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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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21.新情報


 上戸森イーグルマンションへと戻った一騎たちは、避難民の女性陣の対応を澪と梓に丸投げした。三班は相変わらずの警戒任務を継続して、マンションに残っていた石田の部下たちと協力して物資を運び込んだ。

 ただ、物資は全てではなく半分。残り半分は一騎たちの拠点であるマンションへと持ち帰るために。なにをどれだけ放出したかをリスト化。

 運び込みとリスト化だけで、一時間も使うことになったが、後でゴタゴタになるよりはマシ。誰もがそう思って行動していた。これには総合診療医の男性も協力。


 一時間も経過した頃には、救出された女性陣の方も落ち着いた。一騎、澪、ジャーキー、石田に中村、鳥越と盛岡。それと女性陣と総合診療医は506号室に集合。

 残りの面々は、ショッピングモールセンターで消費したパチンコ玉や火炎瓶の確認と補充作業中。


「君たちがセンターでどうやって生き残っていたか、それを聞かせてもらえないか?」


 石田が救出した女性陣と総合診療医を招いたのは、センターでの暮らしを聞き取るためだった。だが、彼女たちは口を開こうとしない。

 リーダー男と、それに従っていた男たちに何度も暴行を受けたのはアザを見ればわかることだ。


 ――ドスン!


「武藤くん、どうして肘鉄をする」

「石田さん、今の聞き方は問題ありです。 彼女たちのアザを見れば、なにがあったかは察することができるでしょうが」

「誤解を招くような言い方になったか」

「そりゃ見事に。 ほら、恐怖を思い出して震え出したじゃないですか」


 ――ペシン!


「なぜ頭を叩く?」

「もう一発、今度は思いきり叩きましょうか」

「こほん。 あぁ、ゾンビ発生からどうやってセンターまで向かい、生き延びられたのかを知りたい。 話してもらえるかね?」


 一騎だけでなく、澪からも頭を叩かれそうになった石田はちゃんと言葉と知りたい内容を選んだ。六人いる彼女たちは、それぞれ顔を見合わせて、梓と同じか二十歳前半らしい女性が代表になったようだ。一歩前に出てから、ゆっくりと話し始める。


「最初に、助けていただいてありがとうございます」

「「「「「ありがとうございます」」」」」


 彼女が頭を下げると、残りの女性たちも最初は感謝から入った。


「私の場合を話す形でいいでしょうか?」

「聞かせてくれ」

「はい」


 赤城と名乗った彼女は、ゾンビ発生からショッピングモールセンターに逃げ込むまでのことを語る。


「大学に向かうバスに乗ろうとしたところで、事件が起こりました。 全身の皮膚が土気色で、身体のあちこちに噛み傷と噛み千切られたような女性のOLさん五人を見たんです。

 そのOLさんたちは、口から血と黒い液体を垂らしながら、話をしていた乗車前する前に、世間話をしていた主婦の人たちにいきなり噛みついたんです」

「噛みついた場所は?」

「全員が首筋に噛みつきました。 生々しく皮膚を噛み千切り、咀嚼して飲み込んだんです。ドッキリかと思ったんですが、それにしては噛まれた主婦さんたちの出血が酷すぎました。

 それと痛みで涙と鼻水を流したまま、首筋を片手で押さえて、のたうち回り始めたんです。周囲から悲鳴が上がると、声が聞こえた先にいた人たちを押し倒して、噛みついては咀嚼をする。これを繰り返し始めたんです」


 そして、そこから先は誰もがわかっていた。最初に首筋を噛まれた主婦が吐血し、黒い液体を吐いて声を掛けた人物や音のする方向に向かい、接触した人々を食べる。これがどんどん拡大していったのだ。


「私や噛みつき始めた人たちと距離があった十人が、大急ぎで停車したバスに乗車しました。 運転手さんも状況を飲み込めないまま、次の停留場へと向かいましたが、信号無視のトラックに横から衝突されたんです。

 かなりの速度を出していたようで、バスは横転。なんとか外に出たんですけど酷い状況でした。 どうすればいいかわからなくなっていたら、まだ無事だったセンター行きのバスを見つけたので飛び付きました」


 車内には十五人が乗っていて、誰も噛まれていなかったそうだ。そして北ゲート付近で下車し、無事だった周辺住民と一緒に徒歩でセンターに入ったと。そのバスに女性陣全員が乗車していて、行動を一緒にしたとのこと。

