37.邪竜、孫に服を作りまくる【後編】
さて母たちが孫(暫定)に着せる服を作っている、その一方で。
リュージは自室にて、チェキータの診察を受けていた。
「…………」
リュージは上着を脱いで半裸になり、ベッドに腰掛けている。
その後でチェキータが、目に魔力を込めて、リュージの体をつぶさに見ている。
「…………」
気まずい。恥ずかしい。気恥ずかしい。
「なーに? 恥ずかしいの?」
チェキータがそれに気付いたのか、からかうように言う。
「そ、それは……まあ」
「リューも大人になったわねぇ。時間の流れを感じるわ。お姉さんもふけたものね」
「そんな。チェキータさんは今でも若くて、その、きれいですよ」
「ふふ。リュー。いつの間にかプレイボーイになったわねえ。男子三日会わずば刮目してなんちゃらってやつかしら」
チェキータが魔力を切った。
リュージは上着を着る。
「それで……僕の体は、どうなんですか?」
リュージはチェキータに、体を調べてもらっていたのだ。
チェキータは相手を観察し、状態を調べるスキルを持っているのである。
「そうね……。とりあえず体に異常はないわ。今のところはね」
ぽん、とチェキータがリュージの背中に触れる。
「それで、どう?」
「どう……とは?」
「父親になった感想」
聞かれ、リュージはうつむく。
「……急すぎて何がなにやらです。転生とか。僕の体から出てきたとか」
リュージは自分の手を見やる。
その手は……人間の手だ。
だが果たして本当にそうか。
本当に、自分は人間だろうか。
もしも人間じゃないとわかったとき……。
そのとき、カルマは……。
「リュー」
チェキータが優しい声音で、リュージを後から抱きしめる。
「大丈夫。あなたは人間よ。そしてカルマの息子」
監視者エルフのぬくもりが、リュージに安らぎを与える。
「カルマはリュー、あなたを愛してる。何があろうと、それは変わらないわ」
「そう……でしょうか」
「そうよ。当たり前じゃない。それともリュー。カルマがあなたを嫌ってる場面、想像できる?」
言われ……リュージは苦笑した。
「無理です。いつもりゅー君りゅー君って満面の笑みで抱きついてきてるので」
「でしょう。カルマにあなたへの悪感情なんてそもそも持ち合わせてないわ。安心なさい。カルマはたとえ何があろうと、あなたの味方で、あなたの母親よ」
ね、とチェキータが微笑む。
リュージはやっと、胸のつかえが取れた。
「はい」
「うん、それでいい。はぁー……お姉さんまじめな話して肩こっちゃったわ。そろそろあの子達のもとへ帰りましょう」
リュージはチェキータとともに、部屋を出て、一階へ降りていく。
「それでリューはあのルシファー……ルコとどう接するの?」
「わかりません。でも原因はわからなくても、僕の体から生まれ出たっていうなら、あの子の面倒を見る責任が僕にあると思うんです」
「律儀ね、リューは。こんなの向こうが勝手に受肉しただけじゃない」
「けど僕が放り出したら、親の顔がわからないあの子は……この世で天涯孤独です。……それが、辛いことは、よくわかってます」
リュージ自身、孤児であるため、ルシファーの孤独が辛いと共感できる。
もしもカルマがいなかったら……と背筋を振るわすことは、自分の人生の中で、幾度もあったから。
「そ。ならもうお姉さんは何も言わないわ。頑張ってね、リュー」
「はい」
それはさておき。
リュージたちが1階リビングに戻ってみると、そこには……。
「何この大量の洋服……」
リビングの床やイスに、所狭しと、小さな女の子用の洋服がおかれているではないか。
「るーちゃん! かわいいのです! こっち向いて-!」
「こう?」
「きゃあ! 孫が! 私のかわいい息子の娘が! とってもプリティな服に身を包んでるー!」
女子ふたりが、きゃあきゃあと、ルコの前で黄色い声を上げていた。
「カルマさん次なのです!」
「よっしゃこれだなー!」
母が万物創造スキルを発動させる。
新しい、ゴスロリ風味の服が出てきた。
「ん。これ。とっても。いい」
頬を赤くして、興奮気味に、ルコが言う。
「おおっ! 気に入ったみたいですよ! さすがシーラ。良いデザインです!」
「いいえカルマさん。カルマさんのスキルがないと作れなかったのです! カルマさんがすごいのです!」
「やだもう、照れますよぅ」
えへへうふふ、と笑う女性陣。
リュージは肩の力が抜けたような思いがした。
「息子をよそに脳天気ね、カルマ」
するとカルマがこちらに気付いて、ぱぁ……! と笑顔を浮かべる。
「りゅー君みてくださいっ! シーラと協力して孫にお洋服を作りましたよ! それもたっくさん!」
すごいでしょー? と子供のように、無邪気な笑みを浮かべるカルマ。
「ぱぱ。るぅ。かわいい?」
ててて、とルシファーが近づいてくる。
ゴスロリの服に身を包むルコは、確かに可愛らしかった。
「うん、かわいいよ。えっと……ルコ」
するとルコが、ぬぼっとした顔のまま、頬を真っ赤にして、口元を緩ませた。
「ぱぱっ。うれしいっ。るぅ。うれしいっ」
ぴょんっ、とルコが抱きついてくる。
「りゅー君っ! ルコっ! お母さんも嬉しいですよ-!」
びょんっ! とカルマが、リュージたちに抱きついてきた。
「息子と孫に囲まれる……この家族感、たまりませんねっ!」
「………………そうだね」
リュージは知っている。
母の両親は、早くに亡くなっていることを。
そして母は、長く孤独だったことを。
リュージは知っている。
母は、家族に飢えていたことを。
リュージ以外にも家族が増えて、母が喜んでいる。
母が喜んでくれていると、リュージも嬉しかった。
「ルコ。えっと……これから、よろしくね」
お疲れ様です!
次回も頑張って更新します。
ではまた!