53.息子、ホテルに到着する
お世話になってます!
カルマが眠りから自力で目覚めた、一方その頃。
リュージとシーラは、王都シェアノへと到着していた。
「わっわわっ! ひとがたっくさん!」
ふたりは馬車乗り場にいる。
時刻は午後3時ごろだろう。
シェアノにやってくる人、また帰る人で、その場はあふれかえっている。
馬車乗り場の前から広がる大通りには、さらに多くの人や馬車が、あっちへこっとへと歩いて行っている。
「王都ってこんなにひとがいたんですね」
「ね。前にも来たけど……あのときは夕方だったし、観光もできなかったら、あんまり周りを見る余裕って無かったんだよね」
以前遺跡調査へ行ったとき、シェアノで一泊したのだ。
そのときは到着が遅れて夜だったのである。
「今日泊まるホテルはどこにあるのです?」
はて、と首をかしげるシーラ。
今日はいつもの、魔法使いのローブは着てない。
ピンクのワンピースに薄手のカーディガン。
後の髪の毛はリボンで縛っている。
よそ行きの出で立ちだ。
「馬車乗り場の近くっていってたね」
「んーと……。あ、あれなのですっ?」
シーラが指さす先には、見上げるほどの大きなホテルがあった。
シェアノで一番高いホテルだと……旅行券をくれた人は、言っていた。
値段的にも、そして建物の高さ的にも、ほかにないくらい、でかい。
「でかいね……」
「おっきー……」
ほへー、と感嘆の吐息を漏らすリュージたち。
「あんなおっきな……ホテル、高そうなのです」
「でも宿泊費と三食の食事代はただだってさ」
「そうなんだぁ~……。いまからとまるの、楽しみなのです! お夕飯も……すっごくたのしみー!」
にぱーっとシーラが笑う。
可愛らしいさに、リュージは微笑む。
「じゃ、行こうか」
「はいなのですー!」
シーラとともに、リュージはホテル・メトロポリタン【シェアノ】へと向かう。
豪華な構えの入り口をくぐる。
ロビー。
そこには黄金の像と、噴水があった。
ホテルマンらしきひとたちが、荷物を持ったり、客を案内したりしている。
ロビー中央には巨大な樹木が立っていた。
樹木がロビーから上3階まで突き抜けており、吹き抜けになっている。
「…………」
「…………」
リュージたちは周りの様子にあっとうされながら、受付へと向かう。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
受付には、これまた美人の、知的な美人がいた。
「は、はい……。えっと、これを……」
リュージはもらった、ペア旅行券を、受付嬢に手渡す。
受付嬢はチケットを受け取り、リュージ、そしてシーラを見る。
微笑むと、うんうん、とうなずいた。
「確認しました。リュージ・ムースコスキーさまにシーラ・ジレットさまですね」
ホテルの予約の際、名字も聞かれたのだ。
竜に育てられたリュージには、名字はない。
だから適当に言ったのである。
ちなみにムースコスキーは、先日母が使った偽名をそのままぱくってる。
「こちら最上階がレストラン。その真下の階が、ムースコスキー様たちのお部屋となっています」
若干ムースコスキーと呼ばれることに恥ずかしさを覚えつつ……。
「ええっ!?」
と瞠目するリュージたち。
「さ、最上階の部屋に泊まれるんですかっ?」
「ええ。そういうプランですので」
「「ほえー……」」
すごいなぁ、と感心するリュージたち。
「ちなみにお連れ様と同室となるのですが、そこは了承なさってますか?」
リュージはシーラを見やる。
彼女は顔を赤らめて、こくり、とうなずいた。
「はい」
「左様ですか」
ニコニコしながら、受付嬢のお姉さんが笑っている。
カップルが微笑ましいのだろうか。
「それでは係員のものがご案内します。ごゆるりとお楽しみください」
「は、はいっ」「ありがとうございます、なのです!」
受付嬢のお姉さんと別れて、係員とともに、リュージは魔法エレベーターに乗る。
ホテルは全部で20階建て。
19階が、リュージたちの泊まる部屋だ。
エレベーターを降りて、最奥の部屋へと通される。
「こちらがお客様たちのお部屋となっております……」
「「…………」」
広い室内に、リュージたちは言葉を失った。
前に一度泊まった、王城の客室なみに、広い。
奥側はガラス窓。
巨大なベッドが1つ。
リビングスペースにはソファや蓄音機。
飲み物を冷やしておく、魔法フリーザー。
窓を開けるとベランダがあり、そこには小さなプールが見える。
恐ろしく大きな部屋の中に、リュージたちはいる。
ふたりはその場で棒立ちのまま、しばらく動けないでいた。
「と、とりあえず……座る?」
「は、はひ……」
リュージたちはソファに座る。
革張りの、真っ白なソファだ。
大きなそれが、5つもくっついている。
1つで4人掛けなので、20人も座れることになる。
だがここは、男女ペアで使う、つまり1組しか使われることを、想定してないはず。
「ど。どうしてこんな、無駄にソファが……?」
「さ、さあ……?」
リュージが座ると、シーラはその真横に座った。
他にも座る場所があるのだが。
「え、えへへ……。ひろすぎて、ちょっと落ち着かなくて。リュージくんの隣なら……落ち着くから」
「そ、そっか……」
「はい……」
しばらくソファに座って、もじもじとするふたり。
窓の外には、真っ青な空が広がっている。
「外……見てみる?」
「えとえと、夜景がきれーっていってたのです。だからあとでのお楽しみに、とってきたいのですっ」
なるほど。
そういう考えもあるのか。
「じゃあえっと、部屋の中探検する?」
「するー!」
リュージはソファから立ち上がる。
リビングスペースのすぐ横には、キングサイズのベッドがひとつ、ある。
「し、寝室はまたベツニあるんだってさ」
「へ、へえ……。じゃあ、なんでベッドがここにあるのです?」
「さ、さあ……。夜景を見ながら……一夜を過ごす、とか?」
「はぅ……」
おそらく事後、夜景を見るために、わざわざベッドがひとつ用意しているのだろう。
「…………」
「…………」
自分たちも、と思ってしまう。
どうしても、夜のことを意識するリュージたち。
「た、探検しよっか!」
「は、はひっ」
変な雰囲気になりそうだったので、とりあえずは、その場から離れることにしたのだった。
次回もよろしくお願いいたします!