 その後、しばらくしてリーダー男が到着して、威張り散らし暴力を振るい、逆らった相手は集団リンチしてゾンビの餌さとして放り出されたとのことだった。


「クズ大人はどこにでも発生するもんですね」

「本当にそう思います。 私たちにとって運がよかったのは、総合診療医さんが先に避難していて、四日間は匿ってもらえたんです」


 総合診療医はたまたまゾンビ発生当時は休日で、キャンピングカーで買い物しに来ていたと。リーダー男の好き放題を見て、彼女たちをバックヤードや車内に匿っていた。

 彼は自分の分以外の食料を常にこっそりと、持ち帰っていて不審に思ったリーダー男が追跡。匿っていた彼女たちを発見されてしまったという流れだ。


「医者が加わったのは、ありがたいことだな」

「そうですね。 総合診療医ということは内科だけでなく外科なども?」

「できるとも。 内科系全般に外科全般もね。 他にも大きな病院にある診療科だったら基本的に全て対応しているよ」


 総合診療医の四十代くらいの男性の言葉に、一騎たちだけでなく、他の避難民も安心した。ケガや体調不良になっても診察してもらえるからだ。


「あっ、でも診察に必要な医療器具は?」

「揃っているよ。 私が担当した患者さんの中には、地方の方もいるからね。特別に往診もしているんだ。 だから、あのキャンピングカー内に一通りある」


 実に頼もしいことだ。ショッピングモールセンターから脱出してきた女性陣の中には、一騎と澪と同じ高校の生徒や中学生もいた。何人かは通学中や家を出たところで、ゾンビと遭遇し逃げ回り、やがて赤城と同じセンター行きのバスに乗り込んだと話した。

 この後、お互いに苗字を教え合って、今後の生活拠点をどうするかの協議が行われ、赤城と大学一年生の一人はイーグルマンションに残ることで決定。

 残り四人は高校生三人と中学生一人であり、一騎たちが拠点としているマンションへ移ることが自然と決まる。総合診療医の小野は、イーグルマンションに残ることに。


 調査に出ることが多い鳥越班や、水の衛生面が最近になって落ち着いた彼らの中で体調を崩す人がいるかもしれないという理由。

 安心したのか、女性陣が睡魔に耐えられなくなりそうだったので一度解散。澪と梓が彼女たちを連れて、仮眠室として用意された505号室へと移動していった。それを見届けた一騎が小野に質問を投げる。


「小野先生、血液検査って可能ですか?」

「可能だよ。 どうしたんだい?」

「ゾンビの血を採取したのだ。 その血を残してあるから、調べてもらえないかと」


 石田が理由を明かすと、小野は首を左右に振った。非常に申し訳なさそうに。


「ウイルス性だとわかっている血液を調べるには、高性能検査機械がないと無理です。 それに精密検査をするには、無菌状態にしたりと、色々下準備が必要になるんだ」


 前半は石田に向けての答えで、後半は二人に対する説明だった。


「そうでしたか」

「それなら小野先生、この異常事態でも検査可能な病院や施設はあるか?」

「発生当時のニュースを見るに、どこも無理でしょう。 自分たちが感染しないようにするので、恐らくは精一杯だと思います」

「完全な手詰まりか」

「ですね」

「役に立てなくて申し訳ない」


 一騎と石田の落胆ぶりを見て、かなり焦った様子で謝罪した小野に、二人は入浴でも済ませて休憩するようにと伝えてそれぞれ移動ししていく。





 イーグルマンションに到着して数時間。軽食を済ませた頃、一騎たちや警官たちは小野の呼び掛けによって506号室に集まった。

 ここにセンターから救出した女性陣は、誰一人として含まれていない。小野が行動を決める際の重要人物たちや、実際に行動をしている人間に最初に話したいことがあると言ってきたからだ。

 小野は主要人物の中に一騎たち学生組の姿を見ても、驚いた様子もなく追い出すこともしない。


「今日、久しぶりにスマフォを見て、何件も入っていたメールの中から皆さんにお伝えするべき情報を見つけましたので、こうして集まっていただきました」


 小野はお忙しいところをとか、一切余計な言葉を省いて話し出した。


「私が勤務していた来栖野大学病院の同僚からのメールです。 そこには、この騒動が意図的に起こされた可能性があると書いてありました」

「意図的に?」

「そうです。 内容にはWHOが世界各国の大きな病院に送った、今後発生するだろと予想されたウイルスの予防接種薬のデータが届いていたんです」

「発生するウイルスの予防薬? そんなのどうやって予想したんです?」

「WHOが保有する超高度AIに、今までに発生したウイルスや細菌情報を入力。 気候変動などのデータや各国の衛生状況までもを入力し、あらゆる感染や発症に至るまでの条件を指定せずに想定させたんだ。

