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56.息子、邪竜に連れ去られる【前編】

お世話になってます!




 宇宙で母と娘が、大バトルを繰り広げている、一方その頃。


 夜。

 リュージはホテルの部屋、ベッドの上で、ひとりドキドキとしていた。


 シャァアアアア………………。


 と、部屋の奥のシャワールームから、くぐもった水流の音がする。


「…………」


 リュージは顔を真っ赤にして、正座する。

 今、兎獣人のシーラが、シャワーを浴びて身を清めているのだ。


「うわぁ……どうしよう。すごい緊張する……」


 シーラは、リュージと同じ屋根の下で暮らしている。


 当然、彼女がシャワーを浴びることも、風呂に入ることも、あった。


 だが今は状況が違う。

 ふたりきり。

 見晴らしの良いホテル。


 そして眼前には、満点の星空……。


「ほし、ぞら……?」


 ホテルの窓から見える風景に、リュージは違和感を覚えた。


 今は夜。そして雲ひとつ無い夜空が広がっている。


 だのに……星がまったく見えないのだ。


「どうなってるんだろう……?」


 と首をかしげていた、そのときだ。


「りゅ、リュージくんっ」


 うわずった声が、背後から聞こえてきた。

 振り返るとそこには……風呂上がりの少女が、立っていた。


 髪の毛がしっとりと、お湯で濡れている。

 肌は紅潮し、額には汗をかいている。


 バスローブに身を包んだ、うさ耳少女のシーラが、そこに立っている。


「お風呂……でました……」

「ああ、うん。そっか……」

「はい……」


 シーラとリュージは、ともにベッドに腰掛ける。


 寝室は別にある。

 リュージたちがいるのは、リビングスペースに置いてあった、大きめのベッドだ。

 

 キングサイズのベッド。

 枕はふたつ。

 ……用途はひとつしかない。


「…………」

「…………」


 リュージたちは、距離を開けて座っていた。

 シーラの方から、風呂上がりだからだろう、花のような良い香りがする。


 もっと側で、彼女のぬくもりを、香りを、感じたい……。


 知らず、リュージはシーラに、そして彼女も、リュージに近づいてくる。


 腰を上げて、のそのそと、近づく。


 ぴた……っと、手が触れる。

 一瞬ふたりとも、手を引っ込めるが、それでもおずおずと……手を絡ませる。


「ごはん……おいしかったね」

「はい……。とってもおいしかったのです……」


 ここまでのことを軽く振り返る。

 ホテルに到着後、部屋の中を少し探索。


 その後ホテル内部をふたりで見て回り、夜、最上階のホテルで、夕食を食べたのだ。

「何が1番美味しかった?」

「おっきい海老さんがおいしかったのです」


 ふたりは他愛ない話をしながら、タイミングを計っていた。


「夜景、キレイだね」

「はい、キレイです」


 リュージはもう少し、体を寄せる。

 肩が完全に触れあった。


 シーラが体を、ぴくんっ、と反応させる。

 ふわり……っと彼女の髪の毛から、甘い香りが漂ってくる。


「……いや?」

「……ううん」


 シーラがリュージを見てくる。

 その目は潤んでいた。


「……嫌じゃないです。とっても、安心するのです」


 それはウソじゃないようだ。

 彼女の垂れ下がった耳が、ぱたぱた……と羽ばたく。


「…………」


 リュージはふれあった肩に、手を乗せる。片手、逆側の手。


 そのたびに、シーラが小さく身じろぎ、「ぁ……」「ん……」と艶っぽい吐息をはいた。


 手に触れるのは、シーラの柔らかな肌。

 すべすべとしていて、とても気持ちが良い。


 シーラの両手の肩に、手を置いている。 彼女は震えていた。


「……怖い?」

「きんちょ-、しちゃって」


「……うん。僕も」

「えへへ、じゃあしーらたち、一緒なのです」

「……だね」


 リュージだって緊張していた。

 ばくんばくん、と心臓が強く鼓動を刻んでいる。


 耳から心臓が出てしまうのではないか。

 それくらい、大きな心の音。


 手に汗がにじむ。

 その汗がシーラに触れて、嫌な思いをしたらどうしようかと、不安になる。


 だが……。


「ん……」


 ついに、シーラが、自分から目を閉じて、唇を突き出してきた。


「シーラ……」


 彼女が勇気を出してくれたのだ。

 受け入れる、体勢を取ってくれている。


 なら……男である自分がすべきことは、ひとつだった。


 肩を、ぐいっ、と抱き寄せる。


 体が密着する。

 お日様のような、暖かなシーラの体。


 ぷるんとみずみずしい唇。

 

 細く、折れそうなほどはかない体つき。


 すべてが……リュージを刺激した。


 もうたまらなく彼女が愛おしかった。


 キスをして、告白か。

 告白をしてから、キスか。


 リュージは迷う。

 だが彼女はもう、受け入れ体勢だ。

 自分ももう、早く彼女と口づけを交わしたくてしょうない。


 言葉を交わさずとも、すでにふたりの気持ちは同じだった。


「シーラ……」

「リュージくん……」


 こういうとき、目をつむるべきだろう。それがマナーだと、以前監視者チェキータータは言っていた。


 けど自分まで目をつむったら、ちゃんとキスができないかもしれない。


 だから、しっかりと、リュージは彼女の美しい顔を見やる。


 興奮しすぎて、どうにかなりそうだ。

 シーラももう、顔が真っ赤である。


 ふたりの吐息が重なる。

 あと数センチで、唇がくっつく。


 あと少し……あとほんのちょっと……。


 と、そのときだった。


【おじゃましまぁあああああああああああああああああああああああああす!!!】


 ばっりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!! 


 ガラス張りの、窓が、一瞬にして砕け散った。


「わあぁあ!?」「な、な、なー!?」


 ふたりともびっくりして、そのまま抱き合う。


 音の方を見やるとそこには……。


「か、母さん!?」


 邪竜カルマが、窓の外にいた。


 首をのばして、窓に顔をツッコんできたのである。


【りゅー君……。そして……シーラ】


 母の目が、ふたりをロックオン。

 その目は血のように赤く、ぎらぎらと輝いていた……。

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