表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/383

49.息子、母が王都を火の海に沈めないよう、考える

お世話になってます!



 王都にある高級ホテルへの、1泊2日、ペア宿泊旅行券を手に入れたリュージ。


 その日の夜、夕食の席にて。


「さあみんな! お夕飯ですよ-!」


 リビングにやってくるリュージたち。


 リュージの隣には褐色幼女悪魔のルコ、そして逆側にはカルマ。


 正面にはシーラ、というふうに、テーブルを囲んでいる。


「最近ちょっぴり寒くなってきましたからね、お鍋にしましたっ!」


「作りすぎでしょ……」


 テーブルの上には魔法コンロ(ひねると火がでる魔法のコンロ)が5つあり、それぞれ別の鍋が置いてある。


「わぁ……! わぁ……! カルマさん、これ全部食べて良いのですっ?」


 シーラがキラキラした瞳で、並んでいるお鍋を見やる。


「ええ、海鮮、キムチ、トマト、ちゃんこ、もつ鍋。好きなのお食べください」


「わーい! いっただきまーすなのですー!」


 シーラは猛烈な勢いで、鍋から具をよそい、がつがつがつがつ! と食べ出す。


 小柄な見かけの割に、大食いなのだ。


「ぱぱ。あちち。ふーふー。して?」


「うん、良いよ」


 リュージは小皿を手に取ろうとする。


 そのときだ。


「ちょっと待ったぁーー!」


 カルマが小皿を、リュージから奪い取る。


「お鍋から取るのは、お母さんがやります」


 そう言うと、カルマはちゃんこ鍋から具を取り、ふーふーする。


「むぅ。かるま。じゃま。ぱぱ。ふーふー。ほしい」


 どうやらルコは、リュージにやってもらいたかったらしい。


「いけません。お鍋の具を取るときに、汁が飛んで、手にあたってやけどしたらどうするんですか! 危ない危ない!」


 カルマの表情は真剣だ。


 この人の厄介なところは、心から息子の身を心配するところである。


 悪気がないのだ。だからこそ、たちが悪いというかなんというか……。


 カルマはお鍋の具を、ルコにあーんとする。


「や。ぱぱ。いい」


「むぅ。お母さんでは不足ですか?」


「ぱぱ。いい。ぱぱー」


 ぴとーっ、とくっついてくるルコ。


「ルコ。良いですか。お鍋の汁が飛んで、りゅー君が大やけどを負って入院したら、いやでしょう?」


 鍋の汁で火傷なんておうわけないのだが……。


 しかし母の目は、本気だった。


 ぶるる……っとルコが身震いする。


「や。ぱぱぁ……。やだぁ……」


 目に涙をためて、ルコがリュージにしがみつく。


「大丈夫だよルコ。やけどなんて負ってないよ」


 リュージは安心させるように、よしよしとルコの頭を撫でる。


「ほんと?」


「うん、ほんとだよ」


「よかったぁ……」


 ほっ……と安堵する娘。


「えぐ……ぐすぅ……。う、美しい親子愛だよぉ……。本にして出版したいくらいだよぉ……」


 感動して大泣きする母。


「しなくていいから……」


 あきれる息子。いつも通りの風景だ。


 だが……。


 リュージは鍋をつつきながら、考える。


 考えるのは、先ほど手に入れた、カップルペア旅行券だ。


 ちら……っとリュージはカルマを見やる。


「さぁルコ。たぁんとお食べ。たっくさんたべて、お母さんのように強くなるんですよぅ」


「それ。むり」


 カルマがルコに飯を食わせている。なんだかんだ文句言いながらも、ルコは大人なしくご飯を食べていた。


 リュージは母が小皿に取った具を食べながら、考える。


 どうしよう……。


 リュージには二つの選択肢がある。


1.旅行のことを、素直に話す。

2.旅行のことを、隠して行く。


 まず1を選択したとしよう。


 するとたぶん、こうなる。


『りゅー君……』


 暗い表情の母。


『わかりました。お母さんちょっと出かけてきますね』


『母さん! どこ行くの!』


 リュージの制止をふりきって、カルマは邪竜の姿に変身。


『お母さんちょっと王都を火の海に変えてきますからぁあああああああああ!』


 高速で飛び去っていく邪竜。


 リュージが必死になって、母に追いつこうと馬車に乗って向かう。


 しかしそのときにはすでに……。


 ごおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!



