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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
21/54

20.ゾンビ集団と防衛戦

作者的に関わりたくない大人を書いてみました。



 ウォーターサーバー確保のために、上戸森警察署を再訪してから四日後の正午過ぎ。一騎たちと中村班は上戸森イーグルマンションに来ていた。

 一騎たちは今回の移動をラルゴで、中村班はノアでマンションまで来ている。イーグルマンションの駐車場は地上部分にあるが、事故車バリケードと駐車場を監視する三班によってゾンビは掃除された後だ。

 一騎たちは石田たちの出迎えを受けて、504号室へと案内される。504号室へと入る前に五人しかいない避難民たちが元気そうにしているのを把握。


 リビングへと通された一騎たちは、大きめのテーブルに広げられた地図と数枚の写真が置かれているのを見た。


「ようこそ、上戸森イーグルマンションへ。 早速だが打ち合わせを済ませ次第、すぐにでもショッピングモールセンターへと向かいたい」

「大丈夫です」


 石田の言葉に一騎は頷く。すると、本当にすぐ打ち合わせが始まった。


「安全確実にセンター周辺の状況と、ゾンビの数を調査してきた。 今回はその調査結果に基づいて、移動ルートとゾンビが少なそうな場所をピックアップしてある」

「×印は進行不可、あるいは避けた方がいい場所。 ○印がその逆で通れる場所か、通った方がいい地点ですね」

「そうだ。 △印の大半は移動できなくはないが、事故車やゾンビによって難しい」


 地図にはイーグルマンションから、まっすぐにショッピングモールセンターへと向かう道は全て×印がある。遠回りするように東西から向かう分には、複数の×印が見受けられるが意外と一方通行地帯は○印が多い。


「写真はその時の状況ですか」

「その通りだ。 駐車場のある東側の道は、ゾンビの移動妨害のために近隣住人たちが用意した事故車、机やイスにタンスなどのバリケードが築かれている。 それを撮影したものだ」


 一騎は地図に記されている印と、曲がり角などを一つ一つ見ていく。創太は写真撮影を行った鳥越班に、調査を開始しからどれくらいのゾンビの増減があったかを聞き取っている。

 澪と梓は持参した武器や装備、火炎瓶の確認中。中村班は残っていた警官たちから事故車から回収したガソリンを提供してもらい、燃料補給の作業中。


「石田さん、RZの数って把握してますか?」

「いいや。 特徴は理解しているから、調査に向かわせる度に確認をさせているが、常に移動し続けているようだ」

「移動を?」

「そうだ。 WZたちがバリケードを叩いたり、進めない場所で行動を停止しているのに、RZだけはなぜか移動を続けている。 最後にRZが確認されたのは一昨日の午後二時過ぎのことだ」


 石田は調査を開始した時に発見したRZの場所を、日時を交えながら指差していく。調査初日は北と東の大通りバリケード付近で三体ずつ、合計で六体が確認されたという。

 ところが、それから二日後に調査に向かうと東バリケードにいたRZが三体とも姿を消していたという。北バリケードの方では二体が確認されて、一体が行方不明。

 さらに、その翌日には北バリケードの二体も行方不明になっていて、西バリケードの方に向かうと五体が右往左往していたとのこと。


「確かに移動してますね。 とりあえずRZ六体は確実にいたと。 これは間違いないですね?」

「あぁ、間違いない」

「SZはその時に目撃されてますか?」

「いいや。 現状SZに関しては、武藤くんたちが警察署で遭遇した二体のみだ」

「わかりました。 センターに生存者がいるのは間違いないと思います」

「同意見だ。 そうでなければ、ゾンビがセンターに近付こうとするはずがない」


 一騎と石田は頷き合うと、同時に立ち上がる。この頃には澪と梓の荷物チェックも、創太の聞き取りも、中村班の給油作業も終了していた。

 二人は今日向かうルートと、もしもバリケードが破壊されていたり、RZやSZを同時発見した場合の対応を即決して駐車場に停めた車へと戻っていく。先導は鳥越班で、それに続く形で中村班、一騎たちである。石田は三班と残りの警官と一緒に留守番。


