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死域からの生還者  作者: 七夕 アキラ
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16.計画と新銃


 201号室では一騎、澪、梓、ジャーキーに中村班の七人が、テーブルに置いた地図を見ている。創太はまだ降りてきていないが、彼らはどの道を使って上戸森警察署を再訪するかを考えていた。

 脱出してから一週間以上が経過していて、脱出後に警察署方面へと向かったことがない。だからこそ、どの道にゾンビがいるのかとか、他の生存者が事故車の中から使える車両を動かしている場合を踏まえて、可能な限り安全ルートを検討しているのだ。


「こことここ。 こっちとそっちの道は、バリケードを築いた時のままなら通れないはずだ」

「通れないんですか?」

「ゾンビ発生が本格し始めた時に、正面衝突事故や追突事故が連続したんだよ」

「放置?」

「撤去する前にゾンビが現れて、交通誘導をしていた他の警官や、車から出てきたドライバーが犠牲になった。 あっという間にゾンビの数が増えて、近付くのも危険でな」

「放置するしかなかったと」

「そういうことだ」

「なら、オレたちが使った裏門側はどうなっていると思いますか?」

「大量のゾンビで溢れているか、あるいは署内の廊下を行き来しているだけかと思います」

「場所は?」

「へ?」

「ウォーターサーバーの場所って、具体的にどこかわかりますか?」

「それと、交換タンクってどのくらいありそうなの?」

「本体は一階の総合受付の内側に一ヶ所、二階と三階の少年係科と交通科に。 四階と五階の会議室前の廊下ですね。 予備タンクは二階の備品倉庫にあります」


 一騎、澪、梓に中村と班員三人の会話だ。最後の班員は署内の地図を書き出している。


「正門のバリケード、完全に崩れてると思いますか?」

「崩れるというか、署内に向かって倒れているのは確かだろうな」

「倒れた鉄柵を車で乗り越えるのって、無茶ですよね?」

「無茶ですね。 柵が破損していた場合、タイヤを傷付けてパンクする原因になります」

「そうですよ。 それにパンクした時に音が出た場合、ゾンビたちが群がってきます」


 一騎は正門側の状態を見て、ゾンビの数が少なく鉄柵を乗り越えることができれば、正面入り口に停車させる案も考えていた。だが、パンクした場合を考量すると却下となる。


「パンクさせず、なにかあっても車を発進させられるとしたら、また裏門から入るしかないか」

「鉄柵、重い?」

「重いですよ。 百人以上が鉄柵を押し続ければ、倒れてしまいますから」

「移動、無理?」

「移動、とは?」

「倒れた鉄柵を移動させることはできます?」

「できないことはない。 ただし、ニュースを見ていたなら分かると思うが、高さは二メートル前後だが、長さはかなりある。 俺たちが使ったのは、全長三十メートルのだからな」

「移動させるとしたら、どのくらいの時間が掛かるのかしら?」

「完全に閉じた状態だと、鉄柵を起こして左右に広げるから何事も問題がなければ十五分もあれば。 ただ、これはゾンビの妨害がないことを前提にした時間だが」

「でしたら、私たちで囮や時間稼ぎでもすれば問題ありませんね」


 一騎は梓があんまりにも簡単そうに言うのを聞き、少しだけ頭を抱えたくなった。囮になるのはできるだろう。問題はその方法と、もしも周囲をゾンビに囲われてしまった場合の対処方法にある。


「中村さん、署内にゾンビが残っているとしたら、どれくらいだと考えますか?」

「正直に言ってわからない。 俺たちが脱出した時のことと、このマンションに到着してから、ゾンビたちは少しはこっちに移動してきていたからな」

「空き缶、使う?」

「用意はしよう。 ただ、実際に使うかどうかは署の周辺と署内のゾンビ数によって考えるべきだ」

「もしも署内外にゾンビがいたなら、どうやって場所を誘導するかが問題だな」

「ですね。 それと、警察署周辺に人間がオレたちだけだった場合は、どこからか集まってくると思います。 誘導するにしても、数が多くなれば戻ってくるのも一苦労になるかと」

「空き缶に小石を入れて、どこかの電柱にでも取り付けるしかないか」


 中村の案は確かに効果的なのだが、これには欠点がいくつかあった。中村も班員たちも、まだそれに気付いていない。だからこそ、一騎は自分で考えた空き缶囮に関して注意事項を伝えることを決めた。