 王都は火の海に沈んでいた。


『きゃー!』『たすけてー!』『邪竜よおぉおおお!』『やつが王都に火をはなちやがったぁ!!!』


 逃げ惑う人々。


 王城のてっぺんに座る、母カルマ。


『ああ、りゅー君』


 邪竜姿で、にっこりと笑う母。


『見てください。王都が火の海に沈みましたぁー』


 目があっちの世界へ行っている母が、楽しそうに言う。


『ほーらりゅー君が宿泊予定のホテルも、今や炎に包まれてますよぉ。これじゃあ泊まりたくっても泊まれませんねぇ。あーーーーーーはっはっはっはーー!』


 ……以上。


 妄想終了。


 うん、危険すぎた。


 では選択肢2、つまり旅行のことを黙っておいて、こっそりと旅行へ向かうとした場合。


 するとたぶんこうなる。


『母さん、明日までシーラと一緒に、王都で仕事いってくるね』


『お母さんもついて行きます!』


『いや僕らだけでいくから』


『お母さんもついてきます!』


『いやついてこないで大丈夫な、安全な任務だからほんとついてこないで』


 ぴたっ……。


『……………………りゅー君? なにかお母さんに、隠し事、してなーい?』


 母が微笑む。


 口元は笑っているが、目が笑ってない。


『し、してないよ』


『ほーんとーですかぁ? 嘘ついてもお母さんには通用しませんよ-? ウソを見抜くスキルがありますよー?』


 実際にそんなスキルがあるかは、リュージは知らない。


 だがカルマは神殺しの称号を得たことで、たくさんのスキルを身につけている。


 ウソを看破するすべを持っていても、おかしくない。


『さありゅー君正直に言いましょう』


『はい……。実は……シーラと……』


 結局はふたりきりで旅行に行くことを、白状してしまうリュージ。


『ふ、ふふふ、ふふふふふふ』


 旅行の話を聞いたカルマが、怪しく笑う。


『ふふふふふ、ふふふふふふ……』


『か、母さん?』


 するとカルマが立ち上がると、


『ふっざけんなぁあああああああああああああああああああああああ!!!!』


 邪竜の姿になる。


 そして王都の方向に向けて、顔を向ける。

 すぅううううう………………と息を吸い込んで……。


 びごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 ドラゴンの息吹を、王都に向けて一直線にはき出す。


 破壊の光線となったそれは、リュージたちのすむカミィーナや、その直線上にある街を全て破壊。


 そして王都の城壁、町並み、はては王城までを、ブレスで消し飛ばす。


 あちこちで上がる火災。


 炎に沈む町並み。


『許しませんよぉ! お母さん、不純異性交遊は、ゆるしませんよおぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 びごおおおおおおおおおお! びごぉおおおおおおおお! びごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 カルマはブレスをはきまくる。


 王都だけじゃなく、国中の街という街を、火の海に沈めていた。


 ……以上、妄想終了。


「どっちにしろ王都が……火の海に沈むじゃないか……」


 これもうどうしろって言うのだろうか……。


 すると……。


 くいくい。


 と、ルコがリュージの服を引っ張ってきた。


「ぱぱ。どうした? かんがえごと」


 ジッ……とルコがリュージを見てくる。


「え、な、なんでもないよっ?」


「そ? でも。ごはん。たべて。ない」


 さっきから食事が進んでないことを、ルコは見ぬいていたらしい。


「りゅりゅりゅ、りゅー君どうしたのおおおおおお!? ご飯食べてないけど、病気!? ねえ病気なんですかぁ!?」


「ち、違うから。病気じゃないからっ!」


 リュージは母を安心させるよう、鍋をがつがつと食べる。


 しかし……ほんと、どうしたものだろうか。


 旅行の件、打ち明けるべきか、否か……。


 いずれにしても、人に迷惑をかけてしまうだろうことは、明白なのだが……。

次回もよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