07.息子、初めての討伐クエスト(超イージーモード)
お世話になっております!
リュージは、パーティメンバーであるシーラとともに、冒険へと向かった。
行き先はカミィーナから少し離れた場所にある、【初級・中級者用ダンジョン】。
ここは駆け出し冒険者がよく利用しているダンジョンだ。
出てくる敵の難度がさほどでもないこと、その割に経験値が美味しいということで、初心者たちはこぞってここを利用する。
……ただひとつ難点をあげるのならば。
このダンジョンの近くには、物資を補給できる場所も、そして身体を休める宿もないことだ。
いちおう、ダンジョンの近くに小さな村がある。
しかしそこはすでに廃村とかしており、泊まれる場所がない。
利用するためには、カミィーナから長い距離歩かないといけないのだが……。
それはさておき。
リュージとシーラは、ダンジョンへとやってきた。
「いよいよモンスター討伐なのです!」
「うん、頑張ろうねっ!」
ダンジョン入り口にて、気合い十分の若者たち。
今日の依頼は1階層で出現する、【スモール・バット】というコウモリ魔獣を狩ってくることだ。
敵の強さはそんなに強くないが、このコウモリはとんでもなく早いらしい。
「はわわっ、しーらたち、勝てるかなぁ」
ウサギ耳がぺちょん、と垂れる。
リュージは「だいじょうぶだよ、僕がいるから」
とちょっとかっこつけてしまった。そういう年頃なのである。
「わぁ! リュージくんかっこいいのですー!」
ぱちぱち、と含みも嫌みもなく、拍手してくるシーラ。
すごい新鮮だ。母から褒められる時と違って、純粋に嬉しい。リュージは照れたあと、出発した。
ダンジョンに潜るふたり。
前方を広がる暗闇。
どこからモンスターが出現するのか、わかったものじゃない。
それが……楽しい。
「わくわくしますねっ」
「だねっ」
ふたりは目当てのモンスターが出るまで、奥へと進んでいく。
進む。
進む。
進んで……「「あれ?」」
ふと、ふたりとも、立ち止まって首をかしげる。
ここはダンジョンの1階層、その一番奥の部屋だ。
「ねえ、シーラさん。コウモリ……みかけた?」
リュージの問いかけに、シーラが首を横に振るう。
「だよね……」
「あの……リュージくん。それと変なことがあるんですが」
「うん……僕もうすうす気づいてた」
リュージはここまで、無傷でこれた。
服も、肌も、武器さえも……傷一つついてない。
さもありなん。
「なんか……モンスター、いないよね?」
ここへ来るまで、リュージたちは一度たりとも、モンスターと遭遇していなかった。
「何かあったのでしょうか?」
「…………あったんだろうね」
そのときリュージの脳裏に、母の顔が浮かんだ。
まさかね……と思いつつも、抱いた疑念を捨てることができない。
「どどど、どうしましょう。モンスターがいなかったら、クエスト達成できないのですー!」
「…………」
と、そのときだった。
リュージは、奇妙な物を、視界の端にとらえた。
黒い山のようなものが、端っこに山となって積まれていた。
「な、なんでしょう……?」
「……行ってみよう」
嫌な予感。そして脳裏に、笑顔の母(ちょっと得意げ。褒めて欲しそう)。
到着。黒い山と思ったそれは……。
「ひぃっ……! こ、コウモリなのですー!」
そこにいたのは、スモール・バット。
それも大量にいた。
しかし飛んでいなかった。
……一カ所に、集められたいた。
「…………」
生きたスモールバットが集合して、山になっていたのだ。
それを近くでつぶさに見ると、わずかだが電気を帯びているようだった。
……リュージはコウモリに触れてみる。
ちょっとピリッとするだけで、痛くない。静電気に触れたような感じだ。
「これは……磁力魔法なのですっ」
その現象を解明したのは、シーラだった。
彼女の職業は魔術師(魔法使いとも言う)。
魔法の知識に長けている。
「磁力魔法……?」
「はいなのです。こう、相手を磁石にしてくっつけてしまう魔法なのです」
なるほど身体が磁石になっているから、コウモリたちはくっついているのか。
「けどおかしいのです……。【磁石化】は、最上級の雷魔法……。こんな初心者向けのダンジョンに来るひとが、使えないような魔法のはず……」
それを聞いて、リュージの脳裏で、母さんがずんどこ踊り始めた。
「母さん……」
あの人だ。そうに決まっている。
最上級の雷魔法を使えて、リュージたちの討伐対象を知っているのは、あのチートスペック母しかいなかった。
つまり……だ。
母が、やったのだ。
リュージたちが、クエストを達成できるようにと。
モンスターたちの動きを、磁石化で止めていたのだ。
……何これ。
難易度、低すぎでしょ……。
何せあいては、素早いだけの敵。それが動けなくなっているのだ。もう、簡単すぎるではないか。
「はぁ……」
重くため息をつくリュージ。
「どうしたのです?」
「いや……なんでもないよ。片付けようか」
とは言っても、このモンスターの山。
尋常じゃない数のコウモリが、集合体になっている。
「一匹ずつ倒したら時間がかかりそうだね」
「ならしーらの魔法で範囲攻撃するのです?」
「うん、いいね。そうしようか」
リュージは見張り。シーラが攻撃、と役割分担することにした。
シーラは杖を取り出す。
それは冒険に出発する前、母カルマから渡されたアイテムの一つである。
ごつごつとした木の枝の先に、七色に光る水晶がついている。
魔術師は杖を構えて、呪文を唱えようとした……そのときだった。
「え、うそっ!?」
シーラが慌てて叫ぶ。
「伏せてっ!」
リュージは言われたとおり伏せた。
いったい何が……とおもった、そのときだ。
ずがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!
と、千の雷が、洞窟内に轟いたのだ。
これにはリュージもびっくり仰天し、その場でへたり込んでしまった。
荒れ狂う雷が、コウモリの山を、一瞬にして灰にしてしまう。
雷は唐突に消えた。
あとにはモンスターを倒して手に入る魔力結晶だけが、残っている。
「し、シーラさん……ちょっと、やりすぎじゃない……?」
「ち、違うのです。しーらは普通の初級雷魔法を使おうとしたのです。そしたら……呪文を唱える前に、最上級雷【千雷】が発動したのです!」
詠唱の省略。そして、普通なら使えないはずの、最上級魔法が使用可能……。
……あきらかに。
この、シーラが持つ杖の効果だと思われた。母からもらった、この杖の。
「母さん……」
かくして、リュージたちはまったく苦労せず、初めてのクエストを、大成功に納めたのだった。
お疲れ様です!
夕方にもう一度くらい、更新したいと思います。がんばります。
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ではまた!