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62.息子、母にミルクを与える

お世話になってます!



 ーーなに……?


 ーー緊急事態だと?


 ーーどうした、我が眷属よ。話してみるがいい。


 ーーふむ。


 ーー邪神王様の力の波動が弱まった……だと?


 ーー邪神王様の力を封じ込めているドラゴンの力が弱まったのではないか……か。


 ーーくくっ。


 ーーはーっはっは!


 ーーこれは好機ではないか!


 ーー今の状態のドラゴンを倒せば、邪神王様の力はわれの手に入るではないか!


 ーー聞けば最弱レベルまで、力の波動が弱まっているという。


 ーーこの状態でなら、魔王四天王において、最弱の我であっても、やつを倒せる!


 ーー探せ! 我が眷属ども!


 ーーなんとしてもドラゴンが力を取り戻す前に、見つけ出せすのだ!


 ーーそして手に入れるのだ……偉大なる邪神王様の力を。


 ーーそして我こそが、次代の魔王となるのだ!


 ーーくっくっく。


 ーーあ~~~はっはっは!


    ☆


 母を育てる決意をした、その日の夕方。


 リビングに隣接した、キッチンにて。


 リュージはシーラの指導の下、母にあげるミルクを作っていた。


「シーラ。言われたとおり、お湯を作ったよ」


 リュージが言うと、シーラがうなずく。


「ではほ乳瓶の中に粉ミルクを入れて、お湯を注ぐのです」


「わかったっ」


 弾んだ声になるのは、今まで以上にないくらい、やる気に満ちているからだ。


 迷惑をかけてきた、母への恩返しができる。またとないチャンスなのである。


 ほ乳瓶にお湯をなみなみと注ぎ、完成。


「母さん……!」


 リュージはほ乳瓶を手に、リビングを見やる。


「だぁっ♪ だぁっ♪ あぶー♪」

「かるま。かわいい。ずっと。そのまま。いい?」

「やっ……!」


 元魔王四天王・右方のルシファーことルコ。


 金髪褐色の幼女が、いすに座って、幼児となった母を抱っこしていた。


「あ、リュージくん。ストップなのです!」


 兎獣人シーラが、その耳をぴーんと立てて言う。


「そのままだと熱いのです。少し冷ましてから、赤ちゃんに飲ませるのです」


「なるほど、そうなんだ。どれくらい冷ませば良い?」


「人肌になるくらいなのです。冷水につけて冷やして、少しミルクを手の甲に出して、温度を見極めるのです」


「わかった!」


 リュージはシーラの指導の下、できる限り、自分でやろうとする。


 もちろん子育ての知識も経験も無いリュージにとって、赤ん坊の世話は、高難易度のクエストだ。


 だがリュージにはシーラという、強力な助っ人がいる。


 今日だって、粉ミルクというものがあることや、ほ乳瓶、そのほか赤ちゃん用具を売っている場所。


 それら全て、彼女から聞いたことだった。

「ありがとう、シーラ。シーラがいなかったら……僕、なにもできなかったよ」


「ううん。リュージくんのことだから、しーらがいなくても、1人でなんとかできたのです」


「いやいやそんなことないよ」

「そんなことなくないのですっ」


 なごやかに食事を作るリュージとシーラ。

 そのときだ。


「ふぎゃあーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 と、赤子カルマが、火が付いたように泣き出したのだ。


「ど、どうしたのルコ?」

「わからん。急。かるま。なく」


「あ゛ーーーーーー! あ゛ーーーーーー! ぎゃーーーーーー!!!」


 さっきまで機嫌が良かった母が、なぜだか急に不機嫌そうに泣き出したのだ。


「リュージくん。赤ちゃんの機嫌はコロコロ変わるのです。注意なのです」


「わかった。シーラは本当によく知ってるね」


「えへっ。慣れてますからっ!」


 慣れてる? 何にだろうか……?