「武藤くん、もしもゾンビの集団が東西両方のバリケードに殺到していて、駐車場へと入れなさそうだったら、その場合はどうするんだ? 石田さんから特に指示を受けていないんだが」

「もしも両方ともゾンビによって進行が難しいと判断した場合は、南ゲートの駐車場を目指します」

「南か。 未調査だから、どうなっているかわからないぞ」

「そうしたら、ゾンビ誘導を行いますよ。 今回はそのために花火工場から癇癪玉と、上戸森警察署で澪が回収した目覚まし時計を使用します。

 誘導が上手くいかないと判断した場合には、火炎瓶を投げて焼殺してからですね」


 ラルゴに乗り込む直前、一騎は鳥越と盛岡からの質問にわかりやすく答えた。今日のラルゴは運転手に創太、助手席に澪で、後部座席に一騎と梓である。

 澪が一騎の隣を恥ずかしがっているせいで、今回は梓が同席だ。本当ならジャーキーは留守番予定だったのが、一騎と澪の近くを離れようとしなかったので同乗している。


「出発するのだよ。 シートベルトを忘れないように」

「了解」

「うん」

「はいはーい」


 創太の言葉に三人が返事をすると、ちょうど無線を通して盛岡から出発するという連絡が。最初に東ゲートの駐車場、難しそうなら西ゲートに向かうことになっていて、距離もあるから最初から六十キロ近くで走り出した。


「梓さん、到着までに荷物確認をしましょう」

「澪と済ませてあるわよ?」

「ゾンビの数を見ながら、どの装備にするか決めたいんですよ」

「そういうことね。 これが一騎くん用のリュックよ」

「ありがとうございます」


 一騎は梓から渡された大きめのリュックを開いて、中に詰まっている荷物を引っ張り出していく。 TARー21改のマガジンとマガジンベスト、500ミリリットルペットボトル一本、ケース入り癇癪玉、無線機、フックガン。これらに加えて、光る棒八本と実弾のUSP45と、そのマガジンケース。

 TARー21改本体は彼の足元に置いてあるガンケースの中で、その隣には火炎瓶が十四本入った専用ラック。


「一騎くん、実弾の拳銃なんて必要なのかしら?」

「前回の警察署脱出時に、必要だと理解されたんじゃありませんか?」

「……そう、ね。 それを考えて持ってきているってことは、また自分を囮にしようとか考えているってことでしょう?」

「いいえ。 今回持っていく最大の理由は、ショッピングモールセンターの住人への対応のためです」

「どうしてかしら?」


 二人が話している間にも、どんどん後ろへと去っていく光景と、ちらほら見え始めたゾンビの姿が。


「今までにオレが会った避難民は、主に二種類の人間です。 面倒事、厄介事、危険なことを全て押し付けて自分たちは楽をしようとするタイプ。

 もう一つは警察署から脱出した時の五人のように、自分にできることを行ってくれるタイプです」

「それがどうしたの?」

「前者の場合は、オレたちから銃を奪うために、澪や梓さんを人質に取る可能性があります。 ゾンビの殺しを一方的に押し付けて、二人に乱暴をする危険性が考えられるんですよ」

「……その可能性は…………ありそうね」


 梓が否定しなかったのは、ゾンビ発生当日に車で澪を迎えにきた際に、一方的な要求をされた経験があるからだ。車も実際に奪われてしまった。

 だからこそ、梓は否定の言葉を出しはしなかったのだ。もしもショッピングモールセンターの住人たちが、同じよう思考と行動タイプだったらと想像したのか、ブルリと身体を震わせている。


