22.役割分担とハッキング結果
新しい四人の住人が増えてから、二日後の朝九時。遅めの朝食を全員が済ませてから、一騎たちは707号室にいる。学生組に中村を含めた中村班の四人。ジャーキーは一騎の足元で、テニスボールはみはみ中。
全員が集まった理由は、役割分担を決めることにある。今日も朝から女性陣六人による朝食作りが行われたのだが、人数問題が発生。
また、マンション内で生活するにあたりゾンビ警戒や食事面、ゴミ処分に物資調達と新しい女性四人が無理矢理に全て自分たちで行おうとしたのだ。
物資調達はまだだが、特にゾンビ警戒を日中から翌朝までとおしで担当するとまで言い出した。マンション内に居場所を作ろうと、頑張っているのはわかるが無茶は禁止。
一騎たちがそう言ったのだが、彼女たちは聞こうとしなかった。よって今朝、役割分担を決める会議(?)で話し合って決めようということに。
「集まってもらったことに関してだけど、恐らく全員が理解してるはず。 なので、さっさと決めてしまおうと思います」
「武藤君、決めるって?」
「役割だ」
「役割?」
「そうなのだよ。 自分たちでもわかっていると思うが、一般的なマンションのキッチンに六人は多すぎるのだよ」
「そうよねぇ。 生活する上で役割を決めるのは必須だわ。 それに危険な物資調達に関しても、誰が行くのかを明確にしておかないと」
「私たちも物資調達に行きます!」
「伊藤さん、鈴木さん、落ち着いて」
「す、すみません、中村さん」
「はい、注目してください」
このままだと、会話する人間が増えて実質的になにも決まらない。そう判断した一騎によって、介入が行われた。
「すぐに決めたいのは、料理担当。 女性陣六人が狭いキッチン内を動くのは危険すぎる。 最初に聞いておきますが、料理得意な人は挙手を」
女性陣六人全員が挙手。男性陣はレパートリーが決まっていて、自分たちで作ると数日中に同じメニューの繰り返しになると、男性陣は理解していた。
「朝昼夕と二人ずつにする案に賛成な方」
「さすがに二人で十二人分は、時間が掛かるわね」
「お昼や夕食は、一品、二品は増やしたいわ」
「では、伊藤さん、鈴木さん。 三人ずつでどうですか? 全員がちゃんと、朝昼夕の三食を必ず作るように当番というか、ローテンションを組むのは?」
「いい、と思う」
「私も。澪に賛成ね」
「あたしも賛成だわ」
「星ちゃんは?」
「いいと思います」
星ちゃん、と呼ばれたのは中学二年生の諸星だ。彼女の父親は酒に酔うと暴力的になる人物だったらしく、異性の歳上を怖がる時がある。
普通に諸星、と苗字で呼んでも怖いとのこと。そこで、男女や年齢関係なく「星ちゃん」と呼ぶことで、恐怖心を与えないようにとなっていた。閑話休題。
「なら、料理に関しては女性陣に丸投げで」
「俺もいいと思う」
「僕もなのだよ」
「オレたち男は自炊って、あまりしないもんな」
「俺たちは食堂付きの寮に住んでたから、料理なんてほとんどしなかったし」
一騎の言葉に男性陣から賛成意見。女性陣も料理をほとんど経験していない彼らに任せるのは、やはり不安があるようで「任せておいてください」と梓が代表して言った程だ。
「次にゾンビに対する警戒だけど、これは基本的に外出しないときはオレと創太で受け持とうと思う」
「夜間、というか深夜はどうするのだよ」
「日暮れから日付が変わるまでの間、マンションにいる場合は中村班に依頼しようと思います」
「任せてくれ」
「役割分担しなくても、俺たちは率先してやってきたから」
「ただ、今後は夜十時過ぎから明け方に掛けては、二人ずつの交代制にしようと思います」
「武藤くん、あたしたち十二人いるんだから、四人ずつでいいと思うけど? なにかあったときに、誰かが呼びに行くこともできるし」
「それに関しては問題ない。 創太が無線機を追加で作ってくれた。 どう対処すればいいかわからないときは、無線機を使って話せば、必ず誰かが気付く」
「そうなんだ」
「あぁ。 基本的には中村班、オレと創太の六人で三時間交代にしようと思う」
