64.息子、母と恋人と一緒にお風呂に入る【前編】
お世話になってます!
赤ん坊となった母を連れて、冒険に出かけた、その日の夜。
仕事を終えたリュージは、自宅へと帰り……。
そして、風呂に入っていた。
「うう……緊張する……」
先に湯船に入りながら、【彼女たち】が来るのを待つ。
「まだかな……」
そわそわしていると……ドアの向こうから、女の子たちの声が聞こえてくるではないか。
『キャッキャ♪ きゃーっ♪』
『カルマさんッ! 準備がまだなのですっ! だから動いちゃダメなのですー!』
「……準備ってなんだろう」
ドア越しのくぐもった声を聞きながら、リュージはモンモンとする。
薄壁一枚、挟んだ向こうに……。愛しい恋人の裸体がある。
それを思うだけで、リュージは頭から湯気が出そうになった。
そうしていると、がちゃ……とドアが開く。
「お、お待たせしました……のです」
すっ……と入ってきたのは、うさ耳の少女。
「し、シーラ」
「……あう」
子供かと見まがうほどの、可愛らしい少女だ。
おかっぱ気味の茶色い髪の毛。
頭部からはペチョン、と垂れたうさ耳が生えている。
小さくてぷにぷにとしている体は……しかしバスタオルによって、隠されていた。
裸身を期待したので、ちょっぴり残念……いや、何を考えているんだ。期待ってなんだっ。
「……あんまり、見ないで欲しいのです。こんなツルペタなお子ちゃま体型……」
シーラは体をすぼめて、顔を真っ赤にしていう。
「そ、そんなっ! ぜんぜんそんなことないよっ!」
慌ててリュージは声を張る。
恥ずかしくなって、うつむき加減に言う。
「シーラはその……あの……えっと、その……す、すごく……きれいだ、よ?」
お世辞ではなかった。
真っ白な肌は、シミひとつ無い。
手足はすらりとしている。
顔つきは幼いが、大きくてくりっとした目が愛らしい。
確かに起伏に乏しい体つきだけど、胸や尻だけが女性の全てではないのだ。
「リュージくん……」
潤んだ目で、シーラが見てくる。
目線が交差する。
互いが互いの、裸を見て……顔を赤くする。
「あうぅ……」
「えっと……」
と、ラブコメの波動をキャッチしたのか、
「あ゛ーーーーー!!」
とカルマが騒ぎ出した。
そのカルマはと言うと、全裸で、シーラの胸に抱かれている。
「カルマさん、ごめんなさいなのです。ふたりきりのバスタイム、邪魔しちゃって……」
シーラが目尻を下げて、申し訳なさそうにする。
リュージは物言えぬ母の代わりに言う。
「こっちこそ、ごめんねシーラ。僕、赤ちゃんのお風呂の入れ方わからなかったし……」
そう、なにゆえ母と恋人と自分が、一緒に風呂にいるのか。
話は夕方に戻る。
冒険から戻って食事をした後、風呂に入ることになった。
本来ならリュージが赤子を風呂に入れるべきだが、いかんせんやり方がわからない。
心優しきうさ耳娘が、自分がやるよと買って出たのだが……。
「……それに母さん、僕から離れるとすぐに機嫌悪くなっちゃって」
シーラが連れて行こうとすると、母がぐずってしまうのだ。
「大丈夫なのです。赤ん坊はお母さんがすぐ側にいないと泣いちゃうのです。ね、カルマさん?」
「あーい♪」
シーラが笑いかけると、母も無邪気に笑ってうなずく。
どうにも母がぐずるのは、赤ちゃんだから、ではない気がするリュージであった。
ひと息を付いて、言う。
「……だからってその、一緒にお風呂入るのは……ちょっとやっぱり、早かった、よね」
改めてこの状況、思春期ど真ん中のリュージたちにとっては、難易度の高いものだった。
若い男女。
つきあいたてのカップル。
そのふたりが……肌をさらして、同じ風呂に入ろうとしている。
「そ、そうですね……。あ、でもでもっ、ちゃんと下には水着を着ているのです!」
ほらっ! と明るく笑って、シーラがタオルをずらす。
タオルの下は素肌じゃなかった……。
「そ、そうなんだ……」
ちょっぴり、残念。
そう思っている傍らで、シーラがカルマに笑顔を向ける。
「さぁカルマさん。お体キレイキレイにしましょうね?」
「あいっ♪」