50.息子、娘が協力を買って出てくれる
お世話になってます!
夕食時にて、母へのカミングアウトの仕方を考えた。
それから数時間後。
夜。
自分の部屋にて。
リュージはベッドの上に横になりながら、どうするかをモンモンと考えていた。
「…………」
リュージはちらり、と隣を見やる。
「うふふ……りゅー君だぁいすきぃー……。ぐー……。ぐー……」
カルマが幸せそうな表情で、寝息を立てている。
あいかわらず夜は、母と娘+シーラの四で、眠っているのだ。
「…………」
「あの、あの……リュージくん」
ふと、逆サイドから、シーラの声がする。
「シーラ。どうしたの?」
「あのね、しーら考えたのです。旅行、リュージくんとカルマさんとで、行ってきたらどうでしょうか?」
シーラの提案に、リュージは首をかしげる。
「あの、旅行券、男女ペアなら良いみたいなのです。だから恋人じゃなくてもいける。だからカルマさんと……ね?」
「でも……それじゃあシーラが行けないじゃん」
シーラは笑って首を振るう。
「しーらは良いのです! もともと当てたのはリュージくんなのです。決める権利はリュージくんにあるのです」
「…………」
「カルマさんと一緒に行くなら、別に問題ないのでしょう? カルマさんも嬉しい。リュージくんもいつもお世話になってるカルマさんにお礼ができる。みんな幸せなのです」
この子は……本当に、優しいんだなと思った。
そして……いとおしさを感じた。
この優しい少女と、もっと近づきたいと思った。
心も、体も、そして……関係も。
「……やだ」
だからこそ、口をついたのは、そんな言葉だった。
「やだ?」
「うん。やだ。僕は……シーラと一緒に、旅行へ行きたいんだ」
「リュージくん……」
シーラの目が潤む。
「シーラはどうなの? 僕とじゃ……いやだ?」
おそるおそる、リュージが尋ねる。
少しの間があってから、
「……嫌じゃない、のです」
切なげに、ウサギ娘がそう言う。
たぶん彼女も、リュージと同じ気持ちを抱いているのだろう。
あとはもう、きっかけさえあれば、ふたりは結ばれる。
そのきっかけに、今回の旅行はぴったりだった。
だからこそ行きたいのだ。リュージも。そして……シーラも。
でも現実問題として、ふたりきりでの旅行を、隣で寝てる母は許してくれないだろう。
さてどうするべきか……と思っていた、そのときだ。
「はなし。きかせて。もらった」
リュージとシーラの間から、小さな女の子の声がする。
布団から、にゅっ、と褐色幼女が顔を出す。
「ルコ。起きてたの?」
「うん。おひるね。たくさん。ねれぬ……」
どうやらお昼寝をいっぱいして、目が覚めてしまったのだろう。
「ぱぱ。はなし。きいた。りょこー。はなし」
ハッ……! とリュージは背後を振り返る。
ルコが聞いていたということは、もしかして母も……。
そうなったら、王都は火の海に!
大変だ! どうしよう!「ぐー」「あ、良かった寝てた……」
この国滅亡の危機は、こうして回避されたのである。
リュージはルコの方を見やる。
「るーちゃんおいで。抱っこしましょうなのです。くっついてるとあったかくなって、眠れるよ?」
「うん。しーら。だっこー」
ルコがシーラの体に抱きついて、気持ちよさそうに目を細めていた。
よしよし……とルコがシーラに、頭を撫でられてる。
「それで。るぅ。きいた。りょこー。いきたい?」
ぬぼっとした目で、ルコが聞いてくる。
だがその目には、真摯さがあった。
「……うん。そうなんだ。僕、シーラと一緒に行きたい」
「でも。かるま。ゆるさない。かも?」
かも、ではない。
あの過保護で最強のドラゴンは、絶対に許さない。
母と長く一緒にいる、息子だからこそ、それは確信を持ってそう思えた。
「そうだよね……。だから、どうしようかなって思ってるんだ」
「ふむ」
ルコがむむむ、とうなる。
ややあって、こくり、とうなずいた。
「ぱぱ。きけ。るぅ。やる」
ルコがまじめな顔でうなずく。
「やる?」「なにをやるのです、るーちゃん?」
シーラの腕の中で、ルコが強くうなずいて言う。
「るぅ。かるま。とめる」
ビシ……! とルコが、睡眠中の母を指さす。
「ぱぱ。しーら。りょこう。かるま。じゃま。とめる」
「えっと……母さんが邪魔しないように、止めてくれるってこと?」
「そー。ぱぱ。めーさつ」
うんうん、とルコがうなずく。
「そんな……無理だよ」
なにせ相手は、世界の破壊をたくらんだ邪神よりも強い、史上最強のドラゴン。
ルコは元・魔王四天王。
確かに人間と比べれば、遥かに強いが、しかし無敵な母には、ルコだってかなわない。
「ぱぱ。きにしない。るぅ。けっこー。つよい」
んふー! と鼻息をもらすルコ。
「それに。ひさく。ある」
「秘策?」「なんなのです?」
リュージはルコから、【秘策】とやらを聞き出す。
「ルコ。そんな力あったの……?」
「さいきん。できる。しんか? したから」
「なるほど……」
確かに【その能力】を使えば、カルマの足止めできるかもしれない。
無理だと思っていた、旅行への道。
そこにルコという協力者を得ることで、かすかに光明が見えてきた。
晴れやかな気持ちになるリュージだが、しかしと思い直す。
「けど……やっぱり悪いよ。ルコに迷惑かけるわけだし」
「るぅ。きにしない。ぱぱ。たくさん。おせわ。してもらってる。おんがえしー」
おー、と両手を広げるルコ。
ルコは喜んで、協力してくれるみたいだ。
なら……と思って、けど……とあきらめる。
「……でも、やっぱり母さんに悪いような」
母の過保護は、リュージへの愛情の裏返しだ。
母は別に、いじわるでシーラとの仲を引き裂こうとしているのではない。
リュージが女の子と付き合うことで、たとえば別れてしまったときに、悲しい思いをしたらどうしようとか。
そういうことを心配しているからこそ、カルマはリュージから、異性を遠ざける。
……まあ、ちょっとは、母として息子を他の女に取られることを、嫌がってるからという理由もあるカモだけど。
それでも……母は悪気があって、過保護になっているのではない。
心配してくれる母に黙って、旅行へ行こうとするのは、やはり申し訳なさがあった。
それを聞いたルコは、じっ……とリュージを見た後、尋ねる。
「ぱぱ。なに。したい? こころ。なに。したい。さけぶ?」
「…………」
ルコが言う。
「いちばん。だいじ。ぱぱ。きもち。ぱぱ。なに。したい?」
何をしたいのか。
そう考えたとき、リュージの心の声が、意思となって、口をつく。
「……シーラと、旅行に行きたい」
好きな女の子と、と言いかけて、口を閉ざす。
それは、まだ早いのだ。この旅行で、親密になって……そのときまで、取っておく。
「ん。なら。いけ。るぅ。たくさん。おうえん。てだすけ? する」
うぉおお……とルコが奮起する。
「リュージくん……」
シーラが、ルコが、リュージを見やる。
リュージは決めた。
「じゃあ……ルコ。協力、してくれるかな?」
「ん。しょーち。おおぶね? のった。ぱぱ。おまかせ」
んふー、と満足げにルコがうなずく。
こうして、娘の協力のもと、リュージはシーラと旅行へ出かけることになったのだった。
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「回復術神の気ままな旅~勇者をかばって倒れたおっさん、回復魔法の衰退した未来の世界で、治癒の神になってた件」
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ではまた!