「十時から三時間ずつなら、全員がしっかりと休めると」
中村の言葉に一騎が頷くと、女性陣が自分たちも担当すると言い出した。
「寝不足は女性にとって肌や健康の天敵だぞ?」
「平気」
「そうよ。 澪さんの言う通り大丈夫よ」
「梓さん、伊藤さん、鈴木さんのご意見は?」
「私たちも協力するわよ?」
「寝不足は――――」
「お肌と健康に悪いって言いたいんでしょ? でもね、男性だって寝不足は健康に悪いのよ」
「ごもっとも。 ただ、体力面を考えると、オレたちが担当した方がいい。 中村さんたちは?」
「武藤くんに賛成だな。 センターでの生活で体力が下がっている状態で、夜間の警戒は健康に悪い」
中村にまで同じようなことを言われて、伊藤と鈴木は不満そうだ。
「わたし、手伝う」
「寝不足は――――」
「繰り返してもダメ。 体力面ならわたしと姉さんは問題ないから」
「料理を作るだけじゃなく、献立も女性陣に丸投げするんだ。 美味く、健康的な食事が可能かどうかは、澪たちに掛かってる」
「そう言ってもダメ」
「それなら、一週間に一度だけ交代すればいい。 三組全てじゃなく、俺たち一組だけ君たちが参加というのでどうだ?」
「それなら」
中村班の一人から出た案を、梓が支持した。これで夜間警戒の問題は一応解決。
「それじゃ次に、ゴミ出しだな」
「それは男女二人ずつで担当すればいいんじゃない?」
「男女二人ずつ?」
「そう。 男女それぞれ六人ずつだから、ペアを組めば問題ないでしょ」
伊藤から出た案は即採用された。その後、ペア決めは即興くじ引きで決定。一から六まで書かれた棒くじを最初に女性陣が引き、続いて男性陣が引いた。
同じ番号の人間同士がペアとなる。実にわかりやすい方法で。一騎は澪と一緒になった。創太と伊藤、梓は中村と。残った鈴木、三笠、諸星の三人は、中村班のメンバーとペアに。
「ゴミ出しと言っても、収集車はもう走ってないからプラスチックに不燃物、それと危険物はマンションのゴミ置き場。 可燃ゴミはここから少し離れた場所にある空き地で、燃やして処分」
一騎は伊藤、鈴木、三笠、諸星の四人に処分方法を教えた。彼女たちはショッピングモールセンターで生活していた時は、ゴミの分別関係なしに全てセンター内のゴミ置き場に捨てさせられていたと話した。
「それと一つだけ注意。 酒瓶は捨てずに707号室か204号室に運んでください」
「どうして?」
「伊藤さんも鈴木さんも見たと思いますが、火炎瓶として使うんです」
「なるほどね」
一騎の言葉に彼女たちは納得。次に決めることが、夜間警戒と同じくらい重要な内容。
「物資調達を行うメンバーを決めたいと思います」
「武藤君、物資って言うか食料品や日用品って、どこから集めてくるの?」
「周辺、遠出」
「澪さん、もう少し具体的に話して」
「マンションの周辺にある民家。 近くスーパーとコンビニは回収済み。 東上戸森駅方面か、有栖、来栖野市方面」
澪が珍しく、長文会話をしている。これには、普段の様子を知っている創太や、中村班が驚いたように目を見開いた。梓も少しだけ驚いた表情。
「移動手段は?」
「マンションの周辺は徒歩で移動し、買い物カートに回収した物を乗せて運んでいる。 徒歩で三十分以上の場合は、車を使っての移動だ」
「中村さん、回収している間にゾンビに遭遇したり、教われたりした場合は?」
「基本的に武装した俺たちが向かっているから、数が多すぎなければ射殺。 数体程度なら、警棒で撲殺だ」
三笠、伊藤の質問に中村が答えた。一応、伊藤たちにも、万が一にもゾンビがフェンスを越えてマンションに入ってくるような事態を想定し、護身用の3Dプリンター製拳銃は渡されている。
「あたしたちでも調達に行ける?」
「行けないことはない。 だけど、一ヶ所に留まっていると、周囲からゾンビが集まり始めるから危険だな」
「普段はどうしているの?」
「見せてあげて」
「はいはい」
「なに?」
「オレたちは行動する際に、常にこうやって武装してる」