「最悪、センターの住人と敵対することになり、銃を奪われたら、無防備になります。 いざという時に射殺し、装備を取り返すためにも、隠し持てる方がいいんですよ」

「……ちょっと待って。隠し持つだけなら、3Dプリンター製ので問題ないんじゃ?」

「問題ありですよ。 発砲音が小さいんですから、彼らに恐怖や脅威を認識させるにはね」

「最悪、人間同士での殺し合いになった場合、実弾なら銃声が大きいから、ゾンビに襲わせようとか考えいたりするのかしら?」

「正解です」

「一騎くん、そこまでするの?」

「澪と梓さんを守るために」

「創太くんや中村さんたちは?」

「自衛可能な人たちなんだから、基本的にオレが守るようなことにはならないと思いますよ」


 一騎の考えを聞いて、助手席に座っていた澪と梓は絶対に人質になるものかと決意を固めた。それを待っていたかのように、車外では急にゾンビの数が増え始めていく。


『こちら鳥越班の盛岡。 予想外に東ゲート駐車場方面にゾンビが多いから、西ゲートに進路変更する』

『中村班、了解』

「葉加瀬、了解なのだよ」


 一騎と梓は窓ガラス越しに、外を見ると上戸森警察署の時を思い出させるような数のゾンビ。見える限りにゾンビしかいない。そんな光景だ。


「創太、お前の武器を確認するがいいよな?」

「構わないのだよ」


 梓から渡された創太のリュック。中にはXM8改とそのマガジンに、マガジンベストと発炎筒五本、500ミリリットルペットボトル一本。ここまでは一騎と同じような装備。

 だが、問題は底の方にあった。ショットガンのシェルポーチがあり、中を開けてみると五十近くのシェルが。肝心のショットガンはと一騎が車内を見渡すとトランクにウィンチェスターM1887改がある。


「創太、なんでショ――――」


 一騎がショットガンがある理由を聞こうとした直後、創太が急ハンドルを切った。


「どうした!?」

「ゾンビ犬六体とRZ四体を見つけたのだよ」

「RZは射殺できるから問題ないな。 でも、ゾンビ犬となると厄介だぞ」

「そうなのだよ。 だから鳥越班も中村班も急ハンドルを切ったのだよ」


 なにがあったかのを把握した一騎は、創太の荷物をリュックに詰め込み直しながら改めて質問をした。


「創太、なんでショットガンを持ってきたんだ?」

「駐車場に入ってから、脱出するまでにゾンビに囲まれそうになったら使うのだよ」

「普通にXM8改を使えばいいだろ!?」

「それじゃロマンがないのだよ!! ゾンビにはショットガンとチェーンソー、これこそがロマンで気分爽快の必必需品なのだよ!!!!」

「それはお前だけだ!!」


 あまりにも創太らしい答えに、一騎は盛大なため息を一つ。なにを言っても、もうムダだ。そう解釈したのかもしれない。

 それに、センターの住人たちが最悪なタイプの人間だった場合、殺し合いに発展したら間違いなく必須だろう。それを瞬時に思考判断して、一騎は黙り込んだ。


『こちら鳥越。 西ゲートはWZばかりでRZの姿なし。 それとセンターを住居としているらしい民間人たちによるゾンビ集団の排除行動を確認した』

『中村、了解。 援護するのか?』

『あぁ、東ゲートに殺到していたWZの数に比べれば少ないからな。 それにゲートが少しずつ開かれている』

「こちらを視認したのだよ。 協力しようとしているのか、あるいは車両を奪いたいのか。 用心だけは絶対に必要なのだよ」

『賛成だ』

『西ゲートが開いた。 突っ込むぞ!!』


 鳥越、盛岡、中村、創太は無線でそれぞれに話すと、突っ込むことを決定したようだ。創太が思いきりアクセルを踏んだことにより、ラルゴはどんどん加速していく。

 先頭を走る鳥越班のパトカーが、次々とWZを()ねて、そのまま轢いて進む。ラルゴも例外ではなく、他のゾンビが撥ねられたことで、フラフラと歩き出してきたゾンビを撥ねていく。


 ――グシャ!

