52.邪竜、本物の孫ができる?
お世話になってます!
リュージがシーラとともに、王都へ旅行へ向かった。
一方その頃。
邪竜、カルマアビスはというと。
『おばあちゃまー……』
『ううーん……』
誰かが、カルマのことを揺すっている。
可愛らしい声だ。
女の子だろうか。
『ばあちゃんおきろよー! かあさんがごはんだってさっ!』
逆側で、また誰かが揺すっている。
今度は男の子だろうか。
『ううん……。おば、ちゃ? ばあ、ちゃん?』
ぱち……とカルマは目を覚ます。
体を起こすと……そこは自分の寝室だ。
そこに同い年くらいの、小さな少年と少女がいた。
カルマのお腹の上に、ふたりともが載っていた。
『よかったぁ。おばあちゃまおきたっ』
『ばあちゃんいつまでねてるんだよぉ。早くめしいこうぜー!』
『…………? あなたたちは、だれですか?』
目の前の子供を見やる。
獣人だ。
頭の上から、ウサギの耳が生えている。
子供たちは、きょとん、と目を丸くする。
『おばあちゃま……だいじょうぶ? おねつでもあるの?』
少女の方が、心配そうに眉をひそめる。
垂れ下がった目が、どことなく知り合いのウサギ少女を彷彿とさせた。
『やべっ、ばあちゃんがこわれた! おれ、かーちゃんよんでくる! かーちゃーん!』
少年はそう言うと、カルマから降りる。
ぴゅんっ、と部屋を出て行った。
『黒髪の……男の子?』
この世界において、黒髪の人間は珍しい。
カルマが知っている、黒髪の人間は、リュージくらいだ。
『おばあちゃま。おからだだいじょうぶ?』
『あ、いえ……。別に、風邪とかは引いてませんけど……』
『そっかぁ……よかったぁ……』
にこーっと笑うウサギの少女。
……どこか、面影を感じた。
よく知る人物のである。
『いや……まさかそんなね……。だってシーラはまだ結婚すらしてないですよ。子供なんてできるわけないですようんうん……』
と、独り言をつぶやいていた、そのときだ。
『おかあさま! 大丈夫なのですっ?』
と、聞き慣れた少女の声。
出入り口の方を見やると、そこには。
『し、シーラ……?』
顔かたちの作りが、シーラそっくりの……しかし、高い身長の女性がいた
顔に化粧がされている。
身長は160くらいだろう。
シーラの面影は残しつつも、体つきはまるで違った。
カルマの知っているシーラは、もっとぺったんこだった。
胸とか、おしりとか。
しかし目の前のシーラ(暫定)はどうだろう。
きちんと乳房にも尻にも、肉がたっぷりと載っていた。
成熟した大人の女が、そこにいた。
『おかあさま、いまカリューから聞きましたよ? おかあさまがお風邪を引いて大変だって』
シーラが心配げに眉をひそめて、こちらに近づいてくる。
ぴと……っとシーラが、カルマの額に手を当ててきた。
『良かった、お熱はないのです……』
『あ、えと……心配かけてすみません、シーラ』
『いえいえー。家族なのです! 心配なんて思ってないのですー!』
『そ、そうですか……』
それにしても、このシーラ。
さっきからちょいちょいと、おかしなことを言う。
『あの……シーラ? あなたに子供なんて、いつできたのです?』
まず、それを聞く。
『? いつの間にも何も……5年前にカリューとルーマの双子を産んだのです』
男の子がカリュー。
女の子がルーマという。
『ばあちゃんねぼけてんのかー?』
『おばあちゃま、やっぱりぐわいわるいのー?』
黒髪のうさ耳少年と、茶髪のうさ耳少女。
ふたりが、カルマを心配げに見てくる。
……この優しい性格。
どこかで見たような。
それに……黒髪。うさ耳。そして……。
『し、シーラ。その……もうひとつ、聞いて良いですか?』
『はいなのです。なんなのです、おかあさま?』
カルマは核心を突いた一言を言う。
『その……なぜあなたは、さっきから私のことを、おかあさまと呼ぶのですか?』
カルマとシーラに血縁関係はない。
だのに母と、少女は呼ぶ。
普通はあり得ない。
だが血縁関係が無くとも、母と呼べる関係性があった。
母、ではない。
義母、だ。
つまり……。
『それは……』
シーラが答えようとした、そのときだ。
『母さん。シーラ。大丈夫?』
がちゃ……っと部屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは……リュージだ。
背が高くなっていた。
体つきもしっかりしている。
だが顔かたちは、リュージのままだ。
背の高いイケメンに、成長していた。
『ぱぱー!』『おとーさーん!』
カリュー、およびルーマが、リュージめがけて、走って行く。
シーラの子供たちは嬉しそうに笑うと、リュージにしがみつく。
『ぱぱー!』『おうとさーん!』
……。
………………。
…………さて。
状況を整理しよう。
まずカリューとルーマは、シーラの娘だ。
そしてふたりは、リュージを見て、父と呼んだ。
『あば……あばばば……』
がたがたがたがた……とカルマの体が震える。
『しししし、シーラ? りゅりゅりゅ、りゅー君。もももも、もしかして2人は……?』
恐ろしい予感が胸をよぎる。
震える指で、カルマはふたりの子供を指さす。
『その子たちは……りゅー君と、シーラの娘……なのですか……?』
いやまさか。
そんないや。
まさかありえない。
だが息子たちは、きょとんと目を丸くしてる。
やがて……決定打を放つ。
『何言ってるの? そのとおりだよ』
『しーらたち結婚して、子供産んだのです!』
……。
…………。
…………あ。
「あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
カルマはガバァッ……!
