05.邪竜、面接する【後編】
後半部分です!前半からどうぞ!
面接官は息子の仲間候補である、うさぎ獣人シーラを見て、質問を続ける。
カルマは手元の用紙に目を落とし、
「シーラ・ジレット。出身はソルティップの森。年齢は15。職業は魔術師……ですか」
カルマが見ているのは、シーラの情報がかかれた履歴書。
年齢、性別。学歴職歴、趣味嗜好等など、事細かにかいてある。
リュージの手元にも同じ物があった。
履歴書には好きな食べ物、嫌いな食べ物。
小さいときのあだ名。
小さいときは泣き虫で良く母にべったりだったことが書いてあった。
「なんか、やけに個人情報が詳しく載っているんだけど……?」
リュージはカルマを見て尋ねる。
「当然です。息子と長くつきあっていくことになるかも知れない相手ですからね。素性は全て調査済みです」
ふふん、と得意げな母に、
「「ええっ!?」」
驚くシーラとリュージ。
「調査済みって……え、この履歴書、シーラさんが書いたんじゃないのっ?」
ばっ、とリュージがシーラを見やる。
彼女は「り、履歴書ってなんなのです……?」と不安げに首をかしげてる。
まさか……この履歴書!
「当然です。お母さんがあの長耳女……じゃない、探偵をやとって、徹底的に調べあげてもらったのですよ」
リュージはそれを聞いて、手元の履歴書を見やる。
いや……表紙には、はっきりと【調査書】と書いてあった。
「これ履歴書じゃないじゃん! 調査書じゃん!」
「まあそうとも言いますね」
悪びれもなく母が言う。
リュージは母から履歴書、もとい調査書を奪い取ると、その場でびりびりと破く。
「もうっ! なんでそんなプライバシーを無視するようなことするのさっ!」
隣に座る母に、リュージは憤りをあらわにする。
しかし母はどこ吹く風。
「それが必要なことだからです」
と、冷静に返す。
「必要じゃないよそんなのもぉ!」
リュージは母からシーラへと、視線を向ける。
「ごめん、シーラさん。うちの母さ……母がひどいことして」
リュージの言葉に、シーラが「い、いえっ」と首をぶんぶん振るう。
「シーラは気にしてないのです。母親なら息子に変な虫がつかないかどうか、気になるのはしょうがないと思うのです」
とウサギ獣人が答える。
珍しいことに、母の意見がどうやら正しかったようだ。珍しいことに。
シーラは母に賛同した。これならポイントをマイナスにされることはないだろう……。
「……ふむふむ。【一人称に未だに自分の名前を使う。幼さが見て取れる】マイナス2ポイント」
「はうっ! ごめんなさいなのですっ!」
頭をぺこぺこさげるシーラ。
「……なるほど。【すぐに謝って頭を下げる。自尊心が見て取れない】マイナス1ポイント」
「はぅうう…………」
その後もシーラの動作や言葉に、いちいちポイントを引いていくカルマ。
「レベルが9ですって? そんなので息子を守れるのですか?マイナス3ポイント」
「使える魔法がたったの10?少なすぎます。マイナス5ポイント」
「魔法に詠唱を必要とするですって?あなたを守ってる間に、息子がモンスターにやられたらどうするのです。マイナス10ポイント」
カルマが点数を引いていく。たしかにきちんと、見極めているようだが、途中から、
「左利きだからマイナス10」だの「子供の時夜ひとりでトイレ行かなかったからマイナス5」だのと、言いがかりでポイントを引いていた。
その様を見て……リュージはうすうす感づいていた。
この母……元からシーラを合格させる気が、さらさらないぞ! と。
リュージの傍らで、カルマは採点表に、マイナス評価をつけまくる。
シーラはポイントを引かれるたび「あうあう……」と涙目になっていた。
あらかた質問を終えた後、カルマは「さてではそろそろ、本題に入りましょう」
両手を口の前で組み、テーブルに肘をついて、カルマが言った。
「本題?」
「ええ、りゅー君。ここまでは前菜。ここからがメインディッシュです」
カルマは息子から、目の前に座るウサギ少女に、尋ねる。
「どうして……息子とパーティを組みたいと思ったのですか? 動機を説明してください」
……それ、はじめに聞いておけよ! とリュージは心の中でツッコミを入れつつ、