 ――ボキン!


「ひぅっ!」


 助手席の澪は撥ねられたゾンビの首と視線があったり、血やよくわからない体液でフロントガラスが汚れるのを目撃してしまった。

 数分間、ひたすらゾンビを撥ねるだけの光景が続き、ようやくそれも終了。大量のゾンビ集団の中を、なんとか突っ切り終わったのだ。


「一騎!」

「あぁ!」


 電動で閉じられていく鉄のゲートだが、幅五メートルも開けたせいでゾンビがどんどん侵入。それを警告した創太の声に一騎は即返事をしながら、マガジンベストと無線機を装着。ガンケースからTARー21改を取り出す。

 初弾装填を行い、セーフティーを外すとラルゴを降りて侵入を果たしたWZを次々と射殺していく。この途中にRZ三体が入ってきたが、パトカーから降りた盛岡が素早く射殺。


「ワンワン! ワンワンワン!!」


 ジャーキーが吠える。そんなのお構いなしに侵入を果たした五十を超えるゾンビだが、一騎と鳥越班があっという間に排除した。それを唖然と見ていたショッピングモールセンターの住人らしい九人。


「どなたが代表者かな?」


 中村が代表してそう声を掛けると、五十代前半の男性がリーダー的な人物なら中だと告げて案内を開始。鳥越も中村も、そして創太も車のキーは回収して、全員が装備を身に付けてから後を追った。

 九人全員が年齢バラバラではあったが、男性であり一騎たちが武装しているのを見て、下手な手出しはしない方がいいと直感したようだ。

 美少女の澪と美女の梓の御巫姉妹に、下心が見え隠れする視線が向けられる。だが、彼らが声を掛けることはなかった。一騎がTARー21改を付属の紐で結び背中に回すと右手で澪を抱き寄せて、左手にジャーキーのリードを握る。

 梓の方は創太に左手を握られて、グイグイと引っ張られていき、四人を守るように鳥越班が動いたからだろう。一騎たち四人はリュックを背負ったり、肩に掛けた状態でだ。奪われる可能性を危惧して。





 一騎、澪、創太、梓にジャーキー、中村班と鳥越班はショッピングモールセンターの地下にいた。正確には食品販売コーナーに案内されたのだ。

 既に案内されてから、十分が経過しているがセンターを拠点としている住人の代表者、あるいはリーダー的な人物はまだ姿を見せない。

 一騎たち十二人は渡されたペットボトルを受け取って、キャップを開けたが決して飲もうとしなかった。ジャーキーが一騎の持つミネラルウォーターを飲もうとしたのだが、鼻をスンスンと動かしてすぐに離れたからだ。


 それと元自衛隊の盛岡は、指先を軽く濡らして口にしたが、すぐにティッシュに吐き出した。これによって、十二人全員が、薬物混入がされていることを認識。

 買い物客が休憩するためのソファーに、ぞろぞろと移動して一騎たちは腰を下ろした。その途中、ジャーキーが何台かの監視カメラを見て、唸ったことからも覗き見られているのは確定だ。


「リーダーが来るまでに、飲んでリラックスしてください」

「そうです。 ご遠慮なさらずに」

「どうぞどうぞ」

「自分たちの生存者に出会えて、大変嬉しいですよ」


 彼らをここまで案内してきた九人の男たちは、なにがなんでも一騎たちに薬物混入のペットボトルを飲ませたいらしい。


「グルルルルルル!!!!」


 スーツを着た三十代の男が澪と梓に近付こうとした。しかし、それは失敗。ジャーキーが歯を見せて唸り、警戒しているのだ。


「シェパードですか。 噛まれたら嫌ですので、どこかにリードを結んでもらえませんかね?」


 このままだと意味もなく時間だけが過ぎていく。一騎と盛岡がそう判断したのと同時に、エスカレーターで降りてきた四十代の男が声を掛けてきた。リーダーであるのは自然と、一騎たちも理解する。