と起き上がる。
「だぁあああああめぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
カルマの絶叫。
シーラとリュージ結婚+シーラの懐妊という事実に、カルマは叫ぶ。
「まだ早いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! 結婚も子供も! お母さんを倒してからにしろぉおおおおおおおお!!!!」
カルマは「変身!」とつぶやく。
どっごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
部屋の中なのに、邪竜の姿になる物だから。
天井をたやすくぶっ壊した。
そのままカルマは、空へ向かって飛んでいく。
【りゅー君の貞操が! りゅー君の初めてが! シーラに奪われたぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!】
いやそれ、普通女に対して使う表現じゃない?
とツッコむ物は、この場にいない。
なぜならばーー
ーー宇宙にいるからだ。
カルマは超スピードで空を駆けた。
上へ、上へ……。
ひたすら上空へと飛んでいった。
やがて重力を突破し、はるか宇宙へとやってきた次第である。
【あ゛あぁああああああああ滅ぼすぅうううううううううううううう! この星ほろぼしてやるぅうううううううううううううううううううううううう!!!!!】
カルマは万物破壊のスキルを発動させる。
それを破壊の雷を、ブレスに乗せて、そのまま一気にはき出せば。
こんな星、一瞬にして消し飛ばせる。
息子がシーラに取られた世界なんて……もう! 消し飛ばしてやるぅうう!
と思っていたのだ……。
「カルマ。ストップストップ」
いつの間にか、目の前に。
金髪のエルフが、出現した。
長身。爆乳。垂れ目。
彼女は邪竜の監視者。
名前を……。
【チェキータそこどいて! その星殺せない!】
「どくわけ無いでしょうまったく……。いったいどうしたの、急に飛び出したりして」
やれやれ、と大人ぶった態度で、チェキータがすぅ……っとカルマの顔の側まで移動。
【だってりゅー君が! シーラを孕ませて! カリューとルーマが!】
「? ああ……なるほど……。あなた寝ぼけてるのね」
あきれ調子で、チェキータが言う。
【寝ぼけて……る?】
ふと、冷静になるカルマ。
「そうよ。リューがしーちゃんを孕ませる? そんな事実はないわよ」
【し、しかしカリューは? ルーマは? かわいい実孫は?】
「いないわよそんな子。ふたりはまだ付き合ってすらないわよ」
チェキータに言われ、カルマは気付いた。
【もしかして私……寝ぼけてました?】
「はじめっからそう言ってたじゃないのよ」
カルマはホッと安堵の吐息をつく。
そして【最上位転移】を発動。
宇宙空間から、地上へと戻る。
「なああんだ! 夢かぁー!」
天井が破壊された、カルマたちの家。
万物創造を使って修理する。
「そうですよねっ! 夢ですよう。はー良かった。まだそうですよね、恋人ですらないんですもんねっ」
るんるん、と上機嫌のカルマ。
そんな感じで騒動は収まったのだが……。
「…………。あれ、りゅー君がいないですね? どこいったのですか?」
いま新連載やってます。
リンクを下に貼ってますので、よろしければぜひ!
次回もよろしくお願いいたします!