「それよりリュージくん。そろそろいいのです?」


「あ、うん。わかった」


 ほどよくヌルくなったほ乳瓶を持って、リュージはカルマの元へ行く。


「あ゛ーーーーーー!」

「母さん。ごはんできたよっ」


 リュージがルコと母の元へ行く。


 母は「キャッキャ♪」と嬉しそうに笑って、リュージに両手を伸ばす。


「ルコ。ありがとう。かわるよ」

「ん」


 ルコから赤ん坊を返してもらい、リュージが抱っこする。


「えっと……どうやって飲ませれば良いの?」


「その先端のゴムの部分を、赤ちゃんの口に持って行くのです。押しつけないように」


 言われたとおりにする。

 するとカルマは、はむ……っとほ乳瓶の先端をくわえる。


 ちゅ、ちゅ、ちゅ~~~…………。


「わ、わっ! の、飲んでる! 飲んでるよシーラっ!」


 母に食事を与えることができ、嬉しくなるリュージ。


「はいっ! とってもお上手なのです!」


 にぱーっと笑って、シーラが言う。


「……くふふっ、息子から授乳されてるっ。授乳プレイ最高ですよおぉ~……」


 と、カルマが一瞬だけ口を離して、何ごとかを言っていた。


「え?」「ちゅっちゅっちゅ~……♪」


 カルマが美味しそうに、ちゅうちゅうとほ乳瓶の口に吸い付く。


 中のミルクがどんどんと減っていく。


 その様子をシーラが、固唾をのんで見守っていた。


 ややあって、中のミルクを、母が全て飲み干す。


「良かった……食事完了だね」


 ほっ、と安堵の吐息をつく。


「まだなのです。赤ちゃんにゲップさせないと」


「ゲップ?」


「はい。そうしないと赤ちゃんは飲んだミルクを戻しちゃうのです」


「そうなんだ……! ど、どうすればいいの?」


「肩に抱くようにして、背中をとんとん、さすさす、ってマッサージするのです」


 口で言われても……リュージはまったくそのやり方がわからなかった。


 まずい。

 このままじゃカルマが、辛い思いをしてしまう。


「シーラ。やってもらってもいい?」

「はいなのですっ!」


 リュージはシーラに、母を渡す。

 カルマは一瞬「やっ!」と首を振ったが、次の瞬間「うぷ……」と顔色を悪くした。


 シーラは慌てて、カルマを抱っこする。


 シーラが口で説明したとおり、カルマを抱えると。


 トン……トン……と優しく、カルマの背中をさすってあげる。


 だが……。


「げぇっ……!」


 と、ゲップと同時に、母が少しだけ、ミルクを口から吐き出してしまったのだ。


 ミルクがシーラの肩と頬にかかる。


「し、シーラっ? 大丈夫!?」


「ああうん、平気なのですっ!」


 にぱっと明るく笑って、シーラがうなずく。


 その顔には一切の不快感はなかった。


 むしろホッと安堵していた。


「良かったね、カルマさん。ゲップ上手に出せたのです」

「…………」


 ニコニコと笑うシーラをよそに、カルマが神妙な顔つきなっていた。


「……どうして?」

「えっ?」


 一瞬、カルマが小さく、何かをつぶやいたような気がした。


 だがカルマが「あー! あー! あーぶー!」とリュージに手を伸ばして、抱っこを求めてきた。 


「はいはい。今リュージくんに代わるのです。リュージくん」


「あ、うん……」


 リュージは、シーラから赤子カルマを受け取る。


 カルマが泣き止み、笑顔に戻る。


 リュージはホッと一安心した後、兎獣人を見やる。


 彼女はミルクのかかったローブを脱いでいた。


「シーラ。その……本当にごめんね?」

「え、なんのこと?」


 シーラがきょとん、と真顔で首をかしげる。


「母さんがミルクを吐いて……」


「気にしないでリュージくんっ。良くあることなのです。だからぜーんぜん気にならないのです。むしろカルマさんがちゃんとゲップできて、良かったのです! えらいねー」


 幼子にするように、シーラがカルマの頭を撫でる。


「あー……。うー……」


 母がちょっと申し訳なさそうに、眉を八の字にしていた。


「カルマさん、気にしないで。ローブなんて洗濯すれば良いのです。ね?」


「うー……」


 カルマはじぃっと、シーラを見やる。

 ややあって、リュージの胸の中で、きゅっと体を丸める。


「どうしたんだろ?」

「たぶんおねむの時間なのです」


 シーラの言ったとおりだった。

 母がすぐに、安らかな寝息を立て始めた。

「しーら、ローブを水洗いしてくるのです。リュージくんはさっきかった赤ちゃん用のベッドに、カルマさんを寝かせて欲しいのです」


「わかった」


 と言って、リュージはカルマを連れて、2階の自分の部屋と、向かうのだった。

次回もよろしくお願いいたします!

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