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47.邪竜、孫と息子と冒険(ピクニック)に出かける【前編】

お世話になってます!



 カルマが風邪を引き、息子に甘えまくってから、2週間が経過した、ある日のこと。


 季節は秋。


 夏の暑さが一段落し、カミィーナの街の近くにある天竜山脈には、紅葉が見られるようになった。


 この日リュージは、ギルドからの依頼を受けて、天竜山脈をえっちらおっちらと登っていた。


「秋だねー」

「秋なのですー」


 リュージは仲間の少女とともに、周りの景色に見入る。


「シーラは秋好き?」

「ハイのなのです! ご飯がとっても……おいしいじきなのです!」 


 にぱっと笑うこの少女、頭からウサギの耳をはやしている。


 彼女は兎獣人ワーラビットという獣人の一種である。


 ぺちょっと垂れたロップイヤーに、気弱そうな目が特徴的。


 体つきは幼く、顔つきも実年齢よりマイナス5歳ほど若く見える。


 名前をシーラという。リュージの相棒の魔法使いだ。


「秋はとってもとっても美味しいものが多くって困るのです! おいもさんでしょう? 柿でしょう? 栗でしょう?」


「シーラは本当に食いしん坊だね」


 リュージは微笑む。


 と同時に不思議に思う。この少女、たいそうな大食いなのだが、体にはどうにも栄養が行き渡っているようには見えない。


 胸にも尻にも肉はない。


 ではいったい栄養はどこへ……いや、やめておこう。シーラはこのままで十分かわいいのだ。


「どうしたのです?」


「あ、いやなんでもないよ」


「そうですかー」


 とそのときだ。


 山の腐葉土に、足を取られて、


「はわっ!」


 すてーん! とシーラが転んで、その場に尻餅をついたのだ。


「あいたたたた……」


「だ、大丈夫シーラ?」


 リュージはすかさず駆け寄って、シーラに手を伸ばす。


「あ、ありがとうなのです……リュージくん……」


 ぽっ……と頬を染めて、シーラがリュージの手を取る。

 

 よいしょと抱き起こす。その拍子に勢いがつきすぎて、


「わわっ!」「わっ……」


 リュージとシーラは、正面から抱き合うような形にある。


「ご、ごめんね……」

「う、ううん……。こっちこそ、ごめんなのです……」


 しばし山道の途中で、(偶然にも)抱きあうふたり。


 すぐに離れるだろうところだが、しかし、どちらもその場から離れようとしない。


 シーラがすぐ近くにいる。大きな瞳。ぷるっとした唇。


 花のような、気が遠のくほど良いにおい。

 そしてふれあう体から伝わる、体温。


「リュージくん……」

「シーラ……」


 どきどきするふたり。ややあってシーラが顔を真っ赤にして、体をさらに近づけようとしてくる。


 こ、これはもしや……いや考え違い? いやでも良い雰囲気だぞ……。


 とリュージはシーラを抱き留めようとした、そのときだった。


 どっがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!


 リュージとシーラの立っている、地面が。

 こんもりと盛り上がった、と思ったその瞬間に、爆発したのだ。


「わああああ!」「はわああああ!」


 ふたりは逆方向に、すってんころりんと転ぶ。


 大量の土砂が、吹き上がり、空から降り注ぐ。


 だがリュージもシーラも、体に土がついてない。


 よく見ると、自分たちの体には、薄い膜のようなものが張ってあった。


 たぶん【結界バリア】の魔法だろう。

 さて。


 先ほど土の爆発と言ったが、それは実は性格ではない。


 何か巨大な物が、地面から飛び出てきた……というのが正しい表現だ。


 ではその巨大な物とは、いったいなにか……?