「難しいですね。 そのシェパードは、そこの若い四人にしか懐いていないので」

「ほほう。 余程しっかりと訓練されたのでしょうな」

「どうでしょうね。 ただ、噛まれたくないなら、不用意に近付かないことをお勧めしますよ」


 服装はラフな格好だが、とりあえず面倒事や指示を聞かない相手には暴力を振るうタイプの雰囲気だ。鳥越と中村の二人は、リーダー男に答えながらM4A1改とG36改のセーフティーを解除して、いつでも発砲可能なように待機。


「そうですか。 君たち、そのシェパードのリードをソファー下の足に結べ」


 中村たちに向けていた言葉遣いから一変。命令することに慣れた口調で、一騎たちに指示を出した。


「断る。 あんたらが不用意に近付かなければ、全く問題がないんだからな」

「俺は君の意見など求めていない。 すぐにリードを結ぶんだ。 それと、銃も渡してもらおうか。 子供が持つべき物じゃない」

「オレの方もあんたに命令される必要がない。 それに今まで命を預けてきた銃を、そうですかと渡すはずがないだろう」

「今、すぐに、従え! リードを結び、銃を渡すのだ!!」


 リーダー男は一騎に凄む。澪と梓は今にも暴力を振るいそうな彼に、恐怖を感じて一騎と創太に距離を詰めた。一騎はリーダー男を見ながら手にしていたリードを放す。


「ワンワンワン!!!」


 ジャーキーはリードが放された瞬間、一騎たちの後方に向かって走り出した。


「ギャァァアア! いてぇじゃねぇか!!」

「貴様!!」

「黙れ! こそこそと後ろから鉄パイプを持った人間を接近させる方に問題がある」


 今まで黙っていた盛岡が、鋭い声を出した。今にも射殺しそうな視線をリーダー男に向ける。ジャーキーはこそこそと接近する鉄パイプ男に気付いていて、リードが手放されたのと同時に走っていき、左足に噛みついたのだ。


「放せ! このバカ犬!」

「ジャーキー」


 一騎に呼ばれたジャーキーは、鉄パイプで殴られる直前に戻った。


 ――カチャ、ガチャリ!


 リーダー男が一騎に凄んだのだが、これを盛岡が対応。創太はウィンチェスターM1887改のセーフティーを外してレバーアクション。初弾を装填。


「睡眠薬かなにかを入れたペットボトルを飲ませて、オレたちから装備を強奪。 美少女と美女を人質にとって、命令しようなんて考えてるのが丸わかりだ。」

「黙れ! ここのリーダーは俺だ!! 俺の命令に従え!!!」

「装備を渡し、彼女たちも差し出せ、と」

「当然だ!!!」

「お前ら全員の両手足を撃って、センターを囲むゾンビ共の餌にしてやろうか」


 凄んでみせたリーダー男だったが、一騎から殺意が込められた強烈な視線を向けられて数歩後ずさった。


「ふ、ふん!! 今すぐ命令に従えば、車を壊さないでや――――ぎゃぁぁぁぁああああああ!!!」


 上から目線で脅迫しようとしたリーダー男だが、ゴミを見るような視線の中村と盛岡に無言で右手と左足を撃たれて、ドサっと倒れた。

 痛みを感じてそれを視認した直後、リーダー男は絶叫。次の瞬間。


 ――ズトーーーーン!!


