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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
25/54

24.偵察(2)


 本日二度目の有栖市との境、一騎と創太、ジャーキーの二人と一匹は再び道を塞ぐ事故車を越えた場所にいる。鳥越班と三班は事故車の移動と撤去、それとゾンビが来た場合の対応だ。

 一騎たちのは調べた妊婦とその旦那を発見したマンションから、さらに二ヶ所のマンションを調査。ゾンビ遭遇も、生存者発見もない。

 調査中に見つけた空き瓶と酒瓶で、即席火炎瓶を作った二人は、周辺の民家にゾンビがいないことを確認。一応は安全だと判断を下すと、上戸森との境近くにある有栖デパートへ。


 内部偵察を行い、可能ならば有栖市での活動拠点とするべく慎重に出入り口のシャッターが一ヶ所だけ開いている場所から中へと足を踏み入れた。


 一騎と創太は急造したアタッチメントにLED懐中電灯を固定して、点灯させる。シャッターが一ヶ所しか開いていないせいで、内部はかなり暗い。

 二人と一匹は光源を確保すると、慎重に内部の偵察を開始した。腐敗臭はしていないから、近くにゾンビはいない。それでも、慎重に歩くのはなにかを蹴飛ばした音を聞き、奥や上階からゾンビが降りてくる危険性を考慮して。


「創太、ここのデパートって太陽光発電なしか?」

「なしなのだよ。 ただし、地震などにより一時避難場所として使われるから、発電機による自家発電が可能なのだよ。 まず発電機を探すことが最優先」

「発電機がある場所は?」

「わかるのだよ。 ちゃんと設計会社にハッキングして場所は確認済み」

「場所は?」

「地下一階の配電室なのだよ」


 一騎は創太からの返事を聞いて、思いきり顔を顰めた。まともな光源がLED懐中電灯の明かりのみ。そんな状態で、真っ暗闇状態の地下を歩くのは危険でしかない。


「マジかよ。 最初はどう動くんだ?」

「一階全体の安全を確認し、問題なければ地下一階に降りるのだよ」

「最悪だ。 ジャーキーもそう思うだろ?」

「ワフン?」


 一騎が同意を求めると、ジャーキーは「え?」という感じで首を傾げながら鳴いた。一騎も創太も今日は光る棒や、発炎筒は持ってきていない。


「さぁ、行くのだよ」


 二人は慎重に進んでいき、最初に一階全体を確認していく。靴売り場、ブランドバッグ、化粧品売り場、時計売り場の四ヶ所を回りゾンビがいないのを把握。

 地下に降りる前に、インフォメーションに寄り、引き出しの中から、大きめの懐中電灯七本を回収。電池が入っているのを確認して、一騎たちはゆっくりと地下一階への階段を降りる。

 LED懐中電灯で足元を照らしながら降りていき、創太が踊り場にインフォメーションで回収した懐中電灯のスイッチを入れて、光を天井に向けた。この時に袋も入手。持ち運ぶのに、彼らはすぐに火炎瓶四本と一緒に袋へと入れた。


「一騎、このまま降りるのだよ」

「了解」


 踊り場に光源を用意して、一騎と創太、ジャーキーはゆっくりと階段を降りきる。一騎は二つ目の懐中電灯を天井へと向けて設置。そして歩き出そうとした直後だった。


「うっ。 この臭い」

「ゾンビか、食品の腐った臭いなのかは、僕にもわからないのだよ」


 地下一階は食品販売なのだが、生鮮食品関係は既に腐り腐敗臭を放っている。これに混じるようにして、ゾンビの腐敗臭があったら、非常に危険。


「キューン、キューン」


 一騎と創太が鳴き声を聞いて視線を向けると、ジャーキーが両前足で鼻を覆っている。通常ならジャーキーのこの反応でゾンビがいる可能性が高い、と判断する二人だが今回ばかりは慎重になっていた。


「一騎、適当にケースの上に懐中電灯を置くのだよ」

「創太もな」


 一騎と創太は袋から追加の懐中電灯を二つ取り出す。一騎はすぐ近くのショーケースの上に乗せ、創太は少しだけ離れた場所のケースの上へ。彼はセーフティーを解除した状態で、すぐに構えた。

 一騎は火炎瓶入りの袋をそっと置いて、同じようにセーフティーを解除して、銃口とLED懐中電灯のスイッチをオフにして、普通の懐中電灯の光だけを頼りに。


「ゥゥゥウウウ」

「ァァァアアア」

「ァァァラアア」

「ゥッゥッゥウウウ」


 懐中電灯が奥の方まで軽く照らし出すと、四体のゾンビの姿が見えた。WZ特有の動きで、両手を懐中電灯に向けながら歩き出す。


「創太」

「うむ」


 ――バシュ、バシュン!

