06.邪竜、冒険へ出かける準備する【前編】
今回も前後編です!
リュージはうさぎ獣人のシーラと、パーティを組むことになった。
その三十分後。
リュージたちは、面接会場に使った掘っ立て小屋にいた。
時刻はまもなく夕方になろうとしている。今日の宿を、リュージも、そしてシーラも、決めてなかった。
所持金は薬草採取で手に入れた金のみ。雀の涙程度だ。
宿賃が果たして払えるかどうか……。
そこですかさず母カルマが【お任せあれっ!】と、金貨をじゃらじゃらじゃら! と万物創造スキルで作り出す。
……しかしそれは偽造金貨だから、やめて……とリュージは拒否した。
折衷案として、母が作ったこの小屋を、人が住めるスペースに改造することになった。
母の万物創造の力で、掘っ立て小屋が、立派なレンガ造りの2階建ての家に変わった。
「すごいのですっ! リュージくんのお母様は、とてもすごいのです!」
家の前でシーラが、無邪気に笑う。
……しかし、なぜだろう。
シーラがいると……前より、母から物を与えられるのが……嫌に感じた。
「ふふっ、まあ本当はりゅー君のためにお城一つ作っても良かったのですが、土地がないので我慢したのですよ」
「わぁ! わぁ! お母様すごいのです!」
シーラが母を褒めるたび、かぁああ……とリュージは、顔が赤くなった。
すさまじい恥ずかしさを感じた。
シーラという、同世代の少女がいることで。
いつも以上に……自分のそばに、母がいて、母に頼っているということが、恥ずかしかった。
そんなリュージをよそに、女性二人は話し込んでいた。
「仕方ないのですね?あなたにもこの家を使わせてあげましょう。あなたはいちおう、りゅー君の相棒ですからね」
「わぁ! ありがとうなのですー! お母様優しいっ!」
「別にあなたに優しくしてるわけではないです。りゅー君のためですから」
かくしてカルマ、リュージ、シーラの三人は、この家に住むことになった。
その日の夜。
カルマのスキルでごちそうが作られた。上京記念だそうだ。
ぱちんっ、と指を鳴らしただけで、料理ができたことにシーラは驚きつつも、カルマに賞賛を送った。
……やはり、リュージは恥ずかしかった。
さて用意された夕食を食べながら、ふと、カルマが尋ねる。
「そういえばシーラ。あなた、私が竜だというのにあまり驚かないのですね?」
カルマの質問に、「ふぇ? ふぁんふぇふふぁぁ?」とくぐもった声で、シーラが答える。
ウサギ少女のほっぺが、ぱんっぱんに膨らんでいるではないか。
もぐもぐごっくん、と料理を飲み込んだ後、「ご、ごめんなさい、あまりにおいしくって……」
とシーラが顔を赤らめる。
彼女の前の皿はすでに結構空っぽだった。
「母さんがあんなに出したのに、もう半分くらいないね」
「意外と食いしん坊ですねあなた」
「はぅう……だってだって、おいしすぎるから……」
はぁ、とカルマはため息をついて、ぱちんっ! と指を鳴らす。
するとまた料理がどちゃっ、とたくさん出てくる。
「わぁすごい! リュージ君のお母様、本当にすごいのです! 料理だせるし、そのお料理もとっても美味しい!」
「ふふん。悪い気はしませんね。じゃんじゃん食べなさい」
「はーい!」
がつがつがつがつ! と凄まじい勢いでシーラが飯を食らう。
ややあって、食後。
「それで先ほどの話の続きですが……シーラ。なぜ私を見て驚かなかったのです?」
家のリビングにて。
テーブルを挟んで向こう側にいるシーラに、カルマが尋ねる。
ちなみにリュージはというと、シーラの隣に座っていた。
母は自分の横に座れ! と言ってきたが、このときばかりは絶対に座りたくなかった。
同年代がいることで、リュージはさらに、母のそばにいることを、恥ずかしく感じているのである。
それはさておき。
「えっと……実は、しーらのおばあちゃんの友達に、ドラゴンがいるのです」
「へー、すごいおばあちゃんだね」
「はい! とってもかっこいいおばあちゃんなのです。しーらはおばあちゃんが大好きなのです!」
それを聞いて、リュージはうらやましく思った。
自分には現状、家族は母しかいない。祖母のいるシーラが……うらやましかった。
「えと、話戻しますと、そのドラゴンさんに、しーらが小さいときから遊んでもらったのです」
「ははん。だから邪竜の私を見ても驚かなかったのですね」
「はいなのですっ」
疑問がひとつ氷解したところで、リュージたちは寝ることにした。
「シーラ、あなたは二階の部屋を使いなさい。部屋たくさんあります。どれでも好きなのをどうぞ」
そう言って、カルマがパジャマなり歯ブラシなりと、お泊まり用品をぽんぽん作ってくれる。
シーラも上京したばかりで、金もなく、日用品をまだ買いそろえてなかったらしい。
ウサギ少女はカルマに、大いに感謝し、二階への階段を上っていった。
あとにはリュージと、そしてカルマが残される。
「さてりゅー君っ! 邪魔者は消えましたよー!」
カルマは輝く笑顔を浮かべ、びょんっ! とリュージに飛びつこうとする。
しかしリュージはそれを……ひょいっとよけた。
「じゃあ僕も二階で寝るから。お休み」
素っ気なく母にそう返してしまう、リュージ。
カルマは大慌てだ。
「ま、待ってください! りゅー君はお母さんと、いつもみたいに一緒に寝ましょう!」
一階は2部屋しかない。
カルマたちにいるリビングスペース。そしてカルマとリュージの部屋だ。
ドアを開けると、貴族の部屋かと思うくらい、広く、豪華な部屋がそこにはあった。
天蓋付きのベッドまである。
「……いい。一人で上で寝る」
リュージはぷいっ、とそっぽを向いて、その場を後にしようとする。
「待って! 待って! 【待ちなさい!】」
慌てまくったカルマは、神殺しのスキル【言霊(最上級)】を発動させた。
これは使った相手に、1分間だけ、何でも言うことを聞かせるスキルである。
カルマはスキルを息子に使ったことを謝った後、リュージに抱きついて、言う。
「りゅー君どうしてっ? ねえどうして一緒の部屋で寝てくれないのですかっ!」
洞窟にいたときは、同じスペースで寝ていた。ベッドは違ったけれども。
だがリュージは、二階へと上がろうとした。つまり、母と同じ空間で、寝ようとしなかったのである。