三笠の質問に一騎が答えて、更なる質問には澪が応対。その間に彼は自室からガンケースに入ったTARー21改を持ってくる。ケースから出されたTARー21改を見て、三笠も伊藤たちも理解した。
「センターに来た時、武装していたもんね」
「あぁ」
澪と梓も自分たちの銃を見せると、伊藤と三笠が自分たちにも欲しいと言い出した。
「理由は?」
「あたしたちも、調達に加わりたいから」
「本音は?」
「銃を持ちたい女の子だっているのよ」
「撃ちたいだけ」
三笠は澪からの質問に、普通に答えた。創太は作ることに対して問題なしと証言。伊藤が「じゃあ!」と両目をキラキラさせ始めたが、そこは中村が制止。
自分たちの経験を話して、いつどんなゾンビに遭遇するかわからないとも。それでも、と話す二人に澪がRZとSZ、そして犬ゾンビと猫ゾンビのことを話した。
「……関わりたくないわね」
「本当ですね。 いかにも慣れている風の武藤君たちでさえ、動物ゾンビを一撃で仕留められないなんて」
「SZにでも遭遇して、絶叫を上げられたら四方八方をゾンビに囲まれる。 その状態で誰も感染せずにいられたのは、運がよかっただけだ」
一騎の言葉に伊藤も三笠もついに諦めた。この後、風呂掃除や屋上庭園に関しても話し合いがあり、庭園に関しては澪と梓は必須。二人だけだと厳しいから、手の空いている人員は全員協力ということで決定に。
それと一騎たちが物資調達に行っている間のゾンビ警戒は、交代制でやってもらうということで確定。
□
役割分担を決めたてから三十分後。創太が708号室の自室から出てきた。有栖市の中間地点の商業施設から来栖野市全域の商業施設の監視カメラをチェックし終えたのだ。
一騎たちはそれを聞くと203号室に移動し、無線機を使ってイーグルマンションの石田たちへと連絡を入れる。
『おはよう。 もう監視カメラの確認が終わったのか?』
「えぇ。 創太が結果を伝えたいと」
「そうなのだよ」
『わかった。 ハッキング結果を教えてくれ』
「もちろんなのだよ。 と、その前に小野先生は?」
『いるよ』
創太の確認に本人から返事があり、創太は結果を話し出した。
「有栖市の中間地点にある商業施設から伝える。 ハッキングできた監視カメラの結果から言うと、中間地点の商業施設周辺にゾンビはいなかったのだよ」
『いなかった?』
「そうなのだよ。 映像記録も調べてみたが、発生初日にいくつかのスーパーとコンビニ、デパート内で従業員や客がゾンビ化。 そこから徐々に感染が広がり、正午時点で全ヶ所のコンビニが全滅したのだよ。
特に有栖市本町は、店内で噛まれて外に逃げ出した人物がさらにゾンビ化。 通行人を襲い感染拡大」
『スーパーとデパートはどうなった?』
「ゾンビ化した従業員が、次々と他の従業員を襲っていたのだよ。 主要交通機関である電車とバス内でも、ゾンビになった利用客が生存者を襲い数を増やしていったのだよ」
『市立有栖小学校と中学校は?』
「通学途中の電車内とバス内で噛まれた生徒たちが、学校到着後にゾンビに。 学校内外で生存者は感染か自殺していたようなのだよ」
石田からの質問を創太は、感情を交えずにハッキングで知り得た情報を話していく。学校部分に関しては、全員がなんとなく予想していて困惑する声もない。
「創太、さっき商業施設周辺にゾンビはいないって言ってたよな」
「うむ。 三日が過ぎた頃には、どの商業施設の監視カメラにもゾンビは確認できなかったのだよ」
「ゾンビになった有栖市民はどこへ?」
「有栖市と来栖野市の境界付近にある、有栖総合病院なのだよ」
『有栖の総合病院?』
「そうなのだよ。 病院は搬送されてきた患者がゾンビ化して、治療に当たっていた医師と看護師を襲い始めたところで早々に、救急診察室を物理的に閉鎖。
救急搬送も全て拒否し、外来では身体に噛まれた後がある人物は全員追い出したのだよ。 監視カメラの過去映像で見たから確実なのだよ」
『生存者が多くいる場所にゾンビは集まる、か。 となると、まだ病院内には生存者が残っていることになるな』