 ――ガシュ、ガシュ!


 二人はそれぞれ銃口を向けると、近くと奥のWZの頭をそれぞれ射撃した。


 ――バタン

 ――ドサッ


 四体が倒れたのを確認して、二人はゆっくりと奥へと歩いていこうとする。


「クーン、ワン」


 ジャーキーは残されるのが嫌なのか、置いていかないでとばかりに鳴き吠えた。


「しーっ。 待っていてくれ」


 一騎は大丈夫だとばかりにジャーキーの頭を撫でると、創太と頷き合う。彼らから見える中央部分を背中合わせで、左右を警戒しながら奥へと進む。


 ――ブチャ、ブチョ、ボキ、ゴリ

 ――グシャ、ガリ、ボリボリ、ボキン


 二人が地下一階の中央部分に到着した時、なにかを食べるような音。一騎と創太が同時に音が聞こえた斜め東に視線を銃口を向ける。

 一騎はLED懐中電灯のスイッチを入れて音がした方向を照らす。照らし出された先は、頭に包丁が突き刺さった状態で死亡していた女性スタッフらしき死体。その死体を貪っていた三体の犬ゾンビ。


「ゥゥゥグルル」

「ゥゥウールググ」

「ゥゥゥウグググ」


 ゾンビ犬が照らし出されたことでゆっくりと振り返った。チワワ、土佐犬、秋田犬の一匹ずつ。口からは血がダラリと垂れていて、毛は抜けきり白内障のような目を一騎と創太に向ける。


「ヤバイな」

「即射撃なのだよ」


 一騎と創太は自分たちに向けて走ってくる、三体のゾンビ犬の頭を狙って発砲した。二体は同時に頭を撃ち抜かれたが、残る一体となったゾンビ土佐犬は創太の腹部に盛大な体当たり。


 ――ドサ!


「ぐっ!」

「創太!?」

「体当たりされただけなのだよ」


 ――バシュシュシュン!

 ――ガシャン!


 一騎は創太から離れたゾンビ土佐犬の頭を狙って撃った一発が左前足を吹き飛ばしたが、残りの二発はショーケースを破壊するだけだった。


「ゥゥグルルルウウゥゥ」


 ――ガシュン!

