45.邪竜、孫と二度目のバトル【前編】
お世話になってます!
今回は前中後編です。
温泉に入った翌日のこと。
母はこの日も、娘を連れて、リュージたちの冒険についていた。
「かるま。きょー。ぱぱ。どこ?」
「今日はダンジョンにもぐっての討伐クエストです。みなさい、息子の勇ましい姿! あ゛あ゛あ゛尊い! 息子の勇姿、尊いいいいい!」
場所はカミィーナから馬車で半日くらいの場所にある、初級・中級ダンジョンだ。
近くに廃村のあるそこは、出てくるモンスターのレベルは低い。
しかし入ってくる経験値の量が多いことで、レベルの低い冒険者たちに重宝されている。
リュージたちは【ストーン・スネイク】の討伐のため、現在、ダンジョンに潜っている次第だ。
「見ましたルコ!? さっきのりゅー君とシーラの華麗な連携を! 闇魔法で出した使い魔をおとりに、りゅー君がHPを削る。そして弱ったところにとどめにシーラが火魔法でとどめ! なんというお手本のような連携でしょう!」
「みた。ぱぱ。すっげーい」
きゃあきゃあ、と母カルマはルコと一緒にはしゃぐ。
リュージはそんな光景も、慣れてしまったのか、「ありがとう」と言って苦笑している。
「リュージくん、あと何匹倒せば良いのです?」
「今倒して、あと2匹かな。もうすぐ仕事完了だ」
それを聞いたルコが、「おおー」と目をキラキラさせる。
「かるま。おろして」
娘はカルマに抱っこされている。
「邪魔しちゃだめですよ?」
「じゃま。しない」
「ならいいです」
カルマからルコが降りると、ステテテテっとリュージに向かって走ってくる。
「ぱぱ。おしごと。おわる? もー。すぐ?」
「うん、もうすぐ終わるよ。だから母さんと一緒に、おとなしくしててね」
「うん。やくそく。す…………」る。
と言いかけて、ルコはぴたり、と固まる。
「ルコ?」
「…………。におう」
ルコがスン……と鼻を鳴らす。
「におう……? 何のにおいがするのです?」
隣にいたシーラが首をかしげる。
「におう……。とっても……。いい……」
ふらふら……とルコがダンジョンの奥へと向かって、歩き出す。
「る、ルコっ! 危ないよ!」
リュージは娘の後をつけていく。
ルコはぐんぐんと歩いて行き、やがて石でできた壁の前に立つ。
「ここ……。する……。におい……」
ルコが壁に張り付く。
そしてペタ……っと壁の一部を、触る。すると……。
きぃいいい………………ん。
と、壁に、巨大な魔法陣が出現するではないか。
リュージは悟った。
なにか、よからぬことが起きると!
「ルコ!」
ずぶ……とルコが壁の中に、沈んでいく。リュージは娘の手を引っ張る。
「りゅー君!!!」
背後で母の悲痛な声が聞こえ、音速でこちらに走ってくる。
だが……それよりも早く……リュージたちは青い光に包まれ、その場から消えた。
……。
…………。
…………次の瞬間、目を覚ますと。
そこには何もない、石で囲まれた部屋だった。
「ここは……?」
大きめの部屋。
地面や壁には、小さめの穴が無数に開いている。
見回すが、どこにも出入り口はなさそうだ。
「転移の魔法陣……? じゃあ、僕らは、いったい……」
と、そのときだ。
「! そうだ、ルコっ!」
いなくなった娘を探す。
するとすぐ近くに、自分の娘がいた。
良かったと安堵し、急いでルコの側まで行く。
ルコが棒立ちしている。
その足下に、何かがあった。
「ルコ! 良かった無事で……」
するとルコは、足下のそれを、凝視していた。
「…………!」
それは……人間の死体だった。
装備品から、おそらく冒険者だろうことはわかった。
冒険者の死体は……あちこちかまれ、食いちぎられ、無残な物だった。
「うっ……」
見やると他にも、冒険者の死体は転がっていた。
どうやら足下の死体の、パーティメンバーだったのだろう。
「どの人も、かみちぎられてる……。い、いったいなにが……?」
「…………」
「ルコ?」
ルコは……笑っていた。
足下の死体を見て、薄く、不気味に、笑う。
そしてその口からは……よだれが垂れていた。
「血……。とっても……」
「ルコ……?」
娘のただならぬ様子に、リュージは恐怖を覚える。
ルコは死体の側にしゃがみ込む。
地面には死体の流した血があり、ルコはそれに触れる。
「血……。血……。とっても……。とっても……」
と、そのときである。
「SHUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」
と、どこからともなく、動物的な鳴き声がした。
「! なんだっ!?」
リュージは剣を抜いて、ルコの前に立つ。
「SHUUUUUUUUU!!」
声のする方を見ると、そこには先ほど倒したヘビ型モンスター、ストーンスネイクがいた。
「シーラがいない……。けど、そんな強くない。ルコ! 僕の後に!」
と、思ったそのときである。
「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」
新たに、3匹のスネイクが出現。
否……。
「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」「SHUUUUUUUUU!!」
気付けば無数に開いた穴から、数え切れないほどのスネイクが、沸いて出てきたではないか。
「そうか……。ここは、モンスターハウス!」
ダンジョンのトラップの一つだ。
入った部屋の中に、大量のモンスターが出現するというトラップ。
おそらく先ほどの死体は、このトラップにひっかかり、スネイクたちに倒されてしまったのだろう。
何十、何百という蛇の群れを前に、リュージは恐怖した。
体が震える。逃げたい。助けてと叫びたかった。
だがその前に……。
「………………」
目の前には、自分の娘がいる。
まだ無防備にしゃがみ込んで、死体を凝視してる。
「……くっ!!」
リュージは逃げ出さなかった。
ルコの前に立って、剣を構えた。
「来い! 僕が相手だ!」