「そうなのだよ。 僕も意外だったのだが、院長は元自衛隊の医師だったのだよ。 院長は男性で定期的に、同僚や元上司の健康診断も担当していたようだ」
「自衛隊と協力関係を築けて、入院患者の治療に必要な物なんかを融通してもらっているのか?」
『あり得るな。 となれば、食料や水、日用品なんかもヘリで運べる。 院長は恐らく後藤さんだろう』
「うむ、 後藤なのだよ」
盛岡が納得したように呟き、院長の名前を聞いた創太が肯定した。
『各地の自衛隊は、自分たちの場所の守りに専念しているかと思ったが』
『石田さん、後藤さんと付き合いのある自衛官なら、協力は惜しみませんよ。 ただ、ヘリの燃料や水、食料も無限に供給できる訳じゃありません。
早ければ数日中に、これ以上は無理だという連絡がされるでしょう』
「創太、院内の人数ってわからないのか?」
「難しいのだよ。 普段から病室などで過ごしている場合は、監視カメラに映らないから把握は困難なのだよ」
「そうか。 石田さん、小野先生。 有栖総合病院に電話して通じると思いますか?」
『難しいだろうな。 発電機を確保してあっても、使用すれば音でゾンビが集まる。 それに使ったとしても医療器具の手入れ保管や、冷蔵庫などに電力を回して固定電話は無視している可能性が高い』
「小野先生は?」
『石田さんと同じ考えかな。 固定電話に電力を使うよりは、食料品や医療器具の保管を優先するだろうと思う』
「監視カメラに電力を回している理由は?」
『外のゾンビを把握するのが目的だろう。 それと救急診察室から、ゾンビ化した医師と看護師が出てこないかの確認目的もあると思うよ』
石田と小野の考えを聞いた後、創太は来栖野市内の商業施設の監視カメラにハッキングして得られた情報を話した。来栖野市南町にあるデパート周辺にゾンビが集まっていることが判明。
水瀬記念病院は、病院内外ともゾンビしかおらず生存者も確認できないとのことだ。来栖野市の市内中心にある来栖野大学病院は、二階部分までが封鎖されているが上階には人がいるのが監視カメラの映像で判明。
小野が後でマンションまで来て映像を確認し、生きている同僚を確認してPHSに電話を掛けてみるという。ただ、困ったことに有栖総合病院も、来栖野大学病院にも向かうのは非常に困難だ。
ほとんどのゾンビが病院周辺に集まっているが、商業施設の監視カメラでは、まだ施設内から出ずにいるゾンビも意外と多いらしい。
それと膨大な数の事故車が、道路の大半を埋め尽くしている状況で車で向かうのは困難だと創太は話した。それと事故車の隙間に入り込む形で、何体かのゾンビがカメラに映ってもいたと。
『最優先で小野先生には、武藤くんと葉加瀬くんのマンションに向かってもらい、大学病院内のカメラに映っている人物で同僚を探してもらうとしよう』
「そうですね。 それと可能なら有栖市のどこかに病院へ向かうための拠点を確保したいと思います」
『そうだな。 拠点となる場所を探し出して、徐々に生活可能な状態にしていき、事故車を移動させることも考える必要がある』
創太がハッキングで知った情報を全て話し終えて、無線機による連絡は終了。一騎は創太の部屋へと向かい、印刷された地図にゾンビがいる地点を印を付けてわかりやすくしていく。
ゾンビの数と道幅、事故車の数を書き込む。それと、もしも病院へと向かうなら、どのルートのゾンビを排除して事故車を動かし車を通れるようにするかも検討していく。
「武藤君、いる?」
一騎が検討を開始した直後、708号室の玄関が開かれて外から彼を呼ぶ声が。
「三笠? どうした?」
「澪さんが呼んでる」
「場所は?」
「屋上庭園にいる。 なんだか見て欲しいことがあるらしいけど」
澪が三笠に自分を呼ぶよう言った理由がなんなのか、一騎は首を傾げながら創太の部屋を出て屋上庭園へと向かう。三笠もどうして彼を呼ぶように言われたのか疑問があるらしく、後を追うようにして屋上へと移動。
「澪、どうした?」
「来て」