 ――ガシャン、ドシャリ


 ゾンビ土佐犬は無事なショーケースの向こうから、一騎たちを狙って飛び掛かろうとした。それは体当たりされて、体勢を崩していた創太から見える位置。

 だから、正確に放たれたパチンコ玉は、一騎へと今まさに飛び掛かろうとしたゾンビ土佐犬の頭を吹き飛ばした。


「創太」

「助かるのだよ」

「オレも助けてもらったさ」


 一騎は倒れたままの状態だった創太に手を伸ばし、彼は差し伸べられた手をしっかりと握って立ち上がる。


「配電室までどのくらいだ?」

「このまま南東へ少し向かうと、バックヤードへの扉があるのだよ。 バックヤードに入ったら、僕が先導する」

「了解」


 一騎と創太はジャーキーの元まで引き返し、袋と中身の火炎瓶と残りの懐中電灯を回収。


「ワン!」

「ジャーキー、無事か?」

「ワン!」


 一騎と創太が戻ると、ジャーキーが嬉しそうに尻尾をブンブンと振る。二人が大丈夫だと言わんばかりに、頭をガシガシと撫でると配電室へ向かうべく歩き出す。


「ワ、ワフ!?」


 歩き出した二人を見て「ど、どこ行くの!?」と不安そうに一鳴きしたジャーキー。一騎も創太もチラっと振り返って、笑顔を見せるとそのまま奥へと進む。


「一騎、ここなのだよ」

「オレが開ける。 創太はいつでも撃てるように構えておいてくれ」

「任せるのだよ」


 一騎は創太が頷いたのを見ると、バックヤードへの扉をグイっと押した。


「ゥゥゥウウウ」

「ィッィィイイイ」

「ブワァァァアアア」

「ギァァアァアアア」


 バックヤードへの扉がわずかに開かれただけで、中から腐敗臭が漂ってくる。一騎はさっきよりも強い臭いに耐えつつ、静かに扉を完全に押し開けた。

 創太はゾンビの唸り声が聞こえていたから、バックヤードへ入ると銃口を素早く左右に向けてわずか二メートルの位置にいた一体を射殺。

 続いて入った一騎を確認すると、創太は姿が見えないゾンビに注意しながら、先導開始。その速度は慎重ではあったが、スムーズに進んでいく。


 十分ほど歩いてWZ八体を射殺してLED懐中電灯が、配電室と書かれた扉を照らし出した。


 ――ギイイイィィィ


 一騎が扉をゆっくりと開けたが、それでも軋むような音が発生する。創太が扉から一メートルの場所まで入って、部屋全体をLED懐中電灯で照らし確かめて一騎へと頷いた。


「発電機を探すのだよ」

「どこら辺だ?」

「すぐに見つかるはずなのだよ」


 一騎と創太は袋から二つの普通の懐中電灯を取り出して、スイッチオン。扉から少し離れた場所に置かれると、大きな配電盤が。


「発電機、発電機っと」

「一台だと電力不足だから、何台かあるはずなのだよ」


 創太がハッキングして調べた時、発電機の正確な台数は書かれていなかったのだ。予算都合により、二台から五台までとしか書かれていなかったのだのである。


「創太、あったぞ」


 一騎は配電盤の周囲を探していたら、壁に押し付けるようにして三台の発電機があった。


「これなのだよ」


 創太は燃料が入っているのを確認し、配電盤の配線と接続していく。一台ずつ始動させて発電を開始し、地下一階と一階全体の照明を復活させる。配電室の照明も点き、掃除がされていないから埃っぽくなっていた。


「ゥゥゥウ゛ウ゛ウ゛!」

「ァァァア゛ア゛ア゛!」

「ブァァワア゛ア゛ア゛ア゛ガ!」

「一騎、なんだか腹立ったのだよ」

「奇遇だな、オレもだよ」


 廊下からの唸り声の中に「バカ」と言われたように聞こえた二人は、配電室の扉を開けて音に引き寄せられてきたWZ十一体を次々と射殺。


「ヴワァァァァァガ」

「「死ね」」


 一番最後になったWZが、またも「バカ」と唸った。二人はニコリと笑顔を浮かべて、頭を撃ち抜きパチンコ玉の余計な消費と理解しながらも、数発だけ撃ち込んだ。

 彼らは改めて地下一階と一階の全体を確認して回り、普通の懐中電灯を回収すると必要最低限な照明だけに電力を割り振って二階と三階へ向かう。





 一騎と創太が有栖デパートの地下で発電機を動かし、電力確保をして二階、三階へと向かっていた頃。鳥越班と三班は協力して事故車の移動と撤去を続けていた。

 さすがに全事故車を退()けるとなると、時間が掛かりすぎるため、鳥越たちは通りの中央部分の確保を開始。事故車、百台前後のうち中央部分を塞いでいる六十台前後を最優先で移動させている。


「鳥越、このトラックどうやって動かすんだ?」

「レッカー車が使えれば、かなり楽なんだろうが今はな」

「肝心のレッカー車だって、どこかで横転しているかもしれないな」

「鳥越班長、どうするんだ?」


 鳥越と盛岡が話していた時、三班の班長として石田に任命された北見が声を掛けた。


「まだエンジンが掛かる車数台で、一斉に押すか?」

「こんなに静かな環境でエンジンなんか使ったら、有栖総合病院に向かっていないゾンビが集まる可能性があるぞ」

「それはわかっているが、早く撤去させる方法が他に思い浮かばないんだよな」

「事故車の中にあったジャッキを使っても、軽自動車用だからパワー不足だからなぁ」

「盛岡、なにか方法思い付かないか?」

「横転状態を戻せたら、エンジンを掛けて動かすことはできる」


 盛岡の言葉に二人の班長は顔を見合わせると、盛大なため息。それだけではなく、鳥越班と三班の残る全員が「本気で言ってないよな?」的な視線を向ける。

 鳥越と北見は横転している横転中の荷物満載の四トンラックを前に、遠い目になった。


「鳥越班長、北見班長」

「なんだ?」

「トラックが血塗れでわからなかったんですが、これ自販機の商品補充トラックです」

「だからどうした。 四月にしては暑かったりした日や雨が降った日があったから、中の商品は腐っている頃だろ」

「そう思います。 ですが、中の箱を中身ごと外に放り出せば、少しは軽くなると思いますが」


 鳥越班の中でも最年少の警官は意見具申しながら、商品が入っている部分のシャッターを破壊。中から商品満載状態の箱を数種類ほど取り出し、いくつかの箱を開けて中身確認していく。

