51.息子、旅行へ出発する
お世話になってます!
娘の協力が得られてから、1週間後。
早朝、玄関先にて。
大きな荷物を抱えたリュージたちが、今まさに、王都へと出発しようといていた。
「シーラ、忘れ物はない?」
「ないのです。準備は万端なのです」
ふんす、と気合い十分のシーラ。
リュージも準備を整えていた。
リュージたちの前には、金髪褐色娘、元魔王四天王・ルシファーことルコ。
「ぱぱ。しーら。んっ!」
ルコがリュージに両手を伸ばしてくる。
リュージは娘である彼女を抱っこして、よしよしと撫でる。
「るーちゃん。いってきますなのです!」
よしよし、とシーラも、ルコの金髪を撫でる。
「おみやげ。きぼう。うまい。くいもの」
「はいなのです! おいしいの買ってくるのです!」
「きたい。たかまる。るぅ。たかまる」
ンフー、とルコがぬぼっとした表情のまま、鼻息をつく。
「…………」
リュージはルコを抱っこしながら、天井を見る。
その先にある、二階、自分の部屋。
そこのベッドで眠っている母のことを。
「ぱぱ。かるま。しんぱい?」
胸の中のルコが、尋ねてくる。
「……うん。ごめん、シーラ。最後にちょっと、母さんにあいさつしてきていい?」
リュージはシーラと、そしてルコに尋ねる。
ふたりともうなずく。
ルコを下ろして、二階へと向かう。
自分の部屋に入る。
ベッドの上には……カルマがいた。
「ぐー……。ぐー……。んへへぇ~……りゅーくんそんな、お母さん大好きだなんて……ぐへへ……」
とても幸せそうな表情で、ぐっすりと眠っている。
仰向けに眠るカルマ。
その顔の上には、【紫色の小さな雲】が、あった。
それがカルマの顔のあたりを、ふよふよと浮いている。
「【眠雲】」
いつの間にか、隣にいたルコ。
紫色の雲を見て、つぶやく。
これがルコのいっていた、秘策。
進化したことで手に入れた、ルコの新しい能力だ。
「あの雲のガスを吸っていると、深い眠りにつく……って、魔法なんだよね?」
「そー。きょうりょく。ねむり。かるま。ぐっすり。ゆめのなか」
ルコがカルマに近づく。
つんつん、とカルマのほっぺをつつく。
「んへへ~……。りゅーくんとピクニックですよぅ……。たのしいなぁー……」
「母さん……」
夢の中でさえ、カルマの関心事は息子だった。
息子の安全と幸せ、それがカルマにとっての幸福なのだろう。
息子のことを、大事にしてくれている。
リュージはそんな母が大好きだ。
だからこそ……こんなふうに、強引に出かけることに、罪悪感はある。
だが、それでも。
リュージは、彼女と深い仲に、なりたいのだ。
「るぅ。ねむりのくも。ぱぱ。かえってくる。がんばる」
リュージたちが帰ってくる、明日まで。
ルコが眠雲の魔法を、カルマにかける。
それが今回の作戦だった。
「ルコ。ごめん。迷惑かけるね」
「なに。きにせず。いつも。るぅ。めいわく。かける。おあいこ?」
ふへっ、とルコが笑う。
「ありがとう」
リュージはルコの頭を撫でる。
そして……母の寝顔を見やる。
「ぐー……。がー……。えへへ~……」
「母さん……」
ごめんね、という言葉が、口をついた。
母のことは大好きだし、愛してる。
でも……シーラのことも、好きだし、できればその先も……と考えている。
母には、とても、とてつもなく、申し訳ないと思っている。
それでも……リュージは選んだのだ。
自立の道を。
自分の道を。
「…………」
リュージは母の枕元へと行く。
そして……ちゅっ、と。
母の額に、キスをした。
「母さん、僕、いってきま」「はぁああああああああああああああああ!!!!」
そのときだ。
母がクワッ……! と目を開けたのだ。
「か、母さんっ!?」「カルマさん!」
唐突に起き上がった母に、リュージたちはびっくりする。
「はぁ……はぁ……。目覚めが最高……。天使が、天使のキスが、私を目覚めさせましたね……」
カルマが、すっごいいい笑顔でいう。
「うそ。ありえない。ねむり。くも。どんな。にんげん。ねむらせる……」
ルコが瞠目している。
「おや? みんな。もう起きてるのですか?」
カルマがリュージたちを見て、はてと首をかしげる。
「! まさか……! はぁしまったぁ! 寝坊したー!」
母が壁の時計を見て、頭を抱える。
「寝坊した寝坊したー! ごめんねりゅー君、今すぐに朝ご飯を作るから!」
慌てるカルマを見て、リュージは気付く。 たぶん、カルマは今の状況を、把握してない。
原理はどうアレ(息子のキスで目が覚める)、母は目覚めた。
だがそれだけだ。
起きがけであり、まだ状況が掴めてない。
息子たちが旅行へ行こうとしていることを、理解してない。
「かるまー」
ルコが素早く動いて、カルマの側による。
「どうしましたルコ? いまお母さんめっちゃ急いでます! 息子たちにご飯作らないと!」
「おばあちゃま。だっこー」「しょうがないですねー!!」
カルマはルコを、神速で抱き上げる。
カルマは、孫に【おばあちゃん】と呼ばれたがっていたのだ。
「おばあちゃま」「なんですか♪」「おやすみ」「へ?」
ルコが再び、カルマに眠りの雲をあびせる。
顔の周りに、紫の雲が出現。
「こ、これは眠り魔法! ルコこれはいったい…………きゅう」
カルマがその場で崩れ落ちる。
そのときでも、ルコを落とさないよう、仰向けに倒れるのだから。
この人の家族への愛は、そうとうだなと、リュージは思った。
リュージはシーラと手伝って、カルマをベッドに乗せる。
布団を掛けて、オッケー。
「かるま。よそーがい。ぞう。いっしゅん。ねむる。まほう。おきる。そうていがい」
ルコが戦慄していた。
そんな強力な魔法を打ち破るなんて……。
「ぱぱ。いま。でる。かるま。また。おきる。まえ」
「うん……」
リュージは今度こそ、旅行へと出発することにした。
「母さん。行ってきます」
今度は行ってきますのキスを控える。
また起きられては、困る「いってらっしゃーーーい!!!」
ガバッ……! とカルマが起き上がる。
リュージたちはずっこけそうになった。
また眠りの雲が、打ち破られてる!
息子が外出する。
息子に行ってらっしゃいのあいさつをしないと!
そのことが、母を起こしたのだ。
「あれ、りゅー君。どこへ」「おばあちゃまー」「るこー」「ていー」「ぐー……」
母が再び眠り出す。
ルコは額に汗をかきながらいう。
「かるま。くいとめる。ここ。まかせて。いって」
「う、うん。ありがとう……」
「いってきますなのですっ」
……かくして、リュージとシーラのふたりは、旅行へと向かったのだった。
いま新連載やってます。
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ではまた次回!