「一つ、風が吹かないと結束バンドで揺れて音がない。 二つ、移動中に警察署にゾンビが集まっても対応不能。 三つ、安全を確保するためには警察署から離れた場所に設置する必要があり、ガソリンを意外と消費する。

 この問題点を考えてみると、あまり得策ではないでしょうね」

「となると」

「射程に入ったら、即射殺なのだよ」

「創太、終わったのか?」

「まだ途中なのだよ。 ただ、必要情報を入力しておけば、適当にダウンロードするプログラムを作ったから問題なしなのだよ」


 静かに玄関を開けて入ってきた創太は、あまりにも自然と計画の話し合いに参加する。一瞬だけ中村たちが驚いたようにビクッと動いたが、それでもすぐに会話を再開する。


「射殺は問題ないが、署内に大量のゾンビが残っていて、外からも入ってきたらパチンコ玉が足りなくなると思うんだが」

「マガジンベストとマガジンポーチの両方を使うのだよ。 それぞれ十マガジンだから、合計で二十マガジンは持っていける」

「射殺するにしても、人数が足りないな」

「同意」

「人数? なぜ足りないと思うんです?」

「ウォーターサーバーは重いんです。 これはわかりますよね?」


 中村班の一人が一騎と澪の人数が足りない、この言葉に疑問を感じたようだ。少し考えればわかるのだが、中村班は不思議そうに首を傾げている。

 一騎は「もしかして、本当に理解していないのか」と呟き、澪は澪で「おバカさん?」とはっきりと質問。梓からは「よく考えてみてください」だけ。


「考えてみるのだよ。 署の内と外の両方にゾンビがいれば、物音一つさえ立てられない。 もしも、小さな音にでも一体が反応して唸り声を上げたらどうなるのかを」


 創太の言葉に中村班はしばらく時間を掛けて思考すると、全く同時に全員がポンと手を叩いた。


「そうなのだよ。 一斉に集まってくる可能性があるのだよ。 これを射殺するのに、内と外の両方に二人ずつの戦力を割くことになる。

 一人ではないのは、リロード中の接近数を減らすには必須な人数なのだよ」

「ウォーターサーバーとタンクの運び出しは、中村さんたちに頼みます。 オレたち四人は、接近しようとするゾンビの射殺を行うので」

「かなりの力仕事になるので、一騎くんや創太くんじゃ持ち運ぶのに台車が必要になります。 そうなると、台車の車輪の音でゾンビが集まってくるでしょうから」

「なにより、場所を把握している中村さんたちが運び出しをした方が、時間短縮になると思うんですよ」

「なるほど。 もしも数が多くなってきたら、その時はどうするんだ?」

「癇癪玉を外に向かって投げて、誘導するしかないかと。 もしくはショットガンで、複数体をまとめて殺すしかありません」


 一騎たちの主張と考えは、実に危険性を十分に理解しての内容だった。中村たちは頷き合うと、運び出しを担当することで話はまとまる。


「もしも運び出しの作業中にゾンビが入ってきたら、警察署から離れるルートを考えておく必要があります」

「それに関してなら、俺からいいだろうか?」

「なんでしょうか?」

「警察署に侵入しようとする、外のゾンビに関しては車内か屋根の上から射殺した方がいいだろう。 そうすれば、どこにどれだけゾンビが集まっているのかを把握しやすくもなるはずだ」