 ジュース系は色鮮やかなカビが浮いている。だが、ペットボトルの無糖のブラックコーヒーや無糖紅茶などは一切変化なし。


「盛岡さん、その」

「あぁ」


 なにを言おうとしているのか察した盛岡は、何本かのコーヒーと紅茶を受け取る。キャップを開けて、そのキャップに少しばかり中身を注ぐ。

 口を付けないようにしながら、傾けて数本の中身を毒味していく。少ししてから、彼は「品質に問題ない」と全員に言った。すると、持ってきているミネラルウォーターよりも先に彼は飲み始めた。


「ふぅ」

「はぁ」

(ぬる)い」

「ブラック初めて飲ましたよ」

「ジュースや炭酸が飲みたいもんだ」

「文句言うな」


 彼らは口々に思い思いの感想を述べていた時、空を見上げながらペットボトルのブラックコーヒーを飲んでいた北見は数十羽のカラスが飛んでいくのを見た。二十や三十ではなく、もっと数が多い。六十羽以上は確実。


「鳥越」

「なんだ?」

「上、見てみろ」

「上?」


 北見の言葉が聞こえた全員が、空に視線を向ける。そこで彼らは、北見が見たのと同じ光景を目撃。


「カラスだな」

「そうだな」

「おいおいおい、あの数は多すぎじゃないか?」

「確かに」

「なぁ、北見」

「あぁ。 無視するのは危険だろうな。 俺ともう一人で様子見に向かう。 お前たちは鳥越班の護衛だ」

「はい」

「了解です。 お気を付けて」

「おう」


 北見は班の中でもっとも視力に優れている班員を連れて、カラスが飛んでいった方向へと駆け足で向かう。最初からマガジンベストと無線機を装備しているから、車に戻ることもなく順調に追い掛けていく。

 北見と班員一人がカラスを追って向かった先、そこは有栖市内に複数存在する小さな公園の一つ。小さいと言っても、小中学校の体育館くらいはある。しかも少し東に進むと大きな幼稚園がある場所。


「北見さん、止まってください」

「なにが見えた」

「小さな池のところに、数人の死体を確認。 頭部が凹んでいたり、眉間に包丁と傘の先が刺さった状態です」

「誰かがゾンビを殺したのか、あるいは生存者同士で殺しあったのか。 そこがわからないな」


 池まで十五メートルの地点で、北見はM4A1改のセーフティーを素早く解除して構えた。


「うっ」


 彼と行動を一緒にしている班員は、一歩前に進むと口と鼻の両方を押さえた。


「どうした?」

「腐敗臭です。 それとゾンビで確定みたいですよ」

「その根拠は?」

「死体を食べているカラスの何体かの目が、白内障みたいになっていますから」

「間違いなくゾンビだな」

「えぇ。 どうしますか?」


 撃つのか、撃たないのか。どちらかの判断を仰ぐ班員に、北見は上空を見上げるように指示した。班員は上空を見て、顔を真っ青に。


「撃ってもムダだ。 どんどんカラスが増えて、ゾンビ化した死体を食べてはゾンビになる。 これが延々と繰り返されるだけだろ」

「しかし、このまま放置したら――――」

「わかっている。 だが、今は撃ってもパチンコ玉を消費するだけだ」

「処分するなら一度に、ですか?」

「あぁ。 武藤くんか葉加瀬くんに頼んで、火炎瓶を用意してもらうべきだった」

「本当にそうですね。 ここは離れますか?」

「あぁ。 離脱しながら周囲を偵察する」


 北見と班員は上空にどんどん集まり、降りてくるカラスたちから素早く離れていく。二人は公園周辺をゆっくり移動しながら、住宅街を歩いて生存者やゾンビを確認。

 どちらの姿も見えず、鳥越たちの元へと彼らが引き返そうとした直後だった。


 ――リン、リンリン、リンリンリン


 幼稚園側から鈴の音。二人は頷き合うと、慎重な足取りで幼稚園へと移動する。残り200メートルという場所で、彼らは複数人の男女を発見。

 一人の男が鈴が付いた電池切れスマフォを手で振り、その音によってゾンビを引き寄せている。ゾンビ数は十八体。距離があっても強烈な腐敗臭があり、北見たちは鼻呼吸から口呼吸に変更。


「北見さん」

「手を出すなよ」

「わかっています。 彼らはなにか目的があるということですよね」

「あぁ。 ゾンビを引き寄せるなんて、普通はしない」

「普通じゃない人間、と」

「そうだ。 WZしかいないようだが、RZがいたらあいつら全滅だろうな」


 北見は班員を連れた状態で、こっそり男女とゾンビの後を追跡していく。服装や顔立ちからして高校生から三十代前後。その彼らが向かう先は、幼稚園だった。意外にも幼稚園周辺は、道路が綺麗な状態。


「注意しろ。 噛まれるなよ」

「わかってるさ」

「急にゾンビが減ったから、困ったものだよねぇ」

「全くだ。 食料が減って困るぜ」


 ――食料だと!? 連中はゾンビを食っているとでもいうことなのか!?