……しかしシーラの答えが、気になって仕方なかった。
このウサギ少女は、どうして自分のような背が小さくて、とても強いとは見えない男と、パーティを組みたいと思ってくれているのかと。
「それは……」
シーラはリュージを見る。そして隣に座るカルマを見て、またリュージに視線を戻す。
「リュージ君がシーラのこと……嫌わなかったからです」
要領を得ない答えに、母と息子が首をかしげる。
「えと……その……。シーラたち獣人は、結構、その、人間さんから嫌われてるのです」
シーラが説明したところによると、
どうやら獣人は、この世界では、差別の対象になっているらしい。
獣の血が混じっている、汚れた存在であると。
だから人間は獣人を、さげすんだ目で見てくることもある。
獣混じり等のひどい差別用語でののしられたり、暴力を振るわれることもあるという。
……洞穴暮らし15年のリュージは、そんなことをまるで知らなかった。
「でも……リュージ君は違いました。シーラを見ても、ひどいことしませんでした。それどころか……大丈夫? ケガはないって……心配してくれて、嬉しかったのです」
カルマの怒りのオーラに当てられ、気を失ったシーラ。
カルマはシーラと息子を連れて町へ戻った。
気を失う少女を、カルマは放置しようとしたのだが、リュージはそれをだめだと言った。
「それに……リュージ君が、気を失ってうなされてるシーラの手を、握っててくれたのです」
「え、ええっ? き、気づいてたのっ?」
はい……と微笑むシーラに、リュージは恥ずかしそうに頭をかく。
……気を失っている間、シーラはうなされていた。それを見ておけなかったリュージは、彼女が目覚めるまで、ぎゅっと手を握っていたのである。
「ご、ごめんねシーラさん。勝手に手を握って」
「ううん。気にしてないのです。……とってもとっても、嬉しかったのです」
心からそう思ってるのか、シーラは目を細めて、自分の胸に手をやる。
気恥ずかしすぎて、リュージはその場から逃げたくなった。
「だからシーラ、思ったんです。この優しい人と一緒にいたいって……」
シーラは目を開けて、リュージを、そして、面接官を見て、はっきりと言う。
その目はいっさい泳いでなく、真摯に、まっすぐにリュージたちを見てくる。
嘘は……ないようだ。
「あ、あのあのっ、えとえと……その、一緒にとは、おつきあい的な意味じゃなくって! そのあの……えとえと……」
あわあわ慌てるシーラが……かわいらしかった。
それはさておき。
シーラの動機を聞き終え、リュージは思った。
嬉しかった。
そんなふうに、身内(母と監視者)以外の誰かから、人格を褒められたことは……なかったから。
同世代の子から、そんなふうにストレートに褒められたことがなかったので……リュージは嬉しかった。
だから……リュージは。
採点表を持つ、母に。
「母さん」
「はい? なんです?」
はっきりと、【自分の意思】を伝えた。
「僕……やっぱりこの子と、一緒にパーティ組みたい。てゆーか、組むから」
シーラの動機を聞いて、彼女と仲間になりたいという気持ちが、強くなったのだ。
「母さんがだめって言っても、関係ないからっ。僕、シーラさんと組むからねっ!」
「し、しかしですね」
なおも止めようとしてくる母に、リュージは伝家の宝刀を使う。
悪いと思いつつ、それでも、自分は彼女と冒険をしたいから。
「邪魔するなら、母さんのこと、嫌いになるからね……!」
……その後のことは、語るまでもない。
息子に嫌われたくないカルマは、ものすっごく嫌そうな顔をした後、「……りゅー君の判断に任せます」と答えた。
リュージは落ち込む母に、心の中でごめんと謝った後、
「シーラさん、これからよろしくね」
と、仲間となる少女に握手を求める。
「よろしくなのです……リュージ君っ!」
かくしてリュージは、初めての仲間と、そして友達を得たのだった。
お疲れ様です!
次回は仲間とモンスター退治の冒険に出ます。はたして大丈夫でしょうか……
次回もふるぱわーで頑張ってかきますので、よろしければしたの評価ボタン押していただけると、嬉しいです!
ではまた!