38.息子、娘がダダをこねて仕事に行けない【前編】
お世話になってます!
大悪魔ルシファーが幼女となって、自分の娘になった翌日。
リュージはシーラとともに、冒険者としての仕事へと、向かおうとしていた。
「やーだ。やーだ。いやだー」
朝。玄関先にて。
リュージの腰に、褐色幼女が抱きついて、いやいやと首を振るっていた。
「ぱぱ。いくなー。るぅ。おいてく。きんしー」
「るーちゃん……あのね、しーらたちお仕事に行かないとダメなのです」
ウサギ獣人が、幼女に諭すように言う。
だがルコはシーラを見ると、今度は彼女に抱きつく。
「やだ-。やだー。しーら。だめ。るぅ。そば。はなれなー」
わーわー、とシーラのお腹に顔を埋めて、いやいやと首を振るう。
その間にもリュージの服をつかんでおり、どちらも外へ行けないようにしていた。
「困ったね……」「困ったのです……」
と、そのときだった。
「ハァッ……! 息子が困っている! こういうときに助けてこそ、母親というものー!」
キッチンでお弁当の用意をしていた、母が、テレポートを使って、リュージたちの前に出現した。
「び、びっくりした……」
「ハァアアアアア! ごごご、ごめんねりゅーくぅううううん!!」
ずしゃあああ! と母が膝をつく。
「驚かせてしまったこの愚かな母をゆるしてくださいいいいいい!!」
「い、いいよ謝らなくってっ!」
いちいちオーバーリアクションな母である。
一方でルコはというと、
「かるま。うるさい。だまって」
耳をふさいで、わずらわしそうにしている。
「うう……息子が優しい……。全国優しさ選手権の頂点に立つ男……それがうちの息子……」
と世迷い言を言った後、
「はいりゅー君、これお弁当。シーラのはこっち。お肉多めに入ってますよ」
作ってきたお弁当を、母が手渡してくる。「わーい! カルマさんありがとなのですー!」
「いえいえ」と微笑むカルマ。
母とシーラはだいぶ仲が深まっているようだなと思った。
それはさておき。
「さあさあルコ。お父さんたちお仕事にいくのです。わがまま言ってはいけませんよ」
カルマが微笑みながら、ルコをひょいっと抱きかかえる。
「はなせ。なにする」
じたばたと嫌がるルコ。
「お母さんと一緒にお留守番しましょうね~。くぅううううううう~~~~~!」
なんだか知らないが、母が奇声を発する(通常運転)。
「今の最高に、家族っぽい! ねえねえりゅー君いまのお母さん、娘を持つ息子のお母さんっぽくありませんでしたかー!」
きらきらした目で、そんなことを言う母。
あいかわらずだな、と苦笑していた、そのときだ。
「や……」
母の胸の中で、ルコがプルプル……と震え出す。
「やぁ……」
「ルコ?」「るーちゃん?」
ルコの震えは次第に強くなっていく。
ずぉおお……っと、膨大な魔力が、ルコの体から噴出する。
リュージは悪い予感がした……そのときだ。
ルコが、カルマの豊満な乳房をぐいっと押しのけて、
「やーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
突如として、母が爆発したではないか。
「「わああああ!」」
爆風ですってんころりん、と後に倒れるリュージとシーラ。
ただの炎でないのはすぐにわかった。
青い、魔法の炎だった。
青い爆炎が突如として、ルコが触った瞬間に、起こったのだ。
「か、母さん! だいじょ」「大丈夫ですかりゅーくぅうううううううううううん!」「あ、うん……」
母は平気そうだった。
「そうだ忘れてた、無敵だったんだこの人……」
被害者である母が、どうして無傷の息子
を心配するのだろうか。
「ルコ、びっくりしましたよ。おててから何を出したのですか?」
カルマがルコの小さな手をつかんで尋ねる。
「わからない。なんか。でた」
「さすがハイスペック超人マイラブリー息子、りゅー君。その娘もまた特別……ということですね!」
いや自分はいたって普通だけれども……とリュージはつぶやく。
特別なのは母と、そしてこの娘だろう。
わすれていた。
この褐色幼女は、見た目こそ愛らしい人間の子供だが、その実、悪魔の生まれ変わりだった。
その悪魔はというと、母にだっこされた状態のまま、だだをこねていた。
「やーだ。はなせ。かるま。はなせ」
ぐいぐい、とルコがカルマのおっぱいをぐいぐいと押して、逃れようとする。
どがああああああああああん!
ばごおおおおおおおおおおん!
ずがああああああああああん!
そのたびに青い爆発が起きているのだが……。
「はいはいダメですよ。だだをこねてお父さんを困らせてはいけません」
この母、微動だにしない。
爆発をもろに受けているというのに、まったく傷ついている様子がなかった。
さすが邪神を食らって最強となった竜……。