 創太がウィンチェスターM1887改を発砲。リーダー男の首から上を見事に破壊した。


「さてさて諸君」


 一騎の全身から放たれた殺気と、リーダー男を殺した創太の言葉に十人の男たちはビクゥっと身体を震わせる。


「諸君らのリーダーは死んだのだよ。 暴力で支配されていたなら、これからは自由だ」


 創太はレバーアクションで空になったシェルを排出し次弾装填。ウィンチェスターM1887改のセーフティーを掛けないまま、あまりにも平然と言葉を続けた。


「僕らは水と食料、下着や生活必需品を取りに来ただけなのだよ。 目的を達成するまで邪魔をしないなら、生かしておくがどうするのだよ」

「おいおい、創太くん。 台詞が完全に悪役だよ」

「だけど、まぁ、当然か」

「そうだな。 彼女たちに暴行を働こうとしたんだから」


 創太の言葉に鳥越、中村、盛岡がそれぞれ反応。


「お、俺は息子を人質に取られていただけだ!」

「俺だって、そんな奴に暴力で無理矢理に従えさせられていたんだ!」

「お、俺もだ!」

「俺たちはぜんいーーーー」

「おい。 ちょっと黙ってろ」

「「「「「はひ!!!」」」」」


 このままだと殺される。そう判断した男たちは、必死に自分は悪くない主張をしようとした。だが、一騎はそれを一蹴する。少しでも逆らえば殺すと言わんばかりの視線。


「中村さん、鳥越さん。 さっさと買い物カートに荷物を詰め込んで、ここを出るとしましょう」

「そうだな」

「目的を達して、さよならするか」


 中村班と鳥越班は一斉に行動開始。中村班が缶詰やレトルトなどの食料と水の確保に。鳥越班は案内板を見て衣類回収と季節物布団を集めるために三階へ。一騎と創太は澪と梓と一緒に行動。

