了解。 一メートルずつ距離を開いて展開。自分たちの正面ゾンビを最優先で射殺せよ」

「「「了解!!」」」


 返事を聞くと同時に北見は、キャンピングカーに戻り自身のマガジンベストを装着し、ちゃんとM4A1改を持って外に出る。全員が一斉射撃可能な状態になったところで、北見は発砲を指示した。


 ――ガシュ、ガシュシュシュ、ガシュシュシュシュ!

 ――バシュ、バシュシュ、バシュシュ、バシュシュ!

 ――カシュシュ、カシュ、カシュシュ、カシュシュ!

 ――パシュシュシュ、パシュ、パシュシュシュシュ!


 火炎瓶の火を受けなかったゾンビは、次々と真っ正面からの射撃を頭部へと受ける。次々と倒れていき、最後の一体は班員の一人が仕留めた。


「乗車! これより来栖野駅前にあるパチンコ屋へと向かう」

「「「了解!!」」」


 動く存在(もの)がいなくなった道路を、小野が運転するキャンピングカーは走り抜けていった。途中、他の大通りが事故車で半分以上塞がっていたり、ゾンビ犬を発見したりと北見たちは安全ルートを選択しながらパチンコ屋へと向かうのだった。





 イーグルマンションにいる三笠たちは、北見班が出発して早々に物資の在庫確認に追われていた。一騎たちと生活をしているマンションに関しては、なにがどれだけあるのかを正確に把握している。

 しかしイーグルマンションはそうではない。一応、石田が責任者として物資管理をしているが、彼はなにがどれだけ残っているかを曖昧にしか把握していなかった。

 それを聞いた三笠と伊藤は、有栖総合病院に向かうならきちんと把握しておく必要があると判断。石田に許可をもらって、どの部屋になにが、どれだけあるのかを確認するべく一ヶ所に集めて、大まかな仕訳をしている。


「伊藤さん、レトルトですけど、電子レンジを使う物と水やお湯だけで問題なく食べられる物。この二種類に分類するだけでもいいですかー?」

「いいわよー。レトルト関係が終わったら、今度はペットボルトと缶飲料の数を種類別にして記入してくれない?」

「わかりましたー」


 三笠たちは現在、五階ではなく四階にいる。正確には四階の401号室から405号室にだ。創太のピッキングによって解錠された号室だが、幸運なことに住人ゾンビなし。

 これによって、三笠たちは五階から集めたあらゆる物資の残りを数えている最中だ。三笠はリビングにある大量のレトルトを見ながら、伊藤に確認とその次の指示受けを済ませているのである。


「えーっと、電子レンジ側はカレー、シチュー、親子丼、牛丼、中華丼っと。カレーは甘口が……百四十食、中辛が百八十食、辛が九十食っと。

 シチューは七十二食、親子丼は百六十三食で牛丼は……意外と多いわね。二百二十一食」


 三笠は一つずつ種類を確認し、賞味期限と消費期限にも目を通す。賞味期限と消費期限の確認すると、大きなダンボールに日付の近い物をまとめて放り込む。

 そして、なにがどれだけ入っており、その数量がどれくらいなのかも紙に書き込んでセロテープで固定。こうすれば、食べていく順番がわかるからだ。

 三笠は実家が個人経営の喫茶店であり、両親を手伝って在庫管理と仕入れを行っていた。その経験が遺憾なく発揮されている真っ最中。


「消費期限が近い物はまとめてダンボールに放り込んだから、今度は種類別に個数と賞味、消費期限を書いていくっと。カレーのレトルトを辛さごとに違う箱に入れるのって、意外と重労働よね」


 三笠は誰も手伝ってくれる人物がいないので、話をしながら作業を行うことができない。よって、時々にでも一人言を挟まないと、単純作業で疲れそうになっていた。

 三笠だけでなく、イーグルマンションに残っている学生組は全員、それぞれの担当を持っている。伊藤は膨大な量の缶詰め、鈴木は種類豊富な米、諸星は乾パンやチョコレートなどの駄菓子関係。


「カレーが終わったから、次はシチューっと。 これはメーカーが一種類だから楽だわ。まぁクリームシチューとかビーフシチューとかの違いはあるけど」


 三笠はシチュー、親子丼、牛丼、中華丼のレトルトの全ての日付と個数を紙にメモして、それぞれが入ったダンボールに張り付けていく。

 そして、記憶している一騎たちと生活しているマンションにあるレトルトのレンジ使用の物の在庫を思い出し足していく。総合数がわかると、今度は消費期限を過ぎないように食べるための計算を開始。


「はぁ。やっとレンジを使う方が終わった〜」


 全工程合わせて一時間で最初のレトルトを終わらせ、次は水やお湯を入れるだけで食べられるようになる商品の方へ意識を向ける。要するに長期保存食だ。


「かなり消費期限が長いわね。ウソ!? なんでリゾットとかラザニア、パエリアなんて物があるの!?」

「三笠ー、どうしたのー」

「はっ!? な、なんでもありませーん」

「もう済んでいるなら、こっち手伝ってくれない?」

「すみません、こっち当分は終わりそうにないです」

「そんなー!! うん、よし三笠」

「はい?」

「ちょっと交代しよう」


 三笠の絶叫というか驚愕の叫び(?)を聞いた伊藤が、のろのろと作業をしていた寝室から顔を出した。少し会話していると、伊藤の目が種類豊富な長期保存食のレトルトを捉える。そして彼女が言ったのが作業交代だった。


「缶詰めの種類がありすぎて、疲れちゃった。ちょっと来て」

「は、はぁ」


 ちょいちょいと手招きされて三笠が、作業部屋である寝室に入る。そこには、頭痛と眼痛がしてきそうな光景が。


「えー。なんですか、これは?」

「魚系の缶詰めに、果物系統の缶詰め、それからポークやコーン缶、他には豆缶ね。魚系は終わらせたんだけど、もう缶詰めは見たくないのよ! そこで、三笠とわたしの担当作業をチェンジ」

「わかりました」


 三笠はレトルトのパッケージを見飽きていた頃だから、伊藤からの提案は助かった。彼女は早速とばかりに果物系缶詰めに取り掛かる。


「イチゴ、パイナップル、ミカン、オレンジ、イヨカン、ハッサク、マンゴー、バナナ、スイカ、メロン、マスカット、サクランボに、リンゴ、青リンゴ、グレープ、グレープフルーツ、白桃、黄桃、洋梨。 ちょっと数多すぎない!?

 っていうかさ、そもそも缶詰めにスイカとかメロンってあった!?」


 あまりの数を前にして三笠は、挫折しそうになる。これだったら、レトルトのパッケージを見ていた方がマシと思ってしまったようだ。

 少し、いや、かなり遠い目になった三笠だが、適当な仕事をするつもりはなかった。いい加減な仕事をしたりしたら、困るのは自分たちなのだから。

 彼女は種類が柑橘系を複数のダンボールにそのまま投入する。そして、残った様々な種類の果物缶詰めを仕分けして消費期限と個数を紙に書く。それと、保管方法として冷蔵庫やクーラーボックスを使うことなども記していく。

一番最後の三笠たちの様子、簡略化し過ぎました。

もしかしたら修正という名前の加筆をするかもしれません。確実に、という保証はありませんけど。

これで、有栖総合病院に行くための下準備は終わりです。

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