ちょいちょいと手招きされた一騎は、転落防止の柵がある場所まで行った。彼が近くに行くと、澪は持っていた双眼鏡を渡しながら、駅方面を指差す。
正確にはマンションから300メートルほどの位置にある民家を指差したのだ。屋根が三角形状になっている一軒家であり、一騎たちが使えそうな物を調べに行った場所。
そこでインスタントコーヒーやスティックシュガーを回収したのが、昨日のことだから彼は覚えていたのだ。
「どこを見ればいいんだ?」
「庭」
「どれどれ。 ん?」
一騎は双眼鏡を使って、澪が指定した庭を見る。そこには数体のゾンビがいて、庭に面した窓ガラスをバンバンと叩いている姿が。
「いつからだ?」
「ついさっき。 土の状態を見て、変わったことがないか見ていたら発見」
一騎は澪の返事を聞くと、光を反射して見えにくくなっている窓ガラスの向こうを注視。中には大学生と思わしき人物が一人だけいて、屋内を荒らしていた。
服装はかなり汚れていて、チラッと見えた顔もヒゲが伸び放題であり薄汚れていたのを把握。
「澪、無線機を持ってきてくれるか?」
「任せて」
澪がパタパタと走っていくと、三笠が双眼鏡で確認を続ける一騎へと話し掛けた。
「どうかしたの?」
「昨日、オレたちが行った時には、誰もいなかった家なのに今は一人だけ姿が見えた」
「助けに行かないと!」
「待て」
「待てって。 助けないと死んじゃうよ!?」
「助けた相手が、自分の思い通りにならないと暴力を振るう奴だったらどうするつもりだ」
「そ、れは」
「お待たせ」
彼の言葉に三笠が答えられず、黙り込んだ直後に澪が無線機とRM700改を持ってきた。
「はい」
「ありがとう。 中村班、聞こえますか?」
一騎は双眼鏡を澪に返し、無線機を素早く装着。無線で呼び掛けながら、RM700改のセーフティーを解除して彼は初弾装填を済ませるとテレスコピックサイトを覗き込んだ。
『中村だ。 どうした?』
「昨日行った一軒家に、人影確認しました。 ゾンビはえーっと五体、庭から窓ガラスを叩いてます」
『昨日というと?』
「インスタントコーヒーとスティックシュガー」
『わかった。 すぐ装備を整えて向かうか?』
「お願いします。 ただし、慎重に」
『了解』
イヤホン越しの返事を一騎が聞いてから三分で、装備を整えた中村班が向かっていく。その途中で変化があり、大学生くらいの男が包丁を手にして、玄関から飛び出したのだ。
「中村班、注意を。 包丁を持った状態で、玄関から飛び出しました」
『こちらでも確認した』
中村たちが男に接触して話している内容を無線機を通して聞いていると、銃を寄越せという話になった。テレスコピックサイトを通して様子見をしていると、危険だから持たせられないと中村が答える。
その直後、男は奇声を発して包丁を振りかぶって彼らへと迫った。
――バシュン!
一騎は包丁を握っていた右手の手首を狙撃。痛みで倒れた直後、ゾンビ五体が痛みで喚き散らす大学生をバリボリと捕食開始。一騎は次弾装填し、せめてもの情けとして涙と鼻水を垂れ流して命乞いをする男の眉間を撃ち抜いた。
その後、中村たちが警棒でゾンビを撲殺し男の私物を点検。その結果スマフォが見つかり、彼らは持ち帰ってきた。創太がロックを解除して中身を調べると、ゾンビ事件発生から、男は好き放題に生きてきたというのがわかったくらいか。
二日目から隠れて生き残っていた高校生や二十歳前後の女性たちが、乱暴されて最後には殺される映像が十八人分も保存されていた。
これを見てしまった女性陣たち、特に三笠は助けていたら自分たちも被害者になっていただろうと強く認識したらしく、顔を青ざめて「助けなくてよかった」とだけコメント。
見ていて気持ちのいい映像じゃなかったので、早々に創太が削除した。
三笠だけが「助けなくてよかった」とコメントしましたが、残りの女性陣も同じ思いです。
非日常になった途端に、人が変わってしまう人物はいますが、今回死亡した男はどうなのか。
皆さまの判断にお任せします。