「も、モンスターなのです?」


 シーラが慌てて杖を構える。


「いや、まあ……うん。その一種だけど……違うよ、シーラ」


「?」


 リュージが見上げるそこには、黒い、巨大なドラゴンがいた。


 全身が、まるで黒い剣でできてるような、とげとげしく、それでいて光沢のある鱗。


 口から生える牙は、地獄の針山を彷彿とさせる。


 目は黄金の色をしており、は虫類のような縦に割れた瞳孔をしている。


 見上げるほどの威容をたたえ、体全身から、常に暗黒のオーラが漏れている。


 初めてこの竜を見た物がいれば、誰もが恐怖を抱いて逃げ出すだろう。


 あるいは失神、あるいは見ただけで死ぬかも知れない。


 それほどまでに禍々しく、恐ろしい外見の黒竜。


 名前を邪竜、カルマアビスと言った。


【りゅー君……】


 カルマアビス……カルマは、リュージを見下ろして言う。


【だめだですよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!】


 情けない声音で、そう言う。


【だめだめだめです! りゅー君にラブコメは、まだ、早い! 早すぎます!】


 ふぎゃー! と涙目になりながら、カルマがわめく。


【良いですかシーラ! 良く聞きなさい!】


「は、はひ……」


 シーラを見下ろしながら、邪竜が言う。


【もしもりゅー君とつきあいたいというのなら! このお母さんを倒してからにしなさい!】


 話はそれからだ! と母が言う。


【お母さんより弱い人間に、超超愛しているいとしの息子を任せられるわけないでしょうがっ! まかせるわけには、行かないのですよーーーーーーーー!】


 カルマはゴワァアアアアアア! と口から灼熱の炎を吐きながら、そんな無茶ぶりをしてくる。


「そんなぁ、無理なのですよぅ……」


「……だよね。母さん、普通に世界最強だもんね」


 母カルマは、115年前。


 この世界を破壊しようとたくらんだ、邪神王ベリアル。


 そいつを食らったことで、神を超える強さを手に入れた。


 ……そう、神を殺し、神を超越する力を持っているのである、この母。


 普通の獣人であるシーラが、勝てるわけがない。


 リュージたちが無理だというと、


【なーーーーーーーーーーら! りゅー君とつきあうのは諦めることですね! もっと強くなって出直すのですね!】


「ど、どうすればカルマさんのように、強くなれるのですかー……?」


 シーラの問いかけに、カルマは、【そんなの答えは一つに決まってます】


 穏やかな声音で、【変身】そうつぶやく。

 すると見上げるほどの邪竜は、その姿を変化させる。


 体は徐々に小さくなる。


 とげとげしい体は、美しい丸みを帯びたボディラインへと変化する。


 そこに立っていたのは……黒髪長身の、絶世の美女だ。

 

 長くつややかな黒髪。


 乳房と尻がでて、腰は折れそうなほどに細い。


 白い肌に大きな瞳。


 そしてその瞳は……よく見ると、きらきらと、子供のように純粋剥くな輝きを帯びていた。


「良いですかシーラ。お母さんが強い理由。いや、秘訣とでも言うのでしょうか。それはひとつしかないのですよ」


 カルマはシーラに近づいて、その頭を優しく撫でる。


「そ、その秘訣とはっ?」


 カルマは微笑んだまま、こう言った。


「息子への溢れんばかり……愛。それがお母さんに、無限のパワーを与えてくれるのです……」


 決まった……みたいな、ちょっと得意げな表情で、カルマが言った。


「そ、そっかぁ……」


「いやなに感心してるの。違うよ。母さんが強いのは邪神を倒して食ったからでしょ?」


 するとクワッ……! とカルマが目を見開く。


「ちっがーーーーーーーう! 違いますよ!」


 母が大きな声を張り上げる。


「お母さんが強いのはっ! りゅー君がいるからです! 愛しい愛しい私の天使がいるからこそ、母は天使から無限のパワーを得て強くなるのです!」


 カルマはグッ……! と拳を握って、そう力説する。


「な、なるほど……!」


 シーラが感心した表情になる。


「そうです。つまりシーラ、あなたと私との決定的な差は母であるか、愛する物がいるかいないか。どうかそれだけです。あなたも愛を知ればいずれ強くなれます!」


「わ、わかりましたっ! シーラも……愛する人を、見つけるのですっ!」


 そう言ってシーラが、リュージを見てくる。


 熱っぽく、潤んだ視線を向けてきて、「あう……」と顔をそらす。


「その調子ですよ! ……ん? あれ、ねえねえりゅー君」


 きょとん、とカルマが首をかしげて、リュージに言う。


「あれこれお母さん、アシストしちゃってます?」


「さ、さあ……? どうだろう……?」


 ひとつ言えることは、母は最強の力を持っていながら、ちょっとアホの子であるということだ。

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