 その結果、二十年以内に大流行すると思われるウイルス想定が演算された。 その予防薬の完全データが各国の医療機関と、製薬会社に二回送られたんだよ」

「予防薬の作成失敗が起きたのか?」

「いいえ。 これはウイルス学専門のうちの大学教授が発見したそうですが、何者かによって生物兵器になるように条件変更されていたと」

「なぜわかるんですか?」

「うちの教授は一回目のウイルス構造と、二回目のウイルス構造が違うことに気付いた。 だが、気付いた時には既に両方が作られて、製薬会社が新薬実験をするために臨床実験となる人たちを募集。

 注射された後だったんだ。 それと一回目の物ではなく、二回目の生物兵器のウイルスがそのまま打たれてしまっていたんだよ」

「まさか!?」

「そう。 そのウイルスを打たれた人々は世界中にいる。個人差はあったようですが、全員が感染し発症。 今回の騒動の原因となった可能性が大きい。 同僚から送られてきたメールの内容は以上です」

「つまり、ゾンビ発生当時に最初の暴行傷害事件を起こしたのは、二回目のウイルスの臨床実験に応募した人、ということか」


 新情報として明かされた内容は、実にとんでもないものだった。どうすれば解決することができるのか。彼らは自分なりに思考して、やがて一つの答えを導き出す。


「WHOの有するその超高度AIに、各国からでもアクセスできるのか?」

「専用のIDとパスワードがあれば可能です。 しかし、そのアクセス権を有しているのは、各国の名のある専門医たちだけです。 他に有している人物は、軍の高官くらいでしょう」


 WHO保有の超高度AIに二回目のデータに対する、坑ウイルス剤と予防接種薬の情報開示を求めて、それを作り上げる以外に世界中はゾンビで溢れる一方だ。ここで一騎が疑問を抱く。


「小野先生、その超高度AIですが、まだ動いていると思いますか?」

「どういうことかな?」

「条件変更をした人物が、予防接種や坑ウイルス剤を完成させられる程の物を放置すると思いますか?」

「それは……」

「放置しないと思います。 万が一にも自分が感染した場合を想定して、薬を完成させた後に破壊しても不思議じゃありませんよ」

「超高度AIにアクセスするためのパソコンは、大手病院にある機密情報室くらいにしかないと思う。 なんとかたどり着いて、アクセス可能かどうかだけでも、試してみたいね」

「石田さん」

「うむ。病院に向かうことには賛成だ。 だが、すぐに向かうことには反対だな」

「どうしてですか?」

「小野先生、ゾンビがどこにどれだけいるのかが全く把握できていないんだ。 行き当たりばったりや、情報不足している状態じゃ危険すぎる」


 石田から言われて、小野も調査や事前準備なしで向かった場合の最悪な事態を考えたようだ。全滅、この不吉な二文字は言葉にしなくても、理解した様子である。


「どうするんですか?」

「そこが問題だ。 来栖野市に向かおうにも、多数の事故車によって、車での移動は困難だろう。 それに移動できたとしても、何度も迂回せざるを得ない。

 燃料は減る一方であり、エンジン音を聞き付けたゾンビも集まってくる。 走るゾンビに、絶叫で他のゾンビを呼び寄せる個体、犬や猫のゾンビなんかもいるからかなり安全対策をしっかりしないとな」

「石田さん、俺たちの班が少しずつでも地道に調べましょうか?」

「それが確実か。 鳥越班と三班を動員。 マンションの警備には残っている部下で四班を作って、ゾンビや他の生存者の発見に従事させよう」


 とんとんと話が決まっていくところで、一騎が待ったを掛けた。


「調査に反対か?」

「賛成ですよ。 ただ、いきなり直接人員投入をするのではなく創太に市内全域の監視カメラにハッキングさせて、事故車の場所やゾンビ数を確認させた方が、早くて安全かと思いますが?」

「うむ。 任せてくれて構わないのだよ」

「……ふむ。 監視カメラそのものが、電力停止で動いていないだろう。 意味がないのではないか?」

「その可能性は高いです。 ですが、それならそれでサーバー生きてるサーバーに、映像記録が残ってるかと」

「サーバーが一台だけということは考えにくいのだよ」

「石田さん、確か有栖市の中間から来栖野市全体では大きな商業施設はソーラーパネルを使っていたはずです」

「……そうだったな。 警察署や病院よりも、なぜか商業施設にソーラーパネルが最優先になっていたか」


 中村から聞かされたことで、石田はすっかり忘れていた上層部に対する不満を思い出したようだ。


「各商業施設はソーラーパネルによる、自然災害などによる停電時における自家発電を進めていたのな。 警察や病院も万が一を想定し民間を見習って設置するべきだと、繰り返し主張してきたのに毎回「不要」とだけ答えやがった。