 彼女たちが二階で下着や生理用品を買い物カゴに集める中、ジャーキーに護衛を任せて一騎と創太は他にも住人がいて襲ってくる場合を想定し警戒。

 しばらく姉妹の会話とジャーキーが撫でられて嬉しそうな鳴き声が続いた。


「一騎くん!」


 不意に澪に呼ばれた彼は、声の方向に向かって移動。創太が警戒を続けているので、問題なく離れたのだ。


「どうした?」

「来て」


 彼は澪に手招きされて向かった先には、バックヤードから顔を覗かせる女性たち数名が。澪と同じ十代半ばから二十代前半くらいまでの女性が六人。

 全員が顔に青アザがあり、リーダー男やそれに従っていた男たちに暴行されたのだろうと容易に彼は察した。


「あのバカなら殺した。 今から自由だ。 オレたちと一緒に、ここを脱出するのもいいし、留まって生活するのも自分たち次第。 どうする?」


 一騎の言葉に彼女たちは顔を見合わせると、揃って頷きバックヤードから出てくる。そして、散っていったかと思うと、程なくして着替えなどを揃えて集合してくる。


「脱出でいいんだな?」

「はい」

「こんな場所はもう嫌です」

「わかった」


 一騎は相談もなく決めてしまったが、澪も梓も反対しなかった。


「ここに使えそうな車は?」

「地下の駐車場に二階付きの大きなキャンピングカーがあるわ」

「なら、それに乗る準備をしてくれ。 キーはあるのか?」

「あります。 キャンピングカーの持ち主の方は、お医者さんで私たちのケガを診てくれたんです」

「医者か。 その人はどこに?」

「キャンピングカーの中です。 昨日の夕方に両手足を縛られて、車内放置されました」

「一人、私の同級生がお世話のために残っています」

「なら、救出だな」


 その後、彼らは三十分を掛けて必要な物を揃えて地下駐車場に移動。キャンピングカー内に閉じ込められていたのは総合診療医の男性だった。

 世話係として残っていた一騎たちと同年代の少女が、中から鍵を開けて招き入れる。中村が事情説明を行い、一緒に脱出することで話は決定。


 ラルゴ、ノア、キャンピングカーに回収した物資が詰め込まれた後、盛岡が警備室から西ゲートの開放操作を実行。盛岡はすぐに合流のために外へと出た。


「ゥゥウ゛ウ゛ウ゛!!」

「ァァア゛ア゛ア゛!!」

「ギュォォォオ゛オ゛!!!」

「凄い数だな」

「ゾンビの大集団が来るぞ」

「車が走れるだけゲートが開くまで、ゾンビを近付けさせるな!!」

「絶対に車と武藤さんたちを死守するぞ!!」


 四台の車が縦一列に並び、ゲートが開いて脱出できるまでの間、車と非武装の七人を守るための防衛戦が、鳥越の合図で開始される。


 ――バシュン、バシュシュシュシュシュン!!

 ――ガシュ、ガシュシュシュシュシュ!!

 ――カシュシュシュシュシュシュシュ!!

 ――パシュシュ、パシュシュシュシュ!!

 ――ガシュシュシュン、ガシュシュシュシュン!!


 ゲートが開き始めた途端にWZとRZが、どんどん侵入してくる。鳥越班はパトカーのドアを開けて、いつでも乗り込める状態にして屈んで発砲。

 中村班は鳥越班の二メートルくらい後方に左右展開し、立ったまま発砲。ちゃんと鳥越班が急に立ち上がってもフレンドリーファイアにならないようにしている。

 そして、ラルゴの一騎たち。一騎と澪は後部座席の窓から屋根に乗って身体を伏せた状態で迎撃射撃。創太は迫ってくるゾンビ数を見ながら、いつでも火炎瓶を投げられるようにしながらも、XM8改を三点バースト発射。


 梓はフロントガラスの血を薬物混入のミネラルウォーターで軽く洗い落とし、ワイパーも使って視界確保中。ジャーキーは後部座席の窓ガラスから顔を出して吠える。


 ――バシュン、バシュシュン、バシュシュシュン!!

 ――ガシュ、ガシュシュ、ガシュシュシュシュシュ!!

 ――カシュ、カシュシュシュシュ、カシュシュシュシュ!!

 ――パシュシュ、パシュシュシュシュシュシュ!!

 ――ガシュシュシュン、ガシュシュシュン、ガシュシュシュシュシュシュン!!


 横幅二メートル半が開いたところで、ゾンビの数は数百に達した。


「火炎瓶、投げるのだよ!!!」


 ――パリン!

 ――ガシャン!

 ――パキャン!


 創太の指示を聞いて、創太自身と盛岡に中村が火炎瓶を一本ずつ投げた。ゲートから二十五メートルも離れているが、助走して飛距離を伸ばしたのだ。


「ギャォォォォォォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」

「グラァァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ルゥゥゥァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ゲシャァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「ギュィィィィイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」


 最初の数体のWZが燃えると、隣り合うゾンビや後方のゾンビまで火は広がっていく。また、大集団として入ってきたからこそ、一体が射殺されるだけで周囲を巻き込んだ転倒が発生する。


「よし、通れるまで開いたぞ!!!」


 鳥越の声を聞いて、車外の全員が一斉乗車。即エンジン始動となり、勢いよく燃え続けるゾンビ集団へと突っ込んでいく。


 ――ドカドカドカドカ!!

 ――バシバシバシバシ!!


 先頭の鳥越班のパトカーがゾンビを撥ねていき、その後をノア、ラルゴ、キャンピングカーと続く。走り抜ける途中で、WZやRZドアや窓ガラスを叩いたが、そんなことで停車することはなくショッピングモールセンターを脱出。

 途中でゾンビ犬三十体が追ってきたが、キャンピングカーを先に行かせて、一騎と澪が火炎瓶で処理した。誰も負傷することなく、防衛戦は成功して彼らは石田が待つイーグルマンションへと帰ったのだった。

一騎たちの不興と怒りで、リーダー男死亡です。

スカッとできたのか、できなかったのか。

これは読者の皆様のご判断で。

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