43.邪竜、息子が冒険しやすいよう裏方作業する
お世話になってます!
息子のピンチを孫と一緒に救った、その日の夜。
4人川の字(+1)で寝ていたカルマは、むくり……と半身を起こす。
時刻は0時を回り、日付が変わっていた。
「さてそろそろ動きますかね」
カルマは抜き足差し足……とリュージたちの前から出ていく。
1階のリビングへ到着。
万物創造と破壊を使って、パジャマから私服へと着替える。
「では……」
とそのときだ。
「かるま」
背後を振り返ると、そこには金髪褐色の幼女が立っていた。
「おやルコ。どうしたのですか? おしっっこですか?」
「そー。かるま。しーしー。つきあって」
「了解です」
カルマは喜々として孫を抱っこし、トイレまで連れて行く。
用を足した孫を連れて、リビングへと戻ってきた。
「ではおねんねしましょうね」
すると……。
「かるま。でかける?」
とルコが尋ねてくる。
「よくわかりましたね」
「よなか。おきてる。おきがえ。でかける?」
「むむ……賢い。さすが宇宙一の頭脳を持つ大賢者りゅー君の娘ですよ!」
「かるま。うるさい。よる。しー」
「おっとすみません」
孫に注意されて、黙るカルマ。
「どこ? いく?」
「今からちょっとお母さん、でかけようと思っていたのですよ」
「でかける?」
「そうです。りゅー君が明日気持ちよく冒険をできるよう、お母さんが頑張るのです。日課の裏方作業ってやつです」
「うらかた?」
「ええ。ですのでルコはそのままお布団に戻ってください」
するとルコが、きゅっ、とカルマに抱きついてくる。
「おやどうしました?」
「るぅ。きになる。ついてく」
珍しく孫の方から、カルマに興味を持ってくれたようだ。
愛しい息子の、かわいい孫が!
私に! 興味を! 持ってくれてる!
「しかたありませんねっ。ついてきてもいいですよ!」
かくして邪竜は孫と一緒に、裏方作業へと向かう。
まずカルマは外に出る。
ざああああああああああ………………。ざぁああああああああ………………。
と結構な勢いの雨が降っていた。
邪竜の姿に変身し、夜空へ向かって飛ぶ。
びゅんびゅんっと高速で雲の上までやってきた。
【まずは明日の天気です。明日は大雨だそうです】
「びちゃびちゃ?」
【ええ、びちゃびちゃになってしまいます】
カルマの眼下には、分厚い雨雲が、どこまでも広がっている。
明日息子が出かける時間になっても、この厚い雲を見れば、明日も雨が降っていることは確実だ。
【りゅー君がびしょ濡れになっては困ります。なので……】
カルマは雨雲の中へと移動。
そして体の中の無尽蔵の魔力を燃焼させ、
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
とブレスを使って、雨雲を消し飛ばす。
さっきまで空を覆っていた分厚い雨雲は、きれいさっぱりと、消えた。
あとには良く晴れた夜空が広がっている。
「かるま。すげー。これ。びちょびちょ。じゃない」
【ふふっ。まずは雨の天気を回避しました。次へ行きますよ!】
ビュンッ……! とカルマが空を飛び、次の場所へ移動。
そこはリュージたちが良く行く、街から近い森の中だった。
「もり? なに?」
「明日はりゅー君たち、森の中で珍しいキノコの採取の仕事があります。しかしここで問題が1つ。なにかわかりますか、ルコ?」
カルマはルコを抱っこし、尋ねる。
「びちゃびちゃ?」
ルコが腐葉土の地面を見下ろして言う。
先ほどの大雨で、森の地面はぐっしょりと濡れていた。
「そう! 雨のせいで足下がぬかるんでるんですよ」
「ぬるぬる。つるつる?」
「そうそう! つるって万一りゅー君がこけたら! 泥だらけ! もし万が一何かに頭をぶつけて! あ゛あ゛あ゛心配だ-!」
カルマが真っ青な顔で叫ぶ。ルコは「うるちゃい」と耳をふさいでいた。
「ということで地面を乾かしますよ」
「どうやる?」
「こうします」
カルマは邪竜の姿へと再び戻る。
孫を背中に乗せた状態で、森の上にバサ……っと飛び上がる。
無属性魔法【探査】を発動させ、森の中に人間がいないことを確かめる。
「なにする?」
【こうします!】
カルマはスゥウウ…………と息を吸い込んで、
ぼおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
と大量の炎を、森に向かってはき出した。
高熱の炎が森を、そして地面を焼く。
一瞬にして、森が火の海に沈む。
【そしてすかさず!】
カルマは今度は、
びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
と口から氷の風をはき出す。
強烈なブリザードは炎を一瞬にして鎮火させた。
【で、そのまま万物創造っと】
カルマは今、魔法の炎で焼き払った森、そっくりの森を、スキルを使って作り出す。
木の数や種類、その場に生息していた動植物、すべてが同じ森が、一瞬にして出現した。
「かるま。なにした?」
【ふふ、地面を見てご覧なさいな】
「じめん?」
ルコと一緒に、カルマが森へと降りる。
人間の姿になって、カルマは孫と一緒に、地面にしゃがみ込む。
「ぱさぱさ。ぬるぬる。じゃない」
ルコが乾いた地面を触る。
「これならぬかるみに足を取られることはありません」
「なるほど。かるま。あたま。よい」
「ふふ、そんなことありませんよぅ。息子の頭脳に比べたらザコも良いところですよぅ。でもほめてくれたありがと~」
カルマは孫を持ち上げて、くるくるとその場で回る。
「ハッ……! しまったまだまだ他にもやることがあったんだった!」
その後カルマは、万物破壊を使って森の中に落ちてる石や岩、害虫などを全て、ひとつ残さず取り除く。
ややあって。
「ふぅ……クリア。これでミッションコンプリートですよ!」
カルマの手により、森はキレイに掃除された。
一見するとわからないが、よく見ると石やぬかるみがいっさいない、歩きやすいことこの上ない森が広がっていた。
「かるま。まいばん。これ。してる?」
「ええ。りゅー君が心地よく冒険できるよう、息子が行く場所へあらかじめ赴いて、キレイに掃除しているのです」
誇らしげにカルマがうなずく。
「さ、帰りましょう」
テレポートを使って、その場を後にしようとするカルマ。
「や。とんで」
「飛んで? さっきみたいにお母さんの背中に乗りたいということですか?」
「そー。とんで」
「わかりましたっ!」
孫にリクエストされて、上機嫌にカルマが変身する。
邪竜の姿になって、カルマは孫を乗せて、晴れた夜の空を飛ぶ。
「かるま」
飛んでいると、孫が問うてきた。
「どーして。うらかた。する?」
なぜ裏方作業をするのか、と聞いてきているようだ。
【決まってますよ。りゅー君の安心安全のためです】
「どうして?」
【どうして、とは?】
ルコがカルマの背中をぺしんと叩いて問う。
「どーして。そこまで。する?」
カルマの答えは決まっていた。
だから即答する。
【りゅー君が大好きで、愛してるからですよ!】
愛する息子のために、カルマはあれこれと手を焼くのである。
息子が気持ちよく冒険できるように頑張るのも、愛ゆえにの行動なのだ。
「そっか」
心なしか、孫の声音が嬉しそうに聞こえた。
「かるま。いっしょ。るぅ。ぱぱ。だいすき」
【えへへ~。おそろいですね~】
「うん。おそろ。えへへ」
ルコとカルマは、楽しそうに笑いながら、夜の散歩をするのだった。
次回もよろしくお願いします!