 もしも生き残っている連中がいたら、取っ捕まえてゾンビ共の餌にでもしてやる。 どうせ自分たちだけは安全な場所に逃げ隠れしているだろう」


 石田が珍しく悪意に満ちた表情で、どうやって反省を促そうかという思考を開始した。


「石田さん、とりあえずの方針ですが」

「ブツブツ、上層部の連中は」

「石田さん?」

「ブツブツブツ、どうせ何人かは生き残っているはずだ。 東京にまで乗り込んでブツブツブツ」

「石田さん、話を戻したいのですが」

「大体、頭の固い連中のせいで――――」


 ――ペシン!


「はっ!」


 中村や盛岡が、石田の思考を今後の対応に戻そうとするも、不満を並べ立てるだけで大忙しのようだ。このままでは話が進まない。そう判断した一騎によって、思いきり頭を叩かれる。

 叩かれたことによって、自分の思考が完全脱線しているのに気付かされたのだろう。申し訳なさそうに、短く「すまん」とだけ。


「石田さん、最初は創太による商業施設の監視カメラのハッキングによる周辺状況や建物内の状態を把握。 これを優先して行い、徐々に行動拠点を増やすのを前提でいいでしょうか?」

「そうしよう。 葉加瀬くんには負担を掛けることになるが、頼めるだろうか?」

「問題ないのだよ。 帰ったらすぐにでもハッキングするのだよ」

「決まりですね」


 新情報の共有と、今後の行動方針が確定してから一騎たちはラルゴへと戻っていく。これからすぐに、彼らはマンションへと戻るためだ。小野は物資運搬の為にキャンピングカーを運転すると申し出た。

 キャンピングカーの中に、一通りの医療セットがあるから触られるのを嫌った結果だ。ちなみにだが、シャワーにトイレ、キッチンにリビング、ソファーが一階部分に。

 二階部分はベッド三つとトイレ、小さな冷蔵庫完備。ガソリンとソーラーパネルにより、その日の天候次第でどちらを使用するかを選択できる高級車使用。エンジンを最初に掛ける時も、ガソリンとソーラーパネル選択可だった。


 澪と梓は彼らの話し合い最中はセンターから救出した女性陣のことばかりを考えていたようで、ほとんど聞いていなかった。

 積み込み終わると、イーグルマンションから移る四人を呼びに行った。合流の四人は人数と荷物の関係上、小野のキャンピングカーに乗車。

 RZや犬ゾンビ、猫ゾンビに注意しながらマンションに戻って、積んできた物資を七階と二階へ。彼女たちの部屋は、一騎、澪、梓の住む707号室の隣、706号室に。運び出しで二時間近く掛かった。今回、男性陣は七人しかいなかったからだ。


「それじゃ人数分の食事を作るの、手伝ってもらえるかしら?」


 梓の言葉に頷いた彼女たち、高校三年の伊藤、鈴木、高校二年で一騎と澪と同じ学校の三笠、そして中学生二年生の諸星は頷いて食事準備開始。もちろん澪もいるから六人の女性陣による夕食作りが始まった。

 イーグルマンションで軽食を食べたのは、女性陣だけであり一騎たち男性陣は水分とアメによる糖分補給しかしていなかったためだ。

 女性陣が夕食作りを始めた頃、一騎は創太の部屋を訪問していた。女性六人の場所に男一人は、大変に居心地が悪かったからだ。


「創太、すぐに始めるのか?」

「違うのだよ。 住人が四人も増えたから、彼女たちに持たせる無線機作りなのだよ」

「持たせておいた方がいいか」

「うむ。 それと、護身用のM92改を作っておこうと考えているのだよ」

「オレたちに同行して、物資確保すると言い出した時に無防備になりかねないしな」

「そうなのだよ」


 この後、一騎と創太は女性陣が呼びに来るまで無線機とM92改を作るのに集中していた。それとジャーキーはセンターから、イーグルマンション、そしていつものマンションに戻ってきても、熟睡中。

 一騎と澪は食事を始める前に、ジャーキーを起こして707号室へと戻っていった。

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