39.邪竜、孫と一緒に息子の様子を見に行く【前編】
お世話なってます!
息子たちが冒険に出かけてから、1時間後。
息子の娘、ルシファーのルコが、ぱちり……と目を覚ました。
「おや、ルコ。お目覚めですか?」
カルマはルコを抱っこして、リビングのイスに座っていた。
その手には【鏡】が握られており、息子の様子をばっちりと監視していたところである。
「…………ぱぱ。どこ?」
起きてそうそう、きょろきょろと、ルコが尋ねてくる。
「お父さんはシーラとともに、お仕事に出かけましたよ」
すると……じわり、とルコが涙を浮かべるではないか。
「うう……。あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
ルコの目から、大量の涙が放出される。
「あ゛ーーーーーーーー! あ゛ーーーーーーーーーーーー! わーーーーーーーーーーーーーーーん!」
「どうしたのですかルコ……? よしよし」
カルマはルコを抱きかかえて、あやすが、しかしルコは泣きまくっている。
「ぱぱーーーーーー! ぱぱーーーーーーーーーー! わーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
どごおおおおおおおおおおおおおん!
ばごおおおおおおおおおおおおおん!
ずっごおおおおおおおおおおおおん!
わめき散らしながら、ルコはカルマの体を押しのけて、息子の元へ行こうとする。
そのたびに青い爆発(おそらく魔法かスキルかと思われる)が起きる。
「りゅー君がいなくなって悲しいのですね。わかる。その気持ち、お母さんとってもわかりますよっ!」
結構な殺傷力の爆撃を受けているというのに、カルマは無傷だった。
それもそのはず、カルマは神を殺した最強の邪竜。
子供の癇癪ごときで、傷つく存在ではないのだ。
「しかしどうしたら泣き止むのでしょうか」
どーんどーん! と爆発を起こしながら、大声でルコが泣く。
別にカルマは平気なのだが、爆発のたび、衝撃で家の家具などが吹っ飛ぶのは困る。
吹っ飛んで壊れ、そのたびにカルマがスキルで治すのだが……。それも結構面倒だし。
何より、孫が泣いている。それがいただけない。いけない。
「どうすれば泣き止むのでしょうか……。教えて神様」
神様と書いて息子と読むカルマであった。
カルマはテーブルの上に載っていた【鏡】を手に取る。
そして鏡に映る、息子の姿に問いかける。
すると……。
ぴたり……。
と、ルコが泣き止むではないか。
「ぱぱっ。ぱぱっ。ぱーぱっ」
ルコが鏡に向かって、笑顔を向けるではないか。
「ぱーぱっ! ぱーぱっ!」
ぺたぺた、ぺちぺち、と娘が鏡を叩く。
「ぱぱぁ……?」
しかし次第に、ルコの顔が曇り出す。
「ぐす……。わーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
「おやおやどうしました?」
よいしょっ、とまた抱っこし直して、頭を撫でる。
「ぐす……。かるまぁ……。ぱぱ。むし。るぅ。かなしい……」
すんすん、と鼻を鳴らしながら、ルコが言う。
「無視? りゅー君が……。ああ」
と合点がいく。
「あなたこれ、映像ですよ。この中にりゅー君が入ってるわけじゃないです」
「えいぞー……?」
なにそれ、とルコが首をかしげる。
「りゅー君たちが冒険をする姿を、遥か上空にある場所から撮影して、ここに移しているのです」
「かるま。せつめい。へた。いちみり。つたわらない」
「むぅ……難しいですね、説明って」
ううん、と悩んだ後。
「とにかくこの鏡の中に、りゅー君たちがいるわけではないのです」
「なるほど。すべて。りかい」
理解した後、ルコがクシャ……っと顔をしかめる。
「ぱぱぁ~……」
ぐすぐす、と孫がぐずりだす。
「そんなにりゅー君が好きなのですか?」
「すき。ぱぱ。だいすき。ずっと。そば。いたい」
「ほほう」
この孫とは、話が合いそうだった。
「わかります。その気持ち、とぉってもよくわかります」
「そーか。わかる。かるま。わかる?」
「ええ、わかりますとも。りゅー君の側に24時間、365日、片時も離れたくないというその気持ち、とってもよくわかりますとも」
「おー。かるま。はなし。わかる。いいやつ?」
カルマを嫌っていたルコだが。
リュージ大好き、離れたくない。
その点において、カルマと同意見らしい。
ふたりともウンウン、とうなずく。
「しかしですねルコ。現実問題、りゅー君には仕事があるんです。母がついて行ったら迷惑……」
そのときだ。
カルマの脳裏に……電流が走る。
【大義名分】という四文字が、カルマの脳裏を横切っていった。
「…………」
ニヨニヨ、とカルマがこらえるような笑みを浮かべる。
「ルコ。どーしても、お父さんに会いに行きたいですか? 会いに行きたい! しっかたないなーーーーーー!!!」
ルコの返事を聞く前に、カルマがとっても良い笑顔浮かべる。
「しっかたないなー! よし!」