 北見は彼らがゾンビを解体して、その血肉を食べている可能性を考慮したが、すぐに考えを捨てた。ゾンビを食べて平気でいられるはずがないと。


 ――まさかとは思うけど、ゾンビ化した園児たちに食わせているのか。


 班員は北見と違う考えだったが、実のところ正解だった。彼らは十八体のゾンビを血で赤黒くなっている砂場へと誘導して、包丁や金属バットで正確に頭部を破壊。

 砂場に倒れたゾンビの死体を引きずっていく。北見たちはどこに引きずっていくのかを見ようと動いて、幼稚園の窓ガラス越しにいる存在を視認。


「き、北見、さん」

「冗談、だろ」


 足を固定された園児たちの前には皿があり、そこには生肉があった。その園児たちは全てゾンビ。全身のあちこちが食い千切られていた。

 この世界で生肉があるとすれば、野生動物か人間、あるいはゾンビだ。ゾンビ化した動物は確保が難しいから、人間かと二人は考えがすぐに否定する。


「仲間以外の人間の可能性もあるが、それにしたってあんなに黒くはないだろ」

「えぇ。 黒すぎます。 焼いているんじゃなくて、ゾンビの肉をそのまま園児たちに食わせているのかもしれませんね」


 二人の会話を肯定するように、先ほどの男女たちが生肉を持って現れた。どうやら追加分のようだ。と、ここで北見は思わず目を背けそうになる。

 なんとゾンビの眼球や脳までもが、皿に乗せられて配膳されていくのだ。ゾンビ園児たちは、目の前のゾンビ肉を食べ終わると、お代わりのように置かれた新しいゾンビ肉を手掴みして口に運んでいく。


「みんな、ちゃんと食べてお腹一杯にしようね」

「たくさん食べて、しっかり寝ないと大きくなれないぞ」

「美味しいかい? いい感じに腐ったゾンビを解体したんだよ」


 あの男女は保育士たちだった。園児たちを犠牲にして、自分たちが助かったことに対する償いのつもりなのだろう。


「北見さん、どうしますか?」

「周辺民家から油を探して集める」

「集めてどうするんです?」

「単純だ。 油を撒いてライターで着火。 ゾンビになった園児たちと、ゾンビ肉を食わせている保育士たちを焼殺する」

「安らかに眠れるようにと?」

「そうだ」


 北見は喫煙者で、タバコがなくてもライターを手放さない男だ。だから油のみを回収するだけで、それ以外は不必要である。

 二人は幼稚園から近くの住宅街へと移動。そこも周辺は乾燥した血によって、道路はかなり赤黒かった。家々に入ろうとしたところで、あちこちの家の中でゾンビが確認された。


「北見さん、あれって」

「様子見に出て噛まれ、家に戻ってからゾンビ化し家族を襲ったんだろうよ」


 二人は玄関の鍵が開いている民家に次々と入り、ゾンビとした住人たちを射殺。油と数本のヘアスプレー缶を回収して戻る。

 幼稚園の中では保育士たちが、ゾンビの肉をゾンビ園児たちにまだ食べさせていたところだった。北見たちは無言で頷き合うと、園内にこっそり侵入。

 イスに身体を固定されたゾンビ園長や、燃えやすそうな物に油を掛けて回る。そしてゾンビ園長の財布から取り出したコンビニレシートをライターで着火。


 それをゾンビ園長と各部屋のカーテンやマットに近付けて、どんどん燃やし素早く去っていく。安全のために公園まで退避。

 退避した先にいたゾンビカラスたちを、スプレー缶とライターを利用した即席火炎放射器で焼いていった。

年端も行かない子供が助かり、保育士たちが無事。

食事にゾンビ肉を見た時点で、北見は保育士たちが園児を守れずに、気が狂ったと判断しました。

ゾンビカラスは、全て焼くのに失敗しております。

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