「そうですね。 必要に応じて癇癪玉を使えば、ある程度の誘導はできると思います」

「一騎、ゾンビ共が群がってきたならショットガンなのだよ!! ゾンビにショットガン、これは王道でロマンで絶対に必要な正義な行為なのだよ!!!!」


 創太がいきなり大声を出したから、ずっと一騎の足元でテニスボールをはみはみしていたジャーキーの耳がピクっと反応した。


「創太、落ち着け」

「静かに」

「創太くん、少し静かにしましょうね」

「子供扱いするでないのだよ!!!」


 梓に頭をよしよしと撫でられて、創太は彼女の手を鬱陶しげに払う。


「澪、梓さん。 今回は姉妹行動じゃなく、オレと創太のどちらかと行動をしてもらいます」

「どうして?」

「二人にも銃を持たせます。 ハンドガンだと、装填数も少ないので」

「弓矢じゃダメよね」

「ダメです。 あっという間に接近されて噛まれるか、食べられるかですよ」

「断固拒否」

「噛まれるのも、食べられるのもお断りよ」

「でしたら、銃を持ってください。 オレと創太が、二人のどちらかと一緒に行動。 最初は不馴れで命中させるのが難しくても、オレたちは何度も撃ってるので守れますから」


 一騎の案に二人は頷いて、銃を使うことと行動を共にすることを受け入れた。そして、実際に行動する時のペアは一騎と澪、創太と梓に決定。

 というか、梓が勝手に決めてしまったのだが。ちなみに梓は、澪に一騎とペアを組むように言った時、ニヤニヤと好奇心に満ちた表情だった。再訪の計画もどんどんと決まっていく。

 実際に上戸森警察署を再訪するのは、装備をちゃんと整えてからということで話は決まりとなった。





 計画に関する話し合いが行われ、それから昼食時間まで一騎と澪は広い地下駐車場を使ってジャーキーに運動をさせた。運動と言っても、テニスボールを投げて持ってこさせるだけだなのだが。

 一応、既に設置してあるゾンビ空き缶誘導がどうなっているかを確認するために、一騎はジャーキーを散歩代わりとして連れ出していた。

 それでも、ゆっくりと時間を掛けての行動は危険でしかなく、どことなく退屈そうな姿を見せていたのだ。なので一騎は澪と一緒に昼食時間まで、ボールを投げて取ってこさせるだけのジャーキーとの息抜きを実行。


 昼食に白米、アジフライ、キュウリの漬け物に、大根の味噌汁が出た。昼食後、中村班は101号室から外へと出て、大きめの普通車を探しに出掛けている。

 ウォーターサーバー二台は必須だからだ。予備タンクに関しては、一騎たちのラルゴに積めば、問題ないがサーバー本体はさすがに乗せられない。

 よって、中村班はセレナやノア、Nワゴンかジープを求めてマンション周辺を行動中。事故車の中にエルグランドとハイエースがあったが、どちらもフロントに大きなダメージがあり使えなかったのである。


 708号室の創太の部屋には、一騎、澪、創太自身に梓、そしてジャーキーの姿が。四人と一匹は創太が過去にダウンロードした銃の設計図と、実際の写真を見ている。

 澪と梓に持たせる銃を選ぶためだ。創太は様々なアサルトライフル、サブマンシンガンを見せて、取り回しを考えて一騎のMP7A1かUZIを二人に勧めていた。火薬はショットガンにのみ使用するから、あまり撃った後の反動を気にしなくていいようにと。


「どっちがいいのだよ」

「他にも種類はあるのよね?」

「もちろんなのだよ」

「わたし、決めた」

「早いな」


 創太がダウンロードした銃の設計図と写真を全て見せてから、五分が経過していて梓は考え中。これに対して澪の方は素早かった。


「ほう? どれがいいのだよ」

「武藤くん、一緒」

「MP7A1改か?」

「うん」

「確かに構えやすいからな」

「同意。 あっち、手首痛めそう」


 澪の言うあっちとは、UZIのことだ。彼女はちゃんと構えて発砲ができ、パチンコ玉の余計消費を減らすために、ドットサイトを取り付けたMP7A1改を選択。


「弾をムダ使いしない。 うむ、実にいい判断なのだよ」

「姉妹揃って同じ銃なのは、ちょっと味気ないわよね」

「梓さん、誰もゾンビを殺すのに味気なんて求めていませんから」

「同意」

「確かにそうね、わかったわ。 創太くん、UZIを作ってくれるかしら?」

「うむ、お安いご用なのだよ」

「わたし、不要」


 いざ追加のMP7A1改と、UZI改の初作製が始まるタイミングで澪からのいらない発言。


「澪、どういうことだ?」

「ん!」


 一騎が不思議に思って問うと、彼女は彼に向かって両手を差し出す。両掌を上にして、なにかを求めるように。


「え?」

「ん!」


 澪がほんの少しだけ不満そうな表情を浮かべ、一騎は先程までの話の流れからなにを求められているのかを考える。


「あぁ、そういうことか」

「そういうこと」

「ちょっと待っててくれ」


 一騎はなにを澪の要求を正確に理解すると、707号室の自分の部屋へと向かいMP7A1改を回収。708号室の創太の部屋へと戻って、両掌を上に向けて待っていた彼女の手に自身のMP7A1改を乗せた。


「ありがとう」

「どう致しまして」


 創太は首を傾げていたが、梓は妹がなにを要求していたのかに気付いていた。だからこそ、一騎から受け取って嬉しそうにしている澪を見て笑顔を浮かべる。


「一騎の自身の銃がなくなったのだよ。 同じ物を作るか?」

「いいや。 オレは表示されたデータの中から、TARー21を作ってもらうことにする」

「マガジンの弾数は?」

「40発かな。 マガジンの大きさに合わせて、TARー21を少し改造してくれ」

「わかったのだよ。 三十分前後には完成するはずだから、それまでは自由時間でいいのだよ」

「三十分前後、か。 澪、二階へ降りよう」

「二階?」

「あぁ。 中村さんたちに、何体かのゾンビを誘導してきてもらうか、あるいは空のペットボトルを置いてもらおうかと思ってる」

「試射?」

「そうだ。 練習しておいて損はないだろ」

「うん」


 一騎は澪とジャーキーを連れて、707号室から無線機を持ち出して二階へと降りていった。


「創太くん」

「なんなのだよ」

「一騎くんと澪、少しだけ関係に変化が出てきていると思わないかしら?」

「石田たちを途中まで援護した時からなのだよ」

「無線で聞こえたあのやり取り。 あれから、少しだけ関係変化が起きていると思うのよねぇ」


 創太と梓は二日前から、なんとなく一騎と澪がお互いを意識している光景を見ている。入浴の交代で声を掛ける時、食器を洗って食器乾燥機に入れるために渡す際に手が触れた時、ジャーキーを撫でようとして二人で同じ場所に手を伸ばしてぶつかったりと。

 たったこれだけのことなのだが、一騎も澪も同時に顔を赤くしたり、視線を外すことが多い。接触がない時は、実に普通なのに。


「警察署への再訪によって、さらに関係が深まるかもしれないのだよ。 お互いが自身の気持ちに素直になったら、二人は恋仲になること間違いなしなのだよ」

「そうしたら、二人の時間を邪魔しないようにしないとね」

「その通りなのだよ」


 創太と梓はどちらから告白するかを賭けた。賭けに買った方は、負けた方にほしい物を要求することができるという内容でだ。



 その頃、肝心の二人は202号室のベランダに立っていた。中村が班員に車探しを命じて、本人は澪の射撃訓練のために的となる缶とペットボトルを地面に置いている最中。

 一騎が無線で頼むと、すぐに動いたのだ。既に飲み終わった空き缶と、ゾンビがいないのを確認して民家から回収された空のペットボトルが適当な間隔で並べられて的の設置は完了。


「澪、まずは自分の思うように撃ってみてくれ」

「うん、わかった」


 ――カチン


 澪は一騎の言葉に頷くと、しっかりと抱えて銃口をフェンスから二メートル先の缶へと向けてトリガーを引いた。だが、ここで意外なことが起こったのだ。


「出ない」

「え? オレは普通に撃てたけどな」

『武藤くん、どうしたんだ?』

「ちょっと待ってください。 パチンコ玉が出ないので、原因を調べます」


 MP7A1改を受け取った一騎は、中村からの連絡に答えながらパチンコ玉が出なかった原因を調べようとして根本的なミスに気付いた。


「澪さん」

「はい」

「ここ、これわかる?」

「大丈夫」

「これ、セーフティーだから。 これを解除しないとトリガー引いても、発砲できないからな」

「忘れてた」

「オレも教えるのを忘れてた」

『武藤くん、セーフティー解除やリロード説明を先にしてからの方がいい』

「ですね。 今から教えるので、少しだけ待ってもらっていいですか?」


 一騎は澪にセーフティーの解除と、ドットサイトの覗き方にリロードを教えた。彼女は説明を聞いて、何度かコクコクと頷くと、気合いの入った表情を浮かべる。


「撃てる」

「よし、缶とペットボトルを狙うんだぞ。 中村さん、澪の試射を開始します」

『了解。 少し離れている』


 中村にこれから発砲と伝えて、安全のために距離を置いてもらった一騎。澪はドットサイトを覗きながら、トリガーを引いて最初の的である空き缶を撃った。


 ――バシュ


 撃てたのはいいが、空き缶に命中せず。一騎は気にせずに続けて撃つように促した。


 ――バシュ

 ――スカ

 ――バシュ

 ――カン!


 三度目の正直で命中し、空き缶は吹っ飛んでいく。一騎は澪の身体に触れることを伝えてから、背後から手を伸ばして持ち方を少しばかり修正。

 この時、二人はお互いの顔が見えなくてよかった。意図せず一騎は持ち方の修正をした際に、ほんの少しだけ澪の胸に接触してしまったのだ。しかも、見ようによっては一騎が彼女を後ろから抱き締めているようにも。

 このせいで二人とも見事に赤面してしまい、一騎も澪も胸に触れてしまったことを言うべきか、言わないべきかで悩んで結局は二人ともスルーを選択。


「み、澪。 今の撃った感じを忘れないようにな」

「う、うん。 ありがとう」


 一騎は澪から身体を離す。彼女は恥ずかしさを誤魔化すためにも、的である缶とペットボトルを狙って次々とパチンコ玉を放つ。どうしても最初の一発は外れてしまっているが、それでも二発目でしっかりと命中させている。

 一騎は何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、澪に重要なことを教えた。


「狙ったゾンビに命中しなくても、焦ったりしないように。 焦ってミスを連続させるよりは、一発一発を確実に撃つことを優先するんだ。

 オレも射撃しながら、澪に近付くゾンビを射殺するから安心して狙うこと」

「うん」


 ――バシュ、バシュシュシュ!


「全部撃ったな。 澪、まだパチンコ玉が残っていても、リロードしておいた方がいい。 中村さん、まだ的になるものがあれば、それを適当に配置してもらえますか?」

「リロード」

『了解。 まだ数があるから、どんどん置いていく』

「お願いします」


 一騎が無線を通して中村に頼んだ直後、玄関がキィっと音を立てて開く。


「一騎くん、銃を届けに来たわよー」

「ありがとうございます」


 振り返った二人が見たのは、梓が持つ大きめのガンケースと、ホルスターに入ったUZI改を(くわ)えたジャーキーだった。


「姉さんも?」

「試射しに来たわ。 ぶっつけ本番じゃ不安があるからね」

「創太から使い方と撃ち方は聞きましたか?」

「ちゃんと教えてもらったわ。 はい」

「確かに受け取りました」


 一騎はガンケースを開けて中に入っていたTARー21改を取り出す。マガジンをセットしながら、彼としてはどうしてガンケースなどがあるのかが疑問なのだろう。

 ベランダに立ち、中村が用意した的を撃つためにTARー21改を構えながら、一騎は「どこにあったんだか」とだけ呟き、セーフティー解除やらを済ませてドットサイトを覗いた。


 ――バシュン

 ――カン!


 最初の一発目から命中して、一騎は続けて何発か試射。


 ――パシュシュシュシュシュ!!


 空き缶六缶とペットボトル四本を撃って、一騎が射撃をやめた直後。隣から気の抜けそうな発砲音。彼の左隣に梓がいて、UZI改を連射していたのだ。


「澪、慣れるまで撃っておけよ」

「うん」


 一騎は澪に場所を譲ると、セーフティーをしてTARー21をガンケースへと戻した。ジャーキーを連れて707号室に戻った彼は、実弾を使用するMP7A1をベッド下のプラスチックケースから取り出す。


「一応、こいつも持っていくか」


 火薬を使っている実弾だからこそ、発砲音は大きい。ゾンビも群がってくるのは間違いない。彼はそれでも、警察署内と外のゾンビが多い時には、実弾で射殺すると同時に自分を囮にすることを検討していた。

 この時、708号室では創太が某ゲームに出てくるフックショットを改造したフックガンを作っていたり、二階では澪が梓に一騎との関係を執拗に質問していることなど彼本人は知りもしない。

 特に構えを教えた時に一騎と澪が密着していたことを、澪本人が話してしまったことなど気付くことも